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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第七章 魔族襲来 後編
60/66

1.彼の居ない日々


「…」


一真の部屋、一真のベッドの上…梨紅は、そこで目を覚ました。


(…小さい頃の…夢…)


寝返りをうち、枕元の時計を見ると、5時40分…


「…一真…」


梨紅の目から…再び、涙が溢れて来る。一真の居ない、一真の部屋…一真の匂いはするのに、一真は居ない…




今日は…一真が居なくなった、翌日だ。






一真が異世界へ向かうと同時に、辺りは静寂に包まれる。


魔物は居ない…梨紅達以外に人間も居ない…


そして何より…一真が居ない。


梨紅を除く7人は、混乱した。


一真が残った魔物を一掃したことはわかった。


しかし、一真の姿は何処にも無い…


衝撃で何処かへ飛ばされたか…あるいは…


そんな考えが頭をよぎり、全員で勇気に視線を向ける。


既に、一真の生死を調べる為に行動していた勇気は、全員に首を横に振った。


一真の生死も、行方も…天界では、わからない…


ますます混乱する仲間達…


その様子を、泣きながら見ていた梨紅…


(…落ち着かせなきゃ…説明しなきゃ…)


そう思った梨紅は、その場に立ち上がる。


突然立ち上がった梨紅に、全員の視線が向けられる。そして…


「…すぅ…」


梨紅は息を吸い込み、歌い始めた。


エリーに教わった、天使の歌…


福音…またの名を…破滅の歌


『ギャァァァァァァァ!!!!!!!』


凄まじい悲鳴とともに、仲間達が次々に気絶していく。


歌い手の心で効果が変わる、女神直伝の聖なる歌…


一真を失った不安定な心で歌った為、梨紅が望んだ効果とは異なる…むしろ、真逆の効果になってしまったのだ。しかし…


「…え?」


正義達が気絶する中、暖だけは無事だった。








川島暖は、学校に居た。


部室…MBSF研究会の部室の、自分の席に座り…突っ伏していた。


他の生徒は、ほとんど居ない…テスト返却が終わり、一般の生徒は今日から、夏休み前の小休止に入っているのだ。


学校に居る生徒は、一部の…部活動のある生徒だけだ。


「…」


時刻は朝8時…特に活動があるわけでも無いのに、暖は部室に居る。


理由は…なんとなくだ。


家に居ても良かったが…部室に来れば、何かが起こる気がした。


…そして、その予感は当たった。


「あ…」


部室のドアが開き、驚きを表した声が聞こえた。


「…沙織ちゃん」


ドアを開いたのは、山中沙織だった。


「…おはよう、暖君」


「おはよう…」


簡単な挨拶を交わすと、沙織が部室に入って来る。それに続いて…


「あれ?皆も…」


重野恋華、凉音愛、寺尾豊の3人が、部室に入って来た。


「…正義達は?」


「まー君は昨日の件で警察…勇気君はまだ調べてる」


暖の言葉に、恋華が答える。


「そっか…」


『…』


それ以降、会話らしい会話は無く…ため息や唸り声のみが、部屋の中に響くだけだった。









「…」


梨紅はまだ…一真のベッドに横になっていた。


涙は出ていない。ただただ、横の壁をぼんやりと見つめていた。


『…』


梨紅の中に居るナイトとエリーは、彼女に話しかけようとはしなかった。


慰めても仕方ない…慰めようが無い…


全ては、梨紅が一真を信じることが出来るかどうかだ。


いわば、試練…


2人は、見守るしかなかった。


梨紅の、1番近くから…






…夢は、過去の記憶でした。


忘れるはずの無い…忘れてはいけないはずの、記憶…


幼い私の、過ち…一真を傷付けた、罪の記憶…


あの日を境に一真は…私を「梨紅ちゃん」とは呼ばなくなった。




教室の中…金色の炎…揺らめく、長い緋色の髪…


それは不意に…消失した。


負傷者、0…

教室の破損、0…


被害を受けたのは、おそらく…一真だけだ。


教室の床に倒れた、一真の髪はまだ…緋色のままだった。




一真が早退し、その日の放課後、ホームルームが開かれることになった。


もちろん…一真についての話し合いだ。


私は皆に訴えた。魔法を使うことによって生じる疲労…精神的苦痛…それでも彼は、皆の為に頑張ろうとしていた。


…あの時、理解出来た者はいただろうか…


一真の"苦悩"を理解出来た者が、居ただろうか…


いなかった…私を含めた誰もが、彼を真に理解することは出来なかった。




