3.魔法使いとMBSF研究会
「…よぉリク、おはよう」
「おはよう、カズマ…ふわぁ…」
「随分と眠そうっすねぇ…あ、まさかお前…またオレのベッドに?」
「行ってないわよ…昨日はちゃんと自分のベッドに横になって…部活について考えてたの」
「部活?…あぁ、SF研か…てか、考えてたって何を?」
「ん~…まぁ色々よ、部の名前をアレンジしてみようか…とか、宿題以外には何をしようか…とか」
「…まぁ、宿題以外にすることに関しては考える価値はあるな…でも、何故に部の名前をアレンジする必要がある?」
「ただSF研だけじゃつまんないじゃない?それに、オタクっぽいって言ったのカズマじゃない」
「いや、まぁ言ったけどさぁ…」
「それでね?"MBSF研究会"って名前にしようと思ってるの」
「MBSF…MBって何だよ」
M、"魔法使いと退魔士と一般人その他諸々で"
B、"勉強したり遊んだりその他諸々をする"
SF研究会…
略称、MBSF研究会
「…どうよ?」
「…アレンジの必要性が皆無だ」
「そこの問題じゃないの!アレンジした後よ!良いじゃない、MBSF!」
「…まぁ部長はお前なんだから、好きにすれば良いだろ」
「一応カズマの意見も聞いておきたいのよ、なにしろあんたは部長その2だし♪」
「いやいやいや、謹んでお断りするよ。そもそも部長その2って何だ?せめて副部長にしとけよ…」
「遠慮しなくて良いよ?」
「遠慮してんじゃない、拒否ってんだ!」
沙織が半魔になった翌日の朝の、一真と梨紅の会話である。
梨紅が適当にアレンジした部名、
MBSF研究会…
実はこれが、後の世に発足する世界的な魔物討伐機関の頭文字になろうとは…
この時はまだ、誰も知らない…
しかし、その兆候は徐々に…確実に現れ始めているのだ。
魔法使い…
退魔士…
半魔…
そして、今は一般人として生活しているが、いずれ重要な役割を果たす事になる一般人…
今は4人しかいない部員も、2人増え、3人増え、いずれ9人になる…
そして…
魔物討伐機関であるMBSFのトップに位置する人間も…
…9人の男女なのである。
魔物討伐機関MBSFの話は、
また、別の機会に…
「んにしても魔族かぁ…親父さんがいないとなると、対処するのはオレ達って事になるな」
「うん…多分、今日中に警察から依頼が入ると思うよ?ただ…」
「ただ…何?」
「…なんで昨日、依頼が入らなかったんだろう…」
「…普通に考えれば、山中さんが最初の犠牲者って事になるな、それなら依頼が来なかった理由もわかる…」
「…もしくは、…」
「山中さんより前の被害者が、警察に見つかって無い…か?」
「その可能性も…」
「可能性ってか、確実だと思うね…ダンが聞いた、魔族が言ってた事の中に、山中さん以外にも血を吸ったような言い回しがあったよ」
「…そうだったっけ?」
「…探偵にはなれないな、リクは」
「いいよ、探偵なんてならないし…それに、これ以上肩書きはいりません」
「高校生兼、退魔士…もう一つぐらいあっても良いんじゃね?」
「だから、いらないって…なら、自分の肩書きを増やせば?」
「オレの?高校生兼、魔法使い兼、退魔士補佐兼…」
「待って待って…退魔士補佐?何勝手に増やしてんのよ!」
「増やせって言ったじゃねぇか…」
「退魔士補佐の肩書きを手に入れるには、私の許可が必要です」
「くれ!」
「却下」
「…まぁ、良いか…そんなに欲しくないし」
「え!?何それ!あんた、他人との会話を盛り上げといて自分から打ち切るのやめなさいよ!」
「だって、話題から大分それてるし…」
「空気読みなさいよ!今は肩書きの話をする空気だったでしょ!」
…こうしていつも、一真と梨紅の騒がしい一日は騒がしく始まるのだ。
一真達が教室へ入ると、すぐに暖と沙織が寄って来た。
「おはよ~」
「よぉカズマ!今日も夫婦仲良く登校とはうらやましいねぇ…」
「ちょっと、ダン君!そんなんじゃないっていつも言ってんでしょ!あ、サオリおはよ!気分はどう?」
