8.MBSF研究会は唐突に別れを告げられる。
「!」
自分に向かって飛んで来る一真を見て、女性…魔族は驚愕した。
そっくりだったのだ。緋色の長髪に、緋色の目…顔…彼女の…言うならば憧れの人に…
だから、彼女は思わず呟いた。憧れの人の名を…
「…ナイトメア様…」
「!」
その呟きに、一真も驚愕する。
(…リエル?)
(…ナイトの知り合いかよ)
(弟子だ)
「ナイトの弟子!?」
驚きのあまり、思わず声に出てしまった。
「やはり、ナイトメア様と縁の者…」
リエルは何処からか漆黒の剣を取り出し、言った。
「教えて…ナイトメア様は何処にいるの?」
「…ナイトは、オレの前世だ。今は、オレの中にいる」
剣を構えてはいるが、命令形ではなく、比較的丁寧な口調…懇願に近いリエルの問いに、一真は素直に答えた。
「前世…ナイトメア様が…死んだ?」
リエルの表情が、絶望に染まる。
「……嘘よ…」
「嘘じゃない…ナイトはオレの…」
「嘘よ!!!!!」
リエルは叫んだ。
「あのお方が死ぬわけ無い!!!魔王よ?歴代最強で、最高の魔王なのよ!?」
「…実は、オレも不思議に思ってたんだ」
リエルの叫びに答え、一真は屋上に着地した。
「歴代最強の魔王と言われるぐらいだ…自分の寿命ぐらいどうとでも出来るだろ?」
「そうよ、魔族には"転生"が使えるわ。自分で転生すれば、一時的に弱体化したとしても…ずっと自分のままでいられるはずよ」
「そうなん?」
「えぇ。私だって、もう何度も転生を繰り返してるわ」
戦うことも忘れ、リエルと一真は腕組みをして考え始めた。
「…あなた、えっと…」
「一真」
「一真ね…私はリエル。それで一真、ナイトメア様と話をすることは出来るの?」
「オレは出来る。けど、リエルはどうかな…」
一真は頭を掻きながら、眉をひそめて考え込む。
「一真が話せるなら良いのよ。一真経由で話が出来るなら」
「あぁ、なるほど…いや、ちょっと待て」
一真は、自分の右側に魔法陣を描き始めた。
「…ナイトを具現化できるかもしれない」
「!?」
驚くリエル。そして一真は、魔法陣を完成させた。
「"マジック・ダークネス"」
完成した魔法陣から、漆黒の球体が現れる。
球体は徐々に形を変え、腕、足、胴体、そして顔…色は真っ暗だが、ナイトの形になった。
「よし…ナイト、喋れるか?」
「詰めが甘い」
漆黒のナイトは右腕を真上に伸ばし、指を鳴らす。すると…
『!?』
漆黒のナイトに、色が付いた。肌色の肌、緋色の髪、目…服の装飾まで色付けされていた。
「やるなら、完璧にやれ」
「喋れりゃなんでも良いじゃねぇか…」
文句を言うナイトに、一真は顔をしかめて見せた。
「…ナイトメア様…」
リエルは、持っていた剣を手放し、ナイトに抱き着いた。
「…まぁ、五感がしっかりしているのはありがたいがな」
そう言って、ナイトはリエルを抱き締めた。
「リエル、久しぶりだ…何年ぶりかな」
「…五千万年になります」
「!?」
一真は、スケールの大きさに驚愕した。
「…最後にお会いしたのは、"天魔の聖痕"の時です」
「…天魔の聖痕?」
一真が首をかしげる。
「前に見せたろ。魔物と天使達を皆殺しにした一件だ」
「あぁ、あれか…え?あれの生き残り!?」
一真は驚愕した。一真もリエルも、この数分で何度驚愕しただろうか…
「ナイトメア様…何故…何故、死んでしまわれたのですか…」
ナイトに抱き着いたまま涙を流し、リエルは言った。
「…」
しかし、ナイトは口を閉ざしたままだ。悲しげな表情でリエルを見つめ、その頭を撫でるだけ。
「…殺された…?」
『!?』
一真の呟きに、ナイトとリエルが目を見開いた。
「…そうか、殺されたんなら全部繋がる…」
「何言ってるの…最強の魔王よ?殺されるなんて…」
「…いや…」
ナイトは、重い口を開いた。
「オレは、殺された。オレだけじゃない…エリーもだ」
「…」
