5.MBSF研究会は違和感を覚える。
…7月9日、月曜日。
「…」
午前6時30分、一真は既に起床していた。
今日はテスト返却日…兼、魔物襲来予定日である。
本来なら、体調を万全にしておくべき日であり…もちろん、今日の一真の体調は…
「…ダルい」
最高…に、最悪だった。
何故なら…今日が襲来予定日にも関わらず、今日の夢の中でさえ、エリープロデュース、地獄巡りツアー式修業…が、行われていたからだ。
「…今すぐ魔物が来たら、確実に死ぬぞ?オレ…」
目頭を押さえ、顔をしかめる一真。
ベッドの上でぼんやりしていても、特に体調が良くなるわけでも無い…
そう思った一真は、非常にめんどくさそうに、ゆっくりとベッドから降り、部屋を出た。
リビングには、真人と美由希がいた。
「おは……」
一真は、真人の服装を見て固まってしまった。
ゴワゴワした服とズボンに、毛皮のコート…地球温暖化で、気候がおかしくなって来ているように感じることもあるが…さすがに、夏は暑いままだ。
「…父さん、どこ行くの?」
「ん?ちょっとカナダまでね…」
「…それ、完ッ全にちょっとの範疇越えてるよね」
言いながら一真は、真人が自分の行く末であることを、薄々感じていた。
「いや、16年に比べればちょっとだと思うぞ?」
「…じゃあ、今回はすぐに帰って来るってこと?」
「うん…正月には戻れると思う」
「そっか…出来れば、一緒に魔物と戦ってほしかったんだけどなぁ…」
一真は、残念そうに言った。
「いやぁ…オレがいても、足手まといにしかならないよ…退魔力も持ってないし」
真人は苦笑し、一真を真っ直ぐ見据える。
「それに…この戦いは一真達の戦いだ。オレや幸太郎は、参加しちゃいけない」
「…?」
首をかしげる一真。
「まぁ、何年かしたら一真にもわかるさ」
「…」
真人は一真の頭に手を置いて、微笑んだ。
「…じゃ、オレは行くよ」
「行ってらっしゃい、真人さん」
「…行ってらっしゃい、父さん」
「うん、行ってくる…あ、ちょっと待った」
リビングから出ようとした真人は、一真を振り返り、何処からか1冊の分厚いノートを取り出した。
「一真、これ餞別な」
「餞別?………!?」
一真はノートを受け取り、中を見て驚いた。
「父さん、これ…」
「オレの16年の集大成…かな?」
言って、真人は玄関へ向かう。
ゴワゴワした靴を履き、真人は一真達を振り返った。
「一真、母さんを頼むぞ」
「うん…」
「あと、日本もな」
「それはちょっと荷が重いよ…」
苦笑する一真。それに、真人も微笑む。
「大丈夫、一真達なら出来るよ」
「…まぁ、頑張るよ」
「あぁ、頑張れよ」
そして、真人は旅立った。
真人は、大丈夫だと言った。
未来を知る男の言葉…
それが信用できるか否かは、定かでは無い。
「…それで、これがその"餞別"のノート?」
梨紅が、ノートの中を見ながら言った。
「あぁ…凄いだろ?それ」
一真が、黒板の方を見ながら言った。
「うん…凄いね、魔物図鑑」
真人が残していったノートは、まさに魔物図鑑だった。
あらゆる魔物の特徴や弱点…対処方法が記されている、素晴らしい物だった。
「…父さんの16年の集大成だってさ」
「16年…世界中回って、調べてたんだね…」
梨紅は魔物図鑑を閉じて、一真に返した。
「…絶対に勝たなきゃね」
「あ~…」
「…ちょっと一真?テンション低くない?」
「…疲れてんだよ…」
言うや否や、一真は机に突っ伏した。
「疲れてるって…あんた、いつも屋上で寝てるだけじゃない」
「殴るぞ…」
「冗談だよ、エリーと修業してるんでしょ?」
「わかってて言ったんなら尚更たちが悪い」
そう言って、一真は梨紅と反対方向を向くが…
「久城ぉ~」
「…一真、先生呼んでるよ?」
「…」
テストを受け取るべく、一真は席を立った。
