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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第六章 殲虹の魔術師は異世界で伝説になる。
47/66

2.殲虹は預言者と出会う。


聖堂を出ると、緑溢れる中庭になっていた。


「きゃぁぁぁ!!」


…そして、おそらくここの職員であろう方達が、マウンに襲われていた。


「2…4…6……20か…"エアロ"×5」


空中に浮かぶマウンの数を把握した一真は、手元に5つの魔法陣を生成し、空気の弾を放った。


一真はまず、空気の弾の1つを手近なマウンに当ててみる。


しかし、破壊するまでには至らない…


同じマウンにもう一度当ててみると、今度は破壊でき、マウンは爆発した。


「エアロで二発か…"ランス"!」


一真が言うと、空気の弾の一つの形が変わり、槍のように鋭くなった。


ランスは近くのマウンを貫通し、マウンは爆発した。


「…使い方次第で、エアロ一発か…"ランス"」


一真は、残り二つの空気の弾も槍のように鋭くし、二体のマウンを破壊した。


「あ…ありがとうございます!」


マウンに追われていた女性職員が、一真の所へ駆けて来た。


「オレの後ろに下がってて下さい」


「は…はい…」


一真に言われ、女性職員は一真の後ろに下がった。


「…残り16体か…てか、凄いなこの世界…使っても使っても、魔力が全然減らねぇ」


一真は右手を前に出し、魔法陣を生成した。それと同時に、生成に使った魔力が補填される。


「大気の魔力か…"エアロ・ランス"×16」


一真の声に従って、16個の魔法陣から1つずつ、空気の槍が飛び出して来た。


空気の槍はマウンに向かって飛んで行き、対象を貫き…爆発。


「…ちっ…」


一真が舌打ちした。どうやら、1発外したようだ。


マウンが一真にビームを放って来た。


「"プロテクション"!」


一真は目の前に、守護の魔法陣を生成し、ビームを防いだ。すると、


「"槍帯の名の元に、我に仇なす者を貫け…ピルト=ランベル"!」


一真の背後から桃色の光の帯が飛び出し、最後のマウンを貫いた。


「…麻美?」


一真は振り向き、首をかしげた。


「本来は私の仕事だからね」


一真の視線の先には、杖を構えた麻美が立っていた。その杖の先から、桃色の光が伸びている。


「それが麻美の魔法?」


「そうよ、属性は光。魔石の名前は、フェノアールト」


「へぇ、属性分けもしっかりされてんだ…」


一真は感心したように、数回頷いた。


「そっちの世界では、属性分けもランク分けもしてないの?」


「多分…少なくとも、オレは聞いた事ないなぁ…」


二人が会話をする中、マウンに追われていた職員達が、一真達の所へ集まって来た。


「…麻美、この人達どうする?」


「そうだね…まず、一真の意見から聞きたいかな」


「オレならこのまま連れて行く」


一真は即答した。


「…理由は?」


「オレは、宇宙人がどんだけの戦力を持ってるか知らないけど…もし、この建物を軽々吹き飛ばすような兵器を持っていたなら、連れて行く方が断然安全だと思う」


「…うん、的確な判断だと思う」


麻美は納得し、頷いた。すると、


「麻美姉ちゃん!カズ兄ちゃん!」


聖堂の方から、杖を持ったあおいとハウルが、走って来た。


「奥には誰もいなかったよ!」


「マウンもいませんでした」


二人は麻美と一真に敬礼する。


「二人とも、ご苦労様」


「…?カズ兄ちゃんって…何だよ突然」


一真が首をかしげつつ、あおいに言った。


「いや、別に!カズ兄ちゃんが強いから、こびを売ろうなんて考えてるわけじゃないから!」


「バレバレだよあおい…」


「いい性格してんなぁお前…」


あおいの明らかな虚言に、一真とハウルは苦笑した。


「…さぁ、そろそろ行くよ?」


麻美が先頭に立ち、一真達は職員を引き連れ歩き出した。






…20分後。






「"ブレイズ・キャノン"!」


一真の手から火の玉が飛び出し、三体のマウンを破壊した。


「弱ッ!やっぱ、一度に使える魔力量が少ねぇな…てか、この建物広すぎだから!出口まだか!?」


一真が、最後方にいる麻美に言った。


「"ピルト=ランベル"!………あと少しだよ、次のT字路を右に曲がって直進すれば出口」


「…てか、職員残りすぎじゃね!?」


一真が後ろを振り向く…


最初は十人前後だった職員達も、その人数が今では三桁に達していた。


「仕方ないよ、不意打ちされたんだもん…」


そう言って、麻美は苦笑した。


現在、先頭は一真とあおい…最後尾は麻美とハウルが守っており、その間に職員達がぞろぞろと歩いているのだが…


(…見せ物じゃねぇぞ…)


