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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第五章 魔族襲来 前編
36/66

2.MBSF研究会は修行する。


ドアを開けて部室に入って来たのは、金髪の男だった。


「へぇ…」


男は部室を…いや、部員達を見回し、ニヤリと笑う。


「…魔法使いに退魔士、半魔、風使い、重力使い、判子使い、霊能力者…よくもまぁ、こんだけ類友が集まったもんだな」


「…誰?」


もっともな疑問を口にしたのは、恋華だった。


「…E組の女たらし、進藤よ…」


恋華の疑問に、愛が嫌そうに答えた。


「進藤って…あぁ、球技大会の時に凉音が言ってた、女たらしで嫌なやつか」


「酷い言い様だな…」


「嘘は言ってないわよ、全て事実じゃない」


一真に言われ、顔をしかめる進藤に、愛が冷たく言った。


「…何しに来たの?ここの部員をナンパでもする気?」


「いんや、そんな気は無い…まぁ、4人とも魅力的な女性だとは思うけどな?」


そう言って、進藤は梨紅達3人にウインクして見せる。


「…」


梨紅達は無言で、同時に、それぞれの武器を取り出し、進藤に向けた。


「…お前ら、何してんの?」


一真が顔をしかめる。


「いや、ちょっと身の危険を…」


3人は、口を揃えてそう言った。


「その判断は正しいわ、今すぐこの男を殺しましょう」


そう言って、愛が立ち上がるが…


「まぁまぁ、そう殺気立つなって」


「「!?」」


いつの間にか、進藤は一真と梨紅の後ろの窓枠に座っていた。


「…何者?」


一真が、真面目な様子で聞いた。


「挨拶が遅れたな…貴ノ葉高校1年E組、進藤勇気…」


勇気は窓枠から降り…


「…次期神様候補の、天界の天使だ」


「!?」


地に足が着いた次の瞬間には、勇気は部室のドアの所に立っていた。


「神様候補?」


「天使…」


暖と正義が、顔をしかめながら言った。


「………胡散臭い…」


豊すら、そう言って顔をしかめた。


「あ?どっからどう見ても天使だろうが!」


「どこをどう見たら天使なんだよ…ただのガラの悪い不良にしか見えねぇっつの」


一真はやる気の無さそうに言った。


「はぁ!?そんなのお前…金髪で美形だし…」


「そんなやつ、東京行けば腐る程いるし…もっと何か…証拠的な物無ぇの?」


「…さっきの瞬間移動もどきは?」


「普通の人間じゃ無いってのはわかった…でも、天使だって事の証拠にはならないな」


正義が答えた。


「…ちっ、これならどうだ?」


勇気はそう言って、サイフから1枚のカードを取り出し、一真に投げ渡した。


「…免許?」


一真が受け取ったのは、免許証だった。


「天界のバイクの免許だ」


「なおさら胡散臭ぇよ!てか、普通のバイクの免許すら実物見たこと無いし!」


「ちなみに、普通のバイクの免許はこれな?」


顔をしかめる一真に、暖はそう言って、自分のバイクの免許証を手渡した。


一真はそれを見比べ…


「…大して変わらねぇじゃん…てか暖!?お前、バイクの免許なんて持ってたのか?」


「ん?あぁ、春休みに講習受けてゴールデンウィーク前に取った」


「バイクは?」


「持ってねぇ」


「意味ねぇじゃねぇか!」


そう言って、一真は暖の免許証を長机に叩きつけた。


「…こっちの免許も、天使の証拠にはならんだろうよ」


言いながら、一真は勇気の免許を投げ返した。


「…ならとりあえず、天使だって事は抜きにして、話だけでも聞いたら?」


梨紅が言った。


「その必要は無いわ、今すぐこの場で殺しましょう」


「お前さっきからそればっかじゃねぇか!こいつに何か恨みでもあんのか!?」


「…」


一真の言葉に、愛は嫌そうな顔をしつつ…言った。


「…入学式の日に、突然…『あ~…惜しい!身長が足りねぇ…』って言われた…」


「なんて失礼な!」


沙織と梨紅が、勇気を睨みつけた。


「…いやいや、身長以外は完璧って事だぜ?」


勇気は首を横に振りながら弁明する。


「……性格は…」


愛の隣の席で、豊が呟いた。


「…性格は?」


「……………壊滅的」


