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21 妖魔の君、寒村を訪れる

い、一人称視点でどうやって状況説明書いたらいいかわからず……筆が止まりに止まった……ぜ……ガクッ

 国境の街サートゥマアルクスから王都方面へ進む街道、そのメインルートから外れた森の中には無数の村が存在する。そういった田舎の住人は王家や領主にも細かな人数までは把握できておらず、魔獣や野盗に滅ぼされても発見まで時間を要したり、気付かれないままということもざらだった。

 この名も無き村、近くにある沼を目印に沼の村と呼ばれるような寒村も、今人知れず消え去ろうとしていた。

 とはいえ人口はたったの36人。

 まともに読み書きできる者も居ない、吹けば飛ぶような村である。

 事前にその危機を察知する術もなければ、警らする者もいない。ただその日暮しのこういった寒村がひとたび悪意に曝されれば、運命と受け入れるしかないのである。

 そう、人間族の間では、それが常識だった。


「いやいや、こんな何もねぇ村に来てもろうてもさ、わしら金なんか久しく拝んどらんし、なーんも買えやせんよ」


「いいんだ。ここいらの地理を把握がてらに寄っただけだからな、ここで商売する気は無い」


 藍染の装束と頭巾で全身を覆い隠した怪しさ満点スタイルの俺は、スケレトゥスに任せたネブラ捜索が予想より難航しているため、時間つぶしに好条件な寒村巡りの最中だった。

 好条件とは、まぁ人が少し消えても問題なさそうな、野盗や魔獣に襲われて消えても騒がれないような、そんな村だ。


「ちり? わしら難しい言葉は知らんもんで、きぃ悪くさせたらすまんのう」


「心配するな。俺はただの行商人だ。ちょっと休ませて貰ったら出ていくさ。ついでに近隣の野盗の情報なんか貰えると助かるが」


「きんりん?」

「あー、近くの。このあたりの」


「ああ、野盗ってのは、ヤカラのことじゃろ。それは聞いたことがある。このあたりにゃ、出たことないな。ヤカラよりも、獣の方が恐ろしいやね」


「獣というと、魔獣かな。この辺りにはどういったのが出るんだ?」


「いやぁ、前まではたまぁに熊の狂ったようなのや、ゴブリンなんかも見たもんだがね。最近はさっぱり見ないね。()()()()()()()の方からたまに来る冒険者さんに聞いたが、なんでもこの辺りの獣がみんな消えちまったらしいでさ。近頃は平和なもんさね」


「ほう。それは奇妙だな」


 もしかして妖魔族の餌に取りすぎたか?

 不死族以外の部下には適当に採らせてるからなぁ。


 とはいえ魔獣や人間なんていくら食っても勝手に湧いてくるものだと思っていたが……。

 食いすぎて無くなったらそれはそれで困るな。


 まぁ昔は人間族なんて居なかったし、そこらの妖魔や魔獣を食い散らかしても絶えることはなかったし。

 俺とか不死族は最悪食わなくても問題ないしな。

 あんまり血吸わないとイライラするけど。

 それより……


「……冒険者ってなんだ?」


「おや? 冒険者を知らんのかい。ほら、冒険者組合とかいうとこから仕事もらって稼いどる、荒っぽい連中じゃよ。そこらに物騒な剣とか持ってうろついとるじゃろ?」


「ああー、そういえば、兵士とも野盗とも違う連中がいたなぁ。あれが冒険者か」


 千年も経てばいろいろ出てくるもんだなぁ。

 冒険、ねぇ。


「こないだも冒険者さんが来とったんじゃが。なんやら調査しとるとかで」


「調査? というか、結構外部との交流はあるのか? この村は」


「まぁたまに近くの村や街まで行ったり、冒険者さんや旅の人が道に迷って来たり、そのくらいじゃよ」


 うーん。

 そのくらいならまぁ、村が消えても問題ないかな。

 しかし冒険者ってのがなんか気になるなぁ。

 まさか勇者と繋がってないだろうな。


 ……ん?

 なにやら外が騒がしいな。

 人の気配が増えたぞ。


「ヤカラだー! 逃げろぉーっ!」

「いやぁー!」


 外から村人の叫び声が聞こえてくる。


「なっ! なにごとじゃ! ヤカラじゃと?!」

「気配から察するに……11人いるな。村を囲うように集まってきている」

「なに? 11人いる?! なぜそんなことが……っ! アンタまさか、ヤカラの仲間か?!」


 しまった。

 普通の行商人は気配とか読めないのか。

 まぁ、せっかく野盗が出たんなら、どさくさに紛れてコイツひとりくらい食っちゃってもバレないか……


「仲間では無いが――」


 咄嗟に言い訳を並べようとしていると、荒々しくドアが開いて駆け込んでくる者がいた。


「村長っ! 無事ですか!」

「おお! アンタはたしか、こないだの冒険者の!」


 冒険者? これが例の冒険者か。

 なんか思ったより弱そうだな。


「野盗が村を包囲しています! 最近この辺りに出没するようになった野盗です! 動向を追っていたらこの村に向かっているようだったので、私だけ先に様子を見に来たのですが……っ! え? な、なんだ貴様は!!」

 

 冒険者が話の途中でいきなり俺に突っかかってくる。


「うん? 俺か? ただの行商人だ。気にするな」

「そんなワケあるか! 見た目も怪しいが、そんなに隙きのない商人がいてたまるか!」


 隙きのない?

 とか言われてもなぁ。どうすれば普通の商人らしく振る舞えるんだ……。

 俺はただ立っているだけじゃないか。

 これで見破られたらどうしようもないぞ。 


「冒険者さん! コイツはヤカラの仲間ですじゃ! た、助けてくだされ!」

「いや、俺は」

「やはり! 先に村長の気を引いておいて襲う作戦か! そうはさせるか!」

「いや作戦もなにも俺は」


「ヒャッハー! ここにも隠れてたぜー!」

「女か金か食いもん置いて死ねやー! うひゃひゃ」


 俺の反論を遮って村長の家の戸が蹴破られ、生ゴミのような激臭を振りまく醜男達がなだれこんできた。


「ちぃっ……! 既に仲間へ連絡していたのか! ここは私に任せて村長は逃げろっ!」

「ひぃ! ひいいい!!」


 あーもうめちゃくちゃだよ。

 誰か俺の話をきけよ。

 ここで野盗を殺せば証明になるか?


「まったく、ひどい臭いだ。そこの沼の方がまだ清潔だぞ」


「あんだぁ?! へぎょっ」


臭くて近付くのも嫌なので、便利な《空間斬(ヴァンパイアハンド)》で手近な奴から切り裂く。


「なっ……なんだこいつ! 何が起こったぁ!」

「おい! 押すなよ!」


「この程度の技も防げずに野盗とは。よく今まで生きてこられたものだな」


 どうやら何の対抗手段も持たない雑魚だったらしい。

 流れていく血が少々勿体無いが、先日絶品の処女の生き血を啜ったばかりだ。あまりゲテモノを食う気分にはなれない。


「あぶぇっ」

「ほょっ」

「むぁっ」


 適当に爪を振るっていると、野盗共はあっさり床の染みに成り果てた。

 抵抗力がよほど低かったのか、残骸も残らず血飛沫になってしまっている。


「この通り、俺は野盗の仲間なんかじゃないぞ。なんならついでに外にいる奴らも片付けておくか」



  卍   卍   卍





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