エピローグ 歴史は変えない方が良いという話。
-MBSF本部、元帥の間-
「ってわけで、オレは時空の狭間に突入…で、流れに流れてヴェルミンティアへ…」
話を終え、一真が顔を上げると…
『…ック…』
「…」
女性陣が、全員泣いていた。
「…泣きすぎだよお前ら」
一真は言いながら、顔をしかめる。
「…とりあえず、いつの間にか話し手が変わってる件について話そうか」
ソファーに深々と腰掛け、勇気が不機嫌そうに言った。
「だってお前、ぶっちゃけほとんど知らねぇだろ?何があったか」
「…まぁな」
一真の言葉に肯定し、勇気はソファーから腰を上げた。
「てか、思い出した。あの後大変だったんだぞ?」
「何が?」
「お前の嫁!もう、めんどくさいから梨紅って呼ぶけどさ」
勇気が頭を掻きながら言った。
「魔物が消えて、お前がいなくなって、号泣しながら梨紅が暴れて…」
「暴…」
「暴れでないもん!!」
号泣しながら、梨紅が否定する。
「…っく…み、みんなが騒ぎ出じだがら、静かにざぜようと…思っで…」
「暴れたのか…」
「"福音"を…」
「!?」
梨紅の言葉に、一真は驚愕した。
「おま…皆に"福音"使ったの?」
「うん」
「うん…って、暴れるより質が悪いじゃねぇか」
福音の使用…すなわち、強制的に気絶させる事を意味する。
「違うよ!本当は、皆を落ち着かせようと思って…」
「精神的に不安定な時に使ったら、"攻撃の福音"になるに決まってんだろ…」
一真は頭を抱え、ため息を吐いた。
「暖君は気絶しなかったよ!」
「こいつだと話が変わって来るだろうが!」
このままでは口論に発展する…そう思ったのだろう。
「まぁまぁ、夫婦喧嘩はその辺にしとけよ」
暖が仲裁に入った。しかし…
「うるせぇよ!」
「暖君のせいだよ!」
「何で!?いつの間にオレが悪いって方向に?」
『今』
「やかましいわ!!」
即答した二人に、暖が叫ぶ。
「…で、結局オレ達は何の為に呼ばれたんだ?」
ソファーに浅く腰掛けた、正義が言った。
「ん…もうちょっと待て、そろそろ来ると思うから」
「?」
一真の言葉に、正義が首をかしげると…
「元帥閣下、ヴェルミンティア魔導師教官長麻実=ルイズ・レーヴェルト、魔王サバトゥリエル・ファリス・ラグナディン、到着しました」
元帥の間に、声が響いた。
「お、来たか…入れ~」
一真が言うと、扉が開いた。
「おひさ~!ごめんね、会議が押しちゃって…」
フランクな感じで入って来たのは、ピンクの髪にハート型のアホ毛…白いマントを羽織った、麻美だ。
「こっちは出掛けに、フォレストゴブリン族の長が来てしまって…」
黒い長髪に黒いマント。魔王リエルも、麻美と一緒に入って来た。
「あ~、気にすんな。遅刻ぐらいで文句言わねぇから」
一真はそう言って、自分の机に腰掛ける。
「さて…ようやく全員揃ったな」
室内にいる十二人を見回し、一真は続ける。
「早速本題に入るんだけど…勇気、今現在この世界と交流を持ってる異世界は何個ある?」
「え?ん~…ヴェルミンティア、アルケファイラ、ラ・フィリノーラ…この三つだな」
指折り数え、勇気が答える。
「そう、三つだ。んで、その三つの世界にこっちの世界の魔物が現れた…って言ったら、お前らどうする?」
『…』
一真の言葉と同時に、沈黙が訪れた。それだけ、一真はとんでもない事を言ったのだ。
「…三つ全部?」
「あぁ、三つ全部」
恋華の疑問に、一真が即答する。
「…何?もしかして、転勤の話?」
愛が顔をしかめ、言った。
「転勤…まぁ、そうだな…」
一真は机から降り、背筋を伸ばす。
「オレと梨紅はアルケファイラに行く。正義と恋華は、魔導隊を三部隊連れてラ・フィリノーラに行ってほしい」
「…まぁ、そうなるだろうな」
正義は、予想していたかのように苦笑した。
「さすがに、神や魔王、神主や総理は異世界に行くわけにはいかないだろ?」
「確かにな…ちなみに、期間は?」
「そうだなぁ…向こうにはプチ子もいるし、とりあえず退魔の術を浸透させるまでは…月一で行ってほしい」
「…定住じゃないんだ?」
恋華が首をかしげる。
「子供はどうすんだよ。まだ小さいだろ?」
「それなら、榮太も連れて行けば…」
「いやぁ…こっちの世界の方が良いんじゃないか?やっぱり日本だろ」
「そりゃあ、日本食は素晴らしいが…」
何の話かわからなくなって来たが、一真と正義が話し合いを始めた。
「…ところで、ヴェルミンティアには誰が来るの?」
話し合いを続ける二人を無視し、麻美が梨紅達に言った。
「えっと…一真、何て言ってたっけ?ほら、異世界に行けない人」
「神や魔王、神主や総理大臣」
梨紅の疑問に、豊が答える。
「ってことは…沙織ちゃんと凉音?」
「え?私困るよ…学校あるし」
暖の言葉に、教師の沙織は眉をひそめた。
「一真ぁ、その辺どうなんだ?」
「いや、寿司よりすき焼きだって………え?何?」
「何の話してんだよ!ヴェルミンティアには誰が行くのかって話!」
「あぁ…あおいとハウルだよ。恭助達と一緒に」
「…あれ?私は?」
一真の言葉に、麻美が首をかしげる。
「麻美は単独任務」
「…何処に?」
「十三年前のヴェルミンティア」
『…』
一真の言葉に、全員が唖然とする。
「…何処?とは聞いたけど、いつ?とは聞いてないんだけどなぁ…」
そう言って、麻美は苦笑いする。
「ちなみに、お前だけコードネームがある」
「コードネーム?」
麻美の言葉に頷き、一真は麻美を指差した。
「コードネーム…"予言者ティア"」
「…え?」
『えぇぇぇぇぇぇ!!!!!』
あおいとハウルが同時に叫び、他のメンバーが耳を塞ぐ。
「…予言者?」
「何?」
梨紅達は、状況を呑み込めていないようだ。
「…そっか、梨紅達に向こうでのこと、あんまり話してなかったっけな…」
忘れてた…というように、一真は言った。
「うん。逆に、一真がいなかった時のことも話して無いよね…」
「あの頃はなんとなく、その話題は避けてたからな」
一真は目を瞑り、少しだけ顔を上方に向ける。
「…良い機会だ、向こうでの話を聞かせてやるよ」
言いながら、一真はソファーに腰掛ける。
「じゃあこっちも、合間合間にこっちでの出来事を聞かせてあげるね」
一真の隣に、梨紅が座った。
「まずは"予言者"の話から始めようか…じゃ、麻美よろしく」
「私!?」
「当たり前じゃん。本人であり、信者であり、予言を全て暗唱出来るお前意外に、誰が説明すんだよ」
一真の言葉に、麻美はため息を吐き、ソファーに腰掛ける。
「…今から十三年前…ヴェルミンティアで言えば、十七年前の話」
麻美は、話し始める…
「ある日、純白のマントを羽織り、漆黒の仮面を被った、予言者を名乗る人間が現れたの」
予言者の予言を…
「彼は…彼女は言った」
未来の自分から聞いた…既定事項を…
「"この地、異空の者達に襲われし時…聖なる魔を放つ者現れ、この地を救う"」