「おはよ!全然大丈夫だよ、ありがと…でも、久城君とリクって本当に付き合ってるように見えるよ?毎朝一緒に登下校してるし…あ、一緒の部活に入ったのも…」
「違!ちょっ…サオリ!変な事言わないでよ!?そんなんじゃないよ!」
「そうだそうだ!そもそも彼女って言うより、出来の悪い妹みたいな感じだし…」
「…そうそう♪…ん!」
梨紅の裏拳が一真の鼻に当たる。
梨紅の表情が満面の笑みであることが、逆に怖い…
鼻を押さえて悶絶する一真…
「ぉぉぉぉぉ…」
「あ~あ、こりゃあ尻に敷かれるタイプだな、カズマは…」
「あ、ダン君?」
「何?サオリちゃん!」
「私今日、日直なんだけど…職員室に日誌取りに行くの忘れちゃって…」
「わかった!オレが取ってきてあげるよ!待ってな?1分で取って来っから!」
そう言うや否や、暖は教室から飛び出して言った。
「…お前よりは尻に敷かれないと思うね、オレは」
鼻を押さえながら、一真は暖の背中に向かって言った。
「良かったぁ♪ダン君が単純で♪」
「サオリ…」
(…リク?山中さん、性格変わってねぇ?)
(…明るくポジティブに?)
(いや、腹黒く)
「取って来たぁぁぁ!!!はい!サオリちゃん♪カズマ、タイムは!?」
「測ってねぇよ…てか、早すぎるだろお前!」
「ありがとうダン君♪私、足の速い人大好き♪」
「っっしゃぁぁぁ!!!キターー!!」
全力でガッツポーズを取り、喜びを表現する暖を、一真と梨紅はひきつった笑みで見つめる。
…ふと、梨紅が思い出したように言った。
「あ、でもカズマの方が足速いよね?たしか」
(バカ!余計な事言うなよ…あ~ぁ、言っちゃったよこいつ)
暖が一真に詰め寄り、胸ぐらを掴む。
「勝負じゃカズマぁぁぁぁ!!!!!」
「っせぇ!誰がするかぁ!唾を飛ばすなぁぁぁ!!!」
「うるせぇぞ久城!川島!お前ら何叫んでんだ!」
いつの間にか教室にいた田丸先生に注意され、その場は丸く収まった。
時刻は少し進み、昼休みの清掃
昼休みに清掃のある高校は珍しいのかもしれないが、貴ノ葉高校にはあるのだ。
なんでも、理事長が度を越えた綺麗好きだとか…
そんなわけで、生徒は皆一生懸命清掃を…
「勝負じゃぁぁぁ!!!!」
…しているわけがなかった。
「勝負って…なにで?」
「廊下の雑巾がけだ!」
「疲れるからパス」
「逃げるのか?逃げるのかカズマぁ!」
「うん。あ、おいリク!中庭の掃除行こうぜ?」
「あ、うん!行く行くぅ♪ねぇ、サオリも行こ?」
「うん、行こっか!」
「ちょっと待て!オレも行く行くぅ♪」
「ダンは一人で雑巾がけしてろよ」
「カズマてめぇ!親友のオレを除け者か!?それでも人間かお前は!?」
「魔法使いだけど?」
「屁理屈言ってんじゃねぇよ!とっとと中庭行くぞ!」
「なんでお前が仕切ってんだよ…まぁ良いけどさ」
「最初っから素直にオレを誘えってんだよまったく…」
「リク、ダンが中庭で飲み物おごってくれるってさ」
「いやいやいや、言って無…」
「本当!?ありがとダン君♪」
「え、いやその…」
「ダン君、私もおごってほしいなぁ~…」
「もちろんだよ♪しっかりおごってあげるよ!むしろおごらせて!」
「ダン君大好きぃ♪」
「いや、そんな…アハ、アハハハハ!」
「…あ、オレはフルーツ・オレで良いから」
「お前のも!?」
中庭は生徒達の憩いの場になっており、4つのテーブルにそれぞれ4つの椅子が並べられ、他には自販機と5本の木が生えているだけだ。
中庭の清掃と言っても、落ち葉やゴミを長箒で掃き、ちり取りの中に入れてごみ捨て場へ持って行くだけである。
簡単に言えば、一番簡単で楽な仕事だ。
「…ピッチャー第一球…投げました!」
暖が、中庭に落ちていた空き缶を一真に向かって投げる。
「…ぃよ!」
「ストラ~イク」
沙織が長箒を振るが、空振りに終わる。
一真は暖におごってもらった紙パックのフルーツ・オレを、ちゅごご…と吸いながら、空き缶をキャッチする。
「ピッチャー第二球…投げました!」
「…」
