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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第六章 殲虹の魔術師は異世界で伝説になる。
50/66

5.殲虹は弟子を育てる。


翌日、一真は再び図書館を訪れていた。


日課であると同時に、今日は調べないといけないこともある。一真の属性だ。


「…」


一真は、固有魔法デリスについて書かれた本をかき集め、読み始める。しかし…


「…これにも無いか…」


かき集めた23冊の本のどれにも、属性のことは書かれていなかった。


「…むぅ…」


一真は腕組みをしながら、ソファーに横になった。


昨日の模擬戦で、水、雷、火の3つの属性を使えることはわかった。だが、その3つだけかどうかはわからない。


「…属性を知る方法…か…」


呟いてみて、一真はふと…テーブルの上にある小さい本に視線を向ける。


「…『属性診断』」


クロスを手に入れようと思ったきっかけになった本…一真はそれを手に取り、パラパラと捲る。


「…魔石を利き手に握り、属性呪文を唱える…すると、属性に合った光の玉が現れる…現れた物が、属性…」


子供向けの本らしく、解説は驚くほど単純だった。




属性呪文とは…


火ならファム、水ならアロア、雷はエルク…と言ったように、固有魔法の代わりの、属性さえ合えば誰でも使える初級魔法だ。



いくつか例を上げると…


火=ファム


水=アロア


風=クード


雷=エルク


光=ライズ


闇=ダール


土=グラル


霊=スピノ


無=フィノ



詠唱の例は…


砲撃の名の元に…我に仇なす物を撃ち抜け…ファム=ピアード


…と言った具合に、固有魔法の位置に入る。




「…ファム」


クロスを右手に握り、一真は属性呪文を唱える。


ファムを唱えると、一真の右手から赤い光の玉が現れた。


「アロア…エルク」


青い玉と黄色の玉…ここまでは、想定内だ。だが…


「クード…ライズ…ダール…グラル…スピノ…フィノ」


緑…白…黒…茶…紫…無色…


「…全部出るじゃん…」


辺りに漂う9つの球体を見て、一真は唖然とした。


「…どうやら、マスターは全ての属性を使えるようですね」


「そんなことってあるのか?」


クロスの言葉に、首をかしげる。


「過去に例があるかはわかりませんが…現にマスターは当事者です」


「…ごもっともだな」


一真は苦笑いし、クロスをテーブルの上に置いた。


9つの球体…それを見ているうちに、何故か…仲間達の顔が浮かんだ。


無…暖。


霊…豊。


土…重力と考えれば、恋華。


闇…沙織。


光……愛?


