5.殲虹は弟子を育てる。
翌日、一真は再び図書館を訪れていた。
日課であると同時に、今日は調べないといけないこともある。一真の属性だ。
「…」
一真は、固有魔法デリスについて書かれた本をかき集め、読み始める。しかし…
「…これにも無いか…」
かき集めた23冊の本のどれにも、属性のことは書かれていなかった。
「…むぅ…」
一真は腕組みをしながら、ソファーに横になった。
昨日の模擬戦で、水、雷、火の3つの属性を使えることはわかった。だが、その3つだけかどうかはわからない。
「…属性を知る方法…か…」
呟いてみて、一真はふと…テーブルの上にある小さい本に視線を向ける。
「…『属性診断』」
クロスを手に入れようと思ったきっかけになった本…一真はそれを手に取り、パラパラと捲る。
「…魔石を利き手に握り、属性呪文を唱える…すると、属性に合った光の玉が現れる…現れた物が、属性…」
子供向けの本らしく、解説は驚くほど単純だった。
属性呪文とは…
火ならファム、水ならアロア、雷はエルク…と言ったように、固有魔法の代わりの、属性さえ合えば誰でも使える初級魔法だ。
いくつか例を上げると…
火=ファム
水=アロア
風=クード
雷=エルク
光=ライズ
闇=ダール
土=グラル
霊=スピノ
無=フィノ
詠唱の例は…
砲撃の名の元に…我に仇なす物を撃ち抜け…ファム=ピアード
…と言った具合に、固有魔法の位置に入る。
「…ファム」
クロスを右手に握り、一真は属性呪文を唱える。
ファムを唱えると、一真の右手から赤い光の玉が現れた。
「アロア…エルク」
青い玉と黄色の玉…ここまでは、想定内だ。だが…
「クード…ライズ…ダール…グラル…スピノ…フィノ」
緑…白…黒…茶…紫…無色…
「…全部出るじゃん…」
辺りに漂う9つの球体を見て、一真は唖然とした。
「…どうやら、マスターは全ての属性を使えるようですね」
「そんなことってあるのか?」
クロスの言葉に、首をかしげる。
「過去に例があるかはわかりませんが…現にマスターは当事者です」
「…ごもっともだな」
一真は苦笑いし、クロスをテーブルの上に置いた。
9つの球体…それを見ているうちに、何故か…仲間達の顔が浮かんだ。
無…暖。
霊…豊。
土…重力と考えれば、恋華。
闇…沙織。
光……愛?
雷…勇気。
風…正義。
水…梨紅。
「…オレは火か…」
仲間達と離れ、2週間弱…やはり、一真も寂しいらしく、球体を見つめる表情に、何処か郷愁の想いが感じられる。
「…」
一真は、青い球体に右手を伸ばす。青い球体は、一真の右手の周りをクルクルと回り、他の球体の元に戻る。
「…はぁ…」
ため息を吐く一真。寂しさは増すばかりだ。そこへ…
「カズ兄、どうしたの?」
あおいが、部屋に入って来た。まだ午前中にも関わらずだ。一真は驚き、ソファーに座り直す。
「…お前、学校は?」
「早退」
あおいは即答し、一真の方に歩いて来た。
「具合悪いのか?」
「ううん、サボり」
「…小学生だよな?お前」
一真は、苦笑い気味に顔をしかめる。
「それよりカズ兄、この光って…」
あおいは、空中に漂う光を見て言った。
「属性呪文…」
「あぁ。これがオレの属性らしい」
そう言って、一真も光を見つめる。
「…なんで、そんな顔してるの?」
「え…」
あおいの言葉に、一真は首をかしげ、あおいの顔を見る。
「せっかく属性がわかったのに…こんなにたくさんの属性を使えるのに、カズ兄…凄く、悲しそうな顔してた」
「…」
あおいが鋭いのか、一真の顔がそれほどまでに悲し気だったのか…それは、定かでは無い。
「…元の世界のことを、思い出してな…」
