08 妖魔の君、忍者装備を手に入れる
ついに忍者要素が・・・・・・!
「で、この小便垂れ流してるシスターをどうするかね」
「くさーい。鼻が曲がりそうだよ……。しかも何で耳削いだのにこんな嬉しそうな顔で気絶してるのさ。人間族ってヘンなの!」
「どうする? 主様に相談した方がいいんじゃないかい? このまま目を覚ましても、アンタを主様と勘違いさせたままじゃややこしいだろ」
「うーん、ホントは何か役に立つ情報を手に入れてから報告して誉められたかったけど……なんか予定とかなり違ってきてるし、仕方ないよね」
カニスは腰の袋から定時報告用のコウモリを取り出し、時計回りの順を無視して左足を千切る。
これはノックスに相談の必要がある際の連絡だ。
するとすぐにコウモリが震えだし、腹を食い破るようにしてノックスが現れる。しかしこれはノックスの妖気による幻影である。コウモリが霧散するまでのわずかな間のみ、この幻影を通してノックスと会話できるのだ。
「どうした、カニス。先ほどの定時報告からあまり時間が経っていないようだが、まさかもう見破られたというのか」
「主様、それがちょっと予定と違うことになっちゃって……。聖職者には会えたんだけどさ、なんか天上の存在じゃなくて主様を信仰してるみたいなんだよね……」
「……ん? すまんが、よく分からなかった。そうだ、フランマ。お前からも説明してくれ」
「カニスの言った通りさ。予定通り教会を見つけて聖職者に会ったら、いきなり跪かれて妖魔の君アエテルニタス・ノックスに喰われたいだのなんだの言い出して、カニスにやられて今は気絶してるよ」
「……わかった。よく分からない事態に陥っているということはよく分かった。急いでそちらに向かう。その聖職者を回復させ話を聞けるようにして待機していろ」
「それは助かるけどさ主様、ここは国境近くとはいえ敵地だよ。アタシが迎えに行くから城で待ってておくれよ」
「フランマずるーい! ボクが行った方が早いよ! 主様!」
「その必要はない。そろそろコウモリが消える。いいから待機していろ」
ノックスが言い終わると同時に、通信用コウモリは一度大きく震えると息絶え、霧散して消えた。
カニスは主の妖気が残っているような気がして、霧散したコウモリを逃がさぬように思いっきり息を吸い込んだ。
もちろんそれに意味はない。しかしカニスは確かにそこに主の匂いを感じ、しばらく深呼吸を止めることができなかった。
恍惚とした表情であるはずのない主の匂いを感じるカニスの傍らで、フランマは苦い表情をしてうなだれていた。
「やっぱり、今のアタシじゃ主様の護衛は任せてくれないんだね……。仕方ないさ。アタシが弱いのがいけないんだから。もっと強くならなきゃね」
カニスはフランマの独り言に気付き、知らん顔でそっとシスターの方へ移動する。かつて主を守れなかった悔しさはカニスとて同じである。それを茶化すような彼女ではなかった。
「うー、やっぱりクサい! ねーフランマ、こいつちょっと洗ってきてよー! ボクの鼻がもたないよー!」
「んー? なんだい、アタシにどうしろってんだい。水魔法なんて使えないよ? まさか川まで担いでいけっていうのかい?」
「じゃあ適当に焼けばいいじゃんさ! 下半身は焼いちゃっても死なないでしょ? たぶん!」
「それでうっかり死んだらどーすんだい。とりあえず汚れてる服だけ焼いてやるから、それで我慢しな」
フランマはシスターを足で蹴り俯せに寝させ、突き出ている尻に向かって火炎魔法を発動する。熟練の魔法操作で器用に修道服の下半分とパンツだけ蒸発させた後は、先ほどカニスが抉り取った左耳を焼いて止血する。
「あ、お肉の焼けるいい匂い……。ボクなんだかお腹がすいてきちゃったな。主様が来るまでご飯にしようよ」
「それもいいね。アタシもそういや腹が減ってきたよ。じゃあアタシが見張っとくからなんか狩ってきとくれよ。ああ、一応近くの村の人間はダメだよ」
「はーい。じゃ行ってくるね!」
卍 卍 卍
実に意味不明な通信だった。
聖職者が天上の存在ではなく俺を崇拝? 意味がわからない。そもそもこの時代の人間が俺のことを知っているのか?