彼らは、一真が魔法を使う度にどよめくので、一真は内心、かなり恥ずかしかったりするのだ。


「…カズ兄ちゃん、来るよ!」


そんな一真の心情を無視し、あおいが一真に言う。前方から、三体のマウンが向かって来ていた。


「…あおい、お前がやってみろよ」


一真はさりげなく、魔法を使うのを拒んだ。


「…えぇ!?なんでいきなり…」


「いや、お前はどのくらい強いのかな?って…」


頬を掻きながら、一真は言った。


「ちなみに、ランクは?」


「…Bクラス」


「属性は?」


「基本は水で、後は…光と土、雷を少々…」


「へぇ…じゃあ、攻撃に使える魔法…」


「質問は後にしてよ!来るって言ってんじゃん!」


自分を質問攻めにする一真に、あおいは叫ぶ。すると、


「"サスペンド"」


一真はマウンに左手を伸ばし、停止の呪文を唱える。


マウンはその場に停止し、動かなくなった。


「…で、攻撃に使える魔法は?」


「…え?えっと…一種類…あ…」


一真の魔法に驚きつつ、あおいは答えた。そして、答えたことに後悔した。


「少な!」


「うるさぁい!」


あおいは顔を真っ赤にして、杖で一真に殴りかかった。


「あ、悪い…思わず…」


一真はそう言って、あおいの杖を掴んだ。


「…お詫びに、水の魔法を見せてやるよ」


そして、一真は高速で魔法陣を描き始めた。


「………よし、即席だけど問題ないだろ…"アクア・スラッシュ"!」


一真が完成させた魔法陣から、水の刃が放たれた。


横に一列に並んでいたマウンは、三体そろって真っ二つになり、爆発した。


おぉぉぉ…


(…結局使ってるし…しかも二回…)


職員達がどよめき、一真は顔をしかめた。


「凄ぉい!水って、補助専門の魔法なのに…」


あおいは驚き、目を丸くしながら言った。


「…そんなの偏見だって、どんな魔法も使い方次第さ」


一真がそう言った所で、出口が見えて来た。




「…」


外に出た一真は、わかりやすく嫌そうな顔をした。


空を埋め尽くす程のマウンが、そこにいたからだ。


「…重野がいればなぁ…」


一真は思わずぼやいた。確かに、恋華がいれば重力でマウンを集めることが出来るだろう…しかし、ここは異世界だ。恋華どころか、MBSF研究会のメンバーは一真しかいない。