「カズ兄の世界のこと?」
あおいの問いに、一真は頷いた。
「うん…それで、ちょっと…寂しくなった」
「…」
あおいは無言で、一真の隣に座る。そして…
「ん…」
一真の頭を優しく撫でた。
「昔、お母さんがよくこうしてくれたんだ」
「へぇ…そうなんだ」
「元気になった?」
「……………うん、なった…かも」
首をかしげるあおいに、一真は完全に作った笑顔でそう答える。
「…ありがとな」
「それじゃあ、修行に付き合って!」
「…は?」
そう言って立ち上がるあおいを見て、一真は眉をひそめる。
「昨日言ってた、2つの魔法を同時に使う修行!」
「あぁ、あれか…いや、お前まさか…」
「もちろん、修行の為に早退してきたんだよ」
胸を張るあおいを見て、一真は頭を抱える。
「…麻美に怒られる…」
「覚悟の上だよ!」
「オレも怒られるって話だ!」
ため息を吐き、一真はソファーに深く腰掛けた。
「…まぁ、過ぎた話はグチグチ言ってても仕方ない」
そう言って、一真はテーブルの上のクロスを手に取る。
「…出来るかな…」
「…?」
一真の呟きに、あおいが首をかしげる。そして…
("捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ…デリス=キャプル")
「なっ!」
突如、クロスから黒い光の帯が放たれ、あおいに巻き付いた。
「おぉ…出来た出来た」
「ちょっと!カズに…うわぁ!」
バランスを崩し、あおいはその場に仰向けに倒れてしまった。
「"レヴン"!」
一真はすぐに、魔法解除の呪文を唱える。
「痛たた…」
解放されたあおいは、お尻を擦りながら立ち上がった。
「今のは、無詠唱…オレの世界では、無言魔法って呼ばれる魔法だ」
「無言魔法…?」
「そう。心の中で詠唱するんだ」
一真に言われ、あおいは直ぐに、魔石をポケットから取り出し、試してみることにした。
("捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ…ティム=キャプル")
すると、ファナユフィが微かに光り、赤い光の糸を放った。
「おぉ…」
一真は驚嘆した。一発で成功するとは思っていなかったからだ。
糸は一真の身体に巻き付き、なんとか"捕縛"の形になった。
「やるな…魔法としての形にはちゃんとなってたぞ」
「…でも、糸じゃん…」
自分の魔法に、あおいは不満気だった。
「詠唱を口に出す出さないで、込める魔力の量も、魔法のイメージも、段違いだからな…」
言いながら一真は、自分にまとわり付く赤い糸を切った。
「もう1度やらせて!」
「当たり前だろ、修行なんだから…それが出来て初めて、次の段階に進めるんだぞ?」
「はい!」
返事と同時に、あおいは目を瞑る。そして…
「…残念」
ファナユフィから放たれたのは、またしても赤い糸だった。
「…もう1回!」
「頑張れ~」
一真は糸を切り、テーブルの上の本を取り、読書を再開した。
…2時間後。
「…マスター、お昼です」
「…昼…もう昼か…」
一真は珍しく、クロスの声に反応を示した。
それは、今一読書に集中出来ていなかったからだろう。
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
あおいは汗だくで、息切れしていた。
「あおい、ちょっと休憩。昼飯食おうぜ?」
「はい…」
一真に返事をすると、あおいはその場に座り込んだ。
この2時間で、あおいは多少の成長を見せていた。
最初は、一真の周りを1周するだけだった糸が、2周、3周とするようになったのだ。