「前回より落ちてるな…もっと頑張れよ?」
「はい…(うるせぇな!忙しかったんだよ!ぶっとばすぞこのハゲ!!)」
心の中で教師に罵声を浴びせ、一真は席に戻って言った。
「…一真、通話中だよ…」
席に戻ると、隣の席で梨紅が耳を押さえていた。どうやら、一真の教師への罵声を全て聞いていたようだ。
「…」
しかし、一真は無言で席につき、テストの点数や梨紅には目もくれず、窓の外に視線を向けた。
今日は、あいにくの曇り空…あれ以来、青空は見れていない。
一真「…さて、今日が魔物襲来予定日なわけだけど…」
部室の窓際の席に座り、体調が少し回復した一真は言った。
一真「勇気、どんな感じ?」
勇気「あぁ、魔物襲来は明日の午後2時…出現場所は、ここから北に2kmぐらいの地点から、半径1km以内に限定したぞ」
一真「おぉ!よくやっ…」
正義「ちょっと待て」
正義が、長机に広げた地図を見ながら言った。
正義「ここから北に2km…貴ノ葉大通りのど真ん中じゃないか」
一真「アホかお前ぇ!!!!場所選べよ場所!!!」
勇気「やかましい!!場所なんて選んでられるか!!!限定出来ただけでもめっけもんだ!!」
正義「…あ、山口さんですか?すいません、明日の13時30分、貴ノ葉大通りに警官を配置するよう課長に…」
叫び合う2人を横目に、正義は早速、部下に電話で指示をし始める。
豊「……半径1kmなら…僕が結界張れるよ…」
唐突に、豊が挙手し、呟くように言った。
一真「お、それなら魔物は出れないけど人間は出れる…もちろんあった方が良いけど…豊が大変じゃ…」
豊「大丈夫、頑張る」
豊は、力強くそう言った。
暖「おぉ!なんか男らしくなったな豊!」
そう言って、暖が豊の背中を叩く。
豊「!?ゴホッ…ゴホッ…」
愛「…やっぱり豊は豊ね」
むせる豊を見て、愛が鼻で笑った。
一真「まぁなんにしても、日時が定まったのは大きい…勇気の活躍に感謝だな」
勇気「礼には及ばねぇよ、もともとオレが言い出した話だしな」
愛「そうよ、むしろ釣銭よこしなさいよ」
恋華「愛ちゃん…勇気君のおかげで日本人を助けられるんだよ?」
愛「冗談よ、冗談」
おそらく…恋華が何も言わなかったら、愛は本気だっただろう。
暖「…ところでさ、チーム分けとかしねぇの?」
暖が言った。
沙織「…チーム分け?どうして?」
暖「だって、こういう時ってチーム分けするもんじゃん?普通」
沙織「…暖君の普通が私達の普通とは限らないよ?」
暖「沙織ちゃん…微妙に傷つくんだけど…」
沙織との会話の末、暖は心に小さな傷を負った。
梨紅「…でもさ、分けておいても良いんじゃない?不測の事態とかあるかもしれないし」
梨紅が、暖の意見に肯定の意を見せる。
一真「そうだな…あんまり考えたくないけど、暖が何かやらかすかもしれないし」
暖「オレ限定!?」
一真「まぁ、オレも賛成かな…」
一真の肯定が効いたのか、暖の意見が採用されることになった。
結果…
Aチーム
一真
正義
沙織
愛
Bチーム
梨紅
恋華
勇気
豊
暖
一真「…3チームに分けた方がキリ良かったんじゃね?」
正義「トランシーバーの周波数の関係上、2チーム分けが限界なんだ」
暖「なぁ、チーム名どうする?」
ここに来て再び、暖が提案してきた。
一真「いらねぇよ、AとBで良いし」
暖「それじゃつまんねぇだろ!!」
一真「…もう、勝手にしろや…」
ため息混じりに、一真が言った。
暖「よっしゃ!みんなでチーム名考えよう!」
拳を振り上げ、暖が言った。
梨紅「チーム名かぁ…コードネームは決めないの?」
梨紅が首をかしげる。
暖「よし、コードネームも決めよう!」
暖は即答した。
正義「…おい一真、放っておいて良いのか?」
一真「もぉ知らん、オレは疲れた…」
正義の問いに、一真はため息を吐きながら答える。
