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No.4 女子高生の匂い



 2020年7月20日の記事を見つけ、そこに書かれていた内容ーーすなわちこの日に起こる事件の全容に、俺は思わず絶句する。


 それは衝撃で、偶然が重なった内容だったーー



「2020年7月20日……女子高生怪奇事件……!被害者ーー紅色葉くれないいろは……!」




 ニャー



 猫の鳴き声に俺は振り返る。


 マンションの通路でこちらを見つめる猫は、見覚えも聞き覚えもある知り合いだった。



「……さっきはよくも俺様を見捨てたな?」



 すると猫は突如蒼い炎に包まれるーー


 人間の少女の姿に変わるキャスパリーグーーリーベの変身。



「だってあの場で変身したら、あの女がびっくりしちゃって、最悪ショックで心臓が止まっちゃうかもじゃん?ボクの優しい配慮だよ」



 八重歯をニャッと見せる笑みをこぼす。


 もちろん俺の方は不貞腐れる表情で言い返した。



「だったらもう少し、俺様にその優しい配慮向けてくれよ」



 俺がそう言うと、リーベは何かを思い出すと自身のお尻ポケットをごそごそと探る。


 そして取り出した物ーーそれはピンクのひらひらとした、明らかに女性物の下着だった。



「なんだそれは……!?」



 恐る恐る問いかけると、リーベは自慢気に答えた。



「これは紅色葉の履いていたパンツだ!」



「返してこいてめぇ!何持ってきてんだ!?」



「えー?1枚くらいいいじゃんー?久しぶりの女の子の生下着だよ?ほらいい匂いがーー」



 そこまで言ったところで、俺はすかさず言い返す。



「ド変態犯罪者予備軍かてめぇは!いいか!?さっきまで一緒にいた男の俺が絶対疑われるんだぞ!?だとしたら今頃あいつは恐怖だろ!?パンツが無くなったんだからな!さぞ怯えてるだろうな今頃!そして俺が何より怖いのは!それを笑顔でやったサイコパスが、俺が昔飼ってた猫ーーてめぇがやったって事だよ!」



 俺がマンションの部屋の前で怒鳴り散らし、リーベから紅色葉のパンツを取り上げた所でーー


 部屋のドアがバタンと開き、赤面しながら現れた本人ーー紅色葉が、俺の顔面を容赦なくぶん殴った。



 しっかりミニスカートとワンピースに着替えたようだったが、それを見たリーベが鼻息荒らげて色葉に問う。



「ねぇねぇ今その短いスカートの中は、もしかしてノーパンなのー?」



「もう帰ってー!」



 変態の質問に答えるはずもなく、ドアを勢いよく閉めて鍵を掛けた。



 パンツを取り返した色葉は、ふぅと怒りを落ち着かせ、再び愛菜との通話に戻る。



「ご、ごめんね愛菜ー!家にゴキブリが出ちゃってー!」



 咄嗟に思い付いた的確な嘘をつき、愛菜にうまく誤魔化した。


 あははと笑って話題を戻す。



 しかし当然ーー俺たちはこのまま色葉を逃がすはずがない。



 鍵をかけられたマンションだろうが、俺は容赦なく侵入する。


 これも世界平和と、紅色葉の安全のため。



 後ろから色葉のスマホをいきなり奪い、地面に勢いよく叩きつける。


 そして赤い聖水が入った瓶ボトルを取りだし、ヒビの入ったスマホに中身をかける。



 すると次の瞬間ーースマホは花火のように爆散した。



「滅!」



 俺の掛け声が見事にきまり、色葉の危機を一つ救った。



 やりきった表情で色葉に視線を戻し、親指を立てて笑顔で言った。



「俺様が来たからもう大丈夫だ!お前の不幸を俺様が滅してやったぞ!」



 色葉の怒りが頂点に達し、俺の顔面をさっきの倍の力でぶん殴った。



「滅!!!」



 まるで俺が悪かのようにそう言ってきた。



「い、いきなり何すんだてめぇ!?」 



「お前が言うなー!!機種変したばっかりなのにー!!」



 当然未来を知らないこの女は、俺の行動を奇行と思っている。


 まずは説明しないとーー



「お、落ち着け!クールダウンだ!」



「バカにしてんの!?」



「落ち着けって!お前、紅色葉くれないいろはだよな!?女子高生怪奇事件の紅色葉だよな!?」



「はぁー!?怪奇事件!?それなら今あんたがここにいることが、私にとっての怪奇事件よ!」



 それを聞いた、俺の隣にいたリーベがクスリと笑う。



「ねぇライル?過去の人間に説明するならそれじゃダメだよ?」



ーーくっそ!めんどくせぇ!



