LAST.楽園 ※挿絵あり
「本物になろうとするあまり、本物を超えてボロを出す!それがドッペルゲンガー……てめぇだ!!」
再度刀を構え、俺は偽物の色葉に言い放つ。
俺の決め台詞のようなそれに、見ていたリーベが子供のようにーー隣に立って真似をした。
「てめぇだよ!!」
手を前に出して、ドヤ顔でそう言った。
偽物を見破ったのはリーベではなく俺なのだがーー
俺に見抜かれた偽物の色葉は、開き直るように、眉を顰めて叫ぶ。
「本物になろうと……!?そうよ!私は本物になりたいの!ならなきゃいけないの!!」
「……何言ってる!?」
「紅色葉はこの世で一人だけ……!本物がいる限り、私はいつまでも偽物なの!」
「本物が消えても、お前は色葉の偽物に変わりないだろうが!」
「うるさいうるさい!私はもう誰かの偽物は嫌だ!嫌なの!」
大声で怒鳴り散らし、怒りでパニックに陥っていた。
俺の後ろで色葉が隠れながら、偽物の自分を遠目でその様子を見続けていた。
「……シロちゃん」
もう一人の自分が追い詰められているというのは、自分のことのように胸が苦しい光景である。
それでもこの偽物は、本物の色葉を消そうと追い詰めてきた都市伝説だ。
たとえ同情する事があっても、色葉のために容赦することは出来ない。
「悪いがお前は色葉の偽物である前に、存在そのものが偽物なんだドッペルゲンガー!本来具現化してはいけないイマジナリーフレンドだ……!」
「具現化したのは私の意思じゃない!そいつが勝手に私を作った!」
殺意がこもった目付きで、偽物が本物を睨みつける。
しかし例え理由がどうであれ、本物の色葉が殺されていい理由にはならない。
色葉を背中の後ろに隠し、新たな聖水を取り出してーーシロちゃん消滅の時間だ。
「覚悟しろよドッペルゲンガー……!この聖水で、お前を完全消滅させてやる……!」
「消滅……!?消滅すると私はどうなっちゃうの……!?」
「消えるんだよ!消えた後は何も無い……!」
自分でも残酷な事を言っていることは分かっている。
けれどこれをやらないとーー本物の色葉が殺されてしまう。
それに未来は都市伝説によって人類が滅ぼされるーー
俺はそれを阻止するために過去に来た。
こいつを許してしまえば、それがきっかけで世界が滅ぶことに繋がるかもしれない。
俺は自分の手足が震えていることに気がついたーー
ーー今まで数多くの都市伝説を滅してきた……!それなのに……!
首を左右に振って気を紛らわす。
覚悟を決め、蒼い刀を振り上げた。
「ドッペルゲンガー……!お前は、無の世界に帰るんだ……!」
偽物であるシロちゃんは、普通の少女のようにーー怯えて泣き叫んだ。
「嫌だ……!消えたくない……!もう”独りぼっち”は嫌なのー!!」
その台詞は部屋中に大きく響き渡り、隠れていた色葉本人の心を動かした。
”独りぼっち”
それはドッペルゲンガーを生み出した理由であり、色葉が苦しんできた想いだった。
「シロちゃん……!」
色葉は決心を固め、強い意志を秘めた表情で、ゆっくりシロちゃんに向かって近づいた。
俺はすぐに止めようとしたが、俺の手を振り切ってシロちゃんの腕をガシッと掴む。
「シロちゃん……シロちゃんも、ずっと寂しかったんだよね?」
色葉のとった行動に、もちろん偽物も含めてこの場の全員が驚いた。
偽物に怖がる様子は全く無く、それどころか優しい笑みを浮かべていた。
色葉の言動に戸惑いながら、シロちゃんは勢いよく腕を振り払って言い返す。
「本物のお前に何が分かるの!?」
「分かるよ!!だってーー」
再度腕を掴み、同じ顔の泣き崩れるシロちゃんに向かってーー色葉が行き着いた答えを叫んだ。
「ーー私は貴女!貴女は私なの!」
紅色葉は幼い頃からずっと”独りぼっち”だった。
転校や引越しが多く、友だちと呼べる相手が出来なかった。
本物の色葉がずっと寂しかったのは、偽物であるシロちゃんがよく知っていたーー
「色、ちゃん……!」
色葉の記憶や想いが、シロちゃんの中にも流れている。
「貴女のことは誰よりも私が分かってる……!寂しかったんだよね!?私も同じだった!貴女なら誰よりも分かるよね……!?」