「魔力は徐々に込められるようになって来てる…後は、イメージだな」
「はい!」
多少でも成長が見られたのが嬉しいらしく、あおいは笑顔で一真に返事をした。
「…やっぱり、イメージするのが難しいよ」
司書により運ばれて来た料理を食べながら、あおいが言った。
「そうだな…オレが最初に無言魔法を使った時は、かなり必死だったよ」
愛の妹…友美の病気を治した時の一件だ。
「どんな魔法を?」
「位相跳躍…魔法陣から魔法陣へ移動する魔法なんだけど…疲れ切ってて口が上手く動かなくてな?魔法陣と、飛ぶ場所を必死に思い浮かべて、なんとか成功したんだ」
「へぇ…ちょっと意外。カズ兄は最初から何でも出来る天才なんだと思ってた…」
あおいの言葉に、一真は吹き出した。
「オレは天才じゃないよ。ただ、成り立ちとかその他諸々が少し特殊だっただけ」
「…成り立ち?」
「前世とか、環境とか…色々な」
そう言って、一真は料理を口に運ぶ。
「そもそもオレは、技術に関しては人並みの物しか持って無いんだよ。ただ、魔力量がずば抜けてて、想像力や考える力が他人より強い…」
「…技術って?」
「つまり、使う魔法は他の人と変わらない…普通の魔法ってこと」
「…いやいや!そんなこと無いよ!」
一真の言葉を、あおいは全力で否定する。
「魔石を2つ使っての属性付加なんて、この世界で誰も持って無い技術だよ!」
「あぁ…そりゃあまぁ、好奇心からの行動が偶然実を結ぶってことも稀にあるけど…」
「あの威力であくまで偶然だって言うの!?」
一真の言葉に、あおいは愕然とした。
「…むしろ、偶然だからこそ、それ故のあの威力だろ」
自分の意思で操れるなら、もっと威力を抑えることが出来たはずだ。
「…つまり、カズ兄の好奇心は危険だってことだね」
「…否定出来ないのが辛いな」
あおいの結論に、一真は苦笑いしながら肯定する。
恐らく、一真がクロスに魔力を入れようとした時のティアの反応は、この辺りの話故の反応だったのだろう…
「それより、もっと強くイメージするコツとか無いの?」
「…何の話?」
「無言魔法!」
「あぁ…いや、いきなり話変えるから…」
流石の一真も一瞬、思考が追いつかなかった。
「そうだなぁ…今まであおいは、捕縛魔法のどんな部分をイメージしてた?」
「どんなって…ファナユフィから赤い帯が飛び出して、カズ兄の身体を捕縛するイメージ」
あおいの解答を聞いて、一真は微笑んだ。
「よし…なら次は、"どんな風に"ファナユフィから赤い帯が出て、"どんな風に"飛んで、"どんな風に"オレを捕縛するか…できるだけ具体的にイメージしてみろ」
「具体的に…」
「そう…必要なのは、具体的なイメージだよ」
「…」
一真の言葉を聞いたあおいは、器に残っていたご飯を口の中に掻き込んだ。
「…」
昼食後、既に30分が経過していた。
その間、あおいは1度も魔法を使っていない。ずっと、直立不動で目を瞑っている。
「…」
そんなあおいに、一真は何も言わない。知っているのだ。無言魔法に必要なイメージ…具体的なイメージを作るには、かなりの集中が重要だということを。そして…
("捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ…ティム=キャプル"!)
「!?」
あおいが目を開けた瞬間、ファナユフィが凄まじい輝きを見せる。
「…すげ…」
一真は驚嘆した。ファナユフィから放たれた赤い光の帯は、一真の身体に多重に巻き付いたのだ。
「…う…あ…」
次の瞬間、あおいがその場に崩れ落ちる。
("守護の名の元に…我に仇なす物を拒め!デリス=シェルク"!)
