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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第七章 魔族襲来 後編
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5.殲虹、凱旋。




降り注ぐ光…巨大な光の壁にも見える。


轟くはずの音は聞こえない…梨紅たち8人の、走馬灯のように人生を振り返るスローモーションな時間をぶち壊し、それは…遥か天空から降って来た。


光の壁は卵からの光線を防いだ後、弾けるように消えた。そして…


『な…』


光の壁が消えると、そこには1人の男が立っていた。


前髪に緋髪が混じった、黒髪短髪…


「待たせたな」


久城一真が、そこにいた。



金色と緋色の装飾が施された白いコート…胸元には、真眼の紋章。


一真はキメラを見据え、仁王立ちしていた。


「…一真?」


「"その身に宿す、碧螺の風"」


梨紅が一真の名を呟く中、一真は右手を真横に伸ばし、詠唱を始める。


"全てを切り裂くその刃…


研ぎ澄まされしその身にて…


愚かなる彼の者の罪を…


断ち切れ、碧螺の名の元に…


我に仇なす者を切り裂け"


詠唱の終了と共に、一真の右手が黄緑色に輝く。


それとほぼ同時に、キメラの銃口から光線が放たれた。先程の光線よりも、充填時間は少ない…


「"アヴィスラ・ザン・クード=ティラル"!」


一真は一度、右手を下げる。そして、振り上げた。


光線は真っ二つになり、一真たちの両脇の地面を抉る。


「…ぎゃっ!」


それによって飛んできた破片が、暖の後頭部を捉える。暖はその場に崩れ落ちるが、誰も暖を気にかけない…いや、かけられない。


「…この、理不尽と言うか、圧倒的な感じ」


「あぁ、間違い無いな…」


勇気と正義の頬が緩む。


「カズ君…」


「カズ…」


恋華と愛は、名前を呟くことしか出来ない。突然のことに、思考が追いつかないのだ。


「…なんだか、謀ったようなタイミングね」


「…けど、助かった」


沙織と豊が言うと、アヴィスラを消しながら、一真が振り返る。


「謀ってねぇよ、マジでギリギリだからな?」


そう言って、一真は苦笑する。一真は全員を見回し、梨紅を探すが…


「…暖!?」


倒れる暖を先に見つけ、思わず駆け寄る。


「大丈夫か、暖!あの卵っぽいのにやられたのか!」


「お前だよ!」


一真の言葉に、暖が復活する。


「なんだ、オレか…なら仕方ないな」


「謝罪は!?一言何か無いのか!」


「ねぇよ、避けないお前が悪い」


「あんた相変わらず理不尽ですね!」


懐かしいやり取りに、その場が和む。一真の帰還が、実感出来た。だが…


「…"聖魔の名の元に、我に仇なす者を撃ち抜け…ディバイン=ブレイカー"!」


突然、一真が右手を卵に向ける。瞬時に魔法陣が生成され、ブレイカーが放たれる。談笑している間に、卵から弾丸と光線が放たれていたのだ。


一真のブレイカーは弾丸と光線を消し去り、卵を直撃した。


「浅かったか…」


『いやいや、十分強いから』


一真の呟きに、声を揃える一同…だが、その中に梨紅の声は無い。


一真はそこで、ようやく梨紅に視線を向ける。


「梨紅…」


一真が呼ぶが、梨紅は無反応だ。


(…一真が、帰って来た)


声には出ない…心の声。一真へテレパシーを出すわけでもない。心の整理…


(待ってた…もう待てないと思った)


(帰って来てくれた…約束、守ってくれた)


(一真…一真…)


「…一真…」


梨紅が、一真の名を呟く。すると、梨紅の身体が蒼く輝き始めた。


聖核の覚醒…全ての封印が、今…解き放たれた。


「…遅かったじゃん」


「あぁ…ごめんな」


梨紅の言葉に一真は微笑み、言いながら…梨紅を抱き締めた。


それに、梨紅も応える。一真に抱き着き、胸に顔を埋める。


ようやく再会出来た2人…その様子に、仲間たちは微笑み、涙する。


だが…暖かな雰囲気の中、卵から再び、光線が放たれた。


「…"アース・ブレイカー"!」


『"セレスティアル・ブレイム"!』


茶色の光線と、金色の雷…空色の光線が、恋華、勇気、正義の手から放たれる。


それらは3つに合わさり、卵からの光線を消し去り、卵に直撃した。


「…ちょっと、空気読んでよ」


「今、いいとこなんだよ」


「次に動いたら跡形もなく消されると思え」


「お前ら元気じゃねぇか…」


卵を見据える3人に、顔をしかめながら暖が言った。


「梨紅…借りてた魔力、返すよ」


「…うん」


抱き締め合う2人は、回りを気にすることなく、口づけを交わす。


短いキス…それは、合図。


全てがあるべき姿に戻った。2人の心の繋がりも…


(…行くか)