「…言うじゃないの…ねぇ?無口キャラのくせによぉ…」


豊の胸ぐらを両手で掴み、愛はグラグラと豊を揺らす。


「………気持ち悪い…」


「ほぉ…性格は壊滅的で顔を見ると吐き気がすると?」


「違っ……」


勝手な解釈の末、愛の豊を揺らすスピードが凄まじい速さになった。そこへ…


「…おい、ミニチュアゴブリン」


「!?」


一真の言葉に反応し、愛が動きを止めた。


「…今、何て言った?」


「ミニチュ…」


「おりゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」


一真が復唱する前に、愛は一真に向かって豊を投げ飛ばした。


それを一真は右手で止め…


「豊、大丈夫か?」


「………駄目…でも、ありがと…」


力尽き、ぐったりした豊が…長机の上に横たわった。



「…まぁ、じゃあ…話だけでも聞こうか…」


豊に回復魔法をかけ終えた一真は、勇気に言った。


「まず…退魔の依頼が天界から来てるって言ったっけ?」


「あぁ、魔物の出現する場所と時間は、天界で操作してるんだ」


勇気が言うには、魔物の出現を阻止する事は不可能であり、天界では魔物が出現する時間と場所を操作するのが限界らしい。


だが稀に、操作が手遅れになってしまい、退魔士を出張させる事もあるそうだ。


そして、場所と時間の連絡は、電話を使い、警察の名を使って行われる。


「…なんで天界って言わねぇの?」


「色々あんだよ」


「…まぁ、そこはあえてスルーしたとして…それだけ言いに来たのか?」


「んなわけねぇだろ…今日はお前達に、もっとショッキングな事を教えに来た」


勇気は椅子に腰掛け、足を組み、全員を見回し、言った。


「…約2週間後、この国に約1万匹の魔物が襲来する」


「…」


勇気の言葉に一真達は、しばらくの間呆然としていた。


「…どこに?」


「日本の貴ノ葉町に」


「何が?」


「魔物が」


「何匹?」


「1万匹」


「…何しに?」


「人間を殺しに」


「…」


一真と勇気の問答が終わると、再び部室に静寂が訪れた。


「…それって、他の国に分けたり出来ないの?時間と場所を操作出来るんでしょ?」


次に言ったのは、梨紅だった。


「やろうと思えば出来る…でも、天界はそれをやらない」


「どうして?」


「…今の神が、この国を見捨てたからだよ」


「…」


勇気の言葉は、まさしく…日本人に対する死刑宣告だった。


「…あれ?やけに落ち着いて…」


「…るわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!!」


最初に叫んだのは一真だった。


「1万!?なんだよ1万って!あまりにも数が半端なくて反応のしようがねぇんだよ!」


「あぁ、なるほど…」


「…一真の予想が的中したな…これは、空を眺める暇なんてなさそうだ…」


正義が言った。


「…なんでお前、そんなに落ち着いて…」


「…そうでもないよ?」


「?」


「ほら、足」


「…」


恋華に言われ、正義の足を見ると…


「…そこまで高速で貧乏揺すりしなくても…」


「…」


更に言えば、正義は汗だくだった。


「明らかに1番動揺してるじゃねぇか…」


「1番は豊だと思うわよ?」


愛が言った。


「豊?なんで……!?」


一真が豊の方を見ると、なんと豊は愛に寄り掛かって眠っていた。


「…なんでお前に寄り掛かって寝てんの?」


「違うわよ、進藤の話を聞いた直後に気絶したの」


「気絶!?」


汗だくで貧乏揺すりする男の、更に上を行く男が存在した。


「…暖は?」


「何?」


「…いや、お前は豊の更に上を行くのかと…」


「いやぁ…話が豪快すぎて、流れに乗り遅れた感じ?」


「空気読んで発狂しろよ」


「発狂!?嫌だし!発狂しなきゃいけない空気ってどんな空気だよ!」


「…ところで、女性陣の反応が薄いな…」


暖との会話を投げ出し、一真は梨紅達を見た。


「…重野とか、いかにも慌てそうなキャラだと思ったけど…」


「失敬な!全然平気だよ!」


「…なんで?」


「まー君と一緒だもん」


「…汗だくで貧乏揺すりが止まらない男だぞ?」


「今は駄目でも2週間後には大丈夫になってるもん!」


「…凉音は?」