一真は無言で、盾の呪文を唱える。
あおいの背後に、微妙な角度で現れた盾が、倒れるあおいを上手い具合に誘導し、ゆっくりと床に横たえる。
「危ね…」
一真は安堵の息を吐き、あおいに掛けられた捕縛を解こうともがく。しかし…
「…"コンフェシオン"」
自力での脱出は不可能だと悟り、一真は直ぐにコンフェシオンを使った。
白い光が赤い帯を消し去った時、一真の頬を、冷たい汗が流れる。
「…」
一真にコンフェシオンを使わせた。あおいの捕縛魔法は、それほどまでに強力だった。
強力なイメージ…限界まで込められた魔力…
「…オレなんかより、ずっと才能あるよ…お前」
言いながら、一真はあおいの頭を優しく撫でる。
撫でられたあおいは、気を失いながらも、満足そうに微笑んだ。
…その夜、一真は悩んでいた。
麻美の家のテラスに出て、夜空を見上げ…考えているのは、あおいのことだ。
一真が手こずる程の捕縛魔法…それに加え、爆炎の剣並の魔法を覚えてしまったら…
「…恐い…」
何度想像しても、鳥肌が立つ。
あおいが気絶した後から、一真はそのことしか考えられなかった。
ソファーに座ったまま…あおいが目覚め、何か言っても、麻美が来て、怒られても…一真は、無反応だった。
「…」
正直…これ以上あおいを強くして良いものか…きっと、あおいはそれを望む…でもそれは、あおいを自分に限りなく近づけてしまう。
「…教えることが、多すぎる…」
そう言って、一真はため息を吐く。そして、思った。
自分には…人を育てる役目は向いて無い…
「…」
一真は無言で、自分の部屋に戻る。
明日から、もっと忙しくなる…そんな気がする…だから、一真は…
「…早く寝よ」
そう呟き、ベッドに潜り込んだ。
「兄さん、起きて下さい!」
「…ん…?」
翌朝…一真が目を覚ますと、ハウルの顔がそこにあった。
「おはようございます!」
「…何時?」
「えっと…6時です!」
「勘弁して…」
そう言って、一真は寝返りをうつ。しかし…
「兄さん!」
「うっ…」
ハウルは一真の上に馬乗りになり、一真の身体を揺らす。
「…お前、学校は?」
「今日は休日ですよ?」
「尚更、勘弁して…」
そう言いながらも、一真はぼんやりと目を開く。
「こんなに早くから、何をしろってんだよ…」
「修行です!」
即答された。しかし、一真はそれを予想していたようだ。
「ハウルは…あれだ、精神を鍛えろ」
「出来ればもっと具体的に…」
ハウルが、苦笑いしながらそう言うと…
「カズ兄ぃぃぃぃぃ!」
「あぁ…まぁたうるせぇのが来た…」
言いながら、一真はようやく上半身を起こす。すると…
「はぁ!」
「…え?」
一真の身体に、赤い光の帯が巻き付いた。更に…
「"閃光の名の元に…我に仇なす物を貫け"」
「!?ハウル!伏せろ!」
一真はハウルを突き飛ばし、テラスへ飛び出した。しかし…
「…うん、起きたみたいだね」
「…はぁ!?」
あおいは部屋から顔を出し、それだけ言って、部屋の中へ引っ込んだ。
「…」
いわゆる、寝起きドッキリ…一真は、唖然とするしか無かった。
そして、この数分後…早朝のルイズ・レーヴェルト家に、あおいの悲鳴が響き渡った。
「…修行ねぇ…」
午前7時…麻美の家から外に出た3人は、近くの公園に来ていた。
「…あおい、そんなに睨むな」
「…」
頭に出来たタンコブを撫でながら、あおいが一真を睨んでいた。すると…
「…はぁ!」
「甘い」
ファナユフィから放たれた赤い光の帯…一真に向かって放たれたそれは、一真の生成した緋色の盾に阻まれ、消えた。
「ちっ…」
「この野郎…」
睨み合う2人。それを見たハウルは…
「…えい!」
『え…』
あおいと一真は、同時に首をかしげる。
ファキュロスから放たれた黄色の光の帯が、一真の身体に巻き付いたのだ。
「ハウルちゃんナイス!そのまま抑えていてね?"閃光の名の元に…"」
