04 妖魔の君、報告を受ける
前回ヒロイン成分が無かったので。
「馬鹿者が、一気にやりすぎだ!!」
とりあえず国境から一番近い人間族の街ということで、砦と街がセットになっているサートゥマアルクスとかいう街から調査することにした。ここはなんでも武力・防衛力の高さが売りの街らしく、俺達の夜間飛行や隠密行動で人間族の警戒網を突破できるかのテストも兼ねていた。
結果、侵入に関しては驚くほどあっさり成功した。あまりに簡単で罠を疑ったが、現地調査の報告を聞くと納得がいった。
どうやら王城の修復を終え妖魔族達はそれぞれが俺の依代を捜索したり人間族を襲ったり好き勝手動いていたらしい。元々あまり考えるまでもなく力を行使すればなんとかなってきたような連中が集まっていたせいもあり、本来知能が高い連中も組織だった行動はせず欲求のままに動き回っていた。さらに知能の低い者たちを統率・管理する役目も曖昧になり、低級な妖魔が各地で暴れ回った結果、人間族の間では妖魔族の知能が下がり欲望のまま暴れ回るモンスターに成り下がったと認識されていたのだ。
嘆かわしや脳筋集団妖魔族……
プールガートーリウムを建国してから人間族と戦うあたりまでは皆知恵を絞って慎重に行動していたはずだが、何故に。
これまで築いた文化的なイメージも崩れ去り、今やちょっと厄介な野生の動物(強いバージョン)くらいな扱いだ。それが組織だって活動し、綿密な用意と連携のもと人間族領土に侵入するなんて想定もされておらず、国境警備は名ばかりのザル、砦の兵力も大半は他の人間族に向けての警戒に使われていた。
まぁ結果的にこちらの行動が取りやすくなっているため、特に部下を叱責するつもりは無い。そもそも勇者に破れて眠っていた俺に、その間の妖魔族の行動についてとやかく言う権利は無い。しかし、俺が目覚めて指揮をとっている今は違う。俺の考えを理解せず見当違いな行動を取る部下には厳しく指導する必要がある。そうしなければ組織的行動など取れないし、大事な国が腐ってしまう。
だから俺は、あまりに人間族を舐めてかかり急進的に事を進める目の前の部下を叱る必要があるのだ。それも二度は間違えないように、本能に恐怖を植え付けるくらい徹底的にする必要がある。取りかかりの現段階で躓く訳にはいかないからな。
恐らく誉められるとでも考えていたのだろう。ハバリー上級大佐は意外そうに驚いたあと、俺がワザと殺気をこめて睨みつけると顔を青くしながら震えだした。これくらいでいいだろう。別に萎縮させたい訳じゃないんだ。ただこいつの身の安全の為にも、妖魔族の為にも、あまり人間族を舐めたような態度は早々に改める必要があっただけだ。
「国境や砦の突破については、様々な事象が重なった結果の幸運だとでも思っておけ。人間族はそれほど甘くはない。忘れたのか、奴等の情報共有や学習能力といった組織集団としての強さ・狡猾さを。我々の不慣れな隠密活動など早々に見抜き、対策を練ってくる。その時までに考えを改めておかねば、我々の武力だけではあらがえぬような罠や謀略により手痛い返り討ちにあうぞ」
そう、奴等には知能がある。それも我々妖魔族を遙かに凌ぐ知力が。末端の庶民まで武力に優れるが故に短絡的になりがちな妖魔族に対し、奴等はその辺の村人にいたるまでが生まれ持った知能を有する。さらに突出した個人の存在、かの勇者のような者も紛れており簡単には見分けがつかない。
だからこそ影から情報を集める必要があるんだ。
それをこいつは、街の治安部隊の一つを乗っ取った? さらにそのまま部隊全体を掌握し、街を支配する? 何を考えているんだ。明らかに目立ちすぎ……っ! そんなに急にわいて出れば、奴等は簡単に気付く。気付かれたら終わりだ。今の人間族に対して、妖魔族の組織行動がバレるリスクが、こいつには理解できないのか。
どうやって理解させたものかな……
「平伏せ」
え?
悩んでいると、傍らに控えていたロサが突然口を挟んできた。今なんて? 平伏せ?
「は……はっ! ははぁっ!!」
俺の顔を見上げながら固まっていたハバリーが、一瞬遅れて平伏した。
え、なにこれ。
「貴様は主様の考えを理解する頭を持たない。そればかりかこうも主様を悩ませるような失態をおかした。もはやその命、無事ですむとは思わないことですわ」
ロサが、普段のツンデレ堕天使ちゃんからは想像もできないような低く堅い声で告げる。あ、これ〈鮮血のロサ・ルーベル〉モードだ。ハバリー死ぬぞ、逃げろ!