「私は、結構危ない橋渡って来てるから全然」


「危ない橋?」


「うん、暴走族を1人で壊滅させたり…」


「わかった、もういい」


愛の武勇伝を開始直後に制止し、一真は梨紅と沙織を見た。


「山中は?」


「私は…ほら、暖君が平気なのに私が慌てるのって、かっこ悪いから…」


「何言ってんだ、暖は発狂してるぞ?」


「してねぇって!」


「…梨紅は?」


「私達9人なら、不可能は無いわ!」


「はいはい、それが言いたかっただけな」


「うん」


梨紅は満足そうに頷いた。


「…ホント、オレの周りには頼もしい女性ばっかだよ…」


一真は苦笑し、勇気に向き直った。


「梨紅が言うには、9人…つまり、お前も頭数に入ってるけど?」


「当然だろ、話を持ち掛けたのはオレだからな」


そう言って、勇気はバッグから1枚の紙を取り出した。


「今からこれを、顧問に出して来ようと思ってる」


それは、入部届けだった。


「…が、その前に…なんでオレの話を信じる気になったか教えてくれねぇか?」


勇気の問いに一真が苦笑いしながら即答した。


「いや、オレは最初から全部本当だってわかってたぞ?もちろん、お前が何を期待してここに来たのかも…」


「!?」


一真が言うと、勇気は唖然とした表情で一真を見つめた。





「まずお前は、2週間後に1万匹の魔物が襲来する事をオレ達に言えば、オレ達が必ず魔物の撃退に乗り出す事がわかっていた」


「なんでそう言い切れるんだ?」


「オレ達の拒否は、そのまま日本滅亡に繋がるからな…オレ達はお前の言う通りに動かざるをえない」


言いながら、一真は嫌そうな顔をする。


「…これはお前からの"頼み"じゃない、お前からオレ達への"命令"だ…だからぶっちゃけ、オレはお前が嫌いだ」


「…別に、嫌…」


「でもお前は、嫌われる事を覚悟の上だった」


勇気の言葉を遮り、一真は続けた。


「何故なら、お前の目的は日本を救う事だけじゃないからだ」


「…」


一真の話を聞き終えた勇気には、明らかな動揺の色が見られた。


「…その目的って?」


梨紅が、一真の顔を覗き込みながら聞いた。


「さすがに、そこまではわからないな…でも、その目的に関係があるっぽい事ならわかる」


一真は、梨紅に向けていた視線を勇気に移し、言った。


「多分…神様が日本を"見捨てた"事に関係が…」


「…ギブアップ」


勇気は両手を上げ、顔をしかめた。


「…見透かすにも程があるだろ…まだ"真眼"も覚醒してないくせに」


「考えるのは得意なんでね…さっきも正義に、オレはこの部の頭脳だとか言われたなぁ…」


一真は、苦笑しながら答えた。


「なぁ…"真眼"って何だ?」


そう言ったのは、暖だった。


「"真眼"?暖君、何の話?」


「いや、今進藤が言ったじゃん?


"まだ"真眼"も覚醒してないくせに"


って」


「…あぁ、言ってた…」


暖と梨紅が、勇気の方を見る。


「…"真眼"ってのは、天界の宝物の1つだ」


"真眼"…別名、全知の眼


所有者は、五感から得られるあらゆる情報から、本質を見い出す力を与えられる。


どんなに偽りを重ねても、真眼保持者の前には全く意味をなさない。


何故なら、真眼保持者は常に、真実を見ているのだから。


「…って、かなり前に本で読んだ」


「…その"真眼"を、オレが持ってると?」


一真が苦笑いしながら聞いた。


「あぁ、体の何処にあるかはわからないけどな」


「…天界の宝物が、なんでオレの中に?」


「それも、お前にならわかるんじゃないか?なんせ"真眼保持者"だからな」


「…」


一真は数秒だけ考え、すぐに顔を歪ませた。


「…もしかして、真眼って本来は初代女神の所有物か?」


「うわ、本当に答えやがった…」


(やっぱりエリーか…ってか、他に考えつかないし)


「…とりあえず、早くお前の目的話せよ。真眼の話はまた今度だ」


一真は顔を歪ませたまま、勇気に言った。


「あ~…そうだったな…言っとくけど、日本を救いたいって気持ちに嘘は無いからな?」


勇気は、断りを入れてから言った。


「神はこの国を見捨てた。でもオレは、それが許せない。神が見捨てても、オレは見捨てたくない…でも1万だぜ?1人で相手にするのは無謀だ…だから、勝手にお前達を巻き込んだ」


