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03 妖魔族、め組のひとになる

なんとなく書きたくなったので。

 妖魔族と人間族の国境近くにある砦の街〈サートゥマアルクス〉。ワガトゥーク王家の治める人間族の統一国家クフエドゥヴァ王国の中でも抜きん出た武勇を誇る、マーシズ辺境泊の領地であり、難攻不落の砦と名高い。

 街の住民もかつて妖魔族との戦いにおいて最前線で活躍した豪傑の子孫を自称し、自分達の国に誇りを持って暮らしている。彼等のいう国とは現在のクフエドゥヴァ王国ではなく、王国に吸収される以前から人類最前線の地を守り抜いてきたマーシズ王家の治めるサートゥマアルクス王国だ。

 現王国から見れば野蛮な田舎扱いされることも多く、サートゥマアルクスの民も王国への帰属意識は薄い。そんな彼等は独自の情報網を駆使し、辺境とは思えぬ感度で王都エーヴィヒカイトと大差ない鮮度の情報を入手することがある。

 そして今この街はとある噂で持ちきりであった。

 庶民の中心的マーケットで行われる朝市でも客や店員がその噂話に花を咲かせる。

 

「なあ聞いたかおい、例の」

「あー、なんかオウミテッラの方でグールが出たとかいうやつか?」

「ちげーよバカ、そもそもグールなんか数百年前に絶滅してるだろーが。そんな眉唾じゃねぇ。お隣さんの話だよ」

「お隣ってーとなにか、妖魔族のほうか。そういや最近妙に大人しくなったよな。おかげで行商人も機嫌がいいのなんのって」

「それがな、街道なんかにゃ出なくなった代わりに、あちこちの小さな村で人攫いが出たり、見たこともねぇ上等な服着た余所者が尋ねてきたり、妙な事件が増えてるらしい」

「それと妖魔族のどこが関係あるってんだ」

「人間の仕業とは思えねえような人攫いに、領主の調査でも何の手がかりも無し。さらには夜中に空を飛ぶ人影を見たって話も各地で出てる。こりゃあどう考えたって奴等の仕業だって」

「うーん、奴等にそんな賢げな行動できるかね。伝承には何人か将軍みたいな存在や王までいて統率されてた時代もあるらしいが、近頃は知能の欠片も無い魑魅魍魎に成り下がってるって言うじゃねぇか」

「……その将軍か王が蘇ったとか」

「バカ言えよ。それこそ眉唾もいいとこだわ」


 店先のベンチで串肉を食いつつだべっている二人の背後では、屋台の店主が冷酷な眼差しで聞き耳をたてている。しかし彼等がそれに気付くことは無い。彼等の食いっぷりに釣られて客が寄ってくると、店主はいつもの愛想の良い笑顔で肉を焼き始めた。


 その時、突如甲高く早鐘を打つ音が街に響きわたった。それを聞いた住民達は慌てて左右の端に寄り道を開けていく。

 

「火事だ火事だぁ! 道を開けろぉ!!」

 

 人でごった返す朝市の中を、道が開くより早くかき分けて行く大柄な男と、それに続き駆けてくる威勢の良い男達の集団。彼等を見た住民達は口々に声援を送る。

 

「来たぞー! め組のひとがお通りだ!」

「頑張ってね! め組の皆!」

「きゃー! 初めて生で見れた! まじ格好良すぎぃ」

「め組だぁ! 朝からいいもん見れたぜ!」

 

 彼等の羨望の眼差しを受けるこの集団は、サートゥマアルクス名物火消し隊の中でも特に人気の高い〈め組〉である。

 もともと人間族最前線の立地と武勇を誇る国柄により、サートゥマアルクスには喧嘩と火事が絶えなかった。基本的に住民の血の気が多いのである。そのため庶民の喧嘩の仲裁や消火活動を行う治安部隊〈火消し隊〉が早くから組織され、庶民の生活に無くてはならない存在となっていた。

 その中でも〈め組〉は最近急に人気が伸びている部隊だ。

 サートゥマアルクス火消し隊の消火活動とは、所謂水の魔法行使による鎮火と力に任せた建物の破壊からなる。周囲の延焼を防ぐため、建物の破壊が必要なことは住民達も理解しているが、それでも不動産を失うことを受け入れるのは難しい。

