11 霧の妖魔、可愛い服が着たかった
昨日は更新休んでしまいすみません。
書きためてないと飲み会とかで飛んじゃってダメですね・・・
でも毎日更新は期待しないでね!(←全力で予防線を張るクズの図
「これが忍びの衣っスかー、地味っスけど思ったより手が込んでるっスね」
「2着それぞれ材質や色が違うということは、そのあたりから決めかねているのですわね」
二人が情報収集を行いながら三日かけて山賊の巣に到着すると、そこには既にスケレトゥスの使い魔が準備を整えて待っていた。
プールガートーリウムからオウミテッラ付近の山賊の巣までは、ロサやノックスの高速飛行なら数時間で辿り着ける。だが、下級なアンデッドや使い魔に荷物を持たせて人間族の目に付かぬよう移動させるとなると、三日で到着したスケレトゥスの使い魔は早すぎる。
しかも飛行には荷物が差し支えるのか、鳥タイプではなく馬型の使い魔とそれに騎乗する騎士のアンデッドだ。
このような大型なら尚更、この短時間で到着する難易度は跳ね上がるだろう。
やはりスケレトゥスはいろいろと謎が多く信用できない。ロサは改めて、主の近くに重用されるこのライバルに対して、警戒度を引き上げたのだった。
一方ネブラはというと、その用途から予想はしていたがやはり地味な忍びの衣に、こっそり落胆していた。
スレンダー美人のネブラは本来可愛い物が好きなのだが、自分には似合わないと諦めており、黒レザーのアウターにショートパンツとハイソックスにレザーブーツ、髪は内巻き茶髪のショートボブと、スタイリッシュな格好を選んでいる。
しかし、本当は可愛い格好をしてみたいのである。もし任務で支給された装備が可愛い系ならば、それを着用するのは仕事だから仕方がないと言い訳ができる。
影に忍び人間族を調査する為の〈忍びの衣〉が可愛いわけはないのだが、万が一の可能性を捨てきれず心のどこかで期待していたネブラは、己の浅はかさを呪う。
落ち込むだけなのに、なぜ期待してしまったのか。
「地味っスよねぇ……いや、流石は忍びの衣というに相応しい、うーん、地味っス」
「派手じゃ意味ないでしょうが。それでは私はこちらの色にしますわ。なにやら渋柿をさらにどす黒く染めたような、黄昏時のような、この色合いが忍びやすそうで気に入りましたわ」
「えー、こっちの真っ黒の方が目立たなくていいんじゃないスか? それになんかこっちの方が生地も上等っスし、うちはこっちでいいっスよ」
ロサがダサい方を手に取ったのを見て、ネブラはそそくさと上等な生地の方を掴み取った。どうせ地味ならせめて着心地の良い方がいいと思って初めから目を付けていたのである。
ロサと被らなくてラッキーだと胸をなで下ろすネブラを尻目に、ロサは苦笑いを堪える。
「流石にあそこまで真っ黒ですとおそらく……それに生地の光沢も……」
「なんスか? ロサから決めたんスから、もう変更は無しっスよ?」
「い、いえ。わかっておりますわ。ほほほ……」
『それでは、そちらの忍びの衣と共に他の装備類も確認をお願い致します』
得意の遠隔アンデッド支配で使いの騎士骸骨を通してスケレトゥスが促す。
しかし地面に並べられた数々の装備品を前に、ロサとネブラは用途がわからず固まってしまう。
「十字型の小型ナイフ、鉄の棘、竹の筒に菱の実、少し大きな鉄の棒、鎖と重しがついた鎌、まっすぐで細身の剣、鉄の爪、棘付きの指輪、小さな袋、ただの杖、棘でできた鉄の玉、指輪が四つくっついた物、笛のような物、先が二股に割れた鉄の棒……はぁ、ほとんど使い方がわかりませんわ。せいぜいナイフと剣くらいかしら」
「よくもまぁこんなに作ったっスねー。アンデッドは寝ないから物を作るのは早いらしいっスけど、それにしても多過ぎっス」
『用途は各自でお考え頂きたいところですが、いくつか簡単にご説明申し上げます。
まず十字型のナイフと鉄の棘は、手に隠し持って切ったり投げつけたりといった用途を想定しております。そのため〈手裏剣〉と名付けました。見た目通り十字手裏剣と棒手裏剣とでもお呼び下さい。
竹筒と菱の実は、まぁ何かと便利に使えそうですが、竹筒の中に菱の実を詰めてから振り抜けば簡易な投擲武器となります。
少し大きめの鉄の棒は〈苦無〉と名付けました。持ち手側の輪に紐を通して尖っている側を壁に刺せば壁登りの足がかりにもなりますし、地面を掘ったり投擲したりと用途は多彩です。
本当は全てご説明申し上げたいのですが、制作側の意図とは違う用途もあるかもしれませんので、まずはご自由にお試し下さい』
「まぁ全部聞いたところで憶え切れませんし、金属製の物が多いようですから、持ち運べる範囲で少しずつ試させて頂きますわ」
「それじゃ、うちはこの指輪にするっスかね。あとは笛と杖と棒手裏剣だけでいいっス。あまり持つと動きにくいっスし」
ネブラは指輪というジャンルだけで飛びついた。無骨な鉄製で棘が生えているが、それでも鎌や爪よりは可愛げがある。笛と杖についても同様だ。棒手裏剣は単に投げ物として便利そうだったからついでに選んだだけである。
「それでは私はー……とりあえず便利そうな手裏剣を各一つと、この小さな袋と、竹筒と桑の実、棘の玉、鎖のついた鎌にしましょうかしら。あと剣もあったほうがいいですわね」
「でも、うちら空は飛べるっスし、遠距離の攻撃手段とか魔法もあるっスし、こんなかさばる道具必要なんスか?」
