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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第五章 魔族襲来 前編
42/66

8.MBSF研究会は唐突に別れを告げられる。


「!」


自分に向かって飛んで来る一真を見て、女性…魔族は驚愕した。


そっくりだったのだ。緋色の長髪に、緋色の目…顔…彼女の…言うならば憧れの人に…

だから、彼女は思わず呟いた。憧れの人の名を…


「…ナイトメア様…」


「!」


その呟きに、一真も驚愕する。


(…リエル?)


(…ナイトの知り合いかよ)


(弟子だ)


「ナイトの弟子!?」


驚きのあまり、思わず声に出てしまった。


「やはり、ナイトメア様と縁の者…」


リエルは何処からか漆黒の剣を取り出し、言った。


「教えて…ナイトメア様は何処にいるの?」


「…ナイトは、オレの前世だ。今は、オレの中にいる」


剣を構えてはいるが、命令形ではなく、比較的丁寧な口調…懇願に近いリエルの問いに、一真は素直に答えた。


「前世…ナイトメア様が…死んだ?」


リエルの表情が、絶望に染まる。


「……嘘よ…」


「嘘じゃない…ナイトはオレの…」


「嘘よ!!!!!」


リエルは叫んだ。


「あのお方が死ぬわけ無い!!!魔王よ?歴代最強で、最高の魔王なのよ!?」


「…実は、オレも不思議に思ってたんだ」


リエルの叫びに答え、一真は屋上に着地した。


「歴代最強の魔王と言われるぐらいだ…自分の寿命ぐらいどうとでも出来るだろ?」


「そうよ、魔族には"転生"が使えるわ。自分で転生すれば、一時的に弱体化したとしても…ずっと自分のままでいられるはずよ」


「そうなん?」


「えぇ。私だって、もう何度も転生を繰り返してるわ」


戦うことも忘れ、リエルと一真は腕組みをして考え始めた。


「…あなた、えっと…」


「一真」


「一真ね…私はリエル。それで一真、ナイトメア様と話をすることは出来るの?」


「オレは出来る。けど、リエルはどうかな…」


一真は頭を掻きながら、眉をひそめて考え込む。


「一真が話せるなら良いのよ。一真経由で話が出来るなら」


「あぁ、なるほど…いや、ちょっと待て」


一真は、自分の右側に魔法陣を描き始めた。


「…ナイトを具現化できるかもしれない」


「!?」


驚くリエル。そして一真は、魔法陣を完成させた。


「"マジック・ダークネス"」


完成した魔法陣から、漆黒の球体が現れる。

球体は徐々に形を変え、腕、足、胴体、そして顔…色は真っ暗だが、ナイトの形になった。


「よし…ナイト、喋れるか?」


「詰めが甘い」


漆黒のナイトは右腕を真上に伸ばし、指を鳴らす。すると…


『!?』


漆黒のナイトに、色が付いた。肌色の肌、緋色の髪、目…服の装飾まで色付けされていた。


「やるなら、完璧にやれ」


「喋れりゃなんでも良いじゃねぇか…」


文句を言うナイトに、一真は顔をしかめて見せた。


「…ナイトメア様…」


リエルは、持っていた剣を手放し、ナイトに抱き着いた。


「…まぁ、五感がしっかりしているのはありがたいがな」


そう言って、ナイトはリエルを抱き締めた。


「リエル、久しぶりだ…何年ぶりかな」


「…五千万年になります」


「!?」


一真は、スケールの大きさに驚愕した。


「…最後にお会いしたのは、"天魔の聖痕"の時です」


「…天魔の聖痕?」


一真が首をかしげる。


「前に見せたろ。魔物と天使達を皆殺しにした一件だ」


「あぁ、あれか…え?あれの生き残り!?」


一真は驚愕した。一真もリエルも、この数分で何度驚愕しただろうか…


「ナイトメア様…何故…何故、死んでしまわれたのですか…」


ナイトに抱き着いたまま涙を流し、リエルは言った。


「…」


しかし、ナイトは口を閉ざしたままだ。悲しげな表情でリエルを見つめ、その頭を撫でるだけ。


「…殺された…?」


『!?』


一真の呟きに、ナイトとリエルが目を見開いた。


「…そうか、殺されたんなら全部繋がる…」


「何言ってるの…最強の魔王よ?殺されるなんて…」


「…いや…」


ナイトは、重い口を開いた。


「オレは、殺された。オレだけじゃない…エリーもだ」


「…」


リエルは、信じられない…という表情でナイトを見つめる。


「…転生直後か…」