(うん…)


どちらからともなく離れ、2人は卵を見据えた。



「…はぁ」


一真はため息を吐き、気だるげに首を回す。


「…一真、やる気あるの?」


「ぼちぼち…てか、改めて考えると、帰って来て早々だよな…」


言いながら、一真は辺りを見渡す。その目には、真眼が発現していた。


「全員、余力はそこそこあるな…梨紅の退魔力はありえない量になってるし…」


一真は呟きながら、ビルの屋上に立っているラバラドル達にも視線を向ける。


「…仕方ねぇな、めんどくせぇ」


「ちょっと、めんどくせぇって…」


梨紅が顔をしかめる中、一真は目を瞑る。そして…


「…"紅蓮化"!」


一真の髪が、緋色に染まる。更に…


「ふんっ!」


気合いと共に、一真は魔力を体外に放出する。


魔力は一真を中心に拡がって行き、瞬く間に辺りを充たす。大量の魔力を放出したせいか、一真の髪は前髪のみ緋色の状態に戻っていた。


「…そんなに魔力出して、何してんの?」


「見てればわかる」


梨紅にそう答え、一真は腕を振るう。


「"フェイズ・ジャンプ"」


突如、空間に歪みが現れ、一真はその中に腕を突っ込む。そして、何かを掴んで引き抜いた。


「よぉ、久しぶりだなクソガキ」


一真はそう言って、自分が掴んでいる少年…ラバラドルを見下ろす。


一方、ラバラドルは何が起こったのかもわからない様子で呆然としていた。


「"捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ、デリス=キャプル"」


一真の右肩から、黒い帯が放たれ、ラバラドルを捕縛する。


「はい、黒幕確保」


「…そっか、フェイズ・ジャンプで捕まえる為に魔力を…」


梨紅が、納得したように呟く。


「それだけじゃないけどな」


言うと同時に、一真はラバラドルを地面に下ろす。


「オレの魔力がある範囲…退魔力と魔力の入れ替えとか、星に満ちた魔力とか…あー説明が面倒だ」


頭を掻きながら、一真は卵を見上げる。


「…まぁ、ちょっとした無敵状態だな」

言って、一真は右手を振り上げた。


「"リラケルプ"…"アヴィスラ"…"ベルデュラ"…"ザヴォルガ"…"メリフィア"…"スタンベル"…"ファローネ"…"ファルクス"…"ドラグレア"」


一真が呼ぶ度に、9つの鍵が一真の上に現れる。


一真が放出した魔力が、魔法を形作る。


だがそれは、あくまでプログラム…すぐに縮小し、小さな魔法陣へと姿を変えた。


「1回だけ単発だけど…お前らの力、ちょっと借りるぞ」


言って、一真は腕を降り下ろす。


すると、小さな魔法陣は梨紅たちに降り注ぐ。


それぞれが呼応する者の額に張り付き、淡い輝きを放つ。


「…何これ?」


「簡単に言うと、ここぞって時に発動コマンドを叫べば使える、強力な魔法」


一真は言いながら、深呼吸…大気の魔力を取り込む。


「…やっぱ、ヴェルミンティアでの回復量に比べると遅いな」


回復を進めながら、一真は再びラバラドルを持ち上げる。


「さて、黒幕…ありゃ何だ?」


「キメレイオ・ザンデスベルガだ!」


「合成魔物か…どんだけ合わせやがった」


「忘れた!」


ラバラドルが胸を張る中、一真は額に青筋を浮かべる。


「…そういえばあの卵、なんであんなに魔力が詰まってるのかな?」


「…それは、大量の魔物が合わさっているからだろう」


「ううん、いくらなんでも多すぎるよ」


恋華と正義のやり取りに、一真たちが視線を向ける。


「感覚なんだけどね…弾丸1発が魔物500体、ビームは1発2000~4000体の魔物と同じぐらいの印象が…」


「…感覚か…」


全員が同時に、卵を見上げる。


「もしも、それが正しいとして…何万体の魔物が合わさってんだよ」


勇気が顔をしかめ、ラバラドルに視線を移す。


「…てか、魔力が一向に減ってねぇんだよ、あれ」


一真が言った。その目には真眼…


「減っても瞬時に回復…あんな速さで回復自体バケモノかって感じだけど…」


ラバラドルを自分の目線まで持ち上げ、顔をしかめながら、一真は続ける。


「合成された魔物の数はそんなに多くない…問題は、あの"魔力回復速度"と、その"供給源"…」


「じゃあ、魔力の供給源は何なの?」


「大量の純粋な魔力が、ありえない密度で存在する世界」


梨紅の疑問に一真はそう答える。それをヒントに、梨紅たちが答えを考える。そして…


『…魔界?』


「だと思うぜ…な?クソガキ」