リエルは、信じられない…という表情でナイトを見つめる。
「…転生直後か…」
「…まったく、お前には敵わないな…」
一真の言葉に、ナイトは苦笑した。
「オレもエリーも、気が緩んでいたんだ…本来なら、一人ずつ転生すべきだった…でも、オレ達は二人一緒に転生してしまった」
「なるほど、納得だわ…」
一真が頷く。すると…
「…誰に、殺されたんですか…」
低く…怒りを込めた声色で、リエルが言った。
「わからない…転生直後、背後からだった…」
ナイトは首を振り、答えた。
「…覚えているのは、死ぬ寸前…辺りが白い光に包まれていたことだけだ」
そう言って、ナイトは空を見上げる。
空は…魔物で埋めつくされていた。
正義に襲いかかる魔物。
しかし、魔物の攻撃は空を切る。
「"退風弾"」
そして、正義は魔物の頭をウィルで撃ち抜いた。
「えぇぇぇぇい!!!!!」
恋華は、グラビテスを巨大化させて振り下ろす。
叩き潰され、粒子になって消える魔物達。
更に恋華は、空中に漆黒の球体を生成する。
「"ブラック・ホール"!」
魔物がブラック・ホールに吸い込まれていく…
辺りに魔物がいなくなると、恋華はブラック・ホールを消した。
暖はバイクで、魔物を蹴散らしていた。
「……っく…」
魔物に激突する衝撃を受け、暖の両手は擦れて血だらけだ…
「おらぁぁ!!」
それでも暖は、魔物を体当たりで退魔していく。
…バイクの後部座席に、豊の姿は無かった。
「………」
豊は、魔物辞典を片手に戦っていた。
右手に持った、霊力で構成した金色の錫杖の先で魔物を突き、退魔して歩きながら、辞典で魔物を調べ、情報を仲間達に伝える。
そんな豊に、魔物が飛びかかって来た。
「……ッ…」
豊はそれを、錫杖を使って上手く受け流す。
気付けば豊は、魔物に囲まれていた。
「…"霊牙昇貫"」
しかし、豊が錫杖の先で地面を一突きすると、魔物の足元から霊力の柱が生えて来て、魔物を串刺しにした。
「………」
それを見届け、豊は再び歩きだした。
沙織は、不気味な魔物と戦っていた。
巨大な剣、盾、斧、そして拳銃を持った四つの腕と、骸骨の顔が、宙に浮いている…おそらく、その五つ全てで一体の魔物なのだろう。
(…その魔物はルルアーグ…骸骨の顔が本体だよ)
「了解…ありがと」
豊に返事と礼を言い、沙織はルルアーグへと駆け出した。
それに気付いたルルアーグは、沙織に向かって拳銃を発泡して来た。
沙織はそれを避け、立ち止まること無くルルアーグへ向かって行く。
続いて、ルルアーグは剣と斧を振り回して沙織を威嚇する。
「…ウィネの嵐"ストーム・プレッシャー"」
沙織は、左手をルルアーグに向けて言った。
すると、ルルアーグの剣と斧の動きが止まった。
沙織は風を圧縮して、不可視の風の壁を作ったのだ。
「はっ!」
剣の脇をすり抜け、沙織はルルアーグの顔に向かって跳躍した。
しかし、残った盾と拳銃が顔を守るべく、顔と沙織の間に割り込んだ。
「…死神の大鎌"ファントム・サイズ"」
沙織は空中で、大鎌を生成する。そして…
「悪魔の爪"デモンズ・クロウス"」
沙織は大鎌を振り抜き、ルルアーグの後方に着地した。
次の瞬間…ルルアーグの拳銃、盾、顔が、細切れになった。
同時に、風の壁に刺さっていた剣と斧が粒子になり、消えた。
「…ふぅ…」
沙織は袖で額の汗を拭い、他の魔物へ向かって走り出した。
勇気と愛は、魔物に囲まれていた。
「飛べ!!」
勇気の言葉と同時に、愛は空へと舞い上がった。
「"雷の暴風雨-ライトニング・ストーム-"!!」
勇気の足元から電撃が放たれ、辺りの魔物を次々に粒子に変えていく。
「"退魔の判子<退>""破魔の判子<破>""巨大化の判子<大>"」
愛は空中で、ポケットから三つの判子を取り出し、<大>の判子を<退>と<破>の判子に三回ずつ押した。
「くたばれ!!!」
愛は、ビルのような巨大な判子を地上の魔物達に押し付けた。