雷…勇気。


風…正義。


水…梨紅。


「…オレは火か…」


仲間達と離れ、2週間弱…やはり、一真も寂しいらしく、球体を見つめる表情に、何処か郷愁の想いが感じられる。


「…」


一真は、青い球体に右手を伸ばす。青い球体は、一真の右手の周りをクルクルと回り、他の球体の元に戻る。


「…はぁ…」


ため息を吐く一真。寂しさは増すばかりだ。そこへ…


「カズ兄、どうしたの?」


あおいが、部屋に入って来た。まだ午前中にも関わらずだ。一真は驚き、ソファーに座り直す。


「…お前、学校は?」


「早退」


あおいは即答し、一真の方に歩いて来た。


「具合悪いのか?」


「ううん、サボり」


「…小学生だよな?お前」


一真は、苦笑い気味に顔をしかめる。


「それよりカズ兄、この光って…」


あおいは、空中に漂う光を見て言った。


「属性呪文…」


「あぁ。これがオレの属性らしい」


そう言って、一真も光を見つめる。


「…なんで、そんな顔してるの?」


「え…」


あおいの言葉に、一真は首をかしげ、あおいの顔を見る。


「せっかく属性がわかったのに…こんなにたくさんの属性を使えるのに、カズ兄…凄く、悲しそうな顔してた」


「…」


あおいが鋭いのか、一真の顔がそれほどまでに悲し気だったのか…それは、定かでは無い。


「…元の世界のことを、思い出してな…」


「カズ兄の世界のこと?」


あおいの問いに、一真は頷いた。


「うん…それで、ちょっと…寂しくなった」


「…」


あおいは無言で、一真の隣に座る。そして…


「ん…」


一真の頭を優しく撫でた。


「昔、お母さんがよくこうしてくれたんだ」


「へぇ…そうなんだ」


「元気になった?」


「……………うん、なった…かも」


首をかしげるあおいに、一真は完全に作った笑顔でそう答える。


「…ありがとな」


「それじゃあ、修行に付き合って!」


「…は?」


そう言って立ち上がるあおいを見て、一真は眉をひそめる。



「昨日言ってた、2つの魔法を同時に使う修行!」


「あぁ、あれか…いや、お前まさか…」


「もちろん、修行の為に早退してきたんだよ」


胸を張るあおいを見て、一真は頭を抱える。


「…麻美に怒られる…」


「覚悟の上だよ!」


「オレも怒られるって話だ!」


ため息を吐き、一真はソファーに深く腰掛けた。


「…まぁ、過ぎた話はグチグチ言ってても仕方ない」


そう言って、一真はテーブルの上のクロスを手に取る。


「…出来るかな…」


「…?」


一真の呟きに、あおいが首をかしげる。そして…


("捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ…デリス=キャプル")


「なっ!」


突如、クロスから黒い光の帯が放たれ、あおいに巻き付いた。


「おぉ…出来た出来た」


「ちょっと!カズに…うわぁ!」


バランスを崩し、あおいはその場に仰向けに倒れてしまった。


「"レヴン"!」


一真はすぐに、魔法解除の呪文を唱える。


「痛たた…」


解放されたあおいは、お尻を擦りながら立ち上がった。


「今のは、無詠唱…オレの世界では、無言魔法って呼ばれる魔法だ」


「無言魔法…?」


「そう。心の中で詠唱するんだ」


一真に言われ、あおいは直ぐに、魔石をポケットから取り出し、試してみることにした。


("捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ…ティム=キャプル")


