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02 妖魔の君、説得する

忍者要素を出したくて無理矢理突き進んでます。

 深夜のプールガートーリウム城。

 妖しく光る赤紫の薔薇に囲まれた棺桶達は約半数が開かれている。

 眠りから目覚めた彼等が集うのは王城の最上階、妖魔の君に許された者のみが立ち入れる玉座の間。

 壁から浮きだした石の顔は今にも叫び出しそうな鬼気迫る表情で来る者を睨みつけ、天井から吊り下がる薔薇のシャンデリアとあちこちから突き出たクリスタルは妖しい紫の光を放つ。

 入り口から玉座へ敷かれた血のような赤の絨毯を避けるように、妖魔族の精鋭達が整列する。

 彼等が一心に見つめる先の玉座には今、千年の時を経てあるべき王が座している。

 

「みな息災でなによりだ。よくぞ千年もの間この国を守り、王城をここまで復興させた。諸君らの忠勤に感謝する」

 

 今彼等は千年もの間待ち望んだ主君の声を、息遣いまでを、一瞬たりとも聞き逃すまいと、歓喜に震えるのを堪え傾聴する。

 

 だがその中には歓喜と共に怒りに震える者も少なくはなかった。

 かつて人間族との闘いで前衛部隊を指揮したこともあるハバリー上級大佐もその一人だ。

 彼はこれから主の口から人間族への復讐の口火が切られることを疑わず、その時を待っていた。


「私も先日現状の報告を受けたばかりだが、早急に対策を練る必要を感じている。そこでこれからの我ら妖魔族の行動についてまず一つ指針を示そうと思う」


 ノックスのその言葉に呼応してざわめきが起こる。

 ハバリー上級大佐は堪えきれず雄叫びを上げる。


「主が復活した今こそ! 積年の恨みを晴らすのだ! 人間族に死をっ!!」


 それにつられて皆口々に雄叫びを上げる。

 だがノックスは静かに首を横に振った。


「違う、そうじゃない。恐らく皆そう考えると思ったが故に、ここに宣言する。我等妖魔族は、人間族へ表立って戦争を挑むようなことはしない。むしろ奴等の中へ溶け込むような行動をとる」


 空気が凍った。

 みな一様に、信じられないという表情で固まっている。ハバリーはかろうじて喉から絞り出した呻き声のような呟きを漏らす。


「なにを……」


 だがこれはノックスにとって想定内の反応にすぎない。むしろ彼等が暴走する前に説明する機会を得たことにノックスは安堵していた。


「目的を見失うなという話だ」


 ノックスは特に血の気の多そうな連中を思い浮かべながら、みなが話に付いてこれるよう意識してゆっくりと話す。


「我等の目的。それは妖魔族の繁栄に他ならない」

「ならば邪魔者は排除すべきかと」


 すかさずハバリーは意見を差し挟む。


「邪魔者は排除する。しかしそのやり方を誤ると破滅するのは我々だ。今こそ過去の経験に学ぶ必要がある」


 ノックスはゆっくりと全員の顔を見渡してから続ける。


「たしかに千年前侵略してきた人間族は、天の導きと勇者という力に酔っていた。そして俺を中心として妖魔族もまた力と破壊衝動に酔っていた。ゆえに落としどころも見えず、互いの殲滅まで止まることができなかった。

 だがそれを繰り返していては我等妖魔族の繁栄は遠のくばかりだ。

 我々と違い寿命の短い人間族は世代も代わっている。それも親子の世代ではない。とうに風化した歴史として知る程度の世代しか残っていない。奴らは同じ人間族の国家同士で争い、つい最近まとまったばかりだと聞く。

 これはまたとない好機だ。

 表立って復讐をしかけ、わざわざ当代の勇者を誕生させる必要は無い」


「我等妖魔の君が! そのような弱腰でいかがなされますか!! それではまるで人間族を、勇者を恐れているようではありませんか!」


 ハバリーはたまらず吠えた。

 奴ら人間族に復讐する時をただ夢見て堪え忍んだこの千年が否定されたように感じ、我慢ならなかった。

 

 ノックスもその気持ちは尤もだと理解している。

 ただ眠って傷を癒していた自分と、長き時を堪え忍んできた彼等との間には、想像を絶する感情の落差があるのだろう。

 