とりあえず、謝ろう…


それが、ホームルームでの決定…先生も居たのに、そんな…とりあえずの決定…


幼い私は、その決定に…憤りを感じることさえ無かった。




「…カズ君、大丈夫?」


帰宅した、幼い私は…いつものように、窓から一真の部屋に入った。


「…梨紅か」


ベッドに横になっていた一真は、私をチラッと見て、そう呟いた。


「え…」


呼び捨てにされた衝撃は、大きかった。何より、いつもは私を微笑んで迎えてくれるのに、あの日の一真は面倒くさそうな表情だった。


「…カズ君?」


「何?」


「…本当にカズ君?」


私の疑問を受け、一真は起き上がり、ベッドに座った。


「本当にオレだけど…?」


「…」


幼い私の記憶の中…一真が初めて、自分を"オレ"と言った瞬間の、私の動揺はなかなかの物だった。


「…」


「…?」


無言で自分を見つめる私に、一真は首をかしげる。


その仕草にさえ、私は何かを感じた。


多分それは…孤独感…


自分を置いて、一真は大人になってしまった…そんな感じだった。


「…ずるい」


「…何が?」


「帰る!」


「えぇ!?何だそれ!」


一真を無視し、私は窓から飛び出した。





桜田正義、進藤勇気の2名は、久城一真を全力で探していた。


もちろん、方法は異なる。正義は警察で一真の行方を追い、勇気は天界で一真の生死を確認していた。だが…


『見つからない…』


異なる場所で、2人は同時に呟いた。


そもそも、天界で生死が確認出来ないのなら、この世界には居ない…つまり、警察が動く意味は皆無だ。


「…もっと、捜索範囲を広めて下さい」


だが、正義は部下にそう命じる。


正義には、天界からの情報が入っていないのだ。


更に言えば、一真に無事であってほしいという思い…それが、正義を突き動かすのだ。


「俺も出ます。車をお願いします」


そう言って、正義は大急ぎで会議室を出る。


それと同時に、勇気は天界から人間界に戻って来た。


「…なんて説明すりゃ良いんだ…」


寺尾神社…豊の実家の屋根に降り立った勇気は、呟きながら頭を抱える。


一真の所在、生死、共に不明…情報無し。


「…はぁ…」


ため息を吐きつつ、勇気は屋根から跳躍する。


そしてそのまま、空へと舞い上がった。








あの日の私は、孤独感に恐怖した。


一真と離れてしまった気がして、とても嫌だった。


一真が1人だけ大人になったようで…自分だけ子供のままで…悔しかった。


だから、その翌日…


「おはよう、"一真"!」


「…?あぁ、おはよう梨紅」


私は少し、背伸びをした。幼い私の考えた大人は、とりあえず呼び捨て…あと、お姉さん口調。


「ちょっと一真!まだ埃が残ってるよ!」


「姑かお前!」


こんな、今でも続くやり取りの根源が、それだ。


思わず苦笑いしてしまう。自分の幼さに…だ。


でも、自分の情けなさにも…苦笑いしてしまう。


一真と離れるのが嫌で、背伸びしたあの頃…


一真と離れてしまって、泣いている今…


どちらが子供で、どちらが大人なんだろう…


…いや、そうじゃない。


問題は、私がどうしたいか…


一真が帰って来るまで泣いているか…帰って来た一真に負けないぐらい、成長しているか…


…答えは、決まっている。


私は…









「…」


目を覚ました梨紅は、時計を見つめる。


12時…どうやら、2度寝してしまったらしい。


梨紅は無言で起き上がり、一真の部屋から出た。




「…あら?梨紅ちゃん」


リビングに入った梨紅を、美由希が迎えた。


「…お邪魔してます」


「コーヒー飲む?」


「いえ、大丈夫…です」


そう言って、梨紅は椅子に腰掛ける。


「…一真のこと、心配?」


「…はい」


美由希の言葉に、梨紅は素直に頷いた。


「大丈夫よ、一真は何処でだって生きて行けるもの」


「そう…ですよね」


わかっている…一真は強くて、そんなに簡単に死んだりしないことぐらい、梨紅にだってわかっている。ただ…


「…置いていかれたくない?」


「…」


梨紅は、黙って頷いた。一真は梨紅と、必ず帰って来ることを約束した。一真はそれを守る。必ず守る…梨紅はそれを、ただ待っているだけ…だが…


「…待ってるだけは、梨紅ちゃんの性に合わないもんね?」


「…」


美由希の言葉で、梨紅の意思は固まった。


「…ありがとうございます」


「いえいえ」


梨紅の言葉に、美由希は微笑んだ。







(一真が成長するなら、私も成長する。それだけだ)