 そう思った俺は、聖書に書かれた記事を直接見せることにする。



「言ったよな!?俺様は未来から来たって!今日お前は、何らかの都市伝説に巻き込まれて死ぬことになってる!」



「はー!?いい加減に馬鹿にするのはやめて!」



 記事を読んでも信じてもらえない。


 どうやらこの聖書そのものが、俺達が作ったイタズラだと思っている。



 色葉は俺を強引に退かし、靴を履いて外に出かけようとする。


 すぐに後を追いかけるが、色葉は走ってマンションを降りて行った。



「やべぇ!おい待て!」



 焦る俺に、リーベが気になったことを口にした。



「ねぇ何が怪奇事件なの?」



「紅色葉は今日この日のどこかで殺され、翌日死体が発見される……!」



 俺が怪奇事件の全貌を話し始める。


 しかしここまではごく普通の殺人事件。



「それのどこが怪奇なの?」



「いいかリーベ。遺体が発見されるんだ。しっかり身元も紅色葉本人と断定される」



「うん。死体に違和感があるとか?」



「いや、紛れもなく本人の遺体なんだ。警察の鑑識がしっかり調べてる。しかしそれなのにーーその後も紅色葉は、普通に学校に登校してきてる……!」



「ん?どういう事?」



「死んだはずの紅色葉が、別の場所で普通に生活してるってこと……!」



「普通に生活してるならよくない?」



「よくねぇ……!人が一人死んでるんだ……!」



 外に出た俺は、大声でーーマンション中に響き渡るようか大声で叫んだ。



「紅色葉ー!戻ってこーい!!死ぬぞー!!!」




 階を降りながら俺の声が聞こえてきた色葉は、顔を赤面させて呟いた。



「恥ずかしいから辞めてよ……!」



 駆け足で建物を出て、急いで先ほどのケーキ屋を目指した。


 

「不法侵入に器物破損……!なんなのあいつ……!?」



 ぶつぶつと文句を垂れ流して走っていると、道中で友達の愛菜の姿を発見。


 ケーキは手元にないが、この後夕食に誘うプランに変更を決める。



「おーい愛菜ー!」 



 名を呼んで近づくと、振り向いた愛菜が笑顔で言った。


 その台詞が、かなり違和感を生む内容だった。



「あっ色葉ー!さっきは誕生日ケーキありがとうー!」



「えっ……?」



 愛菜は嬉しそうに言ったが、もちろん色葉はケーキをまだ渡していない。


 それに愛菜の言うさっきとはいつの事だ……?



 恐る恐る問いかける。



「ケーキって……何?」



「何言ってるの色葉?30分くらい前、誕生日のケーキ持ってきてくれたじゃない?ベイクドチーズケーキなんて久しぶり!すっごい美味しくてぺろっと食べちゃった」



 全く身に覚えのない話に困惑する。


 30分ほど前というと、色葉が気を失って倒れていた時間だ。



 しかし愛菜が冗談を言っているとも思えない。

 

 なぜなら、ベイクドチーズケーキという具体的なケーキの内容を言い当てている。



 この時色葉はゾッとする事を思い出したーー



 ベイクドチーズケーキは、本来色葉がケーキ屋に予約注文した物ーー


 ケーキ屋に取りに行った際、既に何者かが紅色葉を装って、サインを残してケーキを受け取っていった者の存在ーー


 そしてその何者かが、30分前に愛菜にケーキを渡したという事実ーー




 先ほど言われた台詞を思い出す。



『今日お前は、何らかの都市伝説に巻き込まれて死ぬことになってる!』



 

 冗談とは思えなくなったその台詞に、色葉は恐怖を感じ始めていた。


 その時突如後ろからーー後を追いかけていた俺が、大声を放つ。



「都市伝説の匂いだ!俺様の出番だ!」



 恐怖で敏感になっていた色葉は、背後からの突如の大声に、思わず叫びながら振り返る。


 そしてそのまま俺の顔を見るなり、すかさず握り締めた拳を振るう。



「ふ、不審者ぁ!!」

あけましておめでとうございます!小説連載再開です!



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