「…ちっ」


一真に持ち上げられながら、ラバラドルは舌打ちする。


キメラの体内は、魔界に繋がっていたのだ。




「それって、実質…無限に魔力があるってことじゃない?」


梨紅の言葉に、一真が頷く。


「まったく、面倒なもん作ってくれたもんだよ」


言って、一真はラバラドルに顔をしかめて見せる。


だが、ラバラドルは不服そうに一真を睨み付けた。


「俺様は知らん」


「ここに来てしらばっくれんのか?」


「違う!俺様が作ったザンデスベルガは、既にこやつらに倒されたわ!」


ラバラドルの言葉に、全員が沈黙する。


「俺様が作ったのは人型だ…あんな形態は知らん!あんなカッコ悪いの、俺様のザンデスベルガでは無いわ!」


ラバラドルの主張を聞いた一真は、ラバラドルを地面に下ろし、自らも屈み、ラバラドルと正面に向き合う。


「…1つ、教えてくれ…お前、あれを作ろうと思ったのは自分からか?」


「どういう意味だ?」


「誰かに何か言われて、作ったんじゃないか?」


「別に…夢で見ただけだ」


『夢?』


ラバラドルの言葉に、全員が首を傾げる。


「あぁ…夢の中で教わったんだ、魔物の混ぜ方と、魔界との繋げ方」


「誰に?」


「知らん…覚えてない」


その返答を聞き、一真は立ち上がる。


「なるほどな…」


言って、一真はキメラから変化した卵を見上げる。


「黒幕は他に居たか」


「…何?」


「利用されたんだよ、お前」


首を傾げるラバラドルに、一真は言った。


「復讐を夢見るお前に、文字通り…夢を見せたって所か…」


一真の言葉に、ラバラドルは唖然とする。


「さて…どうするかな」


一真は目を細め、卵を…"魔力を溜め続けている"卵を見据える。


「"クロス・ブレイカー"なら…だけど、ヴェルミンティアじゃねぇから耐えられないだろうし…」


一真が呟く中、卵から魔力充填の気配が消える。


「一真!」


「…いや、攻撃じゃなさそうだぞ」


慌てる梨紅に言って、一真は怪訝そうな顔で卵を見る。


すると、卵は2つの銃口を真下に向け、更に形状を変化させる。


それはまるで、ロケットのエンジンのような…


「…逃げる気か?」


正義が呟く。同時に、卵が魔力を噴出し、空へ向かい始めた。


「おい一真、逃がしちゃ不味いんじゃないか?」


「個人的には、場所によるな」


勇気の問いにそう答え、一真は再びラバラドルを見る。


「お前、あいつにどんな命令したんだ?」


「…俺様は、人間界を滅ぼすように設定した。手始めは、この周辺とした上でな」


「へぇ…」


気の無い返事を返しながら、一真はキメラが飛んでいく様子を見上げ続ける。


「…命令上、逃げは無い…少しでも考える頭があるとしたら、行き先はオレらが行けない所だな」


「…それ、宇宙のこと言ってる?」


「ピンポーン」


愛の疑問に、一真は正解であることを伝える。


「ど…どうするの!?宇宙なんて行けないよ!」


慌てた様子の恋華。それに同調するように、その場の空気が何処か不穏になる。


「…正義」


「何だ?」


一真に自分の名を呼ばれ、正義は首を傾げる。そして…


「オレを、宇宙まで飛ばしてくれ」


一真の言葉に、正義が更に…他のメンバーも、首を傾げる。


「…いや、俺には出来そうに無いが…仮に、出来たらどうするんだ?」


「オレが倒して来る」


さも当然のことのように、一真は言った。


「…宇宙だよ?真空だよ?寒いよ暗いよ孤独だよ?」


「大丈夫だよ、ライフェクトあるから宇宙でも生きてられる」


ライフェクトが何だかわからないが、一真が大丈夫って言うなら大丈夫だろう…


そんな認識の元、正義たちは納得した。だが…


「私も行く!」


挙手しながら、梨紅が言った。


「…マジで言ってんのか?」


「マジで言ってるよ!」


「じゃあ、誰かオレらを宇宙まで飛ばせる奴、挙手」


梨紅の同行を許可した上で、一真が言った。すると…


「はいっ」


暖が挙手した。


「…次に茶化したらぶっ飛ば…」


「マジだよ!茶化してなんかねぇって!」


「いやいや、意味わかんねぇから」


一真が苦笑する中、暖が胸を張る。


「オレ、少し前に大気圏手前まで行って来たんだぜ!」


「へぇ…誰に蹴っ飛ばしてもらったんだ?」


「ギャグじゃねぇよ!事実だよ!信じてくれよ!」


「無理だ!」


「一蹴しやがったよこいつ!」


そこから、暖の必死の解説が始まる。