勇気「コードネームは、チーム名+数字で良いんじゃねぇか?」
勇気がそう言った瞬間、恋華が勢い良く挙手した。
恋華「はいはい!あたし3番!」
暖「ならオレ4番!」
豊「僕は5番」
一真「なんでさりげなく控え目なんだお前ら…」
3人を見て、一真は苦笑する。
勇気「なら、オレが2番で今城が1番だな」
梨紅「私が1番で良いの?勇気君が1番の方が…」
勇気「良いんだよ、こういうのは能力順だから」
豊「……なら僕4ば…」
暖「4番は譲らねぇ!!」
暖が、豊を指さしながら言った。
一真「野球じゃねぇぞ」
正義「ちなみに、Aチームの1番は当然一真だぞ」
沙織「2番が正義君、3番が愛ちゃん、4番が私ね」
愛「え?沙織、4番で良いの?」
沙織「うん、4番ってなんかかっこいいし」
一真「だから野球じゃねぇって…」
暖「次はチーム名だ!」
一真の言葉を無視し、暖が続ける。
暖「個人的には、魔法使いと退魔士…ウィザードとデビルキラーなんかが良いと思ってる!」
勇気「安易だな…オレはリーダーの名前から、トゥルー(真実)とクリムゾン(紅)を押す」
勇気が暖に対抗してきた。
愛「…久城組と今城組で良いんじゃない?」
言ったのは愛だ。
正義「どこのヤクザだ」
豊「…センス無い」
愛「な…センス無い!?豊てめぇ!!!」
正義と豊に却下された愛は、豊の胸ぐらを着かんで揺さぶり始めた。
梨紅「ん~…色も良いかもね?レッドとホワイトとか」
沙織「赤組と白組になっちゃうよ?」
梨紅「アハハ、運動会みたい」
一真「却下」
梨紅と沙織のやり取りを聞いて、一真が却下する。
恋華「ラブ&ピース!!」
正義「勘弁してくれ」
突然叫んだ恋華に、正義が即座に頭を下げる。
暖「ウィザードとデビルキラー!」
勇気「トゥルーとクリムゾン!」
愛「久城組と今城組!」
梨紅「赤組白組~」
恋華「ラブ&…!!」
正義「やめろって…」
一真「…」
一真は、騒がしくなって来た室内を見回し、ため息を吐き、立ち上がった。
一真が立ち上がると、騒いでいた部員達が一真に視線を向け、一瞬で静かになった。
梨紅「…一真?」
一真「…お前らにピッタリで、なおかつ!かっこいいチーム名を考えついた」
そう言って、一真は正義を指さした。
一真「まずはAチーム!チーム名は、フェザーズ」
正義「フェザーズ…?」
一真「そしてBチーム!」
続いて、暖を指さす一真。
一真「チーム名…アルバトロス」
暖「アルバトロス…」
一真「両方とも、何かしらの意味がある名前だ…どう?」
そう言って、部員達を見回す一真。
暖「ならオレは、アルバトロス4…かっこいいじゃん!」
勇気「アルバトロス2か…」
豊「アルバトロス5…」
恋華「アルバトロス3!」
どうやら、アルバトロスの4人は気に入ったようだ。
正義「フェザーズ2か…良いんじゃないか?」
愛「私はフェザーズ3ね…うん、シンプルで良いわ」
沙織「正直なんでも良かったけど、フェザーズなら喜んで賛成するわ」
フェザーズも了承…
梨紅「じゃあ、一真のチームがフェザーズ。私のチームがアルバトロスってことで決定ね!」
こうして、MBSF研究会に2つのチームができた。
正義「…一真、ちょっと良いか?」
沙織「私も、久城君にちょっと聞きたいんだけど…」
一真「?」
正義と沙織が、一真を部室の端へ連れて行く。
正義「率直に聞こう…お前、アルバトロスの意味知っててチーム名付けたのか?」
一真「もちろん。これ以上無いほど的確な名前だと思うけど?」
沙織「じゃあ、こっちのチームがフェザーズなのってもしかして…」
一真「うん、全員飛べるから」
「「…」」
唖然とする正義と沙織…なんだかんだで、結局安易な意見が通ってしまっていたのだ。
ちなみに、アルバトロスの意味をご存知だろうか?