想いが爆発し、涙が溢れた色葉は、同じ孤独の想いを抱えたシロちゃんをぎゅっと抱き締めた。
二人の寂しい気持ちは、紛れもなく本物だーー
俺はそんな抱き締め合う二人を見て、予想もしてなかった事件の結末を感じていた。
「なぁリーベ……これを見てみろよ」
聖書を開いてリーベに見せる。
そこには確かに記されていた一つの記事が、切り取られたように白紙になっていた。
「ここ……!確か女子高生怪奇事件ーー色葉の事件が記載されていたページだったよね……!?」
「あぁ……けどどういう訳か、記事が綺麗に無くなってる」
「これどういうこと……?」
「分かんねぇよ……こんなの前例がない。強いて言えばもしかすると、本来ここで起こるはずだった事件が、紅色葉の行いによって未然に防がれたってことか……?」
「未来が変わったってこと……!?」
「分かんねぇがそれだと辻褄が合っちまう。現に俺たちは、都市伝説と和解する……なんて荒業を見せつけられたんだからな」
色葉の思いもよらない行動に、俺は胸を打たれていた。
シロちゃんからはもう殺意や怒りは一切感じず、わんわん泣いて色葉を抱き締めている。
こんな光景は、プリーストである俺には出来なかったし、到底思い付かなった。
ーーこんな解決策もあるのかよ……
俺は刀を元の聖水に戻し、同じ都市伝説であるリーベに想いを伝えた。
「なぁリーベ……」
「なあにライル?」
「俺は正直、都市伝説のキャスパリーグであるお前を、いつか滅しなければならないと思ってた……」
「うん知ってるよ」
リーベは悲しむ訳でもなく、ニコッと笑って俺に言った。
「怖くないのか?」
「だってボク、化け猫だし。存在があやふやなボクだから、いつ暴走しちゃうか分かんない」
割り切った台詞を言うリーベ。
リーベにかなり酷な事を問い掛ける。
「死ぬのが怖くないのかよ?」
「ボクは元々、一度死んじゃった猫だよ?それでもこうしてキャスパリーグになって、ライルの元に居られたんだから……むしろ幸せだよ」
そうだよなーー
隣にこんな事を言ってくれる都市伝説がいたんだったなーー
俺はニヤついた表情を誤魔化すように、懐から煙草を一本取り出して火を付けた。
吐き出した煙草の匂いに、リーベがしかめっ面を浮かべて言った。
「ボク、煙草吸ってるライルは好きじゃない……!」
「なんでだ?くせぇからか?」
「違うよライル。身体に悪いからさ。ライルには一秒でも長く生きていて欲しいんだボクは」
その台詞に、俺は隠すことの出来ないニヤケを浮かべて言い返した。
「全くお前はいい猫で、いい女だよ」
「何その台詞……」
「煙草はなリーベ。嬉しい時ほどうめぇんだよ。臭い台詞が、臭い煙りに紛れて消えていく。これが大人の味だ」
抱きしめ合っていた色葉たちが、互いに見つめ合っていた。
「これからはもう一人じゃない!私達はずっと二人一緒だよ!」
「色ちゃん……!けれど私は、人間じゃない……!もうここには居られない……!」
シロちゃんが泣きながら、死を覚悟してそう言った。
しかしそれを聞いた俺は、もう既に新しい答えを考えていた。
「よし!居られる世界を創ってやる!」
全員が俺の方に視線を集め、その台詞の真意を聞き返す。
「居られる世界!?」
何らかの都市伝説が近い将来この世を壊す。
その理由と原因は未だ不明だが、壊滅する世界を未然に防ぐのでは無くーー
ーー新しく創り直す!
聖書を広げ、胸にぶら下げていた十字架のネックレスを強く握り締める。
「俺様は未来を救うプリースト!そして世界中の都市伝説を司る男である!人間も都市伝説もーー偽物のお前だって関係ねぇ!そんな世界を俺様が創ってやる!」
これは今日こいつらと出会ったおかげで生まれた可能性。
色葉はシロちゃんの両手を握り、優しい笑みで微笑んだ。
「私達は偽物じゃないーー”本物の友達”だよ!」
「”本物の友達”……!『オリジナル』!」
これから始まる、俺の革命ーー
都市伝説全てを凌駕し、世界を救うプリーストになる。
ご愛読ありがとうございました!
次回作準備でき次第連載開始します!!
皆様の楽しみになれば幸いです!
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