「ボ~ル」
「はぁ!?バッチリ入ってんだろストライクゾーン!」
「あ~…1mm足らねぇ」
「んのぐらい多めに見ろや!」
「っせぇ下手くそ!早く投げろ」
「…言ったなこの野郎!見てろ?ピッチャー第三球、投げましたぁ!」
「…きゃ!」
「デ~ッドボ~ル…下手くそぉ!」
「…ちょっと、調子が悪い…かな?」
「っせぇバ~カ…リク、次入れ」
「はいリク、バット!私の敵討ちよろしく♪」
「敵討ちって、死んでないし…バットじゃなくて長箒じゃん」
ぶつぶつ言いながらも、構える梨紅
「今度こそ三振させてやらぁ!ピッチャー第一球…」
「カウントし直すんだ…」
「投げました!」
暖の投げた空き缶は、ストライクゾーンど真ん中に真っ直ぐ入って来た。
「ど真ん中かよ…」
「う~りゃあ!」
梨紅が全力で振った長箒は、見事に空き缶を捉えて遥か彼方に飛んで行った。
暖が打球…もとい、空き缶を目で追い、見えなくなると同時にその場に崩れ落ちた。
「はい、逆転サヨナラ2ランホ~ムラ~ン…ダン、ごみ捨て場までダッシュな~?」
「ダン君頑張ってね~♪」
そう…4人が空き缶と長箒で野球をしていたのは、ちり取りに集めたゴミを、誰が捨てに行くかを決めるためだったのだ。
「なんか今日…踏んだり蹴ったりだなオレ」
「正確には昨日、オレ達にハンバーガーをおごってから踏んだり蹴ったりだな」
「ちきしょぉ!速攻で行ってくっから!帰って来たら勝負だカズマ!」
そう言って、暖はちり取りを持って走って行った。
「…なぁリク?」
「何?」
「ダンって…あんなキャラだったっけ?」
「さぁ…もとからな気もするし、テンション高すぎる気もするわね」
「そう?私は変わってないと思うけど…前から騒がしい人だったし」
((一番変わったのはあんただよ、あんた))
「まぁ、やかましい事には変わりないってのは言えてるな」
「うん…まぁ、良いんじゃない?ほら…これが本来のダン君なのかもしれないし」
「やかましさ1.5倍だけどな」
「単純さは2倍以上よ?」
「…いや、もとからかなり単純な気もするぞ?あいつは」
暖はちり取りをガタガタ揺らしながら、中庭に戻ってきた。
「カズマ!タイムは?」
「3時間14分」
「んだそれぁ!壊れてんじゃねぇか?」
「壊れてんのは今のお前だよ…」
「…ねぇサオリ?ダン君って単純なんじゃなくて…」
「リク、それ以上は言っちゃ駄目よ?ダン君が可哀想…」
そして、清掃の終了を告げるチャイムが鳴り響く。
「お、チャイムだ…教室に戻ろうぜ?」
「5限目って何だっけ?」
「えっと…」
「数学だよ、6限目は古典」
「なんでお前、時間割熟知してんだよ…」
「そりゃあ、どの教科で寝れるかは高校生にとって最重要事項だからな!これが、オレが小学生の頃から鍛えて来た、時間割熟知能力だ!」
「捨てちまえそんな能力…」
「なんて事言うんだお前は!」
「ちょっと二人とも、早くしないと遅れるわよ!」
梨紅が昇降口の方から二人を呼ぶ
「あぁ、今行くよ」
「ダンく~ん♪遅れるよぉ~!」
「は~い♪今行きま~す!」
一真と暖は、同時に走り出した。
5限目、数学ⅠA…
一真の得意な教科であり、梨紅、沙織、暖の苦手…もとい、嫌いな教科である。
一真は指先でシャーペンをクルクルと器用に回しながら、隣の梨紅をちらっと見てみる。
梨紅は、必死に黒板の文字をノートに書き写していた。
一番前の席で堂々と爆睡している馬鹿と比べれば、授業態度には天地程も差がある。
中学の頃の梨紅から、よくまぁここまで成長したもんだと、一真はしみじみ梨紅の成長を喜んだ。
ちなみに、中学の頃の梨紅すなわち、現在の暖であることは、言うまでもない。
(?カズマ、何でしみじみした顔で私の事見てるのよ)
(気にすんな、お前の成長を喜んでるだけだから)
そう言って、一真は梨紅に笑いかける
(何よそれ…あんたは私のお父さんか!?っての)
そう言って、梨紅も笑った
(あれと一緒にしないでくれ…)
(他人の父親をあれ呼ばわり?)
