14 妖魔忍者、見参!
初バトルです。
書くの難しすぎて敵が止まって見えるぜ・・・!
「……ふーん、なかなか強そうなのが居ますわね、それも二人も」
「あいつらがウェルテックスを殺ったっスかね? たしかに技の相性なんかによってはヤバそうな気配っス」
忍者装備を受け取ってから近くにあるオウミテッラを訪れたロサとネブラは、強者の気配を探りつつ散策していた。
街の一等地にある市長の館にも赴いたが、たいした実力の護衛もおらず、次に目に付いた一際豪華な飲食店の前まできて足を止めた。
その建物の中ではちょうど、勇者の仲間であるガストリマルギアとオクネーリアが歓待を受けているところであった。
満月の明かりに照らされた街の中央道を、ロサとネブラは闇に紛れるように近付いていく。
そして強者の気配がするあたりでロサが持ってきた剣の鞘の口を店の壁に押し当てると、鞘の手元側の先の部分を取り外しそこに耳を当てて中の会話を盗み聞きする。
あまり鮮明には聞き取れないが、妖魔という単語が発せられたように聞こえ、ロサは集中を高める。
『人魚……妖魔……。グール……。』
『あれは素晴らしいサンプル……。』
『イーオンの御加護……』
『つまんねーな……。』
(やはり! ウェルテックスを知っていますわ?!)
ロサは驚き一瞬呼吸を乱す。
瞬間、飲食店の壁が吹き飛び、街の外まで響きわたる轟音と共に巨漢と猫背が現れた。
巨漢の方は、なぜか右手に食べかけのステーキを持ち、左手にはワインの瓶を装備している。
「なんだぁ? 今なんか一瞬、すげーやべぇ感じの妖気を感じたんだが」
「アタイも感じたよ。間違いねぇ! あれは人魚の妖魔と同じくらいのやべー奴だ! 信じられるかい?! こんな短期間に貴重なサンプルが次々と現れるなんて! ィイッヒャッヒャッヒャ!!」
「笑ってる場合かよ、ったく。グールどころじゃなくなっちまったんだぞ。それにこの店、結構ウマかったってのに、こんなんしちまいやがって」
周囲の建物からは音を聞きつけた人々が顔を覗かせるが、ガストリマルギアの姿を確認すると皆一様に建物へ身を隠す。
ロサの居た裏路地に面する壁が吹き飛び、隣の建物ごと瓦礫の山となった上で、ガストリマルギアは名残惜しそうに右手のステーキを食いちぎる。
ロサは物陰に溶け込み、二人の強者を観察していた。
(主様には遠く及ばない雑魚……。でも、カニスやフランマあたりなら、油断すると危ないですわね。千年前の勇者の仲間よりは弱そうなのが救いかしら)
「ん? そこにいるじゃねぇか! ハッハァ!!」
するとロサとは別の方向、ネブラが少し離れて様子を伺っていた方へと、ガストリマルギアが駆けだしていく。
「んな! なんでうちの方!?」
ネブラが失言をかましつつ一足跳びに屋根の上まで登る。
「うちの方、ってことは、まだ他にもいるんだねぇ」
オクネーリアは注意深く周囲を見渡す。
(あのバカ! 黙って囮になっていればよろしいのに! 余計なこと言うからこっちまで動けませんわ!)
「なんだ姉ちゃん、美人だが人間にしちゃあ妖気が漏れすぎだぜ。それにそんな真っ黒な服きてちゃあ、月明かりでそこだけ穴が開いたみたいに目立ってるぜ! ウハハハ!」
「ええええ! なんなんスかそれ! 聞いてないっスよー!!」
ガストリマルギアがネブラの足場になっている建物に突進していき、ショルダータックルの一撃で粉砕する。
足場を失ったネブラは地面に転がり落ちながらガストリマルギアの追撃をかわし、起き上がりついでに太股に巻き付けていた棒手裏剣を投げつけバックステップで距離をとる。
しかしガストリマルギアは高速で飛んできた棒手裏剣を右肘で上からたたき落とし、距離を取ったネブラに再びショルダータックルで迫る。
「どっちが化け物っスか! 人間らしくしろっス! この熊男ぉ!!」
「ハッハァ!」
破壊された建物の下敷きになった住人が呻き声をあげていたが、ネブラを追いかけるガストリマルギアに踏み抜かれ地面の染みと化す。
ネブラは軽口を叩きながら更に距離をとりつつ周囲を見渡し、縦笛型の吹き矢を口に構え、ロサを警戒して動けないでいるオクネーリアに向けて矢を放つ。
「つっ! 何だ、針? ガストリマルギアとやり合いながらアタイを狙ってくるとは、やるじゃねーかよ! イヒャ! ……ヒャ?」
「どぉーしたぁ! 研究バカぁ! 目に砂でも入ったかぁ?!」