すると、ファナユフィが微かに光り、赤い光の糸を放った。


「おぉ…」


一真は驚嘆した。一発で成功するとは思っていなかったからだ。


糸は一真の身体に巻き付き、なんとか"捕縛"の形になった。


「やるな…魔法としての形にはちゃんとなってたぞ」


「…でも、糸じゃん…」


自分の魔法に、あおいは不満気だった。


「詠唱を口に出す出さないで、込める魔力の量も、魔法のイメージも、段違いだからな…」


言いながら一真は、自分にまとわり付く赤い糸を切った。


「もう1度やらせて!」


「当たり前だろ、修行なんだから…それが出来て初めて、次の段階に進めるんだぞ?」


「はい!」


返事と同時に、あおいは目を瞑る。そして…


「…残念」


ファナユフィから放たれたのは、またしても赤い糸だった。


「…もう1回!」


「頑張れ~」


一真は糸を切り、テーブルの上の本を取り、読書を再開した。






…2時間後。


「…マスター、お昼です」


「…昼…もう昼か…」


一真は珍しく、クロスの声に反応を示した。


それは、今一読書に集中出来ていなかったからだろう。


「…はぁ…はぁ…はぁ…」


あおいは汗だくで、息切れしていた。


「あおい、ちょっと休憩。昼飯食おうぜ?」


「はい…」


一真に返事をすると、あおいはその場に座り込んだ。


この2時間で、あおいは多少の成長を見せていた。


最初は、一真の周りを1周するだけだった糸が、2周、3周とするようになったのだ。


「魔力は徐々に込められるようになって来てる…後は、イメージだな」


「はい!」


多少でも成長が見られたのが嬉しいらしく、あおいは笑顔で一真に返事をした。




「…やっぱり、イメージするのが難しいよ」


司書により運ばれて来た料理を食べながら、あおいが言った。


「そうだな…オレが最初に無言魔法を使った時は、かなり必死だったよ」


愛の妹…友美の病気を治した時の一件だ。


「どんな魔法を?」


「位相跳躍…魔法陣から魔法陣へ移動する魔法なんだけど…疲れ切ってて口が上手く動かなくてな?魔法陣と、飛ぶ場所を必死に思い浮かべて、なんとか成功したんだ」


「へぇ…ちょっと意外。カズ兄は最初から何でも出来る天才なんだと思ってた…」


あおいの言葉に、一真は吹き出した。


「オレは天才じゃないよ。ただ、成り立ちとかその他諸々が少し特殊だっただけ」


「…成り立ち?」


「前世とか、環境とか…色々な」


そう言って、一真は料理を口に運ぶ。


「そもそもオレは、技術に関しては人並みの物しか持って無いんだよ。ただ、魔力量がずば抜けてて、想像力や考える力が他人より強い…」


「…技術って?」


「つまり、使う魔法は他の人と変わらない…普通の魔法ってこと」


「…いやいや!そんなこと無いよ!」


一真の言葉を、あおいは全力で否定する。


「魔石を2つ使っての属性付加なんて、この世界で誰も持って無い技術だよ!」


「あぁ…そりゃあまぁ、好奇心からの行動が偶然実を結ぶってことも稀にあるけど…」


「あの威力であくまで偶然だって言うの!?」


一真の言葉に、あおいは愕然とした。



「…むしろ、偶然だからこそ、それ故のあの威力だろ」


自分の意思で操れるなら、もっと威力を抑えることが出来たはずだ。


「…つまり、カズ兄の好奇心は危険だってことだね」


「…否定出来ないのが辛いな」


あおいの結論に、一真は苦笑いしながら肯定する。


恐らく、一真がクロスに魔力を入れようとした時のティアの反応は、この辺りの話故の反応だったのだろう…


「それより、もっと強くイメージするコツとか無いの?」


「…何の話?」


「無言魔法!」


「あぁ…いや、いきなり話変えるから…」


流石の一真も一瞬、思考が追いつかなかった。


「そうだなぁ…今まであおいは、捕縛魔法のどんな部分をイメージしてた?」


「どんなって…ファナユフィから赤い帯が飛び出して、カズ兄の身体を捕縛するイメージ」


あおいの解答を聞いて、一真は微笑んだ。


「よし…なら次は、"どんな風に"ファナユフィから赤い帯が出て、"どんな風に"飛んで、"どんな風に"オレを捕縛するか…できるだけ具体的にイメージしてみろ」


「具体的に…」


「そう…必要なのは、具体的なイメージだよ」


「…」


一真の言葉を聞いたあおいは、器に残っていたご飯を口の中に掻き込んだ。




「…」


昼食後、既に30分が経過していた。


その間、あおいは1度も魔法を使っていない。ずっと、直立不動で目を瞑っている。


「…」


そんなあおいに、一真は何も言わない。知っているのだ。無言魔法に必要なイメージ…具体的なイメージを作るには、かなりの集中が重要だということを。そして…


("捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ…ティム=キャプル"!)


「!?」


あおいが目を開けた瞬間、ファナユフィが凄まじい輝きを見せる。


「…すげ…」


一真は驚嘆した。ファナユフィから放たれた赤い光の帯は、一真の身体に多重に巻き付いたのだ。


「…う…あ…」


次の瞬間、あおいがその場に崩れ落ちる。


("守護の名の元に…我に仇なす物を拒め!デリス=シェルク"!)