 だからこそ自分には冷静な舵取りが求められるとノックスは考える。


 一か八か打って出て生きるか死ぬかというやり方の先には破滅しかないということを、身を持って学んだのだから。


「みなも知っている通り、かつてあれほど統率されていた天使族ですら、中には反体制思想の者や我等に理解を示す者もいた。

 自我と知能を持った種族に一枚岩はありえない。

 真相はともあれ我等妖魔族にも裏切り者はいただろう」


「アウローラ・カーリタース……」


 ノックスの傍らに控えるロサ・ルーベルは苦々しく呟く。


「目先の衝動に囚われるな。まずは人間族の中に溶け込み、奴等の弱点たりえる存在を探すのだ。

 それと同時に不和の種をばらまき、互いを消耗させる。

 危険な矢面に我等妖魔族が立つ必要はないのだ。人間族の始末は、人間族にやらせればよい」


 人間族の始末を人間族にやらせる。

 その意味を全員が理解するまでしばしの時間がながれた。

 そしてやがてノックスの考える復讐劇が彼等の脳裏に浮かび上がる。


 かつて衝動のまま正面からぶつかり合い血で血を洗う化け物だった妖魔族の戦い方。

 だがそのやり方ではだめだった。

 妖魔族は人間族に破れたのだ。

 認めたくはないが、それは事実である。


 ならば、妖魔族を打ち破る程の人間族の力が互いにぶつかり合えば、そうして弱ったところに妖魔族が一丸となり攻め込めば……

 そんな風に皆の頭の中に勝利のプロセスが描かれていく。


 恐ろしい。

 やはりこの王は恐ろしい。

 この場にいる誰もが、その強かさと狡猾さを再認識し背筋を凍らせる。


 あれほどいきり立っていたハバリーのような直情型ですら、ノックスの巧妙な話術によりその意味が理解でき、敵わないと悟った。


 我等が妖魔の君は勇者に破れ弱くなったのではなかった。

 敗北すらも糧として、さらなる高みへと登り始めているのだ。

 それが理解できた者から順に、自然と膝をつき、頭を垂れ、忠誠の意志を示した。


 妖魔族精鋭1200人の忠誠を受け取った彼等の主は、ただ満足げに微笑んでいた。



   卍   卍   卍



 いやー壮観だったな。

 懇切丁寧に説明したかいもあって、大事な仲間達をこれ以上無駄死にさせずにすみそうだ。


 消耗の激しい奴や一部の強力な存在などは眠らせたままだが、今すぐに動ける妖魔族だけでも十分頼もしい様子だった。

 話に付いてこれそうもない知能の低い連中は、王城地下に大量にストックされているようだ。

 皆の熱気が残っているような玉座の間を抜けて自室に向かいつつ、俺は鼻歌でも歌い出しそうな気分だった。してやったり、という感じである。


「相変わらず、恐ろしいお方ですわ」


 隣を見ると上気した顔のロサが微笑みかけてくる。


「主様かっこよかったなー! やっぱり他の奴等とは全然違うよね! こう、先の先まで見てる感じが!」


「はいはい、分かったから同じ話を何度もするんじゃないよ。それより本当に内容のほうも理解してるのかい?」


「もちろん理解してるさ。ようするに人間の振りして人間族の街とかで生活しながら、なんかこう、情報を集めるんでしょ! 簡単だよ!」


 興奮醒めやらぬ様子で尻尾の代わりに尻を振りつつ俺の周りをわちゃわちゃと動き回るカニスに、フランマがすかさず茶々を入れる。


 ちなみにカニスは狼人間であり尻尾も生えているが、昔から俺の前では狼要素を極力排除した外見を保っていた。理由はわからない。


 しばらく歩くと、俺の書斎の前で待機していた執事姿の骸骨が見えてくる。


「お待ちしておりましたノックス様。既に用意は整っております」


「おお、流石スケレトゥスは仕事が早いな。では早速着替えるとするか」


 骸骨姿からは想像できない渋めのバリトンボイスで話しかけてくるこの執事は実に有能で、日常の細々とした手配から大仕事の裏方まで、昔から何かと頼ってしまう。


 王城内の執事長でもあり、一部のメイドも彼の管轄になっている為、俺の身の回りの世話を任せれば右に出る者はいないだろう。


 まぁ実は硬派な振りして可愛いものに目がないロリコン野郎なんだが。


「主様、今度は何を始めるんですの?」


「まぁ見ていろ。これからの活動に必要不可欠なものだ」


 俺はさっそく書斎に入り用意された装備を身につける。うん、注文通りの品だ。

 用意させたのは、先日馬車で目覚めた際に近くに倒れていた、商人と思われる男の服装を真似たものだ。

 あの時目にした山賊や戦士達の服装の質も考慮して、素材は安っぽく、クレ色の地味なものを手配した。

 頭には傘を被り、顔が見えにくいようにする。

 手には渋柿色の手袋を装着し、首にも布を巻き付けておく。

 手ぶらでは不自然なため、背中には薬箱を模した入れ物を背負う。

 これならヴァンパイア特有の青白い肌も隠せ、不快な日差しも遮れる。

 そしておよそ印象に残ることのない、地味な商人といった認識を与えられるだろう。


 廊下で待つロサ達にさっそくお披露目してみる。


「どうだ、地味な商人に見えるか?」


「まあ! 変装道具の手配でしたのね」


「う~ん、ボクには主様のすごい妖気が気になって、わかんないや」


「たしかにねぇ。格好は商人風だけど、アタシも主様の妖気が気になるね。でも人間族ならそこまで分からないんじゃないかい?」


 うーん、微妙な反応だな。

 妖気か……、たしかにその辺もうまく隠さないと、勇者や聖職者どもにはバレる危険性があるな。


 これはいきなり俺が人間の中に溶け込もうとするより、まずは影に忍んで情報を集めた方が安全かな。

 妖魔の存在に気づける奴がどの程度いるのか、それに奴等に溶け込むにはどんなやり方があるのか。

 

「よし、それならば人間族の近くにまずは拠点を構えようか。

 名付けて人間族対策本部だ。

 まずはそこで奴等の観察から始めよう」


 こうして俺達の、先の長い復讐劇が始まった。



お読みいただきありがとうございました。

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[一言] 策略に長けた者ほど、恐ろしい者はない。
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