(なら、「やつ」と一緒にしないでくれ)
(たいして変わってないじゃない!)
(っせぇなぁ、君は大人しく黒板の文字を写してなさい!)
(写し終わったもん)
(マジで?黒板写すの早くなったなぁお前…頭撫でてやろうか?)
(バ~カ…あ!ダン君が見つかった!)
(え?あ、マジだ!だっせぇ~ダンのやつ!)
(なかなか起きないね…あんなに先生が揺すってんの…)
「カルピス大盛り!!」
「!!!」
突然暖が発した寝言に、クラス全員が驚き、皆が暖を見つめる。
「…あれ?」
クラス全員が大爆笑である。
暖を注意しようとした先生まで笑っているのだから、もう授業どころでは無い…
「カルピス大盛りって何だよ!」
「しかも…あれ?とか!」
「あれ?じゃねぇよ!どんな夢見てんだ川島!」
そしてチャイムが鳴り、5限目は生徒全員が大爆笑のまま幕を閉じた。
「あ、教科書の37ページの問題、宿題だからな?」
しっかり宿題は出して行く先生は、なかなかの強者だと言える。
1限飛ばして放課後、部室にて…
「ねぇねぇ!どんな夢見てたの?ねぇ!」
「リクうっさい、とりあえず宿題が先だろ」
「だって気になるし…それに、早くしないとダン君忘れちゃうよ?」
「大丈夫だよ、もう忘れてる…なぁ、ダン?」
「…カズマお前、エスパーか?」
「いや、魔法使いだ」
「そのやり取りもう良いわよ!」
「いや、このやり取りはやめられないなぁ…」
「しかも本当に夢の内容忘れてるし…あぁつまんない!」
「…なんか、ごめん」
「…3人とも、宿題しないと…」
カリカリとシャーペンを動かす音だけが、部室に響く…
ときおり、「そこはxyを…」とか、「yに2を当てはめると…」など、一真の声が聴こえる。
…だが、それも10分が限界だ。
「…ねぇ、ダン君本当に覚えてないの?」
「リク、しつこいぞ?」
「だって気になる…」
「仕方ないだろ?時間割は覚えられても、夢は覚えてられないんだから」
「…なぁ、なんでオレはそんなにボロクソに言われてんだ?」
「…そりゃあ、オレもお前の夢の内容を知りたかったから…」
「八つ当たりもいいとこじゃねぇか!この鬼!悪魔!」
「…いや、魔法使いだから」
「しつこい!いい加減やめなさいって!」
「…ねぇ、宿題は?」
「え?山中さん、終わってないの?」
「私は終わってるけど…リクは?」
「私も終わってるよ?」
「あの…オレ、まだ…」
「ダン、今日はドーナツおごりな?」
「なんで!?いやいやいや!終わった!はい!終わりました!セーフセーフ!」
「アウト♪」
「アウト」
「アウト!ゲ~ムセット♪3対1でダンのおごりな?」
「…マジで勘弁して下さい…」
「でもカズマ?ここの所頻繁におごってもらいすぎよ?流石に心が痛むわ…」
「へぇ…お前の心にも善意ってもんがあるんだなぁ」
「ど~ゆ~意味?」
「…いや、何でもない」
「…まぁ良いわ、それじゃあ宿題も終わったことだし、まだ4時30分…MBSF研究会の活動その2を始めましょう♪」
「…?リク、活動その2って…何?」
「いや、そもそもMBSFって?」
「…なんだよリク、二人に言ってないのか?」
「忘れてた」
「…その程度のあれなら、アレンジすんのやめたらどうだ?」
「やめないわよ!てかあんた、(あれ)って言葉を使うの多すぎよ?」
「適切な言葉が浮かばないんだよ…」
「なぁ、MBSFって?」
"魔法使いと退魔士と一般人その他諸々で"