「…それって神への反逆じゃね?」


「知るか。民を見捨てる神なんてクソ喰らえだ」


暖の言葉に、勇気は即答した。


「オレが神なら、絶対に民を見捨てたりはしない…日本を救い、それを証明する事が、オレの目的だ…」


そして勇気は、突然…一真達に頭を下げた。


「頼む…オレに協力してくれ」


「…今更何言ってんだよ」


「…え?」


勇気は顔を上げ、一真を見た。


「最初からやるって言ってんだろ?」


「蒸し返してんじゃねぇよ」


「まぁ、今の話でモチベーションは上がったけどな」


「やる気満々だよ!」


「……見直した…」


「まぁ、チャラ男にしては良い心意気ね」


「意外といい人だったのね、進藤君って」


「満場一致ね。進藤君、早く入部届け出して来なさいよ」


「…ありがとう…」


そう言って、勇気は一真達に微笑み、部室から出て行った。


「…1万匹かぁ…」


「…はぁ…」


勇気が出て行った直後、8人は同時に溜め息を吐いた。


「…単純計算で、1人が1111匹か…」


「一真、それって暖君も入ってない?」


「あぁ…暖は一般人だったな…って事は、8人で…1人が1250匹?」


一真が言うと、豊が手を上げた。


「……僕は裏方を…」


「マジで言ってんの!?」


「…でもその変わり、広範囲の探索が出来るよ?球技大会の時に使った無線を使えば…」


「おぉ、なるほど…良い考えだ」


「…寺尾って、無口キャラじゃなかったの?」


「凉音の勘違いだよ」


「1人1428匹…2週間全部修行か?」


「一真、期末試験があるぞ」


「はぅあ…追試も補習も嫌だぁ…」


「…はぁ…どうすっかなぁ…」


…こうして、修行と勉強の日々が始まったわけだ。


…一真の苦悩は、いつになっても無くならない…増えるばかりである。





翌日から、MBSF研究会の、壮絶な退魔修業が始ま…らなかった。


「…なぁ?」


部室の長机に自分の勉強道具を広げ、勇気は一真に言った。


「ん?」


「…修業しねぇの?」


「試験勉強が終わったらな」


「…」


勇気は呆然と、一真を見つめていた。


「…2週間しかないんだぞ?」


「あぁ」


「1万匹だぞ?」


「あぁ」


「試験勉強なんかしてる場合じゃなくね?」


「馬鹿野郎!!」


一真は長机を叩き、勢い良く立ち上がった。


「日本を救っても、追試や補習は免除されねぇんだよ!」


「いや、まぁ…そうだけどよぉ?魔物倒さなきゃ追試も補習もありゃしないわけで…」


「うちの部にはなぁ!退魔の自主練は出来ても、自主的に勉強するような奴はいねぇんだよ!!」


一真はきっぱり言い切った。


「…え?私は別に家でも…」


「ってわけで!」


沙織の反論を遮り、一真は続ける。


「修業はいつでも出来る!勉強はここでしか出来ない!わかったか!」


「はぁ…ってかお前ら、反論しないのか?」


勇気は、他の部員を見回しながら言った。


「…まぁ、事実だし?」


「家だと勉強にならないもん」


そう言ったのは、暖と恋華だ。


「テレビ見たり、本読んだりしたいしね?」


「……同感…」


続いて、愛と豊。


「確かに、ここで勉強すれば十分だし…」


「あぁ、そもそもオレは家での勉強時間を省く為に入部したんだ」


沙織と正義も肯定する。


「私も、退魔したりしなきゃいけないしね」


梨紅が答えた所で、勇気は軽くため息を吐いた。


「…まぁ、部長がそう言うなら仕方ないか…」


そして勇気も、試験勉強を始めた。






…それから30分後。




「…そろそろ修業するか?」


一真が言うと、梨紅達は勉強道具を片付け始めた。


「…修業って、具体的には何をするんだ?」


勉強道具を片付けながら、正義が聞いた。


「何って…前みたいに、技について話し合ったり、模擬戦したり…じゃないか?」


「やっぱりそうか…しかし、あれから人数も増えた…大人数での話し合いは、効率が悪くないか?」


「…なら、属性に別れて話し合えば良いんじゃね?」


勇気の提案に、一真は首をかしげる。


「属性って…火とか水とかか?」


「いや、もっと大まかに…"天"と"魔"で別れて…」


「…何それ?どんな分け方?」


"天"と"魔"


一真や梨紅の他、特殊な能力を持った人間は全て、"天属性"と"魔属性"に分ける事が出来るのだ。


例えば、退魔士の梨紅や天使の勇気は当然"天"


魔法使いの一真や半魔の沙織は"魔"といった具合だ。


「…OK?」


「まぁ、なんとなく…でもさ?他の5人はどうなるんだ?」


一真は、正義達を見ながら言った。


「とりあえず、寺の住職見習い…聖職の豊は"天"だな。凉音は…魔法に近い能力だから"魔"だろ」


「正義と重野は?」


「正義は"天"だな…警官だし」


「なら、怪盗の重野は"魔"だな。そういえば前に、梨紅の血を飲んで興奮してたし」


「興奮してないよ!ただ、美味しかっただけで…」


「……吸血鬼…」


「間違いなく"魔"だな」


「そんなぁ…」


項垂れる恋華。そこへ、彼が手を上げた。


「…なぁ、オレは?」


暖だ。


「お前は"無"に決まってんだろ」


「いや、だって全て分けられるって…」


「特殊な能力を持った人間はって話だろ?忘れた?君、一般人ですよ?」


「いや、でも万が一って場合も…」


「いやぁ、無ぇだろぉ…それこそ、億が一、兆が一…」


「そんなに低いか!?」


暖が唖然とした瞬間…


「…いや、暖は"天"だぞ?」


突然、勇気が言った。


「…え?何て?」


「だから、暖は"天"だって」


「…」


えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?!?!?