それは、単純…かつ、強い思い。


梨紅は、一真の部屋の窓に足をかけた。


「…私も、頑張るんだ」


異世界で頑張っているであろう一真に…いや、自分に言い聞かせるように、梨紅は呟き、一真の部屋から勢い良く飛び出した。



部室のドアと窓が、同時に開いた。


『…』


入って来たのは、正義と勇気…2人は同時に、首を横に振った。


『…』


沈黙…その場に居る7人は、言葉を発することが出来ずにいた。


…彼女が、来るまでは。


「…あれ?皆揃ってる…」


『!』


窓から入って来た梨紅を見て、正義たちは驚愕…いや、恐怖した。


昨日の福音が、トラウマになってしまったようだ。


「…もう、大丈夫なのか?今城」


唯一、トラウマの無い暖が、聞いた。


「うん。大丈夫だよ」


翼を収めながら、梨紅は答える。


「一真はね、異世界に行ってるんだよ」


『…』


全員が唖然となる中、梨紅は続ける。


「そもそも、居なくなったのは一真だよ?暖君ならまだしも、心配無いでしょ」


『…』


言われてみれば、そうかもしれない。例に使われた暖でさえ、そう思った。


だって、あの一真だ。


やる気は無くても責任感はあって…


優しくて…


強くて…


むしろ、強すぎる…




そんな一真なら、異世界を行き来するぐらい…


『…』


容易にやりそうで恐い…身震いする7人に、梨紅は胸を張って続ける。


「それに、約束したの。帰って来るって」


この言葉が、決定打だった。


途端に、正義たちの顔が明るくなる。


一真は、梨紅との約束は守るだろう…何があっても。


そう、梨紅の為なら、一真は…














「…当時のオレは、そんな認識だったのか…」


顔をしかめ、一真は溜め息を吐いた。


「いや、今もそんな認識だぞ」


「尚更悲しいわ!」


暖の言葉に、一真は叫ぶ。


「…こんな所かな?それから1週間は平和だったし…」


「うん…完全にネタ切れね」


梨紅と沙織が、頷き合った。


「…ネタ切れ早ぇよ…またオレのターンか」


「………古い」


豊の呟きに、一真が固まった。


「…ターンか?ターンの話か?ターンが古いのか?」


「ジェネレーションギャップね」


「てめぇらタメだろうが!」


愛の指摘に、またしても一真が叫ぶ。


「…とりあえず一真、話を続けろ」


正義が促し、一真が何かを言おうとするが…


「…何処まで話したっけ?」


「2人の師匠になった辺りからじゃね?」


「それだ、その後…」


勇気に言われ、一真は再び話し始めた。











次更新は、第三章、後編になります。

此方からどうぞ


ここからの話は、第三章、後編…[~エピローグ~]を読んでからお読み下さい。










空が赤い…雲は黒い…だが、夕焼けというわけでも、雲が汚染されているわけでもない。


ここは、青い空と白い雲の広がる世界…人間界ではない。


魔界…魔族や魔物の住む世界だ。










「…あぁぁぁぁ!イライラする!」


荒野にそびえる巨大な城の一室に、雄叫びが轟いた。


雄叫びを上げたのは、1人の少年…ラバラドルだった。


「屈辱だ…この俺様が、おめおめ逃げ帰ることになるとは」


そう言うラバラドルの脳裏には、光輝く1人の男の姿が浮かぶ。


魔界と人間界の狭間から見たその姿…人間でも、魔族でもなく…


「天使…いや、天使ごときには無い、更に上の力…」


考えれば考える程、ラバラドルの苛立ちは増すばかり…


