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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第七章 魔族襲来 後編
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6.神の居ない世界。


「…"ファルクス・神皇・フィノ=セイルラ-無限と虚無の果て-"!」


瞬間、暖の身体が光り輝いた。


暖の放つ光から、金色の、巨大な、神々しい鳥が現れる。一真の魔法とは、全てが違っていた。


「…暖君って、何者なの?」


「わからない…真眼では"普通の人間"としか出ないんだけど…」


言いながら、一真は目を細める。


「…だけど、もしかしたら…"異常と異常が相殺した上での普通"なのかも」


「…どういう意味?」


「…ちょっと待ってろ、今からオレらがやることが良い例だから」


一真は梨紅にそう言って、魔法陣に魔力が貯まるのを待つ。


一方、暖の放つファルクスは、キメラからの攻撃を全て防いでいた。


まるで、キメラの攻撃が全て、ファルクスに吸収されているようだ。


だが、一番異質な点は、ファルクスが魔法陣に吸い込まれない点だろう。


暖が何者なのか…一真の真眼でもわからないそれは…


この世の、全ての謎のどれよりも、難解な物で…


下手をすれば、世の理をぶち壊す物であるのだが…


一真はそれに気付けない。


それゆえ一真は、苦悩する。だがそれは、まだ先の話…




「…そろそろだ」


そう呟き、一真は右手から、紅蓮・華颶夜姫を取り出す。


「…"蒼姫・華颶夜"!」


一真に習い、梨紅も蒼姫・華颶夜を取り出した。


「…もしかして、"槍魔刃"?」


「あぁ…あれが1番、威力が高いからな」


言いながら、一真は左手を自分の額に押し付ける。


「…"ドラグレア"」


一真が呼ぶと、一真の左手が蒼い炎を纏う。


それを見た梨紅も、右手で自分の額に手を押し付け…


「…"リラケルプ"」


同時に、梨紅の右手が水に包まれる。


「梨紅、ここからは"シンクロ"で…」


「"フル"?」


「槍魔刃に繋げるから左右対称で…久々だけど、出来るか?」


「もちろん!」


一真と梨紅は、目を閉じる。


『…炎と水、相反せし元素…魔力と退魔力…相反せし力』


言って、2人は目を見開く。炎と水を纏ったそれぞれの手を、剣にかざす。


『相反は表裏…最も遠く、最も近き物』


2人の手から、炎と水が剣に移る。


それぞれの華颶夜が炎と水に包まれる中、2人は同時に剣を振り上げ、交える。


すると、剣の炎と水が飛び散り、形の変化した剣が姿を現した。全く同じ形をした、2本の剣…


『"ドラグ・リルアーク・デリス=キャバル-聖魔の隔たりを断つ双刃-"』


名を呼ばれた剣は、太陽のように激しく、輝き出す。


それを合図に、一真と梨紅は左右対称にリルアークを構える。


同時に、魔法陣への力の供給が終わった。その力は直ぐ様、膨大な退魔力に変換される。


『…暖!ファルクスを退避!』


2人が叫び、暖は咄嗟に、ファルクスを急上昇させる。


『"双月連携"!』


剣に込められた力を、2人が解き放つ…左右対称に回転した後、一真は右上に、梨紅は左上に、全力で振り抜いた。



『"真・槍魔刃"!!!』



聖剣リルアークと、魔剣リルアーク…2本の剣から放たれた三日月型の刃は、1つの槍になり、魔法陣に吸い込まれた。


「…聖なる魔を引金に」


「…聖なる魔を放つ」


剣を振り抜いた余韻の中で、一真と梨紅が言う。魔法陣の脈動は凄まじく、まるで衝撃波のように、辺りに広がっていく。




『"アーク・キャバリアー・ノア-世界を導く咆哮-"!』




轟音は無かった。ただただ、強烈な光がキメラに向かって放たれた。


ヴェルミンティアで放った、麻美の魔法を引金にしたディバイン・クロス・ブレイカー…一真と梨紅のアーク・キャバリアー・ノアは、全てにおいてその上を行く物だった。


「…なんだこれ」


自分の頭上を越えて行く光線を見て、暖は唖然とした様子で言った。


暖は恐らく、MBSFメンバーの誰よりも多く、2人の力を見て来たはずだ。


だが、今回のこれは過去に例が無い。それほどの威力だった。


「人間が使える"ヴィルフェイラ-雫-"の限界を越えている…エリル様とナイトメアのヴィルフェイラが円熟したのか?」


「いや、円熟の期はまだ先のはず…加速する要因が無いよ」


「けど、ナイト君の"ヘイムルギアン-転生体-"である彼は異世界帰りだよ?しかも、ナイト君のヴィルフェイラをあまり感じられないし…」


「…あれ?オレ、何を…」


暖は頭を抱え、顔を伏せる。全て、暖の口から出た言葉だった。


「…なんだよ、怖いじゃんかよ…どうしたんだよ、オレ…」


暖の目から、涙が流れる。だが、それすらも異常だった。




暖の涙は、虹色だったのだ。