「…まったく、お前には敵わないな…」


一真の言葉に、ナイトは苦笑した。


「オレもエリーも、気が緩んでいたんだ…本来なら、一人ずつ転生すべきだった…でも、オレ達は二人一緒に転生してしまった」


「なるほど、納得だわ…」


一真が頷く。すると…


「…誰に、殺されたんですか…」


低く…怒りを込めた声色で、リエルが言った。


「わからない…転生直後、背後からだった…」


ナイトは首を振り、答えた。


「…覚えているのは、死ぬ寸前…辺りが白い光に包まれていたことだけだ」


そう言って、ナイトは空を見上げる。


空は…魔物で埋めつくされていた。



正義に襲いかかる魔物。

しかし、魔物の攻撃は空を切る。


「"退風弾"」


そして、正義は魔物の頭をウィルで撃ち抜いた。




「えぇぇぇぇい!!!!!」


恋華は、グラビテスを巨大化させて振り下ろす。

叩き潰され、粒子になって消える魔物達。

更に恋華は、空中に漆黒の球体を生成する。


「"ブラック・ホール"!」


魔物がブラック・ホールに吸い込まれていく…

辺りに魔物がいなくなると、恋華はブラック・ホールを消した。




暖はバイクで、魔物を蹴散らしていた。


「……っく…」


魔物に激突する衝撃を受け、暖の両手は擦れて血だらけだ…


「おらぁぁ!!」


それでも暖は、魔物を体当たりで退魔していく。


…バイクの後部座席に、豊の姿は無かった。




「………」


豊は、魔物辞典を片手に戦っていた。


右手に持った、霊力で構成した金色の錫杖の先で魔物を突き、退魔して歩きながら、辞典で魔物を調べ、情報を仲間達に伝える。

そんな豊に、魔物が飛びかかって来た。


「……ッ…」


豊はそれを、錫杖を使って上手く受け流す。

気付けば豊は、魔物に囲まれていた。


「…"霊牙昇貫"」


しかし、豊が錫杖の先で地面を一突きすると、魔物の足元から霊力の柱が生えて来て、魔物を串刺しにした。


「………」


それを見届け、豊は再び歩きだした。




沙織は、不気味な魔物と戦っていた。


巨大な剣、盾、斧、そして拳銃を持った四つの腕と、骸骨の顔が、宙に浮いている…おそらく、その五つ全てで一体の魔物なのだろう。


(…その魔物はルルアーグ…骸骨の顔が本体だよ)


「了解…ありがと」


豊に返事と礼を言い、沙織はルルアーグへと駆け出した。


それに気付いたルルアーグは、沙織に向かって拳銃を発泡して来た。


沙織はそれを避け、立ち止まること無くルルアーグへ向かって行く。


続いて、ルルアーグは剣と斧を振り回して沙織を威嚇する。


「…ウィネの嵐"ストーム・プレッシャー"」


沙織は、左手をルルアーグに向けて言った。

すると、ルルアーグの剣と斧の動きが止まった。


沙織は風を圧縮して、不可視の風の壁を作ったのだ。


「はっ!」


剣の脇をすり抜け、沙織はルルアーグの顔に向かって跳躍した。


しかし、残った盾と拳銃が顔を守るべく、顔と沙織の間に割り込んだ。


「…死神の大鎌"ファントム・サイズ"」


沙織は空中で、大鎌を生成する。そして…


「悪魔の爪"デモンズ・クロウス"」


沙織は大鎌を振り抜き、ルルアーグの後方に着地した。


次の瞬間…ルルアーグの拳銃、盾、顔が、細切れになった。

同時に、風の壁に刺さっていた剣と斧が粒子になり、消えた。


「…ふぅ…」


沙織は袖で額の汗を拭い、他の魔物へ向かって走り出した。




勇気と愛は、魔物に囲まれていた。


「飛べ!!」


勇気の言葉と同時に、愛は空へと舞い上がった。


「"雷の暴風雨-ライトニング・ストーム-"!!」


勇気の足元から電撃が放たれ、辺りの魔物を次々に粒子に変えていく。


「"退魔の判子<退>""破魔の判子<破>""巨大化の判子<大>"」


愛は空中で、ポケットから三つの判子を取り出し、<大>の判子を<退>と<破>の判子に三回ずつ押した。


「くたばれ!!!」


愛は、ビルのような巨大な判子を地上の魔物達に押し付けた。


二つの判子に潰され、多くの魔物が粒子になって消えた。


「…!」


今の愛は、空中で無防備だった。そんな愛に、虫型の魔物が迫る。


蜘蛛に昆虫の羽が付いたようなその魔物は、愛に向かってまっすぐに突進して来た。


…しかし、


「!」


その魔物は、愛の目の前でバラバラになった。

勇気が地上から投げた槍が、魔物の腹を貫いたのだ。


(その魔物はクレヴェス…って、もう倒してるね)