「…あおい?お前、マウンを集められる魔法とか持ってない?」


「持ってない!」


「無駄に元気良く答えんなよ…」


一真が苦笑いする中…ようやく、職員達と麻美達が出てきた。


「麻美、マウンを集められる魔法とか…」


「持ってない」


あおいを上回る即答だった。


「…ハウルは?」


「持ってないです…すいません」

「いや、気にしないで良いよ…とりあえず、三人で職員を安全な場所に避難させてくれ」


そう言って、一真は空のマウンを見上げる。




『ちょっと待った!』


一真の言葉に、3人がストップをかけた。


「…何?」


「何って…一真はどうするの?」


「マウンの足止め」


一真は、当然だろ?と言わんばかりに、麻美に言った。


「駄目だよ!そんな危険な…」


「じゃあ、マウンに見つかる可能性が高い状態のまま、この人数でぞろぞろ避難すんの?流石に守りきれねぇって…」


「…」


一真の言葉を、麻美は否定出来なかった。確かに、足止めは必要だ。


「…それなら、私が足止め…」


「馬鹿…子供2人に、土地勘の無いオレだぞ?いざって時に、地の利を活かせる人間が必要だろう」


「…」


これもまた、否定出来ない事実だった。


「…カズ兄ちゃん、大丈夫?」


あおいが、心配そうに言った。


「大丈夫に決まってんだろ?余裕だ余裕」


一真はそう言って、あおいの頭を撫でる。


「2人とも、麻美のサポート頼んだぞ?」


「はい、了解です」


「…うん」


一真の言葉に、ハウルとあおいは頷いた。


「よし…麻美、頼むぞ」


「…わかった。その代わり、絶対に死んじゃ駄目だよ?」


「当たり前じゃん。死にたくねぇもん」


一真はそう言って、ひらひらと手を振って見せる。


「ん…それじゃあ、先頭はあおいとハウルね。行こうか」


『はい!』


あおいとハウルは先頭に立ち、職員を率いて歩き始めた。


「…避難が終わったら、すぐに戻って来るね」


そう言って、麻美は列の最後尾に付いた。


麻美の言葉に、一真は無言で、軽く手を振って応えた。




「…よし、行くか!」


麻美達が見えなくなると、一真は軽く身体をほぐし、気合いを入れる。しかし…


「"ソアー・フェザ…"あれ?」


飛翔の魔法が、発動しない。


「…おい、嘘だろ?」


ソアー・フェザーの魔法陣を見て、一真は頭を抱えた。


途中までしか描けていないのだ。おそらく、魔力不足が原因だろう。


更に、悪いことは続く…


「…!うぉわ!」


一真に向かって、空のマウンがビームを放って来た。どうやら、失敗したとはいえ、魔法を使おうとしたので、発見されたらしい。


「…最悪だ…」


一真は、ため息を吐いた。しかし、足止めという当初の目的は、どうやら果たせそうだ。


「足止めで死ぬなんて洒落になんねぇよ…"リミット・エクシード"!」


一真は肉体強化の魔法を使用する。どうやら、こちらは成功したようだ。


「…てか、逃げ回るしか無いとかありえねぇだろ…」


一真はひたすら、マウンからの攻撃を避け続ける。


時に、身体を捻り…時に、跳躍し…一真は、一心不乱に避け続ける。


「…せめて、何か武器が…武器…?」


自分の呟きに、一真は首をかしげる。


「…あるかも、武器」


一真はそう言って、走りながら自分の右手を見つめた。そして…


「来い…来いよ…」


一真は、祈るようにそう呟き、叫んだ。


「"紅蓮・華颶夜姫"!」


…それは、緋色の大剣。そう…一真が、自分の世界から唯一持って来ていた、相棒…


一真は、自分の右手から現れた紅蓮・華颶夜姫を、全力で振り抜いた。


刀身から、緋色の三日月型の刃が飛び出し、4体のマウンを切り裂いた。


「"緋の三日月"…」


呟き、一真はニヤリと笑った。そして、マウンに向かって走り出す。


当然、マウンは一真にビームを放ってくる。しかし、一真の手には紅蓮・華颶夜姫がある。


「…ふっ!」


一真はビームを、紅蓮・華颶夜姫で切り裂いた。さらに…


「"ソアー・フェザー"!」


華颶夜姫を地面に突き刺し、一真は再び、飛翔の魔法陣を生成する。


紅蓮・華颶夜姫は退魔刀の変化した物…マウンのビームから魔力を吸収し、魔法陣の生成に活用したのだ。


一真の両足に魔法陣が集束し、一真の足が緋色に輝いた。


「っしゃ!成功…」


一真は華颶夜姫を構え、マウンに向かって飛翔した。


「…」


一真と別れた麻美達は、職員を連れて、防衛局から離れた森の中に到着した。


その森の中から、局の上空に浮かぶマウンが見えるのだが…


「…!?」


その数が、一気に減った。減ったのは1割ぐらい…約200体だろう。


しかし、これで終わりはしなかった…大きな爆発が収まると、今度は小さな爆発が頻繁に始まった。


(…まさか、1体ずつ近距離で?)