 そんな中、最近〈め組〉の隊長に就任したアオスマッヘンという男の消火活動は、建物をほぼ破壊せず、巧みな水魔法の制御による消火として異彩を放っていた。

 アオスマッヘンが就任してから瞬く間に〈め組〉の人気は上がり、発言力を得たアオスマッヘンの指示により隊員達も水魔法の得意なメンバーに刷新された。今ではサートゥマアルクス火消し隊といえば〈め組〉と言われるほどの人気で、アオスマッヘンの発言力は火消し隊統括を凌ぎ、領主軍ですら彼の扱いには気を使わねば手痛い批判を浴びる程であった。

 だがしかし、突如この街に現れた水魔法の手練れ達の存在に疑問を抱く者もいる。火消し隊統括隊長エタンドルもその一人だ。

 

「エタンドルさん、まため組の奴等が独断専行で……」

「それはいいんだ。俺のメンツや火消し隊の規律よりも、近くにいた部隊が迅速な消火活動を行うことの方が優先される。他の何をおいてもとにかく迅速に消火する。それが我々火消し隊の存在意義だからな」

「ですがこのままじゃ、アオスマッヘンの野郎ますます調子に乗りますぜ。ここいらで何か手を打たなきゃ、伝統ある火消し隊が新参者に乗っ取られちまう。エタンドルさんだってそれは望んでないはずだ」

 

 ドゴンッ

「ひっ」

 〈を組〉の隊長から話を聞いていたエタンドルは我慢ならず机を殴りつけた。


「あたりめぇだろうが。んなこたぁ分かってんだよ。先祖代々この街の治安を守り抜いてきた俺達の火消し隊だ。この街の生まれでもねぇ、最近どっかからわいて出たような連中に好き勝手されて、面白いはずがねぇ!」

 

 エタンドルは一気にまくし立てたかと思うと目を瞑り、怒りを静めるようにゆっくりと呼吸を繰り返してから続ける。

 

「しかしな、それでも奴等は優秀なんだよ。め組のおかげで家を壊さず助かった連中も多い。それは俺達この街を愛する火消し隊の望むところだ。結果だけみりゃ奴等を活躍させた方が街のためにはなるんだよ。俺達のつまらねぇ拘りで、街の連中の役にたってるもんを追い出すわけにはいかねぇんだ」

 

 唇の色が変わり出血するほど噛みしめながら、水差しを手に取り手元の木のコップにぬるい水を注ぐ。それを一気に飲み干したエタンドルはおもむろに立ち上がり、庁舎を出て行ってしまった。

 彼を見送る気弱な〈を組〉の隊長は、そのキャラに似合わぬ凍てつくような眼差しを扉に向けていたかと思うと、背後から音もなく忍び寄ってきた〈め組〉の隊長アオスマッヘンへとニヒルな笑みを浮かべ向き直る。

 

「難儀な性格だな、アレも」


 好戦的な笑みを張り付けたアオスマッヘンが扉を見つめて笑う。

 

「手始めにこの街に根を張り、人間族国内での拠点設置を不自然無く進めるというあのお方の計画は、俺達の働きにかかっている。

 邪魔な有力者の不動産を破壊し力を削り、バカな庶民の家は守ってやる。俺達がこの街をコントロールするんだ。

 だがこれ以上目立ちすぎるのもダメだ。俺はあくまで〈め組〉の隊長に収まり人気取りに専念するから、お前は裏からエタンドルの奴をうまく制御してくれ。いいかやりすぎるなよ。今のバランスを保つんだ」


「何だハバリー、お前らしくもない。てっきりこのまま火消し隊ごと乗っ取るつもりかと思ったぜ」


「最初はそのつもりだったさ。だが、な……」

 

 〈め組〉隊長アオスマッヘンこと、妖魔族のハバリー上級大佐は、先日妖魔の君へ報告に戻ったときのやり取りを思い出し青ざめる。

 


   卍   卍   卍

お読みいただきありがとうございました。

中途半端なところで続きます。

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