「遅ぇよ」


勇気は豊にそう言って、次の魔物を退魔しに向かった。


「…え?ちょっと!これは?」


愛は、勇気が投げた槍を拾い、勇気の後を追った。




…そして、梨紅は…




「…」


無言で華颶夜を振り回し、魔物を切り裂いていた。


どこかぼんやりとした表情で、梨紅は魔物を退魔し続ける。


(…一真…)


梨紅が考えているのは、もちろん一真のこと…心ここに在らずとは、まさに今の梨紅のことだ。


「…!」


辺りの魔物をあらかた切り終えると同時に、梨紅は強烈な退魔力を感じた。


振り返った梨紅は、驚愕した。


梨紅の遥か後方…一真が居る辺りに、退魔力の柱がそびえ立っていたのだ。


「…」


気がつけば梨紅は、純白の柱に向かって、走り出していた。



「白い光…」


リエルが呟く。


「…犯人は天界の住人ってことだな」


腕組みをしながら、一真が言った。


「…エリーも、そいつに殺されたんだな?」


「…あぁ。二人同時だった」


ナイトはうつ向き、しかしすぐに、空を見上げる。


「でもな…オレ達は、殺されて当然のことをしたんだ…これは、オレ達の罰なんだ」


『…』


一真もリエルも、何も言えなかった。

魔物で埋め尽くされた空を見上げるナイトの目が…とても、悲しそうだったから…






…そして、物語は終焉へ向かって、更に加速を始めた。






「!?」


突如、空を飛んでいた魔物の一部が消し飛んだのだ。


…空から降る、白い光によって…


「うわっ!!」


そして、白い光は一真にも降り注いだ。


「一真!!ッ!」


一真が作ったナイトの身体が、魔物と同じように消えていく。


「ナイトメア様!!」


「逃げろ!リエル!!」


その言葉を最後に、ナイトの身体は消えてしまった。


「…ッ!…」


リエルはナイトに言われた通り、その場から飛び退いた。

直後、リエルの居た場所にも光が降って来た。


「…危なかった…!一真!」


「う…あ…ぁぁ…あ…あ……………」


白い光の直撃を受け、一真の身体に変化が生じ始めた。


緋色の髪が純白に変わり、緋色の翼は骨組みを残して消え去った。


「…痛ッ!!目が……」


一真は左目を押さえ、その場にひざまずく。そして…


「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


空に向かって、一真が咆哮すると同時に、白い光がおさまった。


「…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…うっ!」


「一真!」


息切れする一真に、リエルが駆け寄る。しかし…


「"白の三日月"!!」


「!?」


三日月型の白い刃が、リエルを襲う。

リエルは思わず、その場から飛び退いた。


「一真!大丈夫?」


「う…梨紅…?」


一真を庇うように、梨紅はリエルに向かって華颶夜を構える。


「下がってて、私が…」


「梨紅…違う、その人は…大丈夫なんだ…」


「…え?」


一真の言葉に、梨紅は首をかしげる。


「その人、ナイトのお弟子さんなんだ…」


「…じゃあ何で、あんたそんなにボロボロなのよ!!」


華颶夜を手放し、梨紅は一真を抱き寄せる。


「これは…」


「って!あんたその目何!?」


「…目?」


梨紅はポケットから手鏡を取り出し、一真に見せる。


「…何だこれ…」


鏡を見て、一真は驚愕した。


一真の左目が金色に輝き、緋色の図形が浮かんでいたのだ。


「…金色と緋色のオッドアイ…」


「気持ち悪ぃ…」


一真は顔をしかめ、左目で梨紅を見つめた。すると…


「…何だ?」


一真の頭の中に、何かが入り込んで来た。


「…今城梨紅、十六歳。貴ノ葉高校一年…」


「…え?何?どうしたの?」


一真の頭の中は、梨紅に関する情報で溢れていた。


「身長、百六十四,七センチ、スリーサイズ、上から…」


「ダメェェェェェ!!!!!!」


「ぶわっ!!」