麻美がそう考えるや否や、緋色の三日月が姿を現し、またマウンが爆発する。


「…」


唖然とするしかなかった…確かに、やろうと思えば麻美にも出来るだろうが…それは、魔石や杖、呪文を使えばの話だ。


杖も呪文も使わない…魔石に至っては、知りもしなかった…そのくせ、AAランクの魔法を簡単に使って見せる…


「…化物…」


そうとしか、言い様が無かった。


真っ赤な三日月…


橙色の炎…


黄色の光…


緑の竜巻…


青い吹雪…


藍色の渦…


紫色の水晶…


「虹みたいだね…」


「綺麗…」


あおいやハウルだけではない…避難して来た職員も、一真の使う多彩な魔法に見とれていた。


「…全てを殲滅する虹…」


誰かがそう呟いた。


「殲滅する虹…"殲虹"…か…」


呟きを受け、麻美が言った。


これが後に、一真が"殲虹-センコウ-の魔術師"と呼ばれる事になる、由縁である。






「"ブレイク"!」


指を鳴らしながら、一真が叫ぶ。


紫色の水晶…アシッド・クリスタルが弾け、酸の水晶の欠片が飛散する。


欠片に当たったマウンは、爆発したり、ショートして落下していったりと、確実に破壊されていく。


「ふぅ…ようやく半分ぐらいか?」


一真は空中に静止し、辺りを見回す。


マウンのビームを華颶夜姫で吸収。


吸収した魔力で魔法陣を生成。


魔法発動。


さっきからずっと、これの繰り返しだ。


しかし、繰り返す中でわかったことがある。今の一真の、魔法使用に関する状況だ。




使った瞬間に使った魔力が補填されるとはいえ、一度に使える魔力は限られている。


例えるなら、今の一真のMPが20だとしよう。エアロの魔法陣生成に1、ファイアリィの生成に15、MPを消費すると考える。


エアロの魔法陣なら、最大20個同時に生成出来る。しかし、ファイアリィは1度に1発が限界である。


ちなみに、MP21以上の魔法の場合…


例えば先程の"ブレイズ・キャノン"。この魔法は本来、50の魔力を使用する魔法だと仮定する。


しかし、一真のMPは20…RPGなら「MPが足りない!」と、表示される所だ。


だが一真は"ブレイズ・キャノン"を放った。これは、"真言魔法"だからこそ成せることだ。


"魔法陣魔法"の魔法陣を描く場合、生成に必要な魔力は固定されているので、魔力が足りない場合、魔法陣も途中までしか描けない。つまり、失敗だ。


だが、"真言魔法"は違う。


例え、本来の姿がMP50を消費するとしても、20の魔力なら20の魔力分の姿になるのだ。


しかし当然、威力もそれなりに下がるわけだ。


だが一真は、いわゆる上級の"魔法陣魔法"の使用を、紅蓮・華颶夜姫によって可能にした。


どうやら、マウンのビームのMPは15~20…ビーム1発で、ファイアリィ並の魔力を消費しているらしい。


つまり、マウンのビームを2~3発、紅蓮・華颶夜姫に吸収させれば…




「"ブレイズ・キャノン"!」


一真は言いながら、紅蓮・華颶夜姫を振り抜く。


すると、華颶夜姫から巨大な火の玉が放たれ、大量のマウンを破壊した。




このように、本来の"ブレイズ・キャノン"を放つことも可能になるのだ。




「…とはいえ、まだまだ数が多いな…」


一真は空中に静止し、辺りを見回す。


「…ん?」


首をかしげつつ、一真は眉をひそめた。


1部のマウンが、一真から離れた所で、1ヶ所に集中し始めていたのだ。


「…もしかして、合体?…うわぁ…凉音あたりが喜びそうだな」


そして間もなく、全てのマウンは合体し、変型し、巨大な大砲になった。


「…センス無ぇ…凉音あたりが発狂しそうだ」


愛の怒りの形相を想像しつつ、一真自身、がっかりしたような表情になった。


巨大な大砲は、ところどころ綻びが見えた。おそらく、2000体のマウンがいて初めて完全になる予定だったのだろう…


しかし、問題があるのは装飾だけで、砲撃は出来るようだ。大砲の中に魔力が集まり始め、照準が一真に合わせられた。


「…まずいな…」


一真は、背後をチラッと見て呟いた。


一真の背後には、防衛局がある。おそらく、この世界ではかなり…価値のある建物だろう。重要度は、こちらの国会議事堂に匹敵するかもしれない。


「守るしか無いか…いや、違うか…」


言いながら、一真は紅蓮・華颶夜姫をマウン製の大砲に向けた。


「壊すしかない…だな」



「…"ディバイン・バスター…」


一真は、紅蓮・華颶夜姫を中心に、ディバイン・バスターの魔法陣を生成した。しかし、内側の魔法陣は生成出来ていない。


「…内側なら…」


一真は呟きながら、体内の魔力で内側の魔法陣を生成する。


「よし!…あれ?」


魔法陣は完成した。しかし、一真は違和感を感じた。


完成した魔法陣が、徐々に…薄れていくのだ。


「ヤバ…純粋な退魔力に耐えられてねぇじゃん!」


純粋な魔力と、純粋な退魔力…完全に、水と油だ。


「えっと…あ、"梨紅の魔力"だ!」


一真は咄嗟に、"梨紅の魔力"を薄く伸ばし、バスターの魔法陣をコーティングする。


どうやら、上手くいったようだ。魔法陣は色を取り戻し、一真は額の汗を拭った。


それと同時に、マウン製の大砲から、紫色の光線が放たれた。


「えぇ!?早っ!」


一真は焦った。まだ、内側の魔法陣に文字を入れていないのだ。


「どうするよオレ…どうすんだよ…!」


一真は悩み、悩んだ末に、高速で指を動かし、ディバイン・バスターの内側に、文字を刻み、放った。


「"ディバイン・バスター=コンフェシオン"!!!」


一真は叫んだ。それと同時に、轟音が辺りを揺らす。


バスターでコンフェシオンを放ったようなもの…そして奇しくも、純粋な魔力で純粋な退魔力を放つこの魔法は、遥か昔…ナイトとエリ-が、同族に放った物と同じ仕組みだった。