瞬間、部室棟が揺れた。


「何故に!?こいつ何の能力も無い一般人だぞ?」


「むしろ一般人以下よ!?」


「…いや、沙織ちゃん…ちょっと酷くない?」


一真達と共に驚きながらも、暖は沙織の言葉に顔をしかめた。


「…それで?暖君にどんな能力があるの?」


梨紅が勇気に聞いた。


「さぁ…確かに一見、何の能力も無い、無知でバカで無力でアホで使えないバカだけど…」


「バカって2回言った!?」


「…でも、なんとなく同属の気配が…」


そう言って、勇気は顔をしかめた。


「勇気と同属…」


「…つまり、女たらしのクソ野郎って事ね」


「…え?そっちの同属?」


「確かに、天使だってよりかはそっちの方が…」


「……自然…」


「おいおい、正義と豊まで…」


「…まぁ、ぶっちゃけどうでも良くね?」


例によって例の如く、一真が全てをぶったぎった。


「とにかく、属性に別れて話し合い開始だ。長机の端と端に別れるぞ」




~魔属性Side~




「…とは言ったものの…」


一真は、頬杖を着きながら続ける。


「…やっぱり気になるよな?」


「うん…暖君の能力でしょ?」


「あぁ…『どうでも良くね?』なんて言ったものの…」


「気になるよねぇ…」




~天属性Side~




「…じゃ、まずは部長から一言…」


「…」


勇気に促されるが、梨紅は黙っていた。


「…今城?」


「…駄目、やっぱり気になるよ」


そう言って、梨紅はおもむろに立ち上がった。




「…?」


梨紅が立ち上がった事に気付いた一真は、ぼんやりと梨紅を見ていた。


梨紅は下方からゆっくりと、両手を左右に広げ始め、頭の上で円を作る寸前で…


「!」


胸元で腕を交差させ、バツ印を作って見せた。


「…いや、何が言いたいのかさっぱりわかんねぇ…」


しかし、一真に梨紅の真意は伝わらなかった。






「…はい、ってわけで、第一回…MBSF研究会会合を始めます。議題は、川島暖の能力について…」


窓際の定位置に座った一真が、非常にやる気の無さそうに言ったが…


「異議有り!」


そう言って、勇気が立ち上がった。


「発言を認める」


「修業は!?」


「暖の能力が気になってそれどころじゃないんだとさ」


一真の言葉に、梨紅は大いに頷いた。


「…お前の"真眼"で一発だろうに…」


「んな事言われても…オレは暖に何か能力があるとは思えねぇんだって」


「…じゃあ無いんじゃねぇの?」


「お前があるって言ったんだろうが!!」


「ん~…」


一真に言われ、勇気は腕組みをして唸る。


「…とりあえず、普通の人間じゃないのは確かだぜ?」


「そりゃあ、暖は"バカ"だからなぁ…」


「あぁ、"バカ"だな」


「"バカ"よね」


「うん、"バカ"よ」


「……"バカ"…」


「はっ倒すぞお前ら!?"バカ"が能力って…悲しすぎるわ!!」


暖が抗議する。


「冗談だって…そういえば、暖は"アホ"だったな…」


「あぁ、"アホ"だな」


「"アホ"よね」


「うん、"アホ"よ」


「……"アホ"…」


「このコンビネーションはいつ仕組まれたんですか!?」


「仕組んでねぇよ、全員"素"だし」


「尚更ショックでかいわ!!何?オレってそんな認識!?」


「当たり前だろ?」


今更何を?といった具合に、一真は言った。


「異議有り!」


そう言って、暖が立ち上がった。しかし…


「却下」


「オ…却下!?認めろよ!!」


「黙れ被告人」


「被告人!?オレが何をしたと?」


「…え?えっと…ほら、なんだ…あ、勇気に裏金渡して、"天属性"だって言ってもらったんだろ?」


「んな事するかぁぁぁ!!!」


「…オレ…裏金を受け取った記憶があります」


「あってたまるかぁぁぁぁ!!!!」


「…ねぇ?暖君ってさぁ…」


突然、恋華が言った。


「え?何?」


「暖君、お笑い芸人みたいだなぁって…」


「芸人って…」


「…それって、人を笑わせる能力って事?」


梨紅が言った。


「…あぁ、確かにあるかもな…」


「ある意味、暖に最も似合う能力だな」


「うん、良いんじゃない?平和っぽくて」


「……"他人を笑顔にする能力"…」


「素敵な能力ね、暖君らしいじゃない」


「じゃ、それで決定ね!」


満場一致の中、梨紅は暖を指差した。


「川島暖。あなたの能力は、"他人を笑顔にする能力"に決定しました。今日からあなたは、"ラフメイカー"です」


「"ラフメイカー"…」


梨紅に言われた暖は、満更でも無さそうに照れ笑いを浮かべた。


「…まぁ、結局退魔には使えない能力だったわけだけど…」


「もうちょっと余韻に浸らせてくれても良くないか!?」


一真に暖が言うが、一真は無視して続けた。


「とりあえず、第一回、MBSF研究会会合は終了だな…そろそろ帰るか?」


「…修業は!?」


勇気が言った。


「いや、だってもう下校時間だし…」