自分の弱さ…あのまま人間界に居れば、自分が消滅していたという予想…紛れもない事実。


人間を滅ぼす上で、間違いなく障害になる人間…


「くっ…なんとしてでも奴を消さなくては…」


だが、自力で倒すにはまだまだ力が足りない。尚且、ことは早急に運ぶ必要がある。


だからと言って、先日のように大量の雑魚魔物を送り込んでも蹴散らされて終わる。


「…仕方ない、父上レベルの手下を"作る"か…」


意味深な発言と共に、ラバラドルはニヤリッと笑い、自室を飛び出した。







「…また何か始めたみたいね…」


気配を消し、ラバラドルの部屋に隠れていたリエルは、眉をひそめながら呟く。


「…ナイトメア様の転生体…久城一真に伝えるべきかしら」


腕組みをし、リエルは考える。


「でもまぁ…もう少し調べてからでも遅くは無いわよね」


そう呟き、リエルはラバラドルの後を追って部屋を出た。




期末テストが終わると、テストの採点期間が始まる。


部活のない学生は皆、休日である。MBSF研究会も又、完全な休日となっており、メンバーは皆、思い思いの休日を過ごしている。






~am10:00~久城一真の自室。


「…くぅ…すぅ…」


梨紅の寝息が、室内に満たされていた。


一真の部屋に梨紅が居る理由については、言及するまでも無いだろう。


「…んっ…一真…」




~am10:15~寺尾神社境内。


初夏の暖かな陽射しの中、1人の少年が境内の掃き掃除をしていた。


「………」


寺尾豊。次期、寺尾神社神主である。


黙々と掃き掃除を続ける豊だが、はっきり言ってしまえば、無意味な作業である。


落ち葉も無い。ゴミも無い。何故なら滅多に、参拝客が来ない。


「………はぁ」


それに、豊はため息を吐く。


夏祭りでもやれば、もう少し活気が出るのかもしれない…新年の三が日にも、屋台があれば参拝客も望めるかな…


などと考えながら、豊は掃き掃除を続ける。


ちなみに、彼が掃き掃除を始めたのは午前6時…


開始から既に、4時間15分が経過していた。




~am10:45~図書館。


貴ノ葉町で最も静かで、最も涼しい公共施設。


そこに、山中沙織は居た。


沙織は机に、過去の伝説や伝承に関する、お伽噺のような内容の本を大量に置き、読み耽っていた。


そんな沙織と、背中合わせに椅子に座っている男が居た。


桜田正義だ。机には、風や天気に関わる本が置かれていた。


2人は互いに、互いの存在に気づいていない様子だった。


だが、2人同時に椅子から立ち上がろうとした為……


『あっ、ごめんなさ……あれ?』


椅子と椅子がぶつかり、互いを認識してしまった。




~am11:15~町の洋服屋。


「愛ちゃん、黄色とピンク、どっちが似合うかな…」


「水色ね」


「はぅあ!まさかの三択目!?でも水色にしよっと」


洋服屋に居たのは、重野恋華と凉音愛だった。目的は当然、ショッピングだ。


「じゃあ、このスカートとこっちのスカートなら…」


「…私じゃなく、マサに選んでもらえば良いじゃない」


「だって、まー君めんどくさがって来てくれないんだもん」


「…私もめんどくさいんだけど…」


そう言って、愛は顔をしかめるが…


「あ!あの服可愛いかも!」


耳を貸さず、恋華は他の服を見に行ってしまった。


「…はぁ…」


愛はため息を吐き、恋華の後を追うが…


「…あっ、豊に国語のノート返して無い」


ふと思い出した愛は、バッグから携帯を取り出した。




~am11:30~寺尾豊の自室。


「もしもし」


(あ、豊?)


