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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第五章 魔族襲来 前編
44/66

エピローグ 歴史は変えない方が良いという話。


-MBSF本部、元帥の間-


「ってわけで、オレは時空の狭間に突入…で、流れに流れてヴェルミンティアへ…」


話を終え、一真が顔を上げると…


『…ック…』


「…」


女性陣が、全員泣いていた。


「…泣きすぎだよお前ら」


一真は言いながら、顔をしかめる。


「…とりあえず、いつの間にか話し手が変わってる件について話そうか」


ソファーに深々と腰掛け、勇気が不機嫌そうに言った。


「だってお前、ぶっちゃけほとんど知らねぇだろ?何があったか」


「…まぁな」


一真の言葉に肯定し、勇気はソファーから腰を上げた。


「てか、思い出した。あの後大変だったんだぞ?」


「何が?」


「お前の嫁!もう、めんどくさいから梨紅って呼ぶけどさ」


勇気が頭を掻きながら言った。


「魔物が消えて、お前がいなくなって、号泣しながら梨紅が暴れて…」


「暴…」


「暴れでないもん!!」


号泣しながら、梨紅が否定する。


「…っく…み、みんなが騒ぎ出じだがら、静かにざぜようと…思っで…」


「暴れたのか…」


「"福音"を…」


「!?」


梨紅の言葉に、一真は驚愕した。


「おま…皆に"福音"使ったの?」


「うん」


「うん…って、暴れるより質が悪いじゃねぇか」


福音の使用…すなわち、強制的に気絶させる事を意味する。


「違うよ!本当は、皆を落ち着かせようと思って…」


「精神的に不安定な時に使ったら、"攻撃の福音"になるに決まってんだろ…」


一真は頭を抱え、ため息を吐いた。


「暖君は気絶しなかったよ!」


「こいつだと話が変わって来るだろうが!」


このままでは口論に発展する…そう思ったのだろう。


「まぁまぁ、夫婦喧嘩はその辺にしとけよ」


暖が仲裁に入った。しかし…


「うるせぇよ!」


「暖君のせいだよ!」


「何で!?いつの間にオレが悪いって方向に?」


『今』


「やかましいわ!!」


即答した二人に、暖が叫ぶ。


「…で、結局オレ達は何の為に呼ばれたんだ?」


ソファーに浅く腰掛けた、正義が言った。


「ん…もうちょっと待て、そろそろ来ると思うから」


「?」


一真の言葉に、正義が首をかしげると…


「元帥閣下、ヴェルミンティア魔導師教官長麻実=ルイズ・レーヴェルト、魔王サバトゥリエル・ファリス・ラグナディン、到着しました」


元帥の間に、声が響いた。


「お、来たか…入れ~」


一真が言うと、扉が開いた。


「おひさ~!ごめんね、会議が押しちゃって…」


フランクな感じで入って来たのは、ピンクの髪にハート型のアホ毛…白いマントを羽織った、麻美だ。


「こっちは出掛けに、フォレストゴブリン族の長が来てしまって…」


黒い長髪に黒いマント。魔王リエルも、麻美と一緒に入って来た。


「あ~、気にすんな。遅刻ぐらいで文句言わねぇから」


一真はそう言って、自分の机に腰掛ける。


「さて…ようやく全員揃ったな」


室内にいる十二人を見回し、一真は続ける。


「早速本題に入るんだけど…勇気、今現在この世界と交流を持ってる異世界は何個ある?」


「え?ん~…ヴェルミンティア、アルケファイラ、ラ・フィリノーラ…この三つだな」


指折り数え、勇気が答える。


「そう、三つだ。んで、その三つの世界にこっちの世界の魔物が現れた…って言ったら、お前らどうする?」


『…』


一真の言葉と同時に、沈黙が訪れた。それだけ、一真はとんでもない事を言ったのだ。