時計を見れば、6時30分…下校を促す校内放送も聞こえて来た。


「梨紅、今日は退魔?」


「うん、8時に北小学校だよ」


「よし、じゃあ8時に北小集合な?もちろん全員」


「…え?オレも?」


暖が首をかしげる。


「一般人じゃないんだから当たり前だろ?」


「でもお前、退魔には使えないって…」


「じゃ、解散!」


「ちょっ…マジで?」


こうして、暖の退魔初参加が決定した。




~午後7時55分~


北小、校門。




そこには既に、MBSF研究会のメンバー全員が集まっていた。


「…1人くらい遅刻するかと思ってたけど…お前ら意外にやる気満々?」


「そりゃあ、命がかかってるからな…やる気にもなるだろう?」


一真の質問に、正義が答えた。


「…恋華、その格好は何?」


「これ?退魔用の衣装だよ、かわいいでしょ」


「かわいいけど…退魔って、可愛さ必要なの?」


「もちろん!一番重要だよ」


「嘘ついてんじゃねぇよ、必要なわけねぇだろ」


愛を自分側に引き込もうとする恋華に、一真が言った。しかし、今回の恋華は一真に言い返して来た。


「見映えも考えるべきだと思います!」


「動きやすけりゃ何でも良いって!」


「じゃあ!動きやすいならかわいい格好でも良いよね!」


「別に良いけど!お前はほら…凉音にドレスとか着せかねないから…」


「!?」


驚愕の表情をすると同時に、恋華の髪の、ツインテールにしている部分が跳ね上がった。


「図星ですか!?」


「さ…さすがは"真眼保持者"…」


「やかましいわ!何考えてんだ重野!」


「だって…だって!」


恋華は愛を指差し、続ける。


「…ジャージだけは許せなかったんだもん!」


「…悪かったわね…」


確かに、愛は学校のジャージを着て来ていた。


「…動きやすいなら良いじゃねぇか」


「駄目だよ!せめて、体操服とハーフパンツじゃなきゃ…」


「何が違うんだよ…」


「露出があった方が、色気が…」


「色気!?可愛さはどこ行ったよ!?」


「…馬鹿やってないで早く入ろうぜ?」


勇気が促す。勇気の服装は、学校の制服だ。


「…はぁ…そうだな、そろそろ入るか…"アンロック"」


そう言って、一真は校門に"解錠"の魔法をかけた。


そして、恋華が校門を開けた。


「…カズ君、一緒に怪盗やらない?」


「やらねぇよ…早く入れ!」






一真達は校庭まで歩を進め、とりあえず手頃な遊具に腰掛ける事にした。


「…何匹ぐらい出るかな…」


ブランコに座った一真が、隣のブランコに座る梨紅に言った。


「どうかな…大きいのが1体か、小さいのがいっぱいか…」


「…勇気、天界でその辺わかんねぇの?」


「普段ならわかる。でも今は無理だな」


「なんで?」


「いや、だってもう出るし」


勇気が言うや否や、校庭の真ん中に黒い渦が現れた。


「…なんだあれ?」


「は?なんだってお前…"黒渦"だろうよ。いつも彼処から魔物が現れるんだろ?」


「へぇ…知らなかった。オレ達が遭遇する時は、突然地面から現れたり、既に現れてたりだったからなぁ」


「…そんなんでよく今までやって来れたな…」


勇気は顔をしかめながら言った。


「まぁな…おっ、来たみたいだぞ?」


一真はブランコから降りて、軽く体をほぐす。


「お前ら~、準備は良いか~?」


一真が、正義達に呼びかける。


「一真…もう少しやる気を出したらどうだ?…"ウィル"」


「"グラビテス"!」


「"巨大化の判子<大>"!"破魔の判子<破>"!」


「"紅蓮・華颶夜姫"」


「"華颶夜"」


「"ファントム・サイズ"!」


「………」


豊は無言で、人差し指と中指の間に御札を挟んだ。


「…オレは?」


「暖は…木の枝でも持ってれば良いんじゃね?」


「巻き込んどいて投げやりだなオイ!」


…などと文句を言いつつ、暖はちょっと太めの木の枝を拾い、剣を持つように構えた。


それから間を置かず、黒い渦から魔物が飛び出して来た。


「……狼型…7体。」


「よし、勇気と正義でやってみようか」


「おぅ!速攻で終わらせてやるよ」


「"退風弾"」


正義はウィルから風の弾を放ち、1体の魔物を撃ち抜いた。


「抜け駆けかよ…」


「口よりも手を動かせ、来るぞ」


正義が言うや否や、勇気に向かって2体の狼が走って来る。


「来なくてもこっちから行くのによぉ…"電撃波-ボルト-"!」


勇気が言うと、勇気の手から雷が放たれ、轟音と共に2体の狼を貫いた。


「キャァァァァァ!!!!」


恋華が耳を抑え、その場にうずくまる。


「うるさっ!」


「勇気お前引っ込め!近所迷惑だ!」


「はぁ!?ちょっとぐらい平気だって!」


そう言って、勇気はひらひらと手を振った。


「なるほど…勇気は"雷"を使うのか」


狼をウィルで斬りつけながら、正義が呟いた。


「"風破掌"!」