「それはほら、主様のおっしゃっていた、妖魔族は表に立つ必要は無いという考えですわ」
「ふんふん?」
ネブラは全く理解していないアホ面で頷く。
「……つまり、飛んだり魔法を使ったりしているところを目撃されては、我々妖魔族の組織的活動がバレる恐れがありますの。この時代の人間族は妖魔族を侮っているようですので、わざわざ目撃されて警戒されるよりは、こうした道具に頼って人間族同士の争いに見せかけた方が、我々は動きやすくなるということですわ」
『なんと、この装備品からそこまで読みとられるとは……。流石は悪逆非道な天上族の一派、天使族といったところでしょうか。ノックス様がお側に置きたがるのも肯けますな』
「あ、主様がお側に置きたがる?! どどどどういうことですの? まさか夜のお供に……」
スケレトゥスの皮肉に顔をしかめていたロサは、ノックスの名を聞いた途端知能指数が著しく低下したように惚けてしまった。
「なんか急にバカっぽくなったっス」
『ええ、先ほどのは私の早とちりだったようでございますね』
ネブラは妄想にふけるロサを放置して、忍者装備に着替える。すると予想以上に着心地がよく、生地の肌触りもなめらかで、通気性もあり運動しやすくなっていることに気が付いた。
そして無骨に見えた指輪も、身につけてみると妙にしっくりくる。
なるほどこの棘で殴りつければ、相手を怯ませるくらいは出来そうだ。しかし殺すまでの威力は期待できない。
これからの任務では殺さず戦う必要でもあるのか、なぜこのような殺傷力の低い装備が用意されたのか、ネブラにはイマイチ理解できない。
しかしそれよりも、先ほどの会話に引っかかる部分があることに気づいてしまった。
「さっきの、人間族同士の争いに見せかけて妖魔族を隠すっての、もう遅くないっスか? ウェルテックスがやられて勇者には妖魔の存在がバレてるわけっスし」
「それはあくまで主様が指揮をとられる前の、単に強いはぐれ妖魔がいたという情報を与えたにすぎませんわ」
妄想の世界から帰ってきたロサがすまして答える。
「でも、ウェルテックスが主様の依代を探していたってのがバレてたら、主様の不在時でも妖魔族がある程度組織的に動いてたってことにならないっスか?」
「組織的ってほどでもなかったですけど、まぁ妖魔族が千年経っても主様に執着しているのはバレているかもしれませんわね。そうすると、勇者は妖魔族を打ち崩す為にまず主様を狙うでしょうね。でも、今のところは主様の居場所までバレていないはずですわよ。だから、こんなところでそんな心配をしていても仕方がないですわ」
「うーん、それもそっスね。今は勇者の情報とか少なすぎて、考えるだけ無駄っスね」
『それでは、私の役目はここまでですので、この使い魔とアンデッドは処分しておいて下さい』
「いいんですの? なかなか便利そうな使い魔ですのに」
『プールガートーリウムへ帰るところを人間族に目撃されることに比べれば、惜しくはございません』
通常、ここまで便利に使える使い魔を育て上げるのはなかなかの手間だ。アンデッドは支配魔法で操れるにしても、馬の使い魔を今回の荷物運びで使い捨てにするのはかなり勿体ない。
それをノックスの為に迷わず使い捨てるスケレトゥスの判断を聞き、その忠誠心はなかなかのものだとロサも認めざるを得ない。
『では、私はこれで失礼いたします。ご武運を』
「わかりましたわ。ご苦労様。あとは任せてくださいな」
ロサが腕を一振りすると、騎士骸骨の体に瞬く間に蔓薔薇が巻き付いていき、ひとつの薔薇のオブジェが出来上がる。そのままロサが息を吹きかけると、薔薇のオブジェはキラキラと輝く粒子になり霧散していった。
「それって天使族の使う浄化魔法っすよね? なんで薔薇が咲くんスか……綺麗っスけど」
「うふふ。綺麗でしょう? ここまで魔法を改造するのに苦労しましたのよ。でもおかげで気に入ってますの。無機質でつまらない神聖魔法では、主様の隣に侍る存在として華がありませんもの」
「花だけにっスか?」
「ぶつわよ?」
残った馬型の使い魔は、ただ大人しく自分が殺されるのを待っている。この使い魔がそこまで理解しているかは不明だが、役目がすんだ後はその場に待機するよう命じられているのかもしれない。
「なんか勿体ないっスねー。でも邪魔になるっスし、しゃーないっスか。せめてうちの腹に納めてあげるっスよ、馬ちゃん」
ネブラはそう言うと突然自身の輪郭を失い、霧のような姿になって馬型使い魔を包み込む。そしてそのまま使い魔が悲鳴を上げる暇もなく、中の様子が見えない濃霧が元のネブラの姿に集束していき、ネブラの食事は完了した。
「その食べ方、いつ見ても綺麗ですわ。人間族を食べる時もそうしてくれればいいですのに」
「それじゃ楽しくないじゃないっスか。この食べ方、あんまり味わえないっスし」
かつて霧の精霊として自然現象と同化していたネブラは、その特性上食事を必要とせず、味わうという概念もなかった。
そのため妖魔として受肉を果たしてからは食事の楽しさに目覚め、今ではすっかり雑食の大食漢である。
「ほら、ロサもさっさと着替えるっスよ。まずは近くのオウミテッラ辺りから調べるっス」
「そうですわね。この装備のテスト項目も多そうですし」
今ここに、大陸初の二人の忍者が誕生したことを、知る者は少ない。
お読みいただきありがとうございました。