顔を赤らめ、梨紅は一真を殴り飛ばした。


「何!?何なの今の!確実に私の全てを暴露するノリだったよね!?」


「…何か、頭の中に梨紅の情報が入り込んで来た感じだった…」


殴り飛ばされた一真は、左目を押さえながら立ち上がった。


「…くそっ、今の光で魔力が全部退魔力になっちまった…」


そう言って、一真は顔をしかめる。


「え?じゃあ一真、魔法使えないの?」


「使えない…てか、ナイトどこ行った?」


一真は辺りを見回す。


「…ナイトメア様は、今の光で消えてしまったわ…」


リエルが答え、うつ向いた。


「…あの、さっきは攻撃してごめんなさい…」


「…良いのよ、あなたは当然のことをしたまで…謝ることは無いわ」


「でも…」


「話は後にしろ。何か来るぞ?」


一真は空を見上げ、左目から手を離す。


「…?魔物が…減り始めた?」


一真が言った。少しずつではあるが、空の魔物の数が減ってきているようだ。


「…違う…変だ…何で…」


「…一真、大丈夫?」


「…!お前ら!武器を持って互いに構えろ!」


突然、一真は梨紅とリエルの方を向き、言った。


「な…何?いきなり…」


「早く!!」


「…」


一真の言葉を聞き、二人はとりあえず、武器を構えた。すると…


『!?』


急激に、魔物が消え去った。


「ハァ~ッハッハッハ!!!」


同時に、高笑いが辺りに響き渡る。


「…ヤバいぞ、あれは…」


一真が呟いた。しかし、その言葉は高笑いをする少年へ向けられた物ではなかった。


少年の隣にある…巨大な、漆黒の球体…


巨大な、魔力の塊…


一真はそれを見て、顔をしかめた。



一真に続き、勇気と正義が同時に…魔物の減少に気付いた。


『な…』


そして、魔力の塊を見て唖然とする。遅れて気付いた沙織達も、同様の反応だ。




「…まだ巨大化してる…」


梨紅が呟く。魔力の塊は、遂に…空中の魔物だけでなく、地上の魔物も吸い込み始めた。


「…あれがラバラドルの言っていた"策"…ただの力押しじゃない」


そう言って、リエルは頭を抱えてため息を吐いた。


「…あのガキ、ラバラドルっていうのか」


ラバラドルを見上げながら、一真が呟く。


「えぇ…今の魔王の一人息子よ」


「へぇ…」


一真は、ラバラドルには興味が無いようだ。ラバラドルの名前を確認した後はずっと、魔力の塊を見つめている。


「…そうだ、私…ラバラドルに時間を稼げって言われてたんだった…」


「へぇ、良かったじゃん。任務成功ですよ」


一真は顔をしかめつつ、リエルに嫌味を言う。


「…もし、あの塊が町に落ちたら…」


「結界内が吹き飛ぶ」


梨紅の言葉を遮り、一真が言った。


「…覆らない?」


「無理。絶対、確実に吹き飛ぶ」


一真は断言する。


「…じゃあ、今のうちにバスターで…」


「はぁ…だから、魔力無いって言ってんだろ?」


「…だったらどうするのよ!!!」


ため息混じりに言う一真に、梨紅がキレた。


「町が無くなっても良いの!?」


「良いわけねぇだろ」


「だったら!…っぷ!」


一真が、右手で梨紅の口を塞いだ。


「オレに任せろ。この町はオレが守る」


そう言って、一真は魔力の塊を見据えた。


「…この"眼"のおかげかな…今なら、何でも出来そうだ」


一真は不敵に笑い、梨紅の口から右手を離した。


「…"天使化"」


「!?」


梨紅は驚愕した。一真の背中にあったアクセル・フェザーの骨組みが、純白の翼になったのだ。


「梨紅、正義達を頼む」


「え?…う、うん」


梨紅が返事をしたのを確認すると、一真はリエルを指さした。


「それとリエル…ラバラドルを守りたいなら、早めに魔界に連れて帰りな」


「…どういうこと?」


「もし結界内にいたら…二人とも即死だぜ?」


言うや否や、一真は空へ舞い上がった。


『…』


梨紅とリエルは無言のまま…一真の指示に従うべく、動き始めた。






「…ん?」


空中のラバラドルが、自分に向かって凄まじい勢いで飛んでくる、一真に気付いた。