"勉強したり遊んだりその他諸々をする"
SF研究会
略称、MBSF研究会
「…OK?」
「…なんで変えるの?」
「だって、SF研究会だけじゃつまんないじゃない?」
「いやいや…つまるつまらないの話か?」
「良いの!もう変えたの!決定!てか、つまるって何?」
「おいカズマ、副部長として何か意見は?」
「意見って…」
「カズマは副部長じゃなくて部長よ?」
「え?じゃあリクは?」
「私も部長」
「部長が二人?なんだそれ、どんな部活だよ」
「こんな部活よ」
「説明になってないわ!てかカズマ!部長なら部長らしくもう一人の部長に意見しろよ!」
「部長部長うるせぇなぁ…そもそもなんでオレが部長その2って事に決定してんだ!オレは断っただろ!」
「馬鹿お前…カズマ以外に誰がやるんだよ?」
「そうよ、久城君以外にいないわよ」
「お前らなぁ…それに、別に部の名前なんてどうでも良いじゃねぇか?部長その1様の決定なんだ、オレ達は大人しく従ってりゃ良いんだよ」
「今城の独裁政治を許して良いのか!?」
「ならお前が革命でも興せば?」
「負けの見えてる戦はせん…」
「見事なまでに負け犬ねぇ、ダン君」
「山中さん、きっついなぁ~…」
「…じゃ、MBSF研究会で決定で良いわね?」
「決定しても良いけど…名前変えたら何か変わるのか?」
「…部員の士気が高ま…」
「「らない!」」
「そもそも、士気を高めてどうするの?運動部じゃあるまいし…」
「…?ここは半分運動部よ?」
「「「…え?」」」
これは一真も初耳だ。
「部長その2、MBSFのBを言ってみなさい」
「…"勉強したり遊んだりその他諸々をする"」
「勉強は文化部、遊びは運動部、その他諸々は臨機応変に…」
「そういう事か…さっき言ってた活動その2は、遊びの事だったわけな?」
「ダン君正解♪って事で、何して遊ぶ?」
沈黙する4人…
「…何して遊ぶ♪」
「いや、2回言われても…なぁ?カズマ」
「ん~…宿題以外、ノルマ的な物が無いのも考え物だな」
「…そもそも、SFって何の略?」
「部長!?それって部長が知っておかないといけない事じゃね?」
「だって、SFなんて興味ないし…」
「うわぁ、カミングアウトしやがったこいつ…」
「じゃあ、今日の議題、(SFって何の略?)に決定!」
「あの…」
「はい、サオリの発言を認めます」
「裁判官かお前は…」
「あのね?私、SFが何の略か知ってる…」
「…はい、サオリの今日の発言権は失われました」
「えぇ!なんで!?」
「正解を知ってると、話し合う楽しみが無くなるからよ」
「うわぁ…ダンの言った通りの独裁政治…」
「え?今回はオレも賛成だし…」
「…何で?」
「だって楽しそうじゃん?」
「…お前は本当に一般人か?」
「一般人…だと思うんだけどなぁ…」
「…じゃ、改めて会議を始めましょう」
4人はそれぞれ椅子に座り、長テーブルに両肘を置き、指を組んだ。
「…部屋暗くして、映写機回せば雰囲気出そうじゃね?」
「オレもそれ思った…なんか、怪しげな雰囲気出そうだよな」
「これじゃあ黒魔術研究会ね…」
「良いじゃん黒魔術!あれか?呪文とか唱えるのか?」
「黒魔術って…オレ、本物の魔法使いよ?普通に魔法使えるから…」
「じゃあ、なんか黒魔術的な雰囲気を魔法で演出してくれよ」
「嫌だって、演出に使うとか…」
「…ねぇ、そろそろ始めない?」
「あぁ、リク悪い…」
