プロローグ
…夢を、見ていました。
その男の子は、私の幼なじみで…クラスメートで…大切な人でした。
優しくて…かっこよくて…私は、彼が大好きでした。
でも…彼は、苦しんでいました。
彼は、魔法使いです。何でも出来る、凄い魔法使い…
でも…魔法を使うと、凄く疲れるらしいのです。それでも、彼は嫌な顔一つせず、クラスの皆の頼みを聞いて、魔法を使っていました。
その時の私には…彼の苦しみに、気付くことが出来ませんでした。
だからこそ…あの事件は、起きてしまったのです。
今思えば…その日は朝から、彼の様子がおかしかったような気がします。
その日の彼は、いつものように微笑んではくれませんでした。
私が話しかけても、空返事ばかり…
それは、学校に着いてからも変わりませんでした。
でも…他の皆は、彼がいつもと違うことに気付きませんでした。
いつものように、彼に魔法を使ってもらおうと…いえ、"使わせようと"します。
「…嫌だ」
彼の初めての拒絶…皆の顔から、笑顔が消えました。
そして、戸惑いの表情に変わり…それは、怒りに変わります。
皆が彼に浴びせた罵声の数々は…彼の心の、暗い部分に響き渡ります。
(…糞野郎共…)
「え…」
私の心に響いた彼の心の声は、恐ろしい程に低く…怒りに満ちていました。
「…"サイレント"」
彼の使った魔法により、辺りは完全な静寂に包まれます。そして…
「…"○○○○…"」
彼の詠唱は…聞こえませんでした。
目を覚ますと、私は廊下にいました。
辺りには、泣き叫ぶクラスメート達…
その中に、彼は居ませんでした。
彼は、教室の中に居ました。金色の炎が燃え盛る、教室の中に…
しかし…最初は、彼かどうかがわかりませんでした。
服装で、何とか彼だとわかりました。しかし…彼の髪は、足下まで伸びた、緋色の長髪でした。
私は、教室の入り口から彼の名前を呼びます。
「カズ君…」
私の声が聞こえたのか…彼は、私に視線を向けます。
その時の私は、どんな表情だったのでしょう…
私の顔を見た彼は、悲しそうな顔をして…泣いていました。