動き回るネブラを目で追いながらガストリマルギアが叫ぶ。
「ちぃ! 毒だ! このアタイに毒針吹きやがった! ちっくしょうが!!」
「ハッハァ! 毒で殺せりゃ苦労しねぇぜ!」
「うるっせえ! 解毒するから時間稼いでろ!」
「何の毒かわかるんですの?」
「ぐぁっ! 目が!!」
ネブラの毒針がオクネーリアに刺さり注意を引きつけたことで好機とみたロサは、すかさず辛子の粉末が詰まった小袋をオクネーリアの足下に投げつけた。
破れやすく作られていた小袋は着地と同時に裂け、辺りには辛子の粉末が舞い散る。
「おい研究バカ! 油断しすぎだ!」
オクネーリアのフォローに入ろうとしたガストリマルギアに向けて、ネブラはすかさず仕込み杖で切りかかる。
「ちぃ! 美人な姉ちゃんにしちゃ地味なステッキだと思ったが、中身は剣かよ!」
ガストリマルギアはたまらず振り向きネブラの仕込み杖をワインの瓶で受け止める。
「死になさいな」
目が潰れているオクネーリアの首に向けて、ロサが鎖鎌の重しを投げつける。
オクネーリアは飛来物の気配で重しの直撃を回避するが、回避した先の地面には何か棘のある鉄球や固い木の実のようなものが蒔かれており、避けようとしてバランスを崩してしまう。
「終わりですわね」
よろけたオクネーリアの顔に向けロサが十字手裏剣を投げつける。オクネーリアは無理矢理体をひねって回避を試みるが、殺傷力が低い代わりに攻撃範囲の広い十字手裏剣を完全にかわすことができず、右の頬と耳に傷を受ける。
すると受けた傷は小さいにも関わらず、顔の内側から何かが這いずり回るような痛みがオクネーリアを襲う。
ロサが目撃者の存在を想定して外に漏れないよう発動させた薔薇魔法により、その傷口から進入した妖気が実際に蔓薔薇の形となり顔の内側に浸食しているのだ。
「ぐぎゃああああああ!!」
たまらず叫ぶオクネーリアの心臓に向けて、ロサは反りのない小振りな剣をまっすぐに突き出す。
オクネーリアは咄嗟にその剣を左手で掴み受け止めるが、ロサがすぐに剣を引いていまい、オクネーリアの左手から小指が切り落とされる。
「あらあら、頑張りますのね」
「あ、あ、ああああああああ!! アタイの指がぁ!!」
自らの手を何より大切に扱ってきたオクネーリアにとってこの傷は、理性を吹き飛ばすのに十分な衝撃となった。
「ちくしょぉがあああああ! 消え失せろ!! くそったれ妖魔があああああ!!」
「やべぇ! おい研究バカ! それはまだ使うなって言われてんだろが!!」
オクネーリアが咆哮をあげると、その頭上に天使の輪が出現し、辺りは眩い白光に飲み込まれた。
「ぐっ……。これは……天使族の神聖魔法……? なんで人間族が使えるんですのっ……?!」
「いぎゃっ」
光を浴びたロサは体が焼けるような痛みを感じて物陰に飛び込んだが、道の真ん中にいたネブラは遮る物もなくもろに光を浴びて蒸発してしまう。
一瞬にしてネブラは跡形もなく消え去った。
「あーあもう、秘密兵器使っちまいやがって。あとで勇者にぶっ殺されてもしらねーぞ」
「うるっせえ! アタイの指が落とされたんだぞ!! 秘密なんか知ったことか!!」
「ったく。まー見ちまった妖魔は蒸発したみてぇだし、もう一匹はわかんねーが瀕死だと思うがよー。もうお前はそれ使えねーんだぞ。どーすんだよ、この先もっとヤバいのが出てきたらよー」
(……これは、ネブラを犠牲にしただけの甲斐がありましたわね……。周囲に対しては妖魔として戦った痕跡も残しておりませんし、この二人には最初からバレてましたが、その証言以外に証拠はない。ここで逃げても問題ないですわね……)
瓦礫の山に潜んでいたロサは二人の会話から重要な情報を得たことを確信し、それを確実に主の耳へ入れるため退却を選んだ。
ネブラが蒸発したならその場に装備品が残るはずだが、そこには何も残っておらず、疑問に思ったガストリマルギアが痕跡を確認する。その隙にロサはその場を退散した。
夜が明ける頃、オウミテッラから70km程東に離れた山賊団ヴロミコのアジトである洞穴に、憔悴した様子のネブラが座り込んでいた。
「うう……。こんなの聞いてないっス……。なんかうちだけ損な役回りっス! まるで囮じゃないっスか! 霧化できなかったら死んでたっス! うわああーん! ロサのバカー!」
お読みいただきありがとうございました。