アルバトロス…日本語に訳すと、アホウドリである。
…これは夢だ。
一真はそう確信していた。
何故なら…辺り一面真っ白であり、更に言えば、自分の目の前に、エリーとナイトが立っていたからだ。
疑いようも無い、完全な夢だ。
「…さすがに、今日は休ませてくれない?明日が本番なんだけど…」
一真はエリーに、疲れきった表情を見せながら言った。
「大丈夫よ、今日は修業なんてしないから」
「助かったぁ…」
言いながら、一真はその場に座り込んだ。
「…ってことは、オレに何か話があるってことだよな?わざわざ夢に出て来るぐらいだし」
「話…というより、私達からの餞別を渡すためね」
そう言って、エリーは一真に向かって右手を伸ばした。すると、エリーの手の平から緋色の球体が現れた。
「…何それ?」
「君の"魔核"の封印を解く鍵よ」
「ちなみに、オレも持ってる」
ナイトの左手の手の平からも、緋色の球体が現れた。
「あんた達が持ってたのか…」
「そうよ。さぁ、受け取りなさい」
緋色の球体はエリーとナイトの手を離れ、一真に向かって飛んで行き、一真の両肩に入って言った。
「これで、残りの封印はあと1つね」
梨紅とのキスで1つ
梨紅の血を飲んで1つ
前世の名前で1つ
退魔刀で1つ
16歳の誕生日に1つ
エリーから1つ
ナイトから1つ
合計7つ…
「…で、最後の1つは?」
一真は、首をかしげながら言った。
「さぁ…わからないわ」
「…今回のそれは、知ってるけど言わないってことだろ」
「そうよ」
エリーは即答した。そして、微笑みながら続ける。
「私は鍵を知っている…でも、最後の鍵は私が教えても意味が無いの…君達が自分で見つけないといけないのよ」
エリーは、まるで親が子を優しく諭すかのように、一真に言った。しかし…
「…ヒントとか無いの?」
「…君、私の話をちゃんと聞いてた?」
エリーの口調に、少量の怒りが混じる。
「聞いてたさ…最後の鍵は自分で見つけないといけないんだろ?でも、何もわからないんじゃ見つけようが無い。だから、少しは情報くれても良いんじゃない?って思ったわけよ」
「…正論のような、屁理屈のような…」
「まぁまぁ、ヒントぐらい良いんじゃないか?」
今一納得出来ないエリーを他所に、ナイトが言った。
「ヒントは…そうだなぁ…"想い"かな?」
「"想い"?」
「そう、"想い"」
「…ヒント2は?」
「あるわけ無いでしょ。もう行きなさい、あの子が待ってるわ」
「え?ちょっ…」
一真の言葉は途中で掻き消され、一真の意識は夢の中から飛ばされて行った。
「まったく…あの子は頭が良いと言うか、悪知恵が働くと言うか…」
ため息を吐きながら、エリーが言った。
「頭が良いから、悪知恵が働くんだ。大丈夫、あいつは悪い方には進まないよ」
ナイトは微笑み、エリーの頭を撫でながら言った。
「…あ、エリー?」
「何?」
「左腕…服が破けてるぞ」
ナイトの言うとおり、エリーの服の左腕の部分が少し破けていた。
「あぁ、これ?これはね、このままで良いの」
「…なんで?」
エリーは満面の笑みを浮かべ、破けた箇所を擦りながら、嬉しそうに言った。
「これはね?あの子が、全力の私に傷を付けた記念なのよ」
「…」
まだ外は暗い時刻…一真が目を開けると、そこには梨紅の顔があった。しかも…
「…起こしちゃった?」
梨紅の両目は、しっかり開いていた。
「…今何時?」
「3時ぐらいかな…エリーに起こされちゃってさ」
「ってことは、梨紅も鍵もらったんだ…」
一真の問いに、梨紅は黙って頷いた。
「…なんだか落ち着かなくて、一真の部屋に来ちゃった」
「…オレも同じだよ」
同じベッドの中で、2人はもぞもぞと動き、身を寄せ合う。
「…一緒に寝て良い?」
「何を今更…」
「…ありがと」
そう言って、梨紅は一真の胸に顔を埋める。一真は梨紅の背に腕を回し、軽く抱きしめた。
「…なんか、落ち着く…」
「…オレも…」
そして、2人は一緒に眠りに落ちた。
梨紅を抱きしめながら、一真は思った。
やっぱりオレは、梨紅が好きだ…と。
梨紅が何よりも愛しく、大切だ…と。
そして、一真は誓う…
梨紅を、絶対に守る…と。
それはきっと、自分への誓い…
それはきっと、自己満足…
彼女を必死で守るのは、自分が悲しみたくないから…
自分が死んだら彼女が悲しむとわかっているのに、自分は命がけで彼女を守る…
好きだから…
大切だから…
愛しているから…
それでも、彼女を1番傷つけるのは自分なのだ。
愛しているが故に、愛する者を傷つける…
大切にしたいのに、それを自分が1番傷つけている…
矛盾している…
矛盾しているからこそ、彼は苦悩する…
矛盾を解消する方法は無いか…
この方法はどうだろう…いや、駄目だ。