一真は無言で、盾の呪文を唱える。


あおいの背後に、微妙な角度で現れた盾が、倒れるあおいを上手い具合に誘導し、ゆっくりと床に横たえる。


「危ね…」


一真は安堵の息を吐き、あおいに掛けられた捕縛を解こうともがく。しかし…


「…"コンフェシオン"」


自力での脱出は不可能だと悟り、一真は直ぐにコンフェシオンを使った。


白い光が赤い帯を消し去った時、一真の頬を、冷たい汗が流れる。


「…」


一真にコンフェシオンを使わせた。あおいの捕縛魔法は、それほどまでに強力だった。


強力なイメージ…限界まで込められた魔力…


「…オレなんかより、ずっと才能あるよ…お前」


言いながら、一真はあおいの頭を優しく撫でる。


撫でられたあおいは、気を失いながらも、満足そうに微笑んだ。




…その夜、一真は悩んでいた。


麻美の家のテラスに出て、夜空を見上げ…考えているのは、あおいのことだ。


一真が手こずる程の捕縛魔法…それに加え、爆炎の剣並の魔法を覚えてしまったら…


「…恐い…」


何度想像しても、鳥肌が立つ。


あおいが気絶した後から、一真はそのことしか考えられなかった。


ソファーに座ったまま…あおいが目覚め、何か言っても、麻美が来て、怒られても…一真は、無反応だった。


「…」


正直…これ以上あおいを強くして良いものか…きっと、あおいはそれを望む…でもそれは、あおいを自分に限りなく近づけてしまう。


「…教えることが、多すぎる…」


そう言って、一真はため息を吐く。そして、思った。




自分には…人を育てる役目は向いて無い…




「…」


一真は無言で、自分の部屋に戻る。


明日から、もっと忙しくなる…そんな気がする…だから、一真は…


「…早く寝よ」


そう呟き、ベッドに潜り込んだ。



「兄さん、起きて下さい!」


「…ん…?」


翌朝…一真が目を覚ますと、ハウルの顔がそこにあった。


「おはようございます!」


「…何時?」


「えっと…6時です!」


「勘弁して…」


そう言って、一真は寝返りをうつ。しかし…


「兄さん!」


「うっ…」


ハウルは一真の上に馬乗りになり、一真の身体を揺らす。


「…お前、学校は?」


「今日は休日ですよ?」


「尚更、勘弁して…」


そう言いながらも、一真はぼんやりと目を開く。


「こんなに早くから、何をしろってんだよ…」


「修行です!」


即答された。しかし、一真はそれを予想していたようだ。


「ハウルは…あれだ、精神を鍛えろ」


「出来ればもっと具体的に…」


ハウルが、苦笑いしながらそう言うと…


「カズ兄ぃぃぃぃぃ!」


「あぁ…まぁたうるせぇのが来た…」


言いながら、一真はようやく上半身を起こす。すると…


「はぁ!」


「…え?」


一真の身体に、赤い光の帯が巻き付いた。更に…


「"閃光の名の元に…我に仇なす物を貫け"」


「!?ハウル!伏せろ!」


一真はハウルを突き飛ばし、テラスへ飛び出した。しかし…


「…うん、起きたみたいだね」


「…はぁ!?」


あおいは部屋から顔を出し、それだけ言って、部屋の中へ引っ込んだ。


「…」


いわゆる、寝起きドッキリ…一真は、唖然とするしか無かった。


そして、この数分後…早朝のルイズ・レーヴェルト家に、あおいの悲鳴が響き渡った。






「…修行ねぇ…」


午前7時…麻美の家から外に出た3人は、近くの公園に来ていた。


「…あおい、そんなに睨むな」


「…」


頭に出来たタンコブを撫でながら、あおいが一真を睨んでいた。すると…


「…はぁ!」


「甘い」


ファナユフィから放たれた赤い光の帯…一真に向かって放たれたそれは、一真の生成した緋色の盾に阻まれ、消えた。


「ちっ…」


「この野郎…」


睨み合う2人。それを見たハウルは…


「…えい!」


『え…』


あおいと一真は、同時に首をかしげる。


ファキュロスから放たれた黄色の光の帯が、一真の身体に巻き付いたのだ。


「ハウルちゃんナイス!そのまま抑えていてね?"閃光の名の元に…"」


