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06 狼女とサキュバス、村を見つける

カニスは攻め、フランマは守り、ロサは……?

 ふんふんふーん。

 カニスは浮かれていた。妖魔の君ノックスと千年ぶりに再会を果たして以来機嫌が良かったが、それに輪をかけて浮かれていた。

 今回、妖魔族の今後を左右する重要な任務を任された上に、ノックスから直々に〈最も信頼のおける〉と評価されたことがたまらなく嬉しかった。

 

 カニスは狼女の妖魔である。その性質はまさに犬。主君と定めた存在に誉められ可愛がられることが生き甲斐であり、主君の為に生きているといっても過言ではない。

 現にノックスが瀕死の重傷を負い依代に自らを封印した際は、生きる理由を見失い暴走した。

 その際に人間族の街一つを単身で半壊させ、優勢であったはずの人間軍を大量に殺害しており、こと殲滅力においては妖魔族の中でも上位に位置する。


 そんなカニスの誇りは、自分こそが妖魔族の中で一番の忠誠心をノックスに捧げているという自負である。

 カニスは自分の戦闘力に自信があり、ついつい考えるより先に力で解決する癖があることを自覚している。普段ならそれでも支障は無かったが、今回はノックス直々の指名であり重要任務だ。

 そのため不承不承ながらも任務の成功を最優先と考え、フランマの同行を受け入れた。じゃじゃ馬な彼女だが、ノックスに誉められるにはどうすれば良いかを最優先で考えるため、このようにノックスの意図を汲んだ行動がとれるのである。


「うーんと、あそこなんてどうかな? 国境から近くて田舎だし、森の中にみすぼらしい教会が建ってるからやりやすそうだよ」


 カニスは、現在妖魔族が侵略を進める国境付近の砦の街サートゥマアルクスから南東に進み、森の中にできた小さな集落と朽ちかけたような教会を見つけた。

 背の低い彼女だが、得意の嗅覚を駆使して森の探索などは得意中の得意であった。同行するフランマもその探索力には感心するしかない。


「相変わらず大したもんだね、その鼻は。まだほとんど目視もできない距離じゃないか。アタシはそろそろこの森ごと焼き払おうかと考えていたところだよ」


「そんなことしたら騒ぎになっちゃうでしょ! これだから筋肉ゴリラを連れてくるのはイヤだったんだ!」


「冗談だよ、ははは」


 普段カニスをおちょくり、落ち着いた態度をとるフランマだが、実は結構な短気である。

 その筋骨隆々な肉体が象徴するように、所謂脳筋思考であり、細々とした探索は苦手とする。どちらかといえば森ごと焼き払い獲物も一緒に焼き上げるくらいの大雑把な仕事を好む傾向にあるのだ。


 彼女の筋肉はノックスへの忠誠心の表れであり、いざと言うときに主の盾になるためだけに生きているといっても過言ではない。

 かつて勇者一味の猛攻に敗れノックスに瀕死の重傷を負わせた事を千年間悔やみ続けており、この任務に同行することにも戸惑いを覚えていた。

 もし自分の不在時に再び主が襲撃されるようなことがあれば、自分は何のために千年間もの間この肉体を鍛え続けてきたのか。そう考えると気持ちがはやる。

 しかし逆に、この任務でカニスを守り抜き、己の防衛力を主にアピールできれば、今後更に身近に配属されるかもしれないという期待もある。

 そのためフランマもまた、今回の任務には並々ならぬ気合いを持って挑んでいた。



   卍   卍   卍



 集落に近付くと、何やら門番のような男が一人立っていた。このような田舎の村では、野盗や妖魔の危険に晒され援軍の期待も出来ないため、持ち回りで村の男がこうした門番の真似事をするのは最低限の自衛手段であった。

 そこにカニスとフランマは旅の修道女を装って近付く。


「こんにちわー! ここって教会なんかありませんかー?」


「ん? 見ない顔だな。何でこんな辺鄙なところに女の子が……」


 門番の男はカニスを見て怪訝な表情を浮かべる。

 通常このような森の中を、冒険者でもない女だけで出歩くものではない。地元の者なら隣の集落やちょっとした狩りに出ることもあるが、カニスの顔は地元でも見たことが無いほど整った美少女然としており、まず真っ先に野盗に襲われるであろうことは想像に難くない。

 それに隣に着いている大柄な女。彼女もまた美しい顔立ちとヘソ出しの短いシャツをパンパンに押し上げる巨乳がいかにも扇情的だ。

 とてもではないが、このような田舎の森を彷徨ける容姿ではない。


「あんたら、何モンだ? ここいらは物騒でな、あんたらみたいな女が歩いてて無事にすむところじゃねーんだ。怪しいなんてもんじゃねーぞ?」


「ふーん、それってアタシがここいらじゃ珍しいくらいの美人だってことかい? うふふ」


 フランマは相手の視線が自分の胸に行ったことを見逃さなかった。相手の性の対象が女であるとわかれば、すかさず魔眼を発動させる。

 

 サキュバスの上級妖魔であるフランマにはいつくかの魔眼があり、今まで狙って籠絡できなかった男はゲイや不能以外ではノックスのみである。

 ちなみにノックスの名誉の為に説明すると、彼は生粋の女好きであり不能でもない。ただとある想い人を忘れられずにいるため、周りに侍るフランマ達を可愛いと想いながらも手が出せずにいるヘタレなだけであった。

 当然フランマ達もそれは承知の上でアピールを諦めることはないが。


 ともあれ魔眼耐性の無い人間族の男など抵抗する間もなく、フランマの奴隷となった。


「ささ、姐さん! こちらに教会がありやすんで! 案内いたしやす!」


 門番の男は人が変わったようにフランマに媚びへつらい、村から離れた教会へと先導を買って出る。


「フランマのそれ、相変わらずおっかないよねー……

 主様に通用しないからいいけどさ! こんな筋肉ゴリラのどこがいいんだか! 胸だって巨乳に見えるけどほとんど筋肉じゃないか! まったく男ってのは単純なんだから!」


「筋肉ゴリラで悪かったねぇ。でも女に欲情できる奴になら魔眼は問答無用で影響するのさ。とは言っても、肝心の主様に効かないんじゃ宝の持ち腐れだけどね。それでも主様の役にたってんだからいいさ」


「じゅんじょーう、ニシシ」


「うるさいよ! ほら、他の村人が寄ってこないうちにさっさと行くよ!」


 珍しく本音がもれたところにすかさず突っ込まれたフランマは、その褐色の頬を赤く染めながらカニスの背中をひっつかみ教会へ向かった。


お読みいただきありがとうございます。

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