No.8 懺悔を始めるぞ
「さぁ、懺悔を始めるぞ……!『都市伝説』!!」
俺は蒼い刀と赤い聖水の入った瓶ボトルを構え、目の前の都市伝説に強く言い放った。
すると偽物が歯軋りしながらこちらを睨む。
「何が懺悔よ……!ふざけないで……!私はーー」
近くにあったキャスター付きオフィスチェアの背もたれを掴み、投げ付けるように俺目掛けて滑らせた。
「ーー私は悪くない!」
高速で迫るオフィスチェアを、俺は横に飛んで躱し目で追った。
後ろの壁に激突し、すぐにドッペルゲンガーの方に注意を向けたがーー
そこには思いもしない光景が広がっていた。
「なっ!?」
偽物と本物が入り交じり、二人の紅色葉が腕を掴み合って、グルグルと踊るようにその場で回転しあっていた。
「「助けてライル!!」」
二人の色葉が同時に同じ言葉を放ち、位置も変わったそれぞれを区別する事が出来なくなっていた。
俺は頭を抱えながら、敵と同じ怪異であるリーベに問う。
「シャッフルだと!?リーベはどっちが本物の紅色葉か分かるか!?」
「ダメ!二人とも同じ匂い!」
ドッペルゲンガーは見た目だけでなく、匂いや声、気配までもが本物とリンクされる。
例えキャスパリーグであるリーベでさえ、本来猫のレーダーで怪異を察知できるのだが、今回は完全に為す術もない。
左側に立っていた片方の色葉が、腕を払う様に離し、俺達に怯えた表情で訴えた。
「助けてライル!リーベ!私が本物の色葉だから!」
色葉を今すぐ助け出さないとーー
しかしもし、これが偽物の言葉だとしたらーー
疑心暗鬼に思考が巡る。
隣にいたリーベがすぐに頷いて、右の色葉目掛けて爪を立てて駆け出そうとした。
「うんわかった!てことはもう1人が偽物かー!?」
さすがに俺はその即決に異を唱える。
「待てバカ!単純バカかお前は!」
俺たちは偽物を本物と信じて誤ると、本当の本物が死ぬことになる。
確実に偽物を見極めて滅する必要がある。
100%の確証を持って斬らないと、本物の色葉を殺すこととなってしまう。
失敗は絶対に許されないーー
もう一人の右側の色葉が前に出て、胸に手を当てて必死に言った。
「私が本物の色葉なの!私を斬らないで!」
「ほんと!?そっちが本物か!」
またもリーベが頷いて爪を立てていた。
「お前やっぱりアホだな……」
頭から足のつま先まで全て二人はリンクしている。
毛の数や長さ、呼吸の音までもが全て同じ。
見た目はもちろん、ドッペルゲンガーはDNA検査すら欺くと言われている。
見抜けるはずがないーーただし、俺が知っているある”確認手段”を除いてだ。
「よし、クエスチョンターイムだ」
俺は笑ってふさげるようにそう言った。
当然空気の読めない発言に、右の色葉が怒って言い返した。
「ちょっと何よいきなり!?」
「いいから答えろよ?これに答えられないやつはーードッペルゲンガー確定だからな」
「そんな見分け方があるの!?」
左の色葉も、キョトンとした表情で驚いた。
「あぁ。答えられないやつは偽物と見なし、容赦なく斬るからなーー」
答えないと偽物認定され、俺に斬られるーー
これを強く二人の色葉に言い聞かせておく。
「ーー問題です!オリジナルの紅色葉の、三日前の朝食のメニューは一体何だったでしょうか?」
「なっ!?」
右の色葉が分かりやすく動揺して声を漏らす。
必死に思考を巡らせるが、左の色葉が手を挙げて即答した。
「目玉焼きとあさりとお味噌汁!」
見事答えた左の色葉。
右の色葉は先越された焦りと、偽物認定される恐怖が顔に出る。
「そんなの普通忘れちゃったよ!」