「させるかぁ!」
一真は叫び、無理矢理に光の帯を引き千切った。
『…ちっ』
「ハウルまで!?何だってんだよ!」
2人に舌打ちされ、一真は戸惑いを隠せない。すると、あおいが笑顔を見せた。
「いやぁ…無言魔法を習得したことを証明しようと思っただけだよ?」
「悪ふざけが過ぎるってんだよ!」
あおいの言葉に、一真はため息も出なかった。
「…てか、ハウルまで…」
「特訓しましたから!」
ハウルは得意気に、胸を張った。しかし…
「いや…お前まで悪ふざけに参加するとは…兄さん、悲しいよ」
「えぇ!?あ、その…ごめんなさい!」
顔を真っ赤にし、ハウルは必死に一真に頭を下げる。
「…でもまぁ、2人とも良く習得したよ。ハウルは魔力のタメが甘いけどな」
「気をつけます…」
恥ずかしそうにうつ向くハウル。しかし、そんなことを気にせず…
「カズ兄!次は?」
あおいが言った。
「ん…次はかなり難しいぞ?見てろ…」
言いながら、一真はクロスをポケットから取り出した。
("捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ…デリス=キャプル")
「"守護の名の元に…我に仇なす物を拒め…デリス=シェルク"」
一真が詠唱すると、クロスから黒い光の帯が放たれ、あおいの身体に巻き付く。それと同時に、一真の前に緋色の盾が生成される。
「…何で捕縛…え?何で?」
不思議そうな顔をするあおいに、一真が種明かしをする。
「無言魔法と詠唱魔法…同時に使うんだよ」
「…なるほど、最終的に、この方法で捕縛と攻撃を同時に使うんですね?」
流石はハウルだ。一真の意図を、一発で理解したようだ。
「その通り。これを習得すれば、お前ら2人なら…麻美より強くなるかもな」
「本当!?」
満面の笑みで、喜びを露にするあおい。ハウルは無言だが、喜んでいるのが顔を見ればわかる。しかし…
「…ただ、その前に…お前らに聞きたいことがある」
喜ぶ2人に、一真は敢えて、水を挿した。
「聞きたいこと?」
「あぁ…お前らが強くなりたい理由を聞きたい」
一真はそう言って、公園のベンチに腰掛けた。
「強くなりたい理由…」
一真の言葉を、ハウルが復唱する。
「そう…お前らは、何の為に…何がしたくて、強さを求めるのか…それを教えてくれ」
『…』
2人は黙り込み、それぞれの答えを探しているようだ。
沈黙のまま…時間が経過していく。1分…5分…10分…そして…
「…私は、先ずは自分の身を守れるようになりたいです」
最初に口を開いたのは、ハウルだった。
「麻美姉の足手まといにはなりたく無いですし…出来るなら、皆を助けられるようになりたいです」
「…私も、ハウルちゃんと同じかな…」
眉をひそめながら、あおいは続ける。
「そりゃあ…私は、魔法にかっこよさを求めたりもしてるけど…1番は、大切な物を守りたいから…だよ?」
「…そうか…」
呟きながら、一真はベンチから立ち上がる。
「お前らの魔法は、自分を含めた大切な物を守るためにある…それを、絶対に忘れないでくれ」
『…』
2人は無言で、一真を真剣に見つめる。
「強い力は、それを扱う人間の想い次第で、守ることも、傷つけることも出来る…復讐とか、悲しいことの為に…お前らの強さは、使っちゃいけない。使わないって、約束出来るか?」
『はい!』
一真の言葉に、2人は同時に返事をする。それに、一真は微笑んだ。
「よし…それじゃあ、修行開始!」
『はい!"守護の名の元に…"』
返事をすると同時に、2人は詠唱を始めた。
一真は再び、ベンチに腰を下ろす。そして、空を見上げた。
(…まぁ、こいつらなら大丈夫かな…)
2人なら…人を悲しませるようなことはしない。
2人なら…復讐しようなんてことを考えない。
一真は、そう信じることにした。
この2人なら…かつての"自分の様には"ならないと…