「…三つ全部?」


「あぁ、三つ全部」


恋華の疑問に、一真が即答する。


「…何?もしかして、転勤の話?」


愛が顔をしかめ、言った。


「転勤…まぁ、そうだな…」


一真は机から降り、背筋を伸ばす。


「オレと梨紅はアルケファイラに行く。正義と恋華は、魔導隊を三部隊連れてラ・フィリノーラに行ってほしい」


「…まぁ、そうなるだろうな」


正義は、予想していたかのように苦笑した。


「さすがに、神や魔王、神主や総理は異世界に行くわけにはいかないだろ?」


「確かにな…ちなみに、期間は?」


「そうだなぁ…向こうにはプチ子もいるし、とりあえず退魔の術を浸透させるまでは…月一で行ってほしい」


「…定住じゃないんだ?」


恋華が首をかしげる。


「子供はどうすんだよ。まだ小さいだろ?」


「それなら、榮太も連れて行けば…」


「いやぁ…こっちの世界の方が良いんじゃないか?やっぱり日本だろ」


「そりゃあ、日本食は素晴らしいが…」


何の話かわからなくなって来たが、一真と正義が話し合いを始めた。


「…ところで、ヴェルミンティアには誰が来るの?」


話し合いを続ける二人を無視し、麻美が梨紅達に言った。


「えっと…一真、何て言ってたっけ?ほら、異世界に行けない人」


「神や魔王、神主や総理大臣」


梨紅の疑問に、豊が答える。


「ってことは…沙織ちゃんと凉音?」


「え?私困るよ…学校あるし」


暖の言葉に、教師の沙織は眉をひそめた。


「一真ぁ、その辺どうなんだ?」


「いや、寿司よりすき焼きだって………え?何?」


「何の話してんだよ!ヴェルミンティアには誰が行くのかって話!」


「あぁ…あおいとハウルだよ。恭助達と一緒に」


「…あれ?私は?」


一真の言葉に、麻美が首をかしげる。


「麻美は単独任務」


「…何処に?」


「十三年前のヴェルミンティア」


『…』


一真の言葉に、全員が唖然とする。


「…何処?とは聞いたけど、いつ?とは聞いてないんだけどなぁ…」


そう言って、麻美は苦笑いする。


「ちなみに、お前だけコードネームがある」


「コードネーム?」


麻美の言葉に頷き、一真は麻美を指差した。


「コードネーム…"予言者ティア"」


「…え?」


『えぇぇぇぇぇぇ!!!!!』


あおいとハウルが同時に叫び、他のメンバーが耳を塞ぐ。


「…予言者?」


「何?」


梨紅達は、状況を呑み込めていないようだ。


「…そっか、梨紅達に向こうでのこと、あんまり話してなかったっけな…」


忘れてた…というように、一真は言った。


「うん。逆に、一真がいなかった時のことも話して無いよね…」


「あの頃はなんとなく、その話題は避けてたからな」


一真は目を瞑り、少しだけ顔を上方に向ける。


「…良い機会だ、向こうでの話を聞かせてやるよ」


言いながら、一真はソファーに腰掛ける。


「じゃあこっちも、合間合間にこっちでの出来事を聞かせてあげるね」


一真の隣に、梨紅が座った。


「まずは"予言者"の話から始めようか…じゃ、麻美よろしく」


「私!?」


「当たり前じゃん。本人であり、信者であり、予言を全て暗唱出来るお前意外に、誰が説明すんだよ」


一真の言葉に、麻美はため息を吐き、ソファーに腰掛ける。


「…今から十三年前…ヴェルミンティアで言えば、十七年前の話」


麻美は、話し始める…


「ある日、純白のマントを羽織り、漆黒の仮面を被った、予言者を名乗る人間が現れたの」


予言者の予言を…


「彼は…彼女は言った」


未来の自分から聞いた…既定事項を…


「"この地、異空の者達に襲われし時…聖なる魔を放つ者現れ、この地を救う"」




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