勇気のバイクに飛行能力があること…


そのバイクで沙織と共に大気圏手前まで行き、戻って来たこと…


それらを伝えた上で、一真の反応は…


「…不安要素しかねぇな」


果てしなく微妙だった。


「って言うか暖君、バイク無いじゃん」


「…え?」


梨紅の言葉に、暖は首を傾げる。


「さっき、勇気君のバイクで私たちを助けてくれたから…バイクどっか行っちゃったし」


「マジで!?借り物のバイクで何やってんのオレ!」


暖は叫び、絶望の表情で、ゆっくりと勇気に視線を向ける。しかし、


「…まぁ、仲間の為だ…バイクの1台ぐらいどうってことない」


勇気はそう言って、暖から一真に視線を移す。


「確かに、オレのバイクなら宇宙まで行ける…運転手はオレか暖の2択だ、お前が選べ」


勇気に言われ、一真は思案顔だ。だがそれも、数瞬のことだった。


「…暖で行く」


その決定に、梨紅たちは唖然とする。


『…理由は?』


「経験かな…大気圏手前まで行って、ちゃんと戻って来た経験」


不安そうな梨紅たちにそう言って、一真は暖に歩み寄る。


「頼むぜ、暖」


「うわ、オレもう泣きそう…」


未だかつて、暖がこれほどまでに頼られたことがあっただろうか…


「決死の覚悟で挑ませていただきます!」


「…今回は茶化さないぜ?マジで頼む」


「おぉぉぉぉぉぉ!」


遂に泣き出した暖を他所に、一真は仲間たちを振り返る。


「勇気、バイクを…」


「…はぁ、仕方ねぇ…わかったよ」


勇気は諦めたようにため息を吐き、バイクの準備に取り掛かった。










「…何だこれ」


用意されたバイクを見て、暖が顔をしかめる。


運転席の後ろに、一真と梨紅が乗る荷台…ここまではいい。しかし…


「明らかに、全員乗って行く仕様だよな?」


一真たちの荷台に更に、6人分の荷台がセットされていた。


「うっさいわね…皆、心配なのよ」


「大丈夫、皆でバイクのサポートするよ!」


「…振り落とされなきゃ良いけど…」


愛と恋華の言葉に、暖は呟く。


…その時だ。


「一真!上!」


豊の叫びに、一真が真上に手を上げる。


…そこには、黒い弾丸が迫っていた。


「詠唱略、"シャウ・ラ・ファム=ブルーラ"!」


一真の手の平から巨大な魔法陣が現れ、そこから蒼炎の竜の口が飛び出した。


それは弾丸を噛み砕き、飲み込む…更に、食べた弾丸を力に変えて、白焔を纏う咆哮を放ち、後続の弾丸を破壊した。


「仕掛けて来たってことは、宇宙に達したってことだな…」


「一真、早くバイクに乗れ!」


早々とバイクにまたがり、ヘルメットは着けずにゴーグルだけを着け、暖が言った。


「そのゴーグル、自前か?」


「あぁ、バイク買った時の為に…って!良いから早く乗れよ!」


暖の言葉に従い、一真は荷台に立ち、手すりを掴む。


「オレたちも準備OKだ」


「よし…行くぜ!」


9人全員を乗せたバイクに、暖がエンジンをかける。


「浮上機能、ON!」


「重力補正、完了!」


「風力補助、問題無い」


「霊結界内、進路オールグリーン」


「荷台の止め金、判子による補強、OK!」


「退魔力と好奇心、OK!」


「トラウマ、胸いっぱい…」


大気圏手前のトラウマを胸に項垂れる沙織を他所に、それぞれがそれぞれの持ち場を点検し、準備は整った。後は、最後の仕上げだ。


「"クロス・ライフェクト"、フルパワー!」


一真が言うと、一真が着ていたライフェクトが拡がり、膜のようにメンバーを包み込む。


「よっしゃあ!天界製電動二輪車、ディバイン・ブレイカー発進!」


そう叫び、暖は全力でアクセルを捻る。


「オレのバイクに何勝手に名前つけてんだぁぁぁぁぁ!」


「しかもそれ、オレの魔法の名前じゃねぇかぁぁぁぁぁ!」


「うるせぇ!船長はオレだぁぁぁぁぁ!」


2人の文句に同調するように、可笑しなノリで叫ぶ暖。その背後では、目の前にそびえ立つビルに視線を向け、一真が軽い焦りを覚えていた。


「おい暖!突っ込む気か!?」


「オレがどうする気かだと?沙織ちゃんに聞いてみなぁ!」


更に可笑しなモードに入った暖を見切り、一真は背後を振り返り、沙織を見るが…


「駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目…無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理…」


