プロローグ
その世界の人間は、全員が魔法使いだった。
世界の名は、ヴェルミンティア。
この世界に、国同士の争いは無い。
争って、奪い合う物が無いのだ。
全ての事象の源である魔力は、大気中に溢れている。奪い合う必要がない。
しかし、魔法の腕を競いあっているという点では、争っていると言えなくもない。
だが、少なくとも確実に…ヴェルミンティアは、平和だった。
そんなある日のことだ。
天気は晴天にも関わらず、凄まじい雷鳴が、ヴェルミンティアの主要国の一つ、アクオ・ベルベオンに轟いた。
雷は、アクオ・ベルベオンを治める王の宮殿に落ちた。
しかし、雷が落ちたにも関わらず宮殿は無傷…それもそのはず、雷だと思われたそれは、雷ではなく、人間だったのだ。
人間は自らを、"予言者ティア"と名乗った。
予言者ティアは、王にいくつかの予言を伝え、姿を眩ました。
が、王は予言者ティアの言葉を信じなかった。
そして数日後…予言の一つが現実となった。
これを王は、偶然だと言い張る。
そして数日後…またもや予言は的中した。
これに王は、頭を抱えた。予言が真実だと、ようやく認めたのだ。
すると、再び雷鳴が轟き、王の前に予言者が現れた。
予言者は言った。
"明日の正午、巨大な津波がアクオ・ベルベオンを襲う。速やかに国民に協力を促し、盾の魔法で町を守れ"
王は予言者に従い、国民に通達。翌日正午、巨大な津波が町を襲うも、国民全員の協力により、町を守ることに成功…
予言者ティアは英雄と賞され、国内での高い地位を手に入れた。
その後も、予言者ティアは数々の予言を伝え、その全てが現実となった。
たった一年足らずで、予言者ティアの知名度は、ヴェルミンティアで知らぬ者がいない程になった。
そんなある日、予言者ティアは宮殿に赴いた。
そして、王に一つの予言をしたのだ。
「AD2003、この地、異空の者達に襲われし時…聖なる魔を放つ者現れ、この地を救う。その者、名に一つの真実を宿す者なり。聖なる魔を放つ者、この地を去るも、世界の架け橋となるであろう」
王はこの予言に顔をしかめた。
この地を襲う異空の者達…
近いうちに、この国…もしくは世界が、何者かの襲来を受ける。
予言者ティアの予言を端的に解釈すると、そうなる。
しかし、希望が無いわけではない。
聖なる魔を放つ者…
名に一つの真実を宿す者…
この者が現れた時、この国…もしくは世界は救われるのだ。
それまで、なんとしても異空の者達からの攻撃に耐えなければならない。
この予言は、その日のうちにヴェルミンティア全土に通達された。
そして、一週間後…
国土…いや、世界防衛の要。
異空間管理委員会
ヴェルミンティア発の自衛隊が、作られた。
これは、ヴェルミンティアの主要国…
アクオ・ベルベオン
フィーム・クルムア
ウード・ライラット
の、三国それぞれに支部が作られ、敵襲に備え、各国の魔導士が日夜、魔法の腕を磨きあっていた。
そして、運命の日…
予言者ティアの予言から二年半。
それは、ヴェルミンティアの外…"この星"の外から、やって来た。
我々で言う所の、いわゆる…宇宙人だ。
宇宙人は、機械で出来た魔力で動く兵士…通称"マウン"を率いて、ヴェルミンティアに宣戦布告した。
そして、未だかつて無い…大戦争が始まった。
未知の技術を持つ宇宙人に、異空間管理委員会の面々は苦戦を強いられた。
それでもかろうじて耐えていられたのは、やはり…予言者ティアの力によるものだった。
予言者ティアは、的確に対処方法を指示した。攻撃の手段から、防衛手段…全てをだ。
…そして、戦争が始まって半年が過ぎようとしたある日。
「…そろそろね」
白いマントを纏い、漆黒の仮面を付けた人間…予言者ティアが、そう呟きながら、空を見上げた。
聖なる魔を放つ者の予言。
これは後に、予言から伝説へと姿を変える。
その伝説で、彼はこう呼ばれていた。
殲滅の虹…殲虹-センコウ-の魔術師と