当然…そして容易に、紫色の光線とマウンで出来た大砲は…純白の光線により、跡形もなく消し飛んだ。



「…すげ…」


一真は、自分の放った魔法の威力に驚愕した。そして…


「ん…?っく!」


動悸…そして、突然の息苦しさが、一真を襲った。


一真の意識が、遠のく…






「…」


そこは、純白と漆黒に支配された空間…一真の心の中だ。


そこにあるのはもちろん、8つの台座に刺さった、7本の剣…


「…ん?」


一真は首をかしげた。7本の剣のうちの1本…"第二の封印"が、光を放っているのだ。


一真は、恐る恐る封印に近づいていき、剣の柄を掴む。すると…


「…うぉっ…」


剣は、いとも簡単に台座から抜けた。前回は抜けなかった剣が、今回は抜けたのだ。


そして、台座から魔力が溢れ出した。


そして再び…一真の意識は現実へ戻っていく。







「…は?」


一真は首をかしげた。空が下にあって、地面が上にあったからだ。


「…あぁぁぁぁぁぁぁ…」


一真は、落下していた。頭から、地上へと…


しかし、今の一真には何の問題も無い。なにしろ、封印を更に解放したのだ…飛翔魔法程度なら、使えるだろう。


「カズ兄ちゃん!!」


…しかし、一真が魔法を使うよりも先に、一真を呼ぶ声が聞こえた。


「…?」


一真が振り向くと、腰から白い翼を生やしたあおいが飛んでいた。


「"捕縛の名の元に、我に仇なす者を捕らえよ!ティム=キャプル"!」


あおいの杖から、黄緑色の光の帯が飛び出し、一真の身体に巻き付いた。


「おぉ…サンキューあおい、助かった」


「どういたしまして!」


あおいは得意気に胸を張って見せた。


「それにしても…本当に1人でやっつけちゃうなんて…」


言いながら、あおいは一真をたぐりよせる。


「言ったろ?大丈夫だって」


「確かに言われたけど、そんなの信じられるわけ…」


「んじゃ、これからは信じろよ?」


そう言って、一真はニヤリと笑った。


「…信じるなって方が、無理だよ」


一真の言葉に応え、あおいは苦笑した。すると…


「一真、無事?」


「あおい!」


一真とあおいのもとに、腰から桃色の翼を生やした麻美と、黒い翼を生やしたハウルがやって来た。


「無事だよ!」


「説得力ないけどな…」


黄緑色の光で吊るされた一真は、顔をしかめる。


「まったく…あおいったら、突然飛んで行くんだから」


ハウルは頬を膨らませ、あおいに言った。


「で…でも、そのおかげでカズ兄ちゃんは助かったんだよ?ねぇ?そうだよね?」


あおいは必死に、一真に助けを求める。


「…まぁな」


「ほらぁ!」


一真の肯定に、あおいは嬉しそうに胸を張った。


「何にしても、無事で良かったわ」


そう言って、麻美は深く息を吐き出した。


「そろそろ下に降りようか…一真、飛べるよね?」


「あぁ…"ソアー・フェザー"」


一真の足元に、飛翔の魔法陣が生成された。


「どこに降りれば良い?」


黄緑色の光から解放された一真は、麻美に聞いた。


「そうね…私に着いてきてくれれば良いわ」


そう言って、麻美はゆっくり降下を始めた。




「…誰に会えって?」


一真は首をかしげつつ、麻美に聞き返す。


「だから、予言者ティア様だよ」


宙に浮いたまま、麻美は応えた。



地上に降りた一真達は、防衛局の後方にある、巨大な建物へ向かっていた。


そこに、予言者がいるらしい。



「…会ってどうしろと?」


「一真のこれからの事を聞くの。一真が"聖なる魔を放つ者"なら、ティア様のお導きがあるはずだからね」


「…はぁ…」


麻美の言葉に、一真はため息を吐いた。



防衛局の後方…そこにあったのは、巨大な城だった。


「…王様でも住んでんのか…」


一真は城を見上げ、口をポカンと開けたまま呟いた。


「ううん、王様が住んでる城…ベルベオン城は、ティア様の城の後ろの城だよ」


「…"ソアー・フェザー"」


麻美の言葉を聞いて、一真は飛翔魔法を使い、舞い上がった。


「…マジかよ」


手前の城のてっぺんに着地した一真は、先程ポカンと開いていた口を、更に広げていた。


予言者の城のてっぺんから見上げる程、後ろの城…ベルベオン城は大きかったのだ。


「凄いでしょ?この世界で1番大きな建造物なんだよ」


一真の隣に飛んで来た麻美が、ベルベオン城を見上げながら言った。


「…富士山の半分ぐらい…か…?」


「富士山?何?」


「こっちの世界の山の名前。オレの国で1番でかい山」


言いながら、一真は足下の城を見下ろす。


「…そう考えると、こっちの城は小さく感じるな…」


「ティア様は謙虚なの!城なんか必要ないっておっしゃってたもの」


「なら、なんで建ってんだよ」


地上へ向かいながら、一真が呟く。


「ティア様がおっしゃった時には、既にこの城は建ってたの。王様の命令のあと、一晩で建てたからね」