あの方法はどうだろう…いや、駄目だ。
その繰り返しが、"苦悩する"ということだ。
悩むことに苦しみを伴う…
苦しいから悩む…
正しい答えが出るかはわからない…
いつになったら答えが出るかもわからない…
そもそも、答えが出るかもわからない…
…本当に答えがあるのかどうか…それもわからない…
しかし、わからないからといって、考えることをやめるわけにはいかない。
考えに考え、考えぬいて…
彼は、自分なりに答えを出すだろう。
しかし、出る答えは1つとは限らない。
正しい答え…間違った答え…
それを彼は、選択しなければならない…
そして、彼はまた苦悩する。
納得出来なければ、考え直す。
そして、彼はまた苦悩する。
「…」
目が覚めた一真は、少し不機嫌だった。
何故なら、嫌な夢を見た気がするから…
自分の出した答えが、間違ってると言われた気がしたから…
もっと悩み、もっと苦しめと、言われた気がしたから…
「…」
しかし、どんな夢だったかは思い出せない。
それは、あくまで夢だから。
「…」
一真が、窓の外に視線を向ける。
外は明るくなっていた。
そう…決戦の日の、朝がやって来たのだ。
正義「各自、装備を確認してくれ」
午前8時、MBSF研究会部室。
一真達9人は、正義の持って来たマイクとイヤホンを受け取り、装備していた。
一真「よし…みんな、無理はするなよ?」
暖「お前が1番無理しそうだろうが!」
一真「…」
暖に言われ、苦笑いする一真。
梨紅「一真、絶ッ対に無理しちゃ駄目だよ?」
沙織「そうよ、久城君が1番暴走しがちだし…」
恋華「あたし達を守ろうとか、考えすぎちゃ駄目だよ?」
愛「私達、カズが思ってるほど柔じゃないからね」
一真「…なんでそこまで釘打たれなきゃならねぇんだよ…」
女性陣に言われ、タジタジの一真。
暖「よし、円陣組もうぜ!!」
勇気「おう!」
豊「………」
暖が言うと同時に、勇気と豊が暖と肩を組む。
一真「…」
苦笑しながら、一真も勇気と肩を組む。
暖「おぉ!珍しく乗り気だな一真!!」
一真「まぁ、たまにはな」
梨紅「じゃあ私も!」
梨紅は一真と肩を組む。それに続いて、沙織、正義、恋華、愛も、肩を組んでいく。
一真「っし…暖、お前が仕切れ」
暖「マジで!?オレで良いの?」
一真「あぁ…最後ぐらいお前にやらせてやるよ」
暖「嫌だよ!!縁起でもねぇよ!!やる気無くすわ!!」
結局、一真が仕切ることになった。
一真「よし…絶対に勝つぞ!!」
おぉぉ!!
一真「死ぬなよお前ら!!!」
おぉぉ!!
一真「…えっと…木更○~…キャッ…」
違う違う違う!!!
一真「何言えば良いかわかんねぇよ!!!」
梨紅「だからって木更○キャッツは無いでしょ!!」
半ギレの一真に、梨紅が言った。
暖「野球じゃねぇぞ!!」
一真「それ前にオレがお前に言ったセリフじゃねぇか!!」
沙織「…で、どうするの?」
沙織の一言で、場が静まりかえる。
梨紅「…MBSF~…ファイト、オ~…?」
一真「ダセェ…あうっ!」
発言直後、一真は梨紅のアッパーを真横から顎に受けた。
暖「何かこう…意気込みを入れたいよな」
愛「意気込み?」
暖の提案に、愛が顔をしかめる。
暖「うん。行くぞぉ!!的な?」
正義「的な?と言われても、何も伝わって来ないが…」
恋華「え?あたしには伝わったよ?元気ですかぁぁぁ!!!みたいな感じでしょ?」
暖「そうそう!さすがは恋華ちゃ…」
一真「さすがじゃねぇよ馬鹿。お前らもう黙ってろ…」
馬鹿二人を一喝する一真。その後、しばらく目を瞑って何かを考えていたようだが、何も浮かばなかったようで…
一真「…無しで」
梨紅「ここまで引っ張って!?」
一真「いや、なんかもう飽きたし…」
そう言って、一真は円陣から離れる。
一真「一応、気合いは入れた感じだし…大丈夫じゃね?」
沙織「…まぁ、下手に変な気合いの入れ方してグダグダになるよりはマシかもね」
沙織の言葉と同時に、円陣は完全に解体された。
一真「…2時に来るんだよな?」
勇気「え?…あぁ、そう、2時…って、いきなり何だよ?」
突然話題を振られた勇気は、少し狼狽しつつ答えた。
一真「いや…なんとなく…な」
一真も、何処か歯切れが悪い。
結局、朝はこのまま解散となった。
一真達にしては珍しく、なんとなく違和感の残る会合だったように思う。
そう思ったのは、一真達全員だ。
何かがおかしい…
そんな思いが渦巻く胸中…一真だけが、違和感とは別に、嫌な予感を感じていた。
魔物が来るのは2時…
勇気がもたらした情報…
部内でただ一人…一真はそれに、疑心を抱いていた。
勇気を疑っているわけでは無い。あくまで、情報を…だ。
一真の考えを、簡潔に述べよう。
魔物が襲来する時刻…
『何故』2時なんだ?