「答えられないってことは、そっちが偽物って事で証明できたんだよね!?」
答えた左の色葉が、震えながら一歩後ずさる。
確かに答えられない奴は斬ると俺は言ったーー
この脅しが、次の問題で効果を生む。
「では第二問!」
またも俺は笑ってそう言った。
キョトンとするリーベが、俺の顔を覗かせながら聞いた。
「まだやるの?」
どうやらこの化物猫は何も分かってないらしいーー
「次でラストだ。次偽物認定された奴を容赦なくたたっ斬る」
俺がそう改めて脅すと、二人の色葉に緊張感が走ったのが分かった。
二人はおそらく、相手より真っ先に問題に答ようと集中している。
「次で最後なのね!?」
「あぁ最後だ。偽物認定されちゃうから頑張って答えろよ?では問題ーー」
俺はニヤリと笑みを浮かべ、ドッペルゲンガーを見極める最後の罠を口にした。
「ーー一年前の今日の夕飯のメニューだ。答えてみろ」
真っ先に口を開いたのは、右の色葉だったーー
しかし目を点にして、呆れから出る叫びだった。
難題すぎる問いに、絶望して首を大きく振りながら、焦って俺を止めようとした。
「一年前の夕食!?そんなの流石に分かるわけーー」
そこまで言ったところで、左の色葉が自信満々に大声で答えた。
「青椒肉絲と中華スープだったわ!!」
答えられなかった右の色葉が振り返り、絶句してその場で膝をつく。
「そんな……!」
答えられなかったーーそれは偽物認定の死刑判決。
答えた左の色葉は、安堵する仕草を見せ、右の色葉に勝ち誇った台詞を言った。
「これで私が本物だって証明出来たわね!?私が本物だからーーちゃんと実際に食べた夕食だから、本物の私にしか答えられない!」
結果は出たーー
膝をつく右の色葉が、泣き乱れながら必死に俺達に説得を始めた。
「違う……!違う違う!私が本物!本物の紅色葉なの!」
「……もう分かった」
俺がそっと歩きだし、蒼い刀の構えを見せる。
笑って喜ぶ左の色葉と、泣き崩れる右の色葉。
先ほどのクエスチョンタイムで、どちらが偽物かは明らかとなった。
瓶ボトルの蓋を指ではじき飛ばす。
蒼い刀の刃に赤い聖水を振り掛け、その効果を見せつける。
聖水が赤い炎に変わり、刀の刃を轟々と燃やす。
右の色葉はそれを見て、酷く怯えて泣き喚く。
「いや!いやいやー!お願い信じて!私が本物なの!」
誰になんと言われようとも、もう偽物認定は決まっていたーー
俺は赤く燃える刀でーー
「偽物は……こっちだ!」
”左”の色葉を斬りつけた。
『焔滅』
燃える傷を与え、部屋の壁面に激突するように吹き飛ばす。
倒した左の色葉ーードッペルゲンガーが口を開く。
「どうして……!?答えられたの、私なのに……!正解も、してるはず……!なのに……!」
俺は本物の色葉を抱き起こし、偽物に向かって鼻で笑って言い返した。
「あぁ……だって、一年前に食ったメニューなんて、覚えてる方が異常だからなそんなの」
「なっ!?」
驚く偽物に親切な種明かし。
「ドッペルゲンガー……お前は”現象”だ。ドッペルゲンガーは確かにオリジナルの記憶が引き継がれていく……けどな。それは処理することの無い『データ』として記録され続けてるんだ」
「で、『データ』だと……!?」
「つまり、忘れるって概念がてめぇに存在しねぇから、逆にどんな事でも言い当ててくる!本物になろうとするあまり、本物を超えてボロを出す!それがドッペルゲンガー……てめぇだ!!」
次回最終回です!!
次回作も執筆中ですよ!!
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