「仕事早すぎんだろ…迷惑な程早いぞ、それ」


一真は顔をしかめ、地上に降り立った。


「カズ兄ちゃん、ベルベオン城はどうだった?」


「あぁ…でか過ぎて、首が痛くなる」


あおいの質問に応え、一真は首に手を添え、首を回した。


「…じゃ、会いに行きますか…予言者に」


「…もうちょっとピシッと出来ないかな?これから、偉い人に会うんだから」


気だるげな様子の一真の前に着地しながら、麻美が眉をひそめつつ言った。


「大丈夫だって、ポーカーフェイスは得意だから」


「…ポーカーフェイスって?」


「良いから行こうぜ、待たせたら悪いだろ?」


「え…ちょっ、押さないでよ、わかったから!」


麻美の質問を受け流し、一真は麻美の背中を押し、歩くように促した。






「…なんか、暗いな…」


城の中に入った一真は、城内の雰囲気に眉をひそめた。


城内はとても暗く、たいまつの炎が不気味に揺れている。壁に描かれた魔法陣は、ほとんどが魔除けのようだ。


「…なんで魔除けの魔法陣ばっかり…」


「…一真、壁の魔法陣が何の魔法陣かわかるの?」


麻美が、不思議そうに首をかしげる。


「ん…なんとなくな…」


一真は危なく"真眼"の存在をばらす所だった。間一髪だ。


「なんとなくでも凄いよ…この世界の魔法学者は、誰もわからなかったんだから」


「知識だけはあるもんでね…でも、ぼんやりとしかわからないよ」


これは本当だった。真眼を持ってしても、完璧には解析できなかった。


どうやら、予言者ティアは相当なやり手のようだ。


「この先にティア様がいらっしゃるわ…一真、失礼の無いようにね」


麻美は、大きな扉の前で立ち止まり、一真を振り返って厳重に注意する。


「わかってるっての…」


うんざりした様子で、一真は適当に返事をした。


「…じゃあ、行くよ?」


麻美が言うと、一真の背後のあおい達が、緊張したように身構えた。


「…?」


一真はそれを不思議に思いつつも、視線はドアから離さなかった。


「…ティア様、異空間管理委員会、防衛局魔導隊、麻美=ルイズ・レーヴェルトです」


麻美が言うと、ドアがゆっくりと開いた。しかし、麻美への返事は無かった。


ドアの向こうは、大きさ、雰囲気ともに、防衛局の聖堂のような部屋だった。


「いらっしゃい。麻美、あおい、ハウル…」


白いマントに漆黒の仮面…声は、魔法か何かで無理に変えているようだ。


身の丈ほどの杖を持った人間が、部屋の奥に立っていた。そして…


「…ヴェルミンティアへようこそ、久城一真」


「!」


予言者は、一真の名前を知っていた。



「…なんで、オレの名前を?」


「予言者だから…じゃ、解答にはならないかな?」


予言者ティアの解答に、一真は目を細める。


「…解答にはなるかもしれないけど、オレが納得できる解答では無いですね」


「なるほど…だとすると、私は君の納得できる解答を持ち合わせてはいない…と、いうことになるね」


「…」


一真は無言で、更に目を細めた。


「…自慢の頭で、考えてみたらどうだい?考えごとは得意だろう?」


ティアはそう言って、ゆっくりと椅子に腰掛けた。


「それとも…もう答えは出てるのかな?もしそうなら、他の3人には席を外してもらっても構わないよ」


仮面越しに一真を見つめながら、ティアは一真を挑発するように言った。


「…麻美、2人を連れて席を外してくれ」


「…あおい、ハウル…」


一真に言われ、麻美は2人に声をかける。


3人は無言で、ティアの部屋から出て行った。






「さて、一真…君の考えを聞かせてもらおうか」


ティアは足を組み、肘掛けに両肘を乗せ、言った。


「…その前に、口調を元に戻したらどうだ?違和感ありすぎだぞ」


「…」


一真の指摘に、ティアは黙りこんだ。


「あんたが女性だってことはわかってる。それに、口調がコロコロ変わる…演技は苦手なんだ?」


一真が聞くが、ティアは答えない。


「何から話そうかな…やっぱり、予言の種明かしからが良いか」


一真は近くの椅子に座り、話し始めた。


「予言と聞いて、オレが思い浮かべたことは2つ…1つは、あんたが本物の予言者であること…実際、熟練の魔法使いなら、魔法を使えば出来ないことも無いだろう」


一真は指を2本立て、ティアに向けながら話す。


「そしてもう1つは、あんたが未来から来た人間なんじゃないか?ってこと」


そう言って、一真は手を下ろした。


「個人的には、後者だと思ってる。オレの名前を知っていたのも、あんたがオレの知り合いの未来の姿だとすれば、辻褄は合うしな」


「…私が君と知り合いだという、確証はあるかな?」


ようやく口を開いたティアは、挑戦的に一真に言った。しかし、一真はそれに対して微笑んだ。


「…向こうの部屋の魔法陣…オレの筆跡だったよ。でも、オレにはあの魔法陣を完璧に解析することはできなかった。つまり、オレがまだ知らない魔法生成方法が用いられていることになる…」


