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13 勇者の仲間、わりと残念だった

勇者御一行の顔見せ回パート2です。

 満月の夜、巨大な湖〈ヴィワラクス〉のほとりに栄えた商業都市オウミテッラには、奇妙な2人組が訪れていた。

 牛が立ち上がったか熊が服を着たかといった印象の分厚い肉体を持つ巨漢と、細身で隈が濃く目つきの悪い、猫背の研究者風の女。どちらもこの国では言わずと知れた、勇者御一行のメンバーである。


「いやぁ、流石は噂に名高いガストリマルギア殿ですな! なんでも一晩で町の飯屋を全て営業不能にしたこともあるとか! いや実に豪快な召し上がり方で、料理人冥利に尽きるというものです!」


 冷や汗を垂らしながら露骨な世辞で誤魔化す市長の言葉を聞き流し、ガストリマルギアは既に40人前は平らげた料理の追加を注文する。


「ったくよぉ。わざわざエーヴィヒカイトから窮屈な馬車に乗って来てやったってのに、なんだぁ? グールが出たんじゃなかったのかよ。どこにもいねぇじゃねーかよー。あ、これとこれもう三つな」


「うわぁ、まだ食うの? 見ててキモチワルイんだけど。てか唾とんだっ! きったねーなぁ、喋んなよもうお前」


「るせー。唾くらいなんだ。なんでもめんどくさがるくせに、妙なとこだけ気にしやがって。テメェがいちいち手とか洗ったりするせいで移動が遅れたんじゃねーか。てか手洗うなら顔と服も洗えっつの。なんで手だけなんだよ」


 この店を潰す勢いで食い続けるガストリマルギアとは対照的に、ほとんど料理に手もつけずワインを味わっている猫背の女が、手に触れたガストリマルギアの唾を拭き取りながら睨みつける。


「アタイの研究は手が命なんだよ。飯のことしか頭にないアンタには一生かけても理解できないような高尚な研究にはね、その汚ねー唾なんかがついた手じゃいろいろ差し支えるんだよ。わかんねーだろ、わかんなくていいから喋んなもう」


「ったく、いちいちイラつく言い方すんな! テメェの研究ってのは、変な草とか混ぜてすりつぶしてるだけだろーが。俺の飯の方がよっぽど高尚だわ!」


「あーあーあー、これだから消費するしか脳のない愚民は。今この国中でけが人の治療に使われているアタイの薬が、どんだけの価値を持つかも理解できないなんてね。哀れすぎて欠伸がでる」


「そういえば! オクネーリア様の研究成果と治療院への貢献が認められて、近々王都に研究施設が建造されるとか! いやはや、流石は千年に一人の天才と名高いオクネーリア様ですな! 私も傷薬の常備があるおかげで安心して視察など行うことができますよ! はっはっは!」


 二人にとってはいつもの他愛もない軽口なのだが、二人の武力のせいで今にも街が消し飛びそうな錯覚に陥った市長が慌てて世辞を並べ立てる。


「世辞はいいんだよ。今夜中にグールの捜索すませとけよ。アタイの大事な研究対象なんだからね! 見失いましたじゃ済まされないことくらい、解ってるよねぇ?」


 根っからの研究バカであり、アンデッドや妖魔の研究に熱を上げるオクネーリアにとって、治療薬の発明など単なる資金調達の手段でしかない。

 そんな部分しか見ようとしない人間社会には嫌気がさしているオクネーリアだが、勇者の仲間に納まっておけばこうして研究サンプル入手の機会も多くなるため、この立場も満更ではないと思っていた。


 その為、目当てのサンプルが予定通り手に入らなかった今回は、すこぶる機嫌が悪い。

 彼女の威圧的な眼差しから放たれた殺気は、目の前の市長だけではなく、店中の従業員や護衛達までをも震え上がらせた。


「おーい研究バカ。無闇に殺気をまき散らすな。料理人がミスって飯が不味くなったらどうする」


「グールだぞグール! およそ千年前にそのほとんどが死滅したとされる! これがどれだけ貴重な存在か、わかんねー訳じゃないだろ? わかんねーか、愚民共にはよー」


「こないだ珍しい人魚の妖魔手に入れたんだから、グールくらいいいじゃねぇかよ。グールは居ませんでした、でさっさと帰ってアレの研究でもするほうがいいんじゃねーの」


「あれは素晴らしいサンプルだったな! まさかあの勇者の野郎が苦戦する程の妖魔が、この時代に残ってるなんてな! これも薄気味悪い天上のイーオン様の御加護ってやつかねぇ! イヒャヒャ!」


「おいおい、市長が聞いてんのにしらねーぞ。勇者(ヒュペレーパニア)の耳にでも入ったらぶっ殺されるぞ」


「あ? 市長はなんも聞いてねーよ。グールも見失っちまう市長がそんないい耳してるかよ」


「は、はは……。ええ、もちろんですとも。私はなーんにも、聞いておりませんでした、ほほ……」


 オクネーリアは嫌らしい笑みを浮かべて、これ見よがしにぐるりと店内を見渡す。


「も、もちろん、周りの者達も! 誰も何も聞いておりませんとも!」


 市長のフォローに、周りの護衛や従業員達が青ざめた顔で赤ベコのようにこくこくと首を縦に振る。


「ちっ、つまんねーなぁ。アタイの貴重な時間を潰しておいて。誰か腹開かせろよなー」


 この傍若無人な研究バカも、各地の食糧備蓄を食い尽くして回る食欲バカも、勇者の仲間というだけで基本的に治外法権となっている。

 それはこの国の王ワガトゥーク・ゾネ・ヤースの命でもあり、天上から今なお人間族を支配するイーオンの意志でもあるが、何より彼ら勇者御一行に逆らえば命がないからだ。


 このクフエドゥヴァ王国に、勇者達を討伐できる存在はいない。彼らはあまりにも突出しすぎているのだ。


 それが人間族にとっていいことなのか、今はまだ示されていない。

 だが……。



お読みいただきありがとうございました。

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