「させるかぁ!」


一真は叫び、無理矢理に光の帯を引き千切った。


『…ちっ』


「ハウルまで!?何だってんだよ!」


2人に舌打ちされ、一真は戸惑いを隠せない。すると、あおいが笑顔を見せた。


「いやぁ…無言魔法を習得したことを証明しようと思っただけだよ?」


「悪ふざけが過ぎるってんだよ!」


あおいの言葉に、一真はため息も出なかった。


「…てか、ハウルまで…」


「特訓しましたから!」


ハウルは得意気に、胸を張った。しかし…


「いや…お前まで悪ふざけに参加するとは…兄さん、悲しいよ」


「えぇ!?あ、その…ごめんなさい!」


顔を真っ赤にし、ハウルは必死に一真に頭を下げる。


「…でもまぁ、2人とも良く習得したよ。ハウルは魔力のタメが甘いけどな」


「気をつけます…」


恥ずかしそうにうつ向くハウル。しかし、そんなことを気にせず…


「カズ兄!次は?」


あおいが言った。


「ん…次はかなり難しいぞ?見てろ…」


言いながら、一真はクロスをポケットから取り出した。


("捕縛の名の元に…我に仇なす物を捕らえよ…デリス=キャプル")

「"守護の名の元に…我に仇なす物を拒め…デリス=シェルク"」


一真が詠唱すると、クロスから黒い光の帯が放たれ、あおいの身体に巻き付く。それと同時に、一真の前に緋色の盾が生成される。


「…何で捕縛…え?何で?」


不思議そうな顔をするあおいに、一真が種明かしをする。


「無言魔法と詠唱魔法…同時に使うんだよ」


「…なるほど、最終的に、この方法で捕縛と攻撃を同時に使うんですね?」


流石はハウルだ。一真の意図を、一発で理解したようだ。


「その通り。これを習得すれば、お前ら2人なら…麻美より強くなるかもな」


「本当!?」


満面の笑みで、喜びを露にするあおい。ハウルは無言だが、喜んでいるのが顔を見ればわかる。しかし…


「…ただ、その前に…お前らに聞きたいことがある」


喜ぶ2人に、一真は敢えて、水を挿した。


「聞きたいこと?」


「あぁ…お前らが強くなりたい理由を聞きたい」


一真はそう言って、公園のベンチに腰掛けた。



「強くなりたい理由…」


一真の言葉を、ハウルが復唱する。


「そう…お前らは、何の為に…何がしたくて、強さを求めるのか…それを教えてくれ」


『…』


2人は黙り込み、それぞれの答えを探しているようだ。


沈黙のまま…時間が経過していく。1分…5分…10分…そして…


「…私は、先ずは自分の身を守れるようになりたいです」


最初に口を開いたのは、ハウルだった。


「麻美姉の足手まといにはなりたく無いですし…出来るなら、皆を助けられるようになりたいです」


「…私も、ハウルちゃんと同じかな…」


眉をひそめながら、あおいは続ける。


「そりゃあ…私は、魔法にかっこよさを求めたりもしてるけど…1番は、大切な物を守りたいから…だよ?」


「…そうか…」


呟きながら、一真はベンチから立ち上がる。


「お前らの魔法は、自分を含めた大切な物を守るためにある…それを、絶対に忘れないでくれ」


『…』


2人は無言で、一真を真剣に見つめる。


「強い力は、それを扱う人間の想い次第で、守ることも、傷つけることも出来る…復讐とか、悲しいことの為に…お前らの強さは、使っちゃいけない。使わないって、約束出来るか?」


『はい!』


一真の言葉に、2人は同時に返事をする。それに、一真は微笑んだ。


「よし…それじゃあ、修行開始!」


『はい!"守護の名の元に…"』


返事をすると同時に、2人は詠唱を始めた。


一真は再び、ベンチに腰を下ろす。そして、空を見上げた。


(…まぁ、こいつらなら大丈夫かな…)


2人なら…人を悲しませるようなことはしない。


2人なら…復讐しようなんてことを考えない。


一真は、そう信じることにした。


この2人なら…かつての"自分の様には"ならないと…



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