二つの判子に潰され、多くの魔物が粒子になって消えた。
「…!」
今の愛は、空中で無防備だった。そんな愛に、虫型の魔物が迫る。
蜘蛛に昆虫の羽が付いたようなその魔物は、愛に向かってまっすぐに突進して来た。
…しかし、
「!」
その魔物は、愛の目の前でバラバラになった。
勇気が地上から投げた槍が、魔物の腹を貫いたのだ。
(その魔物はクレヴェス…って、もう倒してるね)
「遅ぇよ」
勇気は豊にそう言って、次の魔物を退魔しに向かった。
「…え?ちょっと!これは?」
愛は、勇気が投げた槍を拾い、勇気の後を追った。
…そして、梨紅は…
「…」
無言で華颶夜を振り回し、魔物を切り裂いていた。
どこかぼんやりとした表情で、梨紅は魔物を退魔し続ける。
(…一真…)
梨紅が考えているのは、もちろん一真のこと…心ここに在らずとは、まさに今の梨紅のことだ。
「…!」
辺りの魔物をあらかた切り終えると同時に、梨紅は強烈な退魔力を感じた。
振り返った梨紅は、驚愕した。
梨紅の遥か後方…一真が居る辺りに、退魔力の柱がそびえ立っていたのだ。
「…」
気がつけば梨紅は、純白の柱に向かって、走り出していた。
「白い光…」
リエルが呟く。
「…犯人は天界の住人ってことだな」
腕組みをしながら、一真が言った。
「…エリーも、そいつに殺されたんだな?」
「…あぁ。二人同時だった」
ナイトはうつ向き、しかしすぐに、空を見上げる。
「でもな…オレ達は、殺されて当然のことをしたんだ…これは、オレ達の罰なんだ」
『…』
一真もリエルも、何も言えなかった。
魔物で埋め尽くされた空を見上げるナイトの目が…とても、悲しそうだったから…
…そして、物語は終焉へ向かって、更に加速を始めた。
「!?」
突如、空を飛んでいた魔物の一部が消し飛んだのだ。
…空から降る、白い光によって…
「うわっ!!」
そして、白い光は一真にも降り注いだ。
「一真!!ッ!」
一真が作ったナイトの身体が、魔物と同じように消えていく。
「ナイトメア様!!」
「逃げろ!リエル!!」
その言葉を最後に、ナイトの身体は消えてしまった。
「…ッ!…」
リエルはナイトに言われた通り、その場から飛び退いた。
直後、リエルの居た場所にも光が降って来た。
「…危なかった…!一真!」
「う…あ…ぁぁ…あ…あ……………」
白い光の直撃を受け、一真の身体に変化が生じ始めた。
緋色の髪が純白に変わり、緋色の翼は骨組みを残して消え去った。
「…痛ッ!!目が……」
一真は左目を押さえ、その場にひざまずく。そして…
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
空に向かって、一真が咆哮すると同時に、白い光がおさまった。
「…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…うっ!」
「一真!」
息切れする一真に、リエルが駆け寄る。しかし…
「"白の三日月"!!」
「!?」
三日月型の白い刃が、リエルを襲う。
リエルは思わず、その場から飛び退いた。
「一真!大丈夫?」
「う…梨紅…?」
一真を庇うように、梨紅はリエルに向かって華颶夜を構える。
「下がってて、私が…」
「梨紅…違う、その人は…大丈夫なんだ…」
「…え?」
一真の言葉に、梨紅は首をかしげる。
「その人、ナイトのお弟子さんなんだ…」
「…じゃあ何で、あんたそんなにボロボロなのよ!!」
華颶夜を手放し、梨紅は一真を抱き寄せる。
「これは…」
「って!あんたその目何!?」
「…目?」
梨紅はポケットから手鏡を取り出し、一真に見せる。
「…何だこれ…」
鏡を見て、一真は驚愕した。
一真の左目が金色に輝き、緋色の図形が浮かんでいたのだ。
「…金色と緋色のオッドアイ…」
「気持ち悪ぃ…」
一真は顔をしかめ、左目で梨紅を見つめた。すると…
「…何だ?」