首を左右に高速で振りつつ、虚ろな目でブツブツと呟きながら、沙織は泣いていた。


「…駄目だ暖!トリップしてるよ山中!今にも何か召喚しそうだ!」


「行こう、おばさん!父さんの行った道だ!父さんは帰って来たよ!」


「お前はお前で早急に現実に戻って…いや!やっぱ戻って来るな!えっと…ヒロインを取り戻しに行く場面まで、時間を遡れ!」


一真はそう叫び、暖の頭を軽く殴る。


「う…あ…あ…」


テンションを上げすぎてオーバーヒート寸前の暖は、ビルに突っ込む直前で車体を垂直に立て、急ブレーキ…すると、



「駄目…もう駄目…来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る…」


沙織の言動の変化に、一真はその瞬間が間近であることを悟った。


「…行くぜ?一真」


不意に、暖が現実に戻って来る。一真はそれに軽い驚きを覚えたが、直ぐに不敵に笑い、暖の右肩に手を置いた。


「…あぁ、ぶっ飛んで行こう」


一真の返答に、暖は不敵に笑う。


一真と暖は同時に、息を深く吸い込む。


暖が車体を垂直に立て、急ブレーキをかけてから数秒間…完全に停止するまでの数秒間、息を深く吸い込む。


そして…バイクは垂直に立ったまま、一瞬だけ静止し…


『上がれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


一真と暖の叫びと共に、バイクは遥か天空へ向かって走り出した。






上昇するバイク…恋華の能力で、なんとか全員がバイクに掴まっていられた。


「…恋華が居なかったら、最初の急上昇で全員…振り落とされてたんじゃないか?」


「かもな」


正義の言葉に、一真が答える。


「けど、問題はここからだ…宇宙からの攻撃を防ぎつつ、近づく必要があるんだからな」


「その為のこれ…なんだろ?」


勇気は、自分の額の紋章を指さしながら言った。それに、一真は頷く。


「あぁ、結果的にはそうだな…本当は、全員で一気に叩き潰すつもりだったんだけどな」


「…どうでも良いけど、前方に複数の魔力を確認…攻撃来たよ」


レーダー担当の豊が、落ち着いた様子で言った。


「来たか…詠唱略、"シャウ・ラ…"」


「待て、一真」


魔法を使う体制に入っていた一真を、正義が静止する。


「何?」


「オレがやる。お前は…お前と今城は、力を温存しておけ」


言って、正義は自分の額に手の平を押し当てる。


「風の大剣か…オレに打ってつけの魔法だな」


正義は珍しく、ニヤリッと笑い、目を瞑る。そして…


「…"アヴィスラ・斬・クード=ティラル-疾風王の双小刀-"」


正義が目を見開くと、額の紋章が黄緑色に激しく輝き始めた。


正義は額から手を放し、両手を左右に広げる。すると、バイクの左右に魔法陣が…正義の額にある物と同じ魔法陣が現れた。


2つの魔法陣からそれぞれ、金色の装飾が施された黄緑色の大剣が姿を現す。


「すげぇアレンジ…オレの魔法と全然違ぇ…正義、調子どうよ?」


「…まるで自分の身体みたいだ、手によく馴染んでる…」


言って、正義は軽く右手を振ってみる。すると、それに合わせて右側のアヴィスラが動いた。


正義の右手の動きに合わせ、魔力の弾丸を切り裂いたのだ。


「ふむ…異様にしっくり来るな」


「まぁ、元々が正義のイメージで作ったからな」


一真は言うが、正義とアヴィスラの同調は、一真の予想を上回る物だった。一真がアヴィスラを100%使いこなせるとしたら、正義は200…いや、それ以上かもしれない。


「…正義、弾丸がまだ来るよ」


「任せろ。アヴィスラ!」


豊に応え、正義は右手を交差させる。アヴィスラも同調し、交差…そこからは、正義の独壇場だった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