とにかく直接確認したほうがよさそうだ。
幸い国境から近いし、これまでの報告で侵入方法はわかっている。
奴ら人間族は基本的に高高度の飛行を感知できないらしい。俺が目覚めた後ここまで飛んできた時も、地上から攻撃を受けるようなことはなかった。
さらに今のところ地上から人間に変装して侵入した者達からも、見破られたという報告はない。
ようは我々妖魔族が組織的に動いていることを想定していない人間族の国境警備など、ザルもいいところなのである。
であれば、一番早いのは空かな。久々に全力で飛んでみるか。体の鈍り具合も確認したいしな。
「ノックス様、どちらへ?」
「スケレトゥスか。カニス達の方で少し予想外の事態が起こっているようでな。直接行って確認してくる。留守は任せたぞ」
「それはなりませぬ。いくら人間族の警備が薄いとはいえ、主様お一人で向かわれるなど見過ごせません。どうか護衛の者を最低二人はお連れ下さい」
「急いでいるのだ。俺の全力飛行に付いてこられる者がいるのか?」
「そのような者はおりませんが……。ならば、せめてこちらをお召し下さい」
そういうとスケレトゥスは何やら変装道具のような物をごちゃごちゃと持ってきた。
「これは……、先日の商人風変装衣装ではないな。なんだこの、全身をクレ色の布で覆い隠したような服は。この頭巾など、目の部分しか露出していないではないか。
いや、そうか。これならば昼間の煩わしい日差しも気にならんかもしれんな……」
「それだけではございません。このクレ色に染め上げた質素な布質であれば、光を反射することも吸収しすぎることもなく、闇夜に紛れる際の助けとなりましょう。風を受けて音が鳴るようなことが無いように、体に密着し裾や腰は絞れるようになっております。さらにこの服の下にサラシを巻いておくことで、腹部を刺された際に臓物が飛び出るのを防ぎます。
この額の鉢金は斬撃や飛来物から頭部を守り、後頭部に垂らした錣により首も防御できます。鉢金は鉄を使用しましたが、錣の方は革製にしておりますので、さほど動きを阻害することもないでしょう。革製の手甲も用意しております」
「うーむ、たいしたものだ。しかしこの錣は邪魔だな。俺は不死族だし首の防御はいい。鉢金も無しだ。ただこの衣装は実によく出来ている。動きやすそうだし、たしかに月の出ている夜など黒よりも闇夜に紛れそうだ。これを着ていくことにする」
「ありがとうございます。では一緒にこちらもお持ち下さい」
なにやら自分の作った物を自慢したくてそわそわしているような気配を感じるな。まぁスケレトゥスが用意する物なら持っていて損はないだろう。
「これは……ナイフか? 十字型とは変わっているな。それにこちらは竹筒と菱の実か。何かの棘のような金属棒もあるな。こっちの少し大きめの金属棒には輪がついている」
「十字型のナイフは十字手裏剣、棘のような金属棒は四角棒手裏剣と名付けました。それぞれ投擲したりナイフのように使用したり、用途は自由でございます。
少し大きな金属棒は苦無と名付けました。こちらは地面を掘ったり、壁に刺し輪に紐を通して登るような使い方を想定しています。
菱の実は竹筒に入れて持ち歩き、敵の顔に向け竹筒を振るうことで中の菱の実が飛び出し投擲武器となります」
「うー……む……。たしかによく考えられているが」
魔法でよくないか?
いや、魔法を使うまでもなく、そもそも多少の距離は問題なく切り裂く《空間斬》や飛行もあるしな……
いや、まてよ。
「なるほど。妖魔族であることを隠し人間族の仕業と思わせる必要がある場面などには使えるかもしれんな。なにしろ妖魔族の痕跡は極力残さず行動する予定だしな」
「流石はノックス様。まさにそのように考え、このスケレトゥス年甲斐もなく張り切らせていただきました」
「うむ。これらの実験も兼ねて、今回の装備に入れておこう。それでは、行ってくるぞ」
とりあえずかさばるので少しずつにしとくか。
金属製の奴は結構重量感あるな。
「はっ。くれぐれもお気をつけて、行ってらっしゃいませ」
さーて、久々の全力飛行だ。どれくらいで着けるかな。
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