「…何故って…理由なんてあるの?」
梨紅は、自分の席で頬杖を付きながら、隣の席の一真に言った。
現在の時刻は、11時55分。四時限目の授業中である。
しかし、授業と言ってもテスト返却であり、既にテストは返却済み…はっきり言ってしまえば、自由時間だ。
「…勇気に詳しく聞いたわけじゃ無いけどさ…あいつの言い方だと、時間も場所も、全てコントロール出来た…みたいな印象を受けるんだよ」
一真は腕組みをし、目を瞑ったまま言った。
「…つまり勇気君は、あえて2時にした…ってこと?」
梨紅の問いに、一真は無言で首を縦に振り、肯定の意を示した。
「でもそうなると、2時にした理由がわからない…」
「…私達に、お昼を食べて、食後の休憩を取る時間をくれたとか?」
「なら、余裕を持って3時とかにすれば良いだろ?」
「何言ってんのよ、3時はおやつの時間じゃない」
「関係ねぇだろ…何?お前、魔物と戦いながらおやつ食べるつもりなのか?」
一真は顔をしかめ、嘲笑気味の視線を梨紅に向けた。
「…そもそも、おかしなことはまだある」
視線を前方に戻し、一真は続ける。
「時間や場所は指定出来るのに、出現する魔物の数は指定出来ないなんて、変じゃね?」
「え?だってそれは、本当は出来ないけど勇気君が頑張って…」
「優先順位が間違ってんだよ。お前、一万匹の魔物が一度に来るのと、時間と場所はバラバラだけど、魔物が一匹ずつ一万回来るのと、どっちが良いよ?」
「…一万回」
そう、優先すべきは時間と場所では無く、一度に出現する魔物の数のコントロールなのだ。
にも関わらず、魔物の数はコントロール出来ない…
「…でも、魔物の数のコントロールが出来なくて、せめて時間と場所だけでも…って思ったのかもよ?」
「仮にそうだとしても、コントロール出来なかったことをオレ達に伝えるんじゃないか?」
正論である。
「なら…勇気君は最初から、魔物の数をコントロールすることを考えてなかった…ってこと?」
「…だとすれば、それは何故か…お前にわかるかな?」
一真は梨紅に向き直り、足を組みつつ、聞いた。
「私にわかるわけないじゃない…一真だってわからないんでしょ?」
「…オレは既に、一つの結論に達してる」
驚きの発言である。
「…聞かせてよ、一真の出した結論」
しかし、梨紅はあまり驚いていないようだ。その口調からは、一真の言葉を全て、真実として受け止める覚悟すら感じられる。
そして、一真は言った。
「…魔物の数、時間、場所…その全てが、コントロール『出来ない』とすれば、全部辻褄が合うんだ」
つまり、魔物達は最初から、2時に貴ノ葉大通りのど真ん中に現れる予定であり、天界側に出来ることがあるとすれば、それを事前に知ることだけであると、一真は言っているのだ。
「…ちょっと待ってよ」
梨紅の表情が、みるみるうちに青ざめていく。
「その考えが正しかったとして、もし…もし、天界が手に入れた情報が間違ってたら…」
梨紅がそう言った瞬間…時計が午後0時を回った。
お昼を告げる鐘の音が、町中に響き渡る。
…そして、最悪の知らせが飛び込んで来た。