正義は気合いと共に、アヴィスラを高速で振り回す。


程なくして、飛んで来る全ての弾丸を小間切れにし、消し去った。


「まー君、かっこいいぃぃぃぃ!」


恋華が絶叫する中、正義は達成感に満ちた顔で空を見つめていた。


「…前方に、密度の濃い魔力を確認…ビーム来ます、接触まで10秒」


豊が冷静に伝えるが、弾丸ではなくビームとなると、なかなか難しい…


それを理解しているらしく、正義の顔から笑みが消えていた。


「…仕方ねぇ、オレがやるか」


言ったのは勇気だ。額に手を当て、顔をしかめる。


「…どんな魔物と戦う時に使うんだよ、こんな魔法…正義の刀にしてもだ」


「今、正に使い時だろ?」


「そういうことじゃ…あぁ、もう良い、ダルくなって来た」


勇気はため息混じりに言って、目を瞑る。


「…"ザヴォルガ・針・エルク=ライザー-迅雷帝の紫雷槍輪-"」


勇気の額が金色の光を放つ時…バイクを取り囲むように、紫色の装飾の金色の槍が現れた。


「…一真、なんだこれ?」


「ザヴォルガ」


「…もう良い」


勇気は諦め、項垂れる。


勇気のザヴォルガは、尋常じゃない程の威力を持っているのだ。だが、リミッターが付いている。


もし、リミッターを外したら…そう考えると、勇気の身体が震えてしまう程に、化物じみた魔法だった。


「…お前、いつか世界を敵に回しそうだな」


「あ?何か言ったか?ザヴォルガがバチバチ言ってて何も聞こえな…」


「なんでもねぇよ…お前ら!耳塞げ!」


勇気は叫び、両手をビームに向かって伸ばす。


バイクを取り囲むように浮かぶ雷の槍は、バイクを中心に、回転を始める。


一真が使用した時は、回転しながら、槍そのものが発射されていた。


だが、勇気のザヴォルガは違った。


高速で回転する中、槍の先が紫色に輝き始める。


「"崩紫電"」


紫色の綺麗な円が、槍の先から離れ、円は縮小し、暖の目の前に凝縮…球体となったそれは、光線に向かって発射される。


球体が光線に触れると、光線に紫色のヒビが入り、程無くして砕け散る。


球体は更に上昇し、光線の後方を飛んで来ていた弾丸に向かう。


弾丸に当たると、球体は弾け、雷鳴が轟いた。


球体は拡大し、紫電の網で出来た巨大なドームになったのだ。


「避けろ!暖!」


「わかってる!」


一真が言うと同時に、暖は紫電の網を回避すべく、車体を回転させる。


ギリギリの所で回避に至ったのだが、本来の予定ルートから大きく逸れてしまった。


「正義、あの弾丸落とせるか?」


一真が指差すのは、バイクとは反対方向で、同じように紫電の網から逃れた弾丸だった。かなりの距離がある…このままでは、下の貴ノ葉町に落ちてしまう。


「当然だ」


正義はそう言って、後ろを…地上を向いた。


「…一真」


「ん?」


「キメラ、必ず倒せよ?」


言って、正義は飛び降りた。


「…は!?」


一真は振り向き、驚愕の表情で正義を見入る。


正義は両手を広げ、2つのアヴィスラを翼のように使い、空を飛んでいた。


「…びびった…マジで飛び降りたかと思った」


「いや、飛び降りたのは事実だろ」


「飛ぶ術があるとは思って無かったんだよ」


一真は勇気にそう言って、額の汗を拭う。


「…正義だけに任せるのもあれだな」


言って、勇気も飛び降りる。


「はぅあ!勇気君も!?」


恋華が叫ぶ中、勇気が一真に向かって叫ぶ。


「一真ぁ!頼むぜぇぇぇ!」


勇気は紫電の槍を纏め、サーフボードのような形状にし、それに乗って飛んで行った。


「あいつら…」


「暖、お前は前だけ見てろ」


振り返りそうになる暖を、一真が前を向かせる。


「2人が町を守ってくれる…オレたちはここから先、弾丸と光線を避けて上を目指す」


「…荒っぽい運転になるぞ、気合い入れて掴まっとけよ?」


暖はそう言って、更にアクセルをひねった。