更に正義は、自分に向かって突っ込んで来た狼を避け、その横っ腹に圧縮した風を叩き込み、吹き飛ばした。


「残り2体か…」


「"ボルカニック・ストーム"!!」


瞬間…雷の渦が巻き上がり、轟音と共に、2体の狼が黒焦げになって消え去った。


「キャァァァァァ!!!」


「「うるせぇっつってんだろ!!!」」


一真と暖が、同時に叫んだ。



「…そんなにうるさいか?」


「さっきからそう言ってんだろ!重野なんか、雷が怖くて震えてんだぞ!?」


一真は、うずくまって震えている恋華を指差しながら言った。


「…次からは、音が鳴らない技を使うよ」


「是非そうしてくれ!」


「…一真、次が来たみたいだぞ」


正義が言うと、黒い渦が少しだけ大きくなり、中から魔物が飛び出して来た。


「……鳥型4体…人型5体。」


出てきた魔物は、空を飛んでいる魔物が4体に、炎で出来た人型の魔物が2体、土で出来た人型の魔物が3体だ。


「じゃあ、梨紅以外の女性陣と豊で行ってみようか」


「"ブラッド・フィン"!」


一真が言うと同時に、沙織は血の羽を広げ、鳥型の魔物に向かって飛んで行った。


「"強化の判子<強>"!」


愛はポケットから判子を取り出し、自分の手の甲に押し付けた。


「恋華、行くよ!」


「うん!」


そして、恋華と愛は同時に駆け出した。


「………」


そして豊も、魔物に向かって歩き出した。




「"サイズ・スラッシュ"!」


沙織は大鎌から真紅の刃を放ち、それに斬られた1体の魔物が消え去った。


「残り3体……!」


沙織の背後にいた魔物が、翼を高速で羽ばたかせ、沙織に向かって風の刃を放って来た。


沙織は、真上に舞い上がってそれを避け、自分に向かって攻撃して来た魔物の頭上から急降下し、真上から大鎌で真っ二つに切り裂いた。


「残り2体!」


沙織が正面を向くと、1体の魔物が沙織に向かって飛んで来るのが見えた。


「メデューサの眼…"パトリファクション"」


沙織はそう言って、飛んで来る魔物の目を見つめた。


すると、魔物の顔が灰色に変色し始めたではないか。


体が完全に灰色になった魔物は、ピクリとも動かなくなり、そのまま墜落し、地面にぶつかると同時に砕け散った。


まるで、"石像"が砕け散ったかのように…


「最後ね…」


沙織は、最後の魔物を見据えて翼を羽ばたかせた。


大鎌を消して、右手の爪に意識を集中させながら、沙織は凄まじいスピードで魔物に向かって飛んで行く。


「…"鬼の爪"」


長く伸ばした爪を使い、沙織は、魔物の体を引き裂いた。






「はぁ!!」


恋華がハンマーを振り回し、3体の土の魔物を粉々に砕いていく。


「"破魔の判子<破>"!」


一方愛は、炎の魔物に判子を押し当てる。

しかし…


「…熱い!」


魔物の放つ熱に耐えきれず、なかなか致命傷を与えられないでいた。


「う~…何か使えそうな判子…」


魔物から離れてポケットを漁る愛に、豊が言った。


「……まかせて…」


「え?」


「…"スピリガン"!」


豊の指先から放たれた霊力の弾は、炎の魔物の炎を吹き飛ばした。


「……凉音…」


「OK!」


間髪入れず、愛は炎の魔物に突っ込んで行った。


「"破魔の判子"<破>!」


愛によって、体に<破>の文字が刻まれた魔物は、砂になって消え去った。


「よし!豊、もう1体!」


「うん…"スピリガン"!」


豊は再び霊力の弾を放ち、それと同時に愛は駆け出した。


「はぁぁ!!」


弾が魔物に当たった瞬間、愛は魔物に判子を突き刺した。


魔物は一瞬で消え去り、辺りに静寂が訪れた。


「ナイスサポート!」


「………」


ハイタッチを交わす愛と豊。しかし、黒い渦はまだ存在していた。


「…あとは、オレと梨紅と暖だな」


「…なぁ?マジでオレも?」


「いやぁ…正直厳しいだろ…」


「だよな!やっぱり冗談…」


「でもあえて特攻!」


「…じゃないんですか!?」


暖が叫ぶと、魔物が現れた。


「……でかいのが3体…」


現れたのは、5mはありそうな人型の魔物だった。


「…よし、3人で1人1体な?」


「OK!」


「無理!」


「行くぞ!」


「無視!?」


暖を完全に無視して、一真と梨紅は駆け出した。


「…ん?」


勇気は不意に、2人の動きに違和感を感じた。


右側の魔物に向かう一真と、左側の魔物に向かう梨紅…2人の動きは、微塵のズレもなく、完全な左右対象だったのだ。


「…あの2人、なんであんなに息があってんだ?」


勇気の呟きと同時に、一真と梨紅は全く同じタイミングで跳躍し…


「「はぁ!」」


同時に、左右に魔物を一刀両断して見せた。


「あんなでかいのを一撃か…」


「…で?川島はどうするの?」


「無理に決まってんだろ!?」


愛に言われ、暖は全力で首を横に振った。


そのすぐ後、一真と梨紅が戻って来て言った。


「よし、ラスト!」


「暖君!」


「…」