「コホン…では、SFとは何の略か…」
「はい!」
「はいダン君」
「スーパーファミコン!」
「懐かしいなぁ…スーファミかよ」
「50点ね」
「半分かぁ…」
「点数付けんの?」
「この議題、入部テストに使いましょ?点数の高い人を入部させるの」
「これ以上部員が増えると思ってんだ…」
「次、カズマ!」
「オレ!?えっと…センターフライ…とか?」
「60点」
「うわ!負けたよ…」
「…いや、点数の基準がわからないから」
「次は私ね?ん~…ストロベリーフラワー?」
「…結構あるもんだな、SF…」
「65点ってとこかな?」
「いや、今のは満点でしょ~?」
「結局リクの独裁政治じゃねぇか!」
「基準もクソもねぇじゃん…」
「うるさいわねぇ、なら65点で良いわよ!」
「…ねぇ?」
「ん?何、サオリ?」
「私も入れてほしいなぁ…って、駄目?」
「…正解を言わないなら、まぁ…良いわよ?」
「やた!はいはい!私もう考えてある!」
「じゃあ、サオリ」
「はい!スーパーフェイス!」
「凄い顔…」
「凄い顔ねぇ…」
「…ちなみに、サオリの言う凄い顔ってどんな顔?」
「…え?」
「それによって、点数が大きく変わるわ」
「え…えぇ!?」
「凄いぞ…サオリちゃんの凄い顔、最高得点になるかもしれない!」
「最低得点の可能性も有るけどな」
「さぁサオリ?あなたの言う凄い顔を、あなたの顔で表現して!」
「…凄い顔…ん~…」
沙織は、3人に真面目な顔を向け…
「…いきます!」
凄い顔をした…
「…ぷふ…」
「「ァハハハハハハハハハハハハ!!!!!」」
暖はかろうじて吹き出しただけですんだが、一真と梨紅は腹を抱えて大爆笑だ。
「そ…そんなに笑わなくても…」
「いやいやいや、今のは最高だったよ…ぷふ!これはもう満点でも良くね?」
「クフフ♪うん、うん!満点でしょ満点!ハハハハハ!!」
「サオリちゃん凄い顔だったよ、マジで…」
「…私今、スッゴい後悔してる…」
こうして、この日の部活は大爆笑で幕を閉じた。
ちなみに、SFとはサイエンスフィクションの略である。
帰り道…昨日の今日と言う事で、一真と梨紅は暖と沙織と一緒に下校している。
また襲われる可能性も否定は出来ないからだ。
「…今日も来るかな?」
「さぁ…まぁ来たら来ただよ、その時はダンが囮に…」
「おい」
「冗談さ、囮にもなりゃしない」
「余計に凹むわ!もうちょい歯に絹着せろよ!」
「ダン君って、ちょくちょく言葉をいじるよね…さっきも、(つまるつまらない)とか言ってたし」
「少しでも自分を知的に見せたいのさ…逆効果だけど」
「またオレ、ボロクソに言われてるし…今度は何の八つ当たりだ?」
「いや、夢を覚えてないことの…」
「まだそれ!?いつまでそれ引っ張るんだ!」
「馬鹿野郎…馬鹿野郎!」
「なんで2回言ったんだよ…」
「オレは…お前の(カルピス大盛り!)が、頭から離れないんだよ!気になって気になって仕方ないんだよぉ!」
「私もよ!」
「だから、悪かったって…」
「「このミジンコめ!」」
「言い過ぎだろそりゃあよぉ!」
「…!!」
突然…沙織が顔を青くして立ち止まった。
「?どした?サオリちゃ…!?」
沙織が見つめる先を見て、暖も固まってしまう。
二人の視線の先には…
…茶色いコートを着た男がいた。
「…」
「ダン、あいつが?」
「間違いない…昨日のやつだ」
一真と梨紅は、暖と沙織を後ろに庇い、茶色いコートの男を睨み付ける。