「まったくだね。ボクの主様を困らせるなんて、一万回死んでも許されることじゃないよ。まぁ簡単には死なせてあげないけどさ!」
ロサの暴走かと思ったら、続いてカニスまで何やら物騒なことを言い始めた。ハバリーは不死族じゃないから一回しか死ねんぞ。さすがバカはブレない。
「じゃ、手始めにその鬱陶しい目を焼いておこうか。主様を見るに値しないゴミ虫の分際で、アンタそんな立派な目は必要ないだろう、ねぇ?」
いやぁ! フランマまで便乗してる……!
お前は二人の暴走を止めてくれると信じてたのに!
何があったんだ、三人とも……
ストレス溜まってたのかな。ちょっと休ませるか?
ハバリーを見ると、既に平伏した姿勢のまま泡を吹いて気絶していた。
「三人とも、言い過ぎだ。現場で頑張ってくれるハバリーが萎縮してしまっては意味がないだろう」
「いえ、私の主様を悩ませる存在など、生きていることは許されませんわ」
「ボクの主様を困らせたんだ、死ぬより辛い思いをさせないとね!」
駄目だこいつら……早くなんとかしないと……
「まぁまぁ、アタシの主様を不快にさせたのは許せないけどさ、主様の言うとおりこんな奴でも主様の役に立ってる面もあるんだ。今回は見逃してやろうじゃないか」
フランマがやっと助け船を出してくれた。
信じてたぞ……!
「仕方がないですわね。たしかに私の主様が直接現場で指揮を取れない以上、代わりに働く者は必要ですわ。あれでも下級妖魔にしては知能がある方ですし、今後の働きによって見逃してやらなくもないですわ」
「うーん、ボクの主様が直接乗り込むならついてくけど、確かにもっと安全が確保されてからの方がいいかな!」
「そうそう、アタシの主様の為にも、アタシ等がここは我慢だよ」
なんかさっきからこいつら同調しているように見えて発言が刺々しいんだが。
やはりストレスか。たまには俺の警護を休ませて外でガス抜きさせるか。うん、そうしよう。
「あー、そういえば、俺の依代を探していたという残りの2名は、そのまま人間族に紛れているんだろ? そろそろ一旦話しでも聞きたいところだ。誰か呼びに行ってくれないか」
「でしたら私が呼んできますわ。あの者達との付き合いも長かったですし」
「仕方ないよね、ロサが一番その辺のことは慣れてるし、ボクは主様の夜の相手でもして待ってるよ。ゆっくりしてきていいよ、堕落天使」
「だ・て・ん・し! アンタみたいな貧乳ロリ体型は主様の好みじゃないのですわ! 尻尾や耳を隠したところで、女じゃなくただのガキよガキ! 身の程を知りなさい!」
「あー! 乙女の秘密を主様の前でばらすなんて! サイッテー」
「じゃあ主様の夜の相手はアタシが代わりにやっとくかね。さ、主様、こちらへ」
「フランマはしれっと抜けがけしない! その筋肉ゴリラ体型で主様が欲情なさるとお思いですの?!」
「アタシの自慢の肉体にケチつけようってのかい? そんなプニプニの体じゃ、いざってとき主様の盾になることもできやしない。筋肉はね、忠誠の証なんだよ」
これって一応ハバリーの現場報告の場だよ?
あーもうめちゃくちゃだよ。
お、騒がしさでハバリーが気が付いたか。
「あ、あの、俺は、いやわたくしめはまだ生きて……?」
「ハバリーよ、今回俺の考えが伝わらず急進的な行動をとったことは、これまでの人間族領土への侵入成功という働きを考慮し不問とする。今後の働きをもって、お前の価値を俺に示せ。目立ちすぎず急すぎず、慎重かつ確実にことを進めるのだ」
「は、ははぁ! このハバリー、命に代えても主の計画を成功させてご覧に入れます!」
うん、なんとか体裁は保った。
「用が済んだら下がりなさい! 主様の温情を向けられるなんて! 許さないですわ!」
「今度ボクの主様を困らせたらキミの局部を少しずつすり潰してあげるよ!」
「片目くらい今のうちに焼いとくかい? その方が気が引き締まるだろ」
「し、失礼しましたぁ!! 頑張ってきます!!」
こちらに平服した姿勢のままもの凄い早さでハバリーが後退していった。なんて器用な奴だ……便所にでる黒い虫みたいだ。
はあ、まだ今日の報告はハバリーが一人目なんだよなぁ。
疲れるなぁ。ロサに癒してもらうかな。
「ロサは可愛いなぁ。私の主様なんて言われると照れるな」
「ちょ! ななななんですのいきなり! べべ別にそんな深いいいい意味は無いですわよっ!?」
あー、癒される。
さて、お仕事頑張るか。
「スケレトゥス、次の報告者を呼べ」
「御意」
こうして各地にばらまいた部下からの報告は夜中まで続いた。
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