「クックック…馬鹿め!飛んで火にいるなんとやらだ!!」


言いながら、ラバラドルは一真に右手を向ける。


「くらえぇ!!」


ラバラドルの右手から、無数の小さな魔力弾が放たれた。


目標は、当然一真だ。しかし…


「…」


一真はそれを、避けようともしない。それどころか、弾に向かって飛んでいるように見える。


…そして、弾が一真に命中した。


「…何だと?」


だが、一真は無傷だった。一真の身体に満たされている退魔力が、魔力を取り込んだのだ。


「?…!?しまった!」


「遅ぇ!!」


ラバラドルが気付いた時には、既に手遅れだった。退魔力の塊と化した一真は、魔力の塊の中に突っ込んだのだ。


瞬間…魔力の塊が脈打った。


ラバラドルによって魔力の塊にされた魔物は、六千体以上…


今の一真が持つ退魔力は、並の退魔士が持つ退魔力の数万倍…


つまり…


「…まさか…」


ラバラドルが、顔をひきつらせながら魔力の塊を見つめる。


…何かが割れる音が、辺りに響いた。


「そんな…」


魔力の塊にヒビが入り始めたのだ。


ヒビは縦横無尽に広がって行き、やがて…魔力の塊は、粉々に砕け散った。あんなに巨大だった塊が、ほんの数秒で、無に帰してしまったのだ。


「…」


魔力の塊があった場所には、一真が浮いていた。


「…ッ…」


しかし、なにやら一真の様子がおかしい。


まずは服装だ。貴ノ葉高校の制服だったはずが、いつの間にか白と金色で装飾された服に変わっていた。


次に、左目…金色の眼に、紋章のような緋色の模様…その模様が、輝いているのだ。


…そして、最後…


「…"闇を、光に…光を、力に…"」


一真は、呪文を唱え始めていた。




正義達は、絶対絶命の危機に直面していた。


「…やられたな」


正義達は、一ヶ所に集まっていた。…否、集まってしまったのだ。


魔物と戦っているうちに、徐々に…確実に後退して行き、そして…


「はぁ…また囲まれてるしよぉ」


勇気がぼやいた。


「…さすがに、周りを一気に蹴散らす体力は無いな」


「あぁ…割と限界だな」


「…」


正義と勇気が言うなか、暖は無言で、バイクのハンドルを掴んで臨戦体勢を取っていた。


「…!ちょっと暖君、血だらけじゃない!」


「…大丈夫」


そう言って、暖はハンドルを強く掴むが…


「ギャァァァァァ!!!!!痛ぇ!!」


あまりの激痛に、思わずハンドルから手を離してしまう。


「暖君!うるさい!」


「…酷い…」


沙織の言葉に、暖は泣いた。


「…愛ちゃん、豊君大丈夫?」


「…駄目ね、完全にグロッキーよ」


疲れ果て、道路に横たわる豊の脇に、愛と恋華が座っていた。。


「まったく…慣れないことするからバテるのよ」


そう言って、愛は豊の頬を指でつつく。


「…いや、お前らなんで座ってんの?」


勇気が、愛と恋華に言った。


「疲れたからに決まってるじゃない。あんた馬鹿?」


「豊君なんか寝てるよ?」


「わかってんのか!?魔物に囲まれてんだぞ!!」


勇気が叫ぶが、愛は動じない。


「男でしょ!?女の子の一人や二人守ってみせなさいよ!!」


「守られる側のセリフじゃねぇだろそれ!!」


「フシャァァァ!!!!!」


喧嘩する二人を他所に、一匹の魔物が襲いかかって来た。しかし…


『うるせぁぁぁ!!!!』


「フシャァァァ!?!?」


魔物は、二人によって殴り飛ばされた。


「…元気じゃないか」


正義が呟いた。すると…


「"ホーリー・シールド"」


透明な半球体が、魔物達から正義達を隔離する。


「みんな、大丈夫?」


言いながら、梨紅が降りて来た。


「梨紅!無事だったのね!」


沙織が梨紅に駆け寄り、言った。


「お待たせ、もう大丈夫だよ」


言いながら、梨紅は天使化を解き、華颶夜を鞘に収めた。







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