バイクは上昇速度を上げ、迫る攻撃を全て、紙一重に避けていた。


暖の腕は、素直に称賛に値した。今回の暖は、本当に一味違うらしい。


「いいぞ暖!その調子だ!」


一真が言うが、暖は集中を乱さず、避け続ける。


「凄い集中力…暖君じゃないみたい」


呟く梨紅に、暖を除く全員が頷く。


だが急に、暖の様子が変わる。スピードを下げ始めたのだ。


「…一真、あれはヤバい」


「…マジか?あの野郎…」


凄まじい数の弾丸が、広範囲に拡がり、こちらに向かって飛んで来ていた。


「流石に避けられないか…」


「違う、避けても下の2人が対処しきれない」


「…なぁ、お前は本当に暖か?オレが居ない間に何があった?…いや、やっぱいい」


一真が思わず聞くが、直ぐに首をふる。今は対処が先だ。すると…


「僕が行く」


「私に任せなさい」


豊と愛が、同時に言った。既に額が輝いている。と、言うか…


「…既に飛び降りてるっていう…」


「あいつら飛べるのか?」


「さぁ…」


梨紅、一真、恋華が顔をしかめる中、2人は手を繋いだ状態で落下して行く。


「凉音…僕が止めるから、後はよろしくね」


「任せなさいって言ったじゃない…いくわよ豊!」


2人は空を見上げながら叫ぶ…


「"スタンベル・解・スピノ=ルーチェ-霊竜鈴の解放-"!」


「"ベルデュラ・滅凰・ライズ=ピアード-光騎士の暗笑-"!」


2人の身体が、光に包まれる。


豊の左腕…肩の付け根から魔法陣が現れた。まるで、魔法陣から腕が生えたように見える。


更に、豊の左腕を小さな魔法陣が埋め尽くす…


だが、豊の変化はまだ見れた物だった。


愛は、身体中に魔法陣が現れていた。身体中、魔法陣の放つ薄い光で光って見える。


「凉音…頑張ってね」


「豊こそ、死んだら許さないわよ?閻魔界まで行ってボッコボコだから」


互いに言って、2人は微笑み会い…別れた。


1人は光速で上空へ…もう1人は重力に従って地上へ…


「…"スタンベル・ノア-霊竜の息吹-"!」


豊は左腕を真上に延ばし、そう叫ぶ。


豊の腕が竜の顔に代わり、その竜が咆哮した。


竜の咆哮は衝撃波となって、空に向かって拡大して行く。




「…暖、今から衝撃波が来る。それに乗って加速するぞ」


右手で右目を抑え、左目の真眼を見開きながら、一真は言う。


「タイミングはオレが…」


「いいよ、わかるから」


一真の申し出を、暖が断った。


「わかる?」


「あぁ、わかる」


「…なんで?」


「"無限の中の数瞬"ぐらい、容易に支配でき……あれ?オレ、何言ってんだ?」


「…こっちのセリフだ」


首を傾げる暖に顔をしかめながら、一真は真眼で暖を見る。だがやはり、真眼に映る暖はただの人間でしかない。


「…加速するぞ、全員掴まれ!」


「なっ…!」


一真は慌てて後ろを振り向く。タイミングは…完璧だった。


バイクは衝撃波に上手く乗り、一気に最高速度まで加速する。そろそろ、弾丸の雨と接触しそうだ。


だが、衝撃波に触れた弾丸が、急速に速度を落とし始める。本来のスタンベルの効果だ。


更に、弾丸の隙間で何かが煌めいた。


光輝く何かが、弾丸の雨の中を突き進み、弾丸を破壊していたのだ。


「ベルデュラ…凉音か!」


「突っ込むぞ!」


一真の真眼に、辛うじてベルデュラの姿が映る中、弾丸が爆発した空間に、バイクは突入する。


熱と煙をライフェクトが防ぐ中、バイクのフロント部分を、何かの手が掴んだ。


「何これ!?」


(何よ恋華、私がわからないの?)


恋華が驚く中、ベルデュラ…愛が言った。


「愛ちゃん!?」


「てか…そんな格好でわかるわけねぇだろ」


(そう?…まぁ、仕方ないわね)


一真たちと話しながら、愛は更に、バイクの最後尾…リアー部分に手をかける。


「…凉音?」


(早いとこ行って、ぱっぱと倒して来なさいよ)