「…退魔士に、魔法使いか?」
一真達の手前、2mの地点で立ち止まった男は、ゆっくりとした口調で問いかけた。
「退魔士、今城梨紅よ」
「魔法使い、久城一真」
「お初にお目にかかります…私、バンパイアのブラッド・C・ピエールと申します。」
軽く会釈し、ピエールと名乗ったバンパイアは茶色いコートを脱ぎ捨てる。
服装は上から下まで黒で統一され、人間にしか見えない。
「魔族であるバンパイアが、人間界になんの御用でしょうか…」
「それはもちろん、美しい女性の美味しい血をいただきに…」
「…まぁ、そりゃあそうだろうなぁ…バンパイアだし」
「あんたは黙ってて」
「…」
「ピエール…でしたね?あなたは今日までに何人の人間の血を飲みましたか?」
「昨日、あなたの後ろにいらっしゃるお嬢さんの血を飲み損ねました…それ以外は、何も」
「本当に?」
「魔族、バンパイア一族の品位に誓います」
「…カズマ、どう思う?」
「…あ、しゃべって良いの?」
「良いから聞いてんでしょ!」
「あぁ…まぁ、一見…最悪の展開は免れたように見える。でも…」
「でも?」
「…お前、華颶夜は?」
「家の机の脇に…は!」
そう…今現在戦力になるのは、魔法使いの一真だけなのだ。
(…どうしよ?カズマ)
(バカ、逃げるしかないだ…)
「私が逃がすと…思っているのですか?」
ピエールは背中から4枚の翼を出して広げる。
「きゃぁ!」
「う…わぁ!」
4枚のうち、下側の2枚が沙織と梨紅を捕獲する。
「リク!」
「サオリちゃん!」
「お嬢さん方はいただいて行きますよ」
そう言って、残る2枚の翼で空へ舞い上がるピエール
「サオリちゃ…おいカズマ!逃げられちまうぞ!?」
「…逃がさねぇ」
「は…」
「"スカイ!"」
暖が「は?」と言う前に、一真はピエールを追って舞い上がっていた。
「きゃぁぁ!いやぁぁ!離してぇぇ!!」
「この…離しなさいよ!変態!」
「ちょっ…お嬢さん方、もう少し大人しく…」
「"フレイム・バースト"」
梨紅と沙織に手こずるピエールの背中に、一真は手の平に収まるくらいの火の玉を叩きつけた
「カズマ!♪」
「な…」
「…バン」
火の玉はその大きさとは裏腹に、ピエールの背で大爆発を引き起こした。
「がぁ!…はっ…!」
「"ウィンド・スラッシュ"」
一真は右手に風を纏い、ピエールの羽を風の刃で斬りつけた
…しかし、軽い金属音とともに弾かれてしまった。
「!?」
「うそ…カズマのそれで斬れないって、どんだけ硬いのよ!?」
「…くぅ…その羽は、血中の鉄分を…ぐ!…使って作られたものですからね…そう簡単には…」
「"フレイム・クロス!"」
一真はピエールの言葉を遮り、炎の剣で翼を焼き斬ろうとした。
「それだけはさせません…」
ピエールが右手で一真を凪ぎ払う。
「く…」
「恐ろしい…攻撃に躊躇が見られない…ここは本気で引かせていただきますよ」
ピエールが翼を羽ばたかせると、コウモリの大群が現れた。
コウモリは一真に向かって一直線に飛んでいく。
「…"レイジング・ファイア"」
一真は巨大な火の玉をコウモリ達にぶつけ、焼き払った。
「…」
コウモリの消えた後に、ピエールの姿は無く…もちろん梨紅と沙織も消えていた。
「くそ…リク…」
一真は悔しそうに顔を歪め、拳を握り絞める…
「ッ!!リクゥゥゥ!!!!!!」
(…何?)
「うぉあ!!」
一真の頭の中に、梨紅の声が響いた。