一真の頭の中に、何かが入り込んで来た。
「…今城梨紅、十六歳。貴ノ葉高校一年…」
「…え?何?どうしたの?」
一真の頭の中は、梨紅に関する情報で溢れていた。
「身長、百六十四,七センチ、スリーサイズ、上から…」
「ダメェェェェェ!!!!!!」
「ぶわっ!!」
顔を赤らめ、梨紅は一真を殴り飛ばした。
「何!?何なの今の!確実に私の全てを暴露するノリだったよね!?」
「…何か、頭の中に梨紅の情報が入り込んで来た感じだった…」
殴り飛ばされた一真は、左目を押さえながら立ち上がった。
「…くそっ、今の光で魔力が全部退魔力になっちまった…」
そう言って、一真は顔をしかめる。
「え?じゃあ一真、魔法使えないの?」
「使えない…てか、ナイトどこ行った?」
一真は辺りを見回す。
「…ナイトメア様は、今の光で消えてしまったわ…」
リエルが答え、うつ向いた。
「…あの、さっきは攻撃してごめんなさい…」
「…良いのよ、あなたは当然のことをしたまで…謝ることは無いわ」
「でも…」
「話は後にしろ。何か来るぞ?」
一真は空を見上げ、左目から手を離す。
「…?魔物が…減り始めた?」
一真が言った。少しずつではあるが、空の魔物の数が減ってきているようだ。
「…違う…変だ…何で…」
「…一真、大丈夫?」
「…!お前ら!武器を持って互いに構えろ!」
突然、一真は梨紅とリエルの方を向き、言った。
「な…何?いきなり…」
「早く!!」
「…」
一真の言葉を聞き、二人はとりあえず、武器を構えた。すると…
『!?』
急激に、魔物が消え去った。
「ハァ~ッハッハッハ!!!」
同時に、高笑いが辺りに響き渡る。
「…ヤバいぞ、あれは…」
一真が呟いた。しかし、その言葉は高笑いをする少年へ向けられた物ではなかった。
少年の隣にある…巨大な、漆黒の球体…
巨大な、魔力の塊…
一真はそれを見て、顔をしかめた。
一真に続き、勇気と正義が同時に…魔物の減少に気付いた。
『な…』
そして、魔力の塊を見て唖然とする。遅れて気付いた沙織達も、同様の反応だ。
「…まだ巨大化してる…」
梨紅が呟く。魔力の塊は、遂に…空中の魔物だけでなく、地上の魔物も吸い込み始めた。
「…あれがラバラドルの言っていた"策"…ただの力押しじゃない」
そう言って、リエルは頭を抱えてため息を吐いた。
「…あのガキ、ラバラドルっていうのか」
ラバラドルを見上げながら、一真が呟く。
「えぇ…今の魔王の一人息子よ」
「へぇ…」
一真は、ラバラドルには興味が無いようだ。ラバラドルの名前を確認した後はずっと、魔力の塊を見つめている。
「…そうだ、私…ラバラドルに時間を稼げって言われてたんだった…」
「へぇ、良かったじゃん。任務成功ですよ」
一真は顔をしかめつつ、リエルに嫌味を言う。
「…もし、あの塊が町に落ちたら…」
「結界内が吹き飛ぶ」
梨紅の言葉を遮り、一真が言った。
「…覆らない?」
「無理。絶対、確実に吹き飛ぶ」
一真は断言する。
「…じゃあ、今のうちにバスターで…」
「はぁ…だから、魔力無いって言ってんだろ?」
「…だったらどうするのよ!!!」
ため息混じりに言う一真に、梨紅がキレた。
「町が無くなっても良いの!?」
「良いわけねぇだろ」
「だったら!…っぷ!」
一真が、右手で梨紅の口を塞いだ。
「オレに任せろ。この町はオレが守る」
そう言って、一真は魔力の塊を見据えた。
「…この"眼"のおかげかな…今なら、何でも出来そうだ」
一真は不敵に笑い、梨紅の口から右手を離した。
「…"天使化"」
「!?」
梨紅は驚愕した。一真の背中にあったアクセル・フェザーの骨組みが、純白の翼になったのだ。
「梨紅、正義達を頼む」
「え?…う、うん」
梨紅が返事をしたのを確認すると、一真はリエルを指さした。
「それとリエル…ラバラドルを守りたいなら、早めに魔界に連れて帰りな」
「…どういうこと?」
「もし結界内にいたら…二人とも即死だぜ?」