一真は立ち上がり、まっすぐにティアを見据えた。


「よって…あの魔法陣は未来のオレが生成した物であり、あんたはオレ…もしくは、未来のオレと知り合いである。あ、未来のオレとは確実に知り合いだろうね」


一真の話が終わり、室内にしばしの静寂が訪れた。そして…


「…正解だよ」


ティアは、感嘆の息を吐きながら言った。


「参ったなぁ…ここまで完璧に指摘されると、逆に清々しくなるよ」


ティアは椅子から立ち上がり、一真を指差した。


「でも、私が誰かはわからないでしょ?」


「いや、目星はついてる」


一真は即答した。自分の背後の扉を親指で指差し、続ける。


「あの3人のうちの誰か…だろ?多分、麻美かな」


「…」


一真の言葉に、ティアは一真を指差したまま、固まってしまった。


「図星かよ…ちなみに、あんたがあの3人に席を外してもらいたかった理由を考えたら、それしか浮かばなかった」


顔をしかめつつ、一真は言った。


「…そういう、何でも見透かしちゃう所…あんまり好きじゃないな…」


観念したのか、ティアは変声を解き、素の声で話し始めた。


その声は、紛れもなく麻美の物だった。


「…ちなみに、私が麻美だってわかったのは何で?」


「あ、それはただの勘」


「どうしよう…私、どんどん君を嫌いになっていくよ…」


ティアは…麻美はそう言って、自分の杖を軋むほど握り締めた。


「…そもそも、なんで真眼を使えないのに全部わかるのよ…魔法陣の意味が無いじゃない」


麻美の言葉に、一真は首をかしげた。


「…あの魔法陣、真眼を使えなくする為の魔法陣だったのか?ただの魔除けじゃ…」


「上っ面は魔除けよ…"絶対守秘領域"の魔法を守る為のね」


麻美の説明で、一真は納得したようだ。


「…なるほど、アルカナを広範囲に広めたのか…」


何度も頷きながら、一真は呟いた。


「…で、オレはどうすれば元の世界に帰れるんだ?」


「…随分と唐突に話題を変えたね」


「切実なもんでね」


一真は、真剣な眼差しを麻美に向け、言った。


「…そんなに帰りたい?」


「もちろん、今すぐにでも」


麻美の問いに、一真は即答した。しかし…


「梨紅ちゃんと、約束してるから?」


「…」


次の問いには、一真は答えなかった。


「ふっふっふ…私は何でも知っている。そう!何故なら私は、予言者だから!」


言いながら、麻美は勢い良く両手を振り上げた。


「未来から来てんなら、知ってて当たり前だろうが」


突然テンションを上げた麻美に、それを見て引いている一真のツッコミが入った。


「…とにかく、オレは早く帰りたいんだ!梨紅と約束してるし、それに…」


「友達が無事か、気になる?」


再び椅子に腰掛けながら、麻美は言った。


「みんな無事だよ?疲れてはいるみたいだけど…」


「…本当か?」


一真の目が、僅かに揺らいだように見えた。


「本当だよ?予言者を信じなさい!…なんてね」


そう言って、麻美は仮面の下で微笑んだ。すると…


「…良かった…」


そう呟き、一真はその場に座り込んだ。


「そっか…無事か…」


「…ひょっとして、ずっと心配してたの?マウンと戦ってる間も?」


「…」


麻美の言葉に一真は黙り込んだ。


「図星みたいだね…まったく、教えておいて良かったよ…これから3ヶ月もこっちで暮らさないといけないのに、ずっと心配してたら病気になっちゃうとこ…」


「…は?」


突然、一真は顔をしかめ、麻美を凝視した。


「お前、今…何て言った?」


