エピローグ 1つの未来の終わりの形。
語り終えた暖の胸ぐらを掴み、一真が暖を持ち上げていた。
「つまり…てめぇは最初から意識があったってことでよろしいか?」
口元をひきつらせ、額にうっすら青筋を浮かべながら、一真は低い声で言った。
「違うから!オレは、『不安にさせたよな』からしか…」
「随分と早い段階で目覚めたもんだなぁ、おい」
暖の弁解に、一真はしぶしぶ暖を床に下ろし…
「…"エアロ"」
「あだっ!」
暖の後頭部に空気の弾をぶつけ、一真は皆に向き直る。
「それから、地上に戻って正義たちと合流…ラバラドルが居なかったけど、リエルが魔界に連れて帰ったと予想して、スルーした」
「…えぇ、私が連れて帰ったわ。あの拘束魔法、解くの大変だったんだからね」
腕組みをしながら、リエルは目を細め、一真を睨む。
「んなこと言ったって、手を抜く理由が無いだろ?あの時は完全に敵だったんだ」
「…まぁね」
ため息混じりに納得し、リエルは室内に視線を向ける。
「あの頃は…こんな事になるなんて思っても見なかったわ」
リエルの言葉に、全員が頷く。
「世界を舞台に頑張りすぎじゃないか?オレたち」
「まぁ、何人かはそうだな」
正義に答え、一真は机に腰掛ける。
「改めて言うぞ?ヴェルミンティア、アルケファイラ、ラ・フィリノーラに行って、それぞれの世界で退魔を行い、そして退魔の術を伝える…それが今回の任務だ」
『了解!』
全員が一真に敬礼する。背筋を伸ばし、真面目な顔で一真を見つめるメンバーは、高校時代のほんわかした雰囲気は微塵も無く…10年の月日を切実に感じさせる物だった。
「…頼むぞ、皆…」
一真の瞳も、真眼無しにも、先を見据える物に変化していた。
26歳という若さ…
全てを見据える瞳を持って、10年…世界を見て来た彼は…26にして、年齢不相応な知識量…経験量を持っていた。
だからこそ、彼は知っていた。
これから起こる事件を…
だからこそ手を打つことが出来た…
表向きは、MBSFとしての異動…
そしてそれは、カモフラージュに他ならない。
一真は知っていた。
いや…気付いた。
全ての事件の黒幕が誰か…その目的は何か…
そして、これから何をするか…
「…では、本日は解散。明後日、文書にて通達する」
『了解!』
「…じゃ、またな」
シリアスな雰囲気を崩し、一真は仲間たちに微笑んだ。
「…一真、どうしたの?」
2人きりになった元帥の間で、梨紅が言った。
「…何が?」
「急に皆の顔が見たくなったとか?」
「まさか…」
「じゃあ、これから先、何かあるんだ」
ここ最近の梨紅の察しの良さに、一真はため息を吐きたくなる。
「また1人で抱え込む…なんで?いい加減、怒るよ?」
「…近々、皆がバラバラになる」
唐突に、一真が言った。
「お前、"魔女狩り"って知ってるか?」
「え…うん、言葉だけは」
「あれが始まると思え…それ以外は言いたくない」
言い終わると同時に、一真は梨紅を抱き締める。
「…お前はオレが"取り戻す"」
「え…」
一真の言葉を、梨紅は理解出来なかった。
だけどきっと、心の底では理解したのだろう…
「…あの時からずっと、私は一真を信じてるよ」
あの時、一真は宇宙で誓った…必ず戻る…その誓いは10年、破られていない。
「…不安もあるよ?言ってくれないから…けど、信じる…」
「…やっぱ、強いよ…梨紅は」
一真は強く、梨紅を抱き締める。離したくない…しかし、離れることになる大切な者を。
10年の月日が人を変える。
変わらない物もある。
変えたい物…
変えたく無かった物…
それに関わらず、時を刻むごとに、全ては変わって行く…
運命すら打ち壊す力を持つ2人…
その先に見るものは、幸か、不幸か…
そして、始まる…
天地創造計画-アマテラス-が…