「うん」


(ごめん、国語のノート返すの忘れてた)


「…うん」


(後で持ってくから、じゃあね)


「うん……え?」


豊が何か言う前に、電話は切れた。


~pm0:00~喫茶店、ホリデイ


「Aランチとカフェオレで」


注文を取りに来たウエイトレスにそう言い、金色の短髪の少年、進藤勇気は微笑む。


勇気の微笑みに、ウエイトレスは顔を赤らめ会釈し、そそくさとカウンターまで戻って行く。


店内に流れるクラシック。静かで、落ち着ける空間。


「あぁ…優雅だ」


発言から察するに、どうやら満足のようだ。


天界では周りが口うるさく、人間界の外は暑いし虫がうるさい。


その点、喫茶店は涼しく、しつこいようだが静かで、勇気は今、久々に穏やかな日常を過ごせていた。


「失礼します。カフェオレです」


先程のウエイトレスが、カフェオレを運んで来た。


「ありがとう、お姉さん」


勇気の言葉に、ウエイトレスは微笑んで見せ、再びカウンターへと戻る。


勇気はカフェオレの入ったカップの取っ手を掴み、口元に運ぶ。


先ずは、香りを楽しむ為に鼻先へカップの縁を持って行く。そして勇気は、満足気に微笑んだ。


次に、カフェオレを口に含み、味わう。再び満足気に微笑もうとした瞬間…ふと、勇気は外に視線を向けてしまい…


「…え゛」


微笑もうとした顔が、一瞬で凍りついた。


勇気の座る窓際の席…その窓の部分を、3人の人間が叩いていた。


凉音愛、重野恋華、そして、川島暖だ。








時は遡り…

~am11:50~大通り


「…あれ?あそこに居るの、暖君じゃない?」


洋風の入った紙袋を片手に、恋華がゲームセンターを指差した。


「…ホントだ、暖だわ」


両手を組んで後頭部に当てながら、愛は言った。


暖は、キーホルダーを取ろうとしているらしい。


…というか、既にいくつか取っており、取る度にバッグの中に入れていた。


「…あいつ、上手いわね」


暖の動向が気になった2人は、ゆっくり暖に近づいて行く。




暖はちょうど、機械に100円を入れた所だった。


ボタンを押して、上に動かし、右に動かし、止める。


アームが前に突き出て、キーホルダーの位置を下げ…落とす。


「上手すぎでしょ、あんた」


「うぉあ!ビックリした…」


自分の代わりにキーホルダーを取り出した愛を見て、暖は仰け反った。


「やっほぉ、暖君」


「あ、恋華ちゃんも…おはよう」


「時間的には昼だけどね」


言いながら、愛はキーホルダーをポケットにしまった。


「ちょうどいいわ、昼ごはん奢ってよ」


「キーホルダーも盗られた上に飯まで!?」


「相変わらず、テンション高いツッコミねぇ…いいから奢れよ」


「既にカツアゲ!?」







~pm0:30~喫茶店、ホリデイ


「そんで、今に至る…と」


勇気は目の前に座る暖にそう言って、顔をしかめる。


暖は大いに頷き、コップに入ったコーラをストローで吸う。


「でも良かったじゃない、奢らなくてすんだんだから」


『…?』


突然の愛の言葉に、勇気と暖は首をかしげる。


「だって、進藤は神様よ?なんだって出来るでしょ」


「なるほど!」


「なるほどじゃねぇよ、神様にたかるなアホ」


「神様っても、あくまで候補じゃない。それに私、利用価値があるなら何だって利用するし」


フレンチトーストを食べながら、愛は言った。


「愛ちゃん、かっこいい!」


「ありがと恋華。ただ、あんたもうちょっと、ご飯らしい物を食べるべきだと思うよ」


パフェを頬張る恋華に、愛は言った。








~pm1:00~久城一真の自室。


「くぅ…ゲホッ!……くぅ…」


梨紅は依然として、一真のベッドで眠り続けていた。



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