暖は、今にも泣きそうな表情で魔物を見つめた。


「…冗談だって」


「暖君、泣かないで…」


「…死んだら呪ってやろうと思ってたよ…」


「「またまたぁ♪」」


「マジだかんな!?」




わりと本気でキレてる暖を正義達に任せ、一真と梨紅は最後の魔物を見据えた。


「ラスト1体…"あれ"でも試してみるか?」


「そうだね。息を合わせる練習はしたけど、実戦はしてなかったし…そろそろ試しても大丈夫かな」




梨紅の言葉と同時に、一真と梨紅は、左右対称に刀を構えた。


「行くぞ」


「うん」


2人は、それぞれの刀に魔力と退魔力を注ぎ始めた。


「「"双月連携"…」」


注ぎ終えると、2人は刀に力を込め、一真は右上に、梨紅は左上に振り抜く。


「「"槍魔刃"!!!」」


華颶夜と紅蓮・華颶夜姫から放たれた三日月型の刃は、1つの槍になって、魔物に向かって飛んで行く…


そして、魔物に当たる直前で槍は消え…


次の瞬間、破裂音と共に魔物の体が吹き飛んだ。


「…よし、成功だな」


「息もピッタリ合うようになったし…後は、混戦の中でも使えるように…」


「「いやいやいやいや…ちょっと?」」


考察に入る一真達に、勇気と暖が待ったをかける。


「何?」


「何ってお前…こっちからしたら"今の何?"だって…」


「「双月連携・槍魔刃」」


一真は右手、梨紅は左手の親指をグイッと突き出してみせながら言った。


「いや、技の名前じゃなくて…息合いすぎじゃね?っていう…」


「「そうかなぁ?別に普通だと思うけど…」」


「双子かお前ら!?」


「凄ぉい!ザ・○っちみたい!」




…もちろん、2人がここまで息が合うのには訳がある。


と言っても、普段使っているテレパシーの応用なわけだが…


心の深い部分で繋がっている一真と梨紅は、やろうと思えば、考えや行動を共有出来るのだ。


愛の頭の中に入った時に、偶然わかった事なのだが…




「「いやいや、偶然だって」」


もちろん、皆には内緒である。


「これで終了…あ~…まだ終わって無いっぽいな…」


一真はそう言って、黒い渦を見て顔をしかめた。


「……木?…」


渦から出てきたのは、大木に顔が付いた魔物1体だった。


「…よし、オレが倒す」


そう言って、一真は一歩前に出た。


「…"エリフ……モノ……ロブ……ジノ……ラス……イエロ……"」


「「!?!?!?」」


一真の唱え始めた呪文を聞いて、豊と愛が目を見開いた。


「か……一真、その呪文は…」


「知ってる…私、その呪文知ってる!」


「…?」


テンションが上がり始めた豊と愛を見て、梨紅達は首をかしげる。


「…"火の契約を交わし"」


「「我、ここに願う」」


「"我、ここに願う"」


「「おぉ!!」」


「???」


一真より先に呪文を言って、興奮する2人…梨紅達には、その理由がさっぱりわからない。


「「立ち塞がりし障壁を!」」


「"立ち塞がりし障壁を"」


「「火の槍を持って!」」


「"火の槍を持って"」


「「「"打ち砕け!ファイアリィ"!」」」


3人が叫ぶと同時に、一真の手から炎が放たれた。


炎はかなりのスピードで飛んで行き、木の魔物を焼き払った。


「凄い…本物のファイアリィだ…」


「まさか、実際に見られるとは思わなかったわ…」


「…」


感動している2人を見ても、一向に梨紅達は理解出来ないでいた。


「…今のさ、"黄昏魔法戦記"って小説の主人公が使ってた魔法なんだよ」


「あぁ、なるほど…」


一真の説明に、梨紅達は大いに納得した。


つまり、豊も愛も"黄昏魔法戦記"の愛読者だという事だ。


「でも、豊はともかく凉音まで興奮するとは思わなかったな…」


「凉音も好きなんだね、"黄昏魔法戦記"」


「大好きよ!全巻3冊ずつ+作者のサイン入りも持ってるわ!」


「「マジで!?」」


(…オタクってやつか…)


一真達3人以外の6人は、愛をオタクとして認識した。


「…って、ちょっと待って?」


梨紅が挙手をする。


「どうした?」


「あんた今、魔法で魔物を倒したでしょ?なんで倒せたの?退魔魔法じゃないのに…」


「あぁ、その事か…」


一真は軽く頭を掻き、続けた。


「今の魔法には、魔力と退魔力を混ぜたのを使ったんだ。結構難しいんだぜ?ちょっと比率がずれるだけで、どっちかに変換されちまうんだ」


「魔力と退魔力を混合って…そんな事…」


「ねぇカズ、"ブレス・ライト・カラミティ"やってよ!」


「えぇ~…あれ詠唱長ぇじゃん?」


「じゃあ一真、クルセイドは?」


「クルセイドも見たい!」


「クルセイドなら…練習しとくから、今度な?今度」


「絶対だからね!」


「やらなかったら死刑よ!」


「死刑ってお前…」


唖然とする梨紅を他所に、一真達は凄まじい勢いで盛り上がっていた。



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