言うや否や、一真は空へ舞い上がった。
『…』
梨紅とリエルは無言のまま…一真の指示に従うべく、動き始めた。
「…ん?」
空中のラバラドルが、自分に向かって凄まじい勢いで飛んでくる、一真に気付いた。
「クックック…馬鹿め!飛んで火にいるなんとやらだ!!」
言いながら、ラバラドルは一真に右手を向ける。
「くらえぇ!!」
ラバラドルの右手から、無数の小さな魔力弾が放たれた。
目標は、当然一真だ。しかし…
「…」
一真はそれを、避けようともしない。それどころか、弾に向かって飛んでいるように見える。
…そして、弾が一真に命中した。
「…何だと?」
だが、一真は無傷だった。一真の身体に満たされている退魔力が、魔力を取り込んだのだ。
「?…!?しまった!」
「遅ぇ!!」
ラバラドルが気付いた時には、既に手遅れだった。退魔力の塊と化した一真は、魔力の塊の中に突っ込んだのだ。
瞬間…魔力の塊が脈打った。
ラバラドルによって魔力の塊にされた魔物は、六千体以上…
今の一真が持つ退魔力は、並の退魔士が持つ退魔力の数万倍…
つまり…
「…まさか…」
ラバラドルが、顔をひきつらせながら魔力の塊を見つめる。
…何かが割れる音が、辺りに響いた。
「そんな…」
魔力の塊にヒビが入り始めたのだ。
ヒビは縦横無尽に広がって行き、やがて…魔力の塊は、粉々に砕け散った。あんなに巨大だった塊が、ほんの数秒で、無に帰してしまったのだ。
「…」
魔力の塊があった場所には、一真が浮いていた。
「…ッ…」
しかし、なにやら一真の様子がおかしい。
まずは服装だ。貴ノ葉高校の制服だったはずが、いつの間にか白と金色で装飾された服に変わっていた。
次に、左目…金色の眼に、紋章のような緋色の模様…その模様が、輝いているのだ。
…そして、最後…
「…"闇を、光に…光を、力に…"」
一真は、呪文を唱え始めていた。
正義達は、絶対絶命の危機に直面していた。
「…やられたな」
正義達は、一ヶ所に集まっていた。…否、集まってしまったのだ。
魔物と戦っているうちに、徐々に…確実に後退して行き、そして…
「はぁ…また囲まれてるしよぉ」
勇気がぼやいた。
「…さすがに、周りを一気に蹴散らす体力は無いな」
「あぁ…割と限界だな」
「…」
正義と勇気が言うなか、暖は無言で、バイクのハンドルを掴んで臨戦体勢を取っていた。
「…!ちょっと暖君、血だらけじゃない!」
「…大丈夫」
そう言って、暖はハンドルを強く掴むが…
「ギャァァァァァ!!!!!痛ぇ!!」
あまりの激痛に、思わずハンドルから手を離してしまう。
「暖君!うるさい!」
「…酷い…」
沙織の言葉に、暖は泣いた。
「…愛ちゃん、豊君大丈夫?」
「…駄目ね、完全にグロッキーよ」
疲れ果て、道路に横たわる豊の脇に、愛と恋華が座っていた。。
「まったく…慣れないことするからバテるのよ」
そう言って、愛は豊の頬を指でつつく。
「…いや、お前らなんで座ってんの?」
勇気が、愛と恋華に言った。
「疲れたからに決まってるじゃない。あんた馬鹿?」
「豊君なんか寝てるよ?」
「わかってんのか!?魔物に囲まれてんだぞ!!」
勇気が叫ぶが、愛は動じない。
「男でしょ!?女の子の一人や二人守ってみせなさいよ!!」
「守られる側のセリフじゃねぇだろそれ!!」
「フシャァァァ!!!!!」
喧嘩する二人を他所に、一匹の魔物が襲いかかって来た。しかし…
『うるせぁぁぁ!!!!』
「フシャァァァ!?!?」
魔物は、二人によって殴り飛ばされた。
「…元気じゃないか」
正義が呟いた。すると…
「"ホーリー・シールド"」
透明な半球体が、魔物達から正義達を隔離する。
「みんな、大丈夫?」
言いながら、梨紅が降りて来た。
「梨紅!無事だったのね!」
沙織が梨紅に駆け寄り、言った。
「お待たせ、もう大丈夫だよ」
言いながら、梨紅は天使化を解き、華颶夜を鞘に収めた。