「だから、そんなに心配してたら、心配し過ぎて病気になっちゃうって話だよ」


「違ぇよ!その前にお前、何か不吉なこと言ったろ!」


一真は立ち上がり、麻美を指差す。


「…あぁ!3ヶ月?そうだよ、君は3ヶ月、こっちの世界で暮らすの」


「3ヶ月…」


正直、長いのか短いのか、わからない日数だ。


「ちなみに、君が自分の仕事を果たさなかった場合は…元の世界には帰れません」


「はぁ!?オレの仕事って何だよ!」


「"聖なる魔を放つ者"」


麻美は、ただ一言だけ言った。それで全て伝わってしまうのだから、仕方がない。


「…つまり、宇宙人を倒せと?」


「その通り。でも、今の君じゃ無理かな…」


麻美は顎に手を添え、考えながら言った。


「…本来の魔力を取り戻す必要があるね」


「…他にもありそうだな…とりあえず、オレの仕事ってやつを全部、羅列してくれない?わかってんだろ?予言者なんだから」


一真は腕組みをし、足を踏み鳴らしていた。どうやら、珍しくイライラしているらしい。


「…良いよ、教えてあげる。1回しか言わないから、よく聞いて」


麻美は了承し、一真の仕事について説明を始めた。


「過去の私の協力のもと、麻美=ルイズ・レーヴェルトの従兄弟として、国立、ヴェルミンティア魔導学院高等部戦技科に転入し、生活せよ」


説明は、以上だった。


「…はい?」


「まぁ簡単に言えば、身分を偽ってこっちの魔法学校に通えってことだよ」


「…何の為に?」


一真の疑問に、麻美は右手の人差し指を口元に運んで見せた。


「それは秘密…あ、そうそう忘れてた」


言いながら、麻美は杖を一真に向けた。


「"封印の名の元に…我に仇なす者を奪え、デリス=ラシール"!」


麻美の杖から漆黒の光の帯が放たれた。帯は一真を取り囲み、一真の左手首に螺旋状に貼り付いた。


「…何これ?」


「封印-ラシール-の螺旋輪。対象の能力の内、使用者の望む能力を封印する魔法だよ」


麻美の言葉を聞くと同時に、一真は、凄まじい勢いで顔に汗をかき始めた。


「…何を封印しやがった」


「地球-向こう-の魔法などなど…」


「ふざけんなぁぁ!!!」


即答…それ故に質が悪かった。一真は叫び、魔法陣を生成しようと右手を伸ばすが…


「無駄だよ。ラシールは一真の考えた魔法…強力だし、解き方は私にもわからないの」


「そんな魔法使うんじゃねぇぇぇ!!!!」


一真は叫び、魔法を使用した麻美と、作成した未来の一真を恨んだ。



麻美の言う、地球の魔法などなど…とは、一真の能力の半分以上を指していた。


地球の魔法は使えない…


紅蓮・華颶夜姫も使えない…


魔力を使用する技の全てが、使用不可らしい。


ただし、退魔力を用いた能力…退魔力の放出と、真眼の使用のみ、可能のようだ。


それを知った瞬間、一真はコンフェシオンを使ってラシールの螺旋輪を除去しようとしたのだが…


「…!」


右手にコンフェシオンを溜め始めると同時に、左目の真眼が疼いた。そして、一真は顔をしかめつつ、右手に溜めたコンフェシオンを辺りに散りばめた。


真眼によると、コンフェシオンを使ってラシールの螺旋輪を除去することは出来ないらしい…


理由は、ラシールの螺旋輪が一真の左腕の"内部"にまで侵食しているからだ。


螺旋輪の除去…その為には、一真の左手ごと吹き飛ばすしか無いのだ。


「…はぁ…」


一真はため息を吐き、忌々しそうに螺旋輪を睨みながら、右手で螺旋輪を撫でた。



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