10 ツンデレ堕天使、忍者装備テスターになる
忍者というワードをやっと出せました
ロサ・ルーベルは頭を抱えていた。
ノックスの命令で、かつてノックスの依代を捜索するため大陸各地へ散っていた残り二人の仲間を連れ戻しに来たのだが、そのうち一人はなんと死んでいたのだ。
「ありえないですわ……ウェルテックスはカニスやフランマと並ぶ幹部クラスの実力者ですわよ。それを殺せる存在がこの時代に、それも人間族の中にいるなんて……」
「ドラゴン族になら分かるっスけどね。ウチが集めた範囲の情報によると、どうも当代の勇者にやられた可能性が高いっスよ」
ここは人間族の統一国家クフエドゥヴァ王国の首都エーヴィヒカイト、その壁外に作られたスラム街。貧民のごろつきを喰らいながらロサに報告している少女は、ロサが探していたもう一人の仲間であるネブラ・カーリーゴだ。
「あなた、よくそんな汚らしい餌を食べられますわね。それもこんな時に、呑気なことですわ」
「ウチにとったらこんなの汚い内に入んないっスよ。死にたてホヤホヤっスし」
「はぁ……それよりどうしますの。ウェルテックスは残念ですが、それよりも上級妖魔を屠れる存在がいることが大問題ですわ。このまま帰るわけにもいかなくなりましたわね……はぁ」
「ウチも早く主様に会いたかったっス。でも、当代の勇者らしき情報を掴んだ以上は、調査するしかないっスよ。このまま放置したら、主様に危険が及ぶかもしれないっスから」
「調査って言ってもあなた、どうしますのよ。まだ変装の用意もできてないし、そもそも変装したって勇者なんかが彷徨いてる街なんて歩いてたら、すぐに見破られますわ」
「っスよねぇ」
ロサは転がってきた骨を掴み弄ぶ。早く仲間を回収してノックスの元へ帰るはずだったのに、予定が狂った上にどうにもならない状況へ追い込まれ、気分は沈むばかりだ。
こんなことでは、残っているカニスやフランマに先を越されてしまう。
ノックスの評価を得る機会は失われてしまった。
そんな考えばかりがわいてくる。
『お困りのようですね。ロサ様、それにネブラ様』
「?! っ……て、スケレトゥスじゃないの。脅かさないで頂きたいですわ」
先ほどロサが弄んでいた骨が独りでに動き出し、ネブラが食い散らかした残骸と集まり一つの骸骨が組み上がる。
欠けた頭蓋骨の下に適当な骨の寄せ集めと手足を生やしたような、奇妙な二頭身のオブジェとなったそれは、スケレトゥスの得意とする遠隔アンデッド支配である。
「おっ! 久しぶりに見たっスね、その技」
「相変わらず謎ですわね。普通こんな遠距離からアンデッド支配なんてできませんのに、それにメッセージの魔法までつけるなんて。あなた本当に何者ですの? 主様が拾ってきたんじゃなきゃ絶対信用できないですわ」
『お褒めに与り光栄でございます』
「ひと欠片も褒めてないですわ」
『実はこの魔法も制約が多く不便なものでございまして、例えば今のロサ様達の状況を打破する秘策があるのですが、それに必要な物品の転送までは出来ないのです。一旦どこかで落ち合いませんか?』
「……ツッコミ待ちですの? 物品の転送なんて簡単にされたらこの世界の終わりですわ。それよりも、なんですの? その秘策というのは」
『実はノックス様の着用を想定し製作を進めている新装備がございまして。ノックス様がお試しになる前に、どなたかにテストをして頂く必要があるのです。その結果を元に調整を施し、近々ノックス様へ献上する予定でございます』
「そのテストをウチらがやるっスか? それがこの状況を打破する秘策になるんスか?」
「主様の新装備……つまり、以前主様が仰っていた、影から人間族を調査するというのに関係のあるものですわね?」
『流石はロサ様。まさに、この装備は影に潜み行動する為に最適化された、忍ぶ為の服。〈忍びの衣〉といったところでしょうか。そしてそれを着用し、影から人間族の世を調査する者は、忍ぶ者……さしずめ忍者と呼ぶのが相応しいかと』
「忍者……なるほど。それならば主様の描く復讐劇の助けとなりそうですわね。つまり、その忍びの衣を装備してどの程度の行動ができるか、それをテストすることで主様のお役に立てる。さらにその装備で上手く隠密行動がとれれば、ウェルテックスを屠った存在の調査にも役立つ……。現状を打破する秘策、と呼ぶに相応しいですわね」
「なるほどっスね。やっぱりロサは頭いいっスねぇ。ウチはサッパリついてけねっス」
「なっ……! ほ、誉めても何もないですわよ! この程度、主様にお仕えする者として当然ですわ!」
「あー、ウチにツンデレされても反応に困るっス。そういうのは主様の前でやるっスよ」
『それでは、私が城を出るわけにもいきませんので、使いの者をそちらへ送ります。エーヴィヒカイトまでとなると人間族も多く少々時間がかかりますので、三日程で到着できるオウミテッラ付近で落ち合いましょう。ちょうど以前主様がお目覚めになられた辺りに山賊の巣があった筈ですので、そちらにしましょうか』
「わかりましたわ。私も、このまま勇者の居る可能性があるエーヴィヒカイトで待つのはごめんですわ。それにその山賊の巣でしたら把握してますわ」
「っスね。こんな街、さっさと出るっス。ウチ、さっきからスケレトゥスの魔法が勇者に察知されないか気になってしょーがないっスよ」
『これはこれは、ご心配をおかけしました。ではこのあたりで魔法は解除してしまいましょう。それでは三日後に』
スケレトゥスが言い終わると同時に、オブジェを形成していた骨は崩れ落ち、ただの残骸へと戻った。
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