「…この子もまだ、覚醒には早いみたいだ…心が壊れちゃうよ」


「我々のヘイムルギアンは、貧弱で困るな」


「仕方ないだろう。彼はただの人間…無理があるのは承知の上だ」


「…けど、まだ壊れられちゃ困るよ?何の為にこんな無理をしてると思ってるのさ」


「そうだな…我々は"サンクチュアリ-聖域-"を取り戻さねばならん」


「まだ"復讐"を成し遂げてはいない…ナイトメアのヘイムルギアンが真に覚醒するまでは」


「あんまり出て来ないようにしなきゃね…"虚無"も"無限"も、出たがりだから」


「それをお前が言うのか?"笑与"、彼に一番影響を及ぼしているのはお前だろう」


「仕方ないじゃん、力が有り余ってるんだから…まぁ、今まで通りで良いんじゃない?虚無、この子の記憶、ちょっと消しちゃってよ」


「世話がやけるな…我々のヘイムルギアンは」




それ以降、暖の口から"3人"の声は聞こえて来なくなった。ファルクスも消え、暖の意識は、記憶と共に途切れていた。


だが、一連の流れを一真も梨紅も見聞きしておらず…この会話のことを知る者は、誰も居ない…



アーク・キャバリアー・ノアは、真っ直ぐにキメラに向かって行く。


キメラも、光線や弾丸で応戦するが…無駄の一言だ。逆に吸収され、威力が上がるだけだった。


程無くして、アーク・キャバリアー・ノアはキメラに達した。直撃したと言うよりも、突き抜けた…すり抜けたようにも見える。


接触から貫通までの、タイムラグが無いのだ。まるで、元々空いていた穴をすり抜けたようだ。


キメラが光線に触れると同時に、触れた部分が分解されるのだ。


だが、貫通しても光線は止まらない…地上から見ると極太の流れ星に見えるそれは、長い時間をかけ、キメラの全てを…魔界との繋がりまでも、粉砕した。






「…終わったか」


「…うん、終わったね」


バイクの荷台に横になり、一真と梨紅は宇宙を見上げていた。


暖の意識が無いことを確認した2人は、暖の脈拍と呼吸だけ確認し、休ませてやることにしたのだ。


しばしの休息…無言のままの、時間が過ぎる…


「…不安にさせたよな」


唐突に、一真が言った。


「ちょっとだけ…でも、信じるって決めたから…」


梨紅は直ぐにそう答える。すると、一真の右手が梨紅の左手を握った。


「強くなったよな…梨紅」


「何言ってんの、一真に比べたら全然…」


「いや…心の話」


言いながら、2人は手をしっかりと握り合う。


「必ず帰るって言ったけど…帰り方なんかわからなかった。帰れるかもわからない中、魔法が使えなくなったり、正体もわからない奴らと戦ったり、世界を救うとか、そんな話に巻き込まれたり…」


話す一真の表情は、苦笑い…特大のため息でも吐きそうな印象だ。


「ずっと皆に…梨紅に会いたくて仕方なかった」


「…一真っ」


梨紅は一真の名を呟き、一真に抱き着いた。


一真はそれに応えるように、梨紅を抱き締める。


『…ずっと、こうしたかった』


互いの温もりを感じながら…2人は目を閉じる。


大切な人と一緒に居ることが出来ること…幸せを、噛み締める。


「…星の数と、どっちが多いかはわからない…無数にある、他の世界…」


「…うん」


「これから先、オレはまた…他の世界に行くことがあるかもしれない」


「…うん」


「けど、必ず戻る…約束する」


ただただ頷く梨紅を、一真は更に抱き締める。


「…信じるよ」


梨紅が呟く。更に強く、一真に抱き着きながら…


「だって…一真、帰って来てくれたもん」


瞬間…梨紅はふっ…と力を抜き、一真の腕から身を抜き、自分の顔を、一真の顔に近づける。


その顔を見た一真は、思わず…


(…梨紅の顔、リラケルプと全然違うじゃねぇか)


苦笑した。


「なんでここで笑うの!?」


「いや、ごめん…」


謝りながら、一真は梨紅の怒り顔をまじまじと見つめる。


目を…鼻を…口を…


髪を…耳を…頬を…


リラケルプ・ジオ・アロア=ウェンド-一真の作った幻想-とは違う…


「…ただいま、梨紅」


一真の…1番愛しい人が、そこに居る。


梨紅は一瞬、呆けた顔をしたが…


「…おかえり、一真」


満面の笑みで、一真を迎えた。


そして、どちらからともなく…



























「…なるほど、ファイル"サンクチュアリ-聖域-"…天界の謎の中心か…」


貴ノ葉高校、生徒会室…生徒会長の水無月恵は、天界のネットワークの深淵に居た。


「天界…天国…聖なる地と名高い場所に、おおっぴらに出来ない謎がこんなに…」


そのファイルの中は、凄まじい量のデータが入っていた。


その全てが、天地創造計画-アマテラス-関連だ。


そして…


「一番の秘密…か…まさか、この世界が神様の"居ない"世界なんてね」


恵はそう呟き、ため息を吐きながら…


パソコンの電源を切った。



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