顔をしかめる一真にそう言って、愛は…ベルデュラは、バイクを投げ飛ばした。


「更に加速…って、このスピードだと流石に弾丸避けられないかも…」


「…私に任せて」


暖が眉をひそめる中、沙織が虚ろな瞳でそう言った。


「"ファローネ・魅央・ダール=ゼッフォ-妖艶の闇の乙女-"」


沙織の額の紋章が、紫に光る。すると突然、沙織もバイクから飛び降りた。


「…もしかして皆、バイクに乗っていたくないだけなんじゃないか?」


「かもね…特に沙織は、最初から乗りたく無さそうだったし」


一真と梨紅が話す中、沙織の身体にも、愛のように紋章が現れる。


一際大きく輝くと、沙織の服装が変化する。


黒と紫で構成された和服と羽衣を身に纏い、沙織が飛翔する。


「"幻惑の霧雨"」


バイクの周り回りながら、沙織…ファローネは、紫色に煌めく霧雨を辺りに放ち始めた。


「これで、しばらくは目眩ましになるでしょう…私も、皆と待ってるわ」


霧雨が晴れると、無数のバイクが一真たちの周りを飛び回っていた。


「じゃあ、私も頑張っちゃおうかな!」


言って、恋華は右手をチョキにし、額に持って行く。


「"メリフィア・螺弩・グラル=シリウル-星の海の秘宝-"!」


言いながら、恋華はその場で右手を振り上げる。すると、額の紋章が空中に現れ、その中から、漆黒の弓と金色の弦が現れた。


沙織が作った偽りのバイクたちにも、同じように弓と弦が現れている。


「弓?重野、お前…弓道でもやってたのか?」


「ううん、全然…触ったことも無いよ」


一真に言われ、恋華は即答した。


「…恋華ちゃん、弓と弦があっても、矢は?」


梨紅が言う。確かに、放つものが無いように思える。だが…


「あるよ?これ、これ」


恋華は応え、右足でバイクを踏みつける。


「…ここに来て、更に加速させようってのか?」


「攻撃は最大の防御なり!」


「答えになってねぇよ!だけど言いたいことはすげぇ良くわかる…」


一真は頭を抱え、しかし直ぐに、バイクをしっかりと掴み、梨紅を抱き寄せる。


「ちょっ…一真?」


「重力の弓だ…反重力でどんだけ飛ばされっかわかんねぇぞ」


一真に言われ、梨紅も気付いた。しっかりバイクにしがみつき、一真に抱き着く。


「準備は良いね?じゃっ!行っくよー!」


言うや否や、恋華は金色の弦をバイクのリアーに引っ掛け、自分は弓を持って暖の目の前に立つ。


「恋華ちゃん!前見えないんだけど!」


「見なくて良いよ、後は真っ直ぐだからさ!」


暖に満面の笑みで答え、恋華は跳躍する。重力操作の力で、一気にバイクより100m近く跳んだ。そして…


「行くよ!"星屑の女神の咆哮"ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


恋華はそう叫びながら、反重力を目一杯使い、一真たちの乗るバイクを放った。


今や、バイクの速度は音速を超えていた。


「無茶苦茶だぞ、あいつら!」


必死にハンドルを握り締めながら、暖が言った。


「…こんなに無茶苦茶な奴らじゃ無かっただろ…どうしたんだあいつら?」


「…まぁ、帰って来たからね…一真が」


一真の疑問に、梨紅が答える。


「オレ?」


「皆、心配してたんだからね?本当に」


「…そっか」


言って、一真は梨紅を更に強く抱き締める。


「…そろそろ大気圏超えるぞ!左、見てみろ」


暖の言葉に、2人は左方向に視線を向ける。すると…


「うわぁ…」


「すげぇ…地球が丸い…」


いわば、地球と宇宙の境目…既に、地球の丸い部分を見ることが出来るのだ。


「…くそっ、また撃って来やがった!」


辺りを包む感動の中、暖が言った。キメラが再び、攻撃を開始したのだ。


「一真、どうやってあれを倒す気だ!どこまで近づけばいい?」


沙織が作った偽りのバイクが弾丸で消し去られる中、暖が叫ぶ。


「…キメラとの距離が一直線になる必要がある」


「…は?正面で棒立ちかよ!どうやって攻撃を防ぐんだよ!」


「お前の額の紋章…そりゃ、飾りか?」


一真が言うが、会話はひとまず御預けだ。弾丸の1つが、バイクに向かって来たのだ。


「くそっ…」


暖はなんとか弾丸を避ける。同時に、大気圏を突破したようだ。


「無重力…ヤバい!勢い付きすぎてて止まれねぇ!」


「…いや、グッジョブだぞ?暖!」


焦る暖を他所に、一真はニヤリッと笑う。バイクの正面に、まだ距離はあるが、キメラの姿があった。


「よし…暖、後は任せたぞ」


「マジか!?さすがに、オレに魔法が使えるとは思えないんですけど!?」


「気合いで捻り出せ」


「マジだよこいつ!どうなっても知らねぇかんな!?」


暖の返答を聞いた一真は、後ろを振り向く。


「さて、急ぐか」


言って、一真はバイクの荷台に右手を置く。すると、そこから巨大な魔法陣が現れた。


「クロス、ライフェクトの範囲をいじってくれ」


「了解です、マスター、一真」


クロスの言葉を聞き、一真は魔法陣に飛び乗る。そして、前方に両手を伸ばす。


「…"聖なる魔法、即ち退魔"!」


一真が言うと、両手の先から魔法陣が生成された。


"闇に蠢く魔を退けし、聖なる力の名は光"


"魔を束ねし光の帯よ、一筋の巨大な弾となれ"


"虹を集め、光に変えろ"


"聖なる魔、即ち光"


"光、即ち退魔の力"


"我が身に宿る魔の力"


"世界に満ちる魔の力"


"あらゆる力を光に変えて"


"全てを撃ち抜く一撃に、神を討つ力を込めろ"


詠唱が終わり、魔法陣は完成した。


内側の魔法陣に、魔力が注がれ始める。


「…一真、何これ」


「魔力を集束して、技を強化する魔法って所か」


一真が説明する中、少しずつ…少しずつ、魔力が集まり始める。


いや、魔力だけではない。退魔力も、霊力も…そういった力が、地球から集まっていた。


「…もしかしてこれ、全世界が目撃してるんじゃない?衛星カメラとかあるでしょ?」


「かもな…けどまぁ、地球の危機みたいなもんだし、良いだろ」


安易な考えのもと、一真は人類から、勝手に、力を借りていた。そこで、遂に…


「一真!攻撃が来たぞ!」


キメラからの攻撃が来た。魔力を貯めに貯めた、高密度の光線だ。


「任せただろ?こっちは手一杯だ」


「やっぱマジだったんだ!くそぉ!やってやんよこの野郎ぉぉぉぉぉ!」


言って泣きながら、暖は額に手を押し当てる。


「…今日のお前なら行ける…そんな気がするよ」


一真の言葉を、暖はもう、聞いてはいなかった。


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