プロローグ
…この世には…
天界…魔界…人間界…
俗に、[三界]と呼ばれる3つの世界が存在する。
天界では、天使や神が…
魔界では、魔物や魔族が…
人間界では、人間が…
それぞれの世界で、それぞれの生活を送り、生きていた。
…そこは、とても美しい場所だった。
小鳥はさえずり歌い、木々は青々と茂り、地球温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊など、我関せずといった感じである。
何故ならここは…人間界では無いのだ。
~天界~
天使や神の住まう、この世の楽園と呼ばれる場所である。
この美しい光景を見れば、いかなる者も、ここが楽園であることに微塵の疑いの念を抱く事も無いだろう…
木々の間を抜けて行くと、古代ローマを思わせる白い石柱を用いた建物が現れた。
[アーヴァンクル神殿]
この神殿の中心に位置する…
…シーベルンの間。
「…」
純白の衣に身を包み、頭上に金色の輪を浮かばせ、背中から純白の羽を生やした男が、シーベルンの間に向かって歩いている。
やがて男は、金色の装飾が施された純白の扉…シーベルンの間の扉の前までやって来て、扉に向かって頭を下げ、言った。
「…大天使ベリエル様…ラムダラでございます」
「ん…入りなさい」
自らをラムダラと名乗った男は、シーベルンの間の扉をゆっくりと開いた。
シーベルンの間は、部屋の全てが純白だった。
机に椅子、床に壁に天井…
吐き気がする程真っ白だ。
「諜報天使ラムダラ…何か?」
豪華な装飾の施された椅子に腰かけた、銀髪で足の長い天使が言った。
「…大天使ベリエル様…」
ラムダラは、椅子に腰かけている大天使…ベリエルに頭を下げた。
「…魔界に動きが…」
「…申せ」
「は…近々、大量の魔物が人間界の…一部の地域に送られると…」
「一部とは何処だ?」
「日本…と、呼ばれる国の、貴ノ葉という…」
「日本…何度か聞いた事のある国名だな…」
ベリエルは顔に手を添え、考えるようなポージングを取る。
「…魔物の数は?」
「約1万…誤差、±500体といった所で…」
「ふむ…」
ラムダラからの報告を聞き、ベリエルは椅子から立ち上がった。
「…しばし待て、神に助言を乞う…」
そう言って、ベリエルは目を瞑った。
「…」
ラムダラは頭を下げたまま、ベリエルの言葉を待った。
…10分ほど経過した。
「…待たせたな」
ようやく、ベリエルが目を開けた。
「…神は、なんと…」
ラムダラが問う。ベリエルは再び椅子に腰かけ、足を組みつつ答えた。
「神は『放っておけ』と申された」
「なんと!?」
ラムダラは、驚きのあまり顔を上げた。
「神は…日本を『放っておけ』と…見捨てると申されたと?」
「そうだ…1万もの魔物を相手に兵を出し、数が減れば魔界側の思う壷である…神は、そうお考えになったのだ」
「し…しかし…」
「…ラムダラ…」
ベリエルは、ラムダラを見据え…言った。
「貴様…[神]に逆らう気か?」
「!?め、滅相もございません…」
「ではすぐに、[サーフェリオス]の観測所に戻るのだ…神は、魔界側の情報を御待ちだ」
「…かしこまりました」
ラムダラは再び、ベリエルに頭を下げ…シーベルンの間から出て行った。
「…」
シーベルンの間の扉を閉じ、うつ向きながら去って行くラムダラ…
「…」
ラムダラは気が付かなかったが、すぐ近くの石柱に身を隠しながら…誰かが、ラムダラを見ていた。
「…日本を見捨てるだと?ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ…」
ツンツンと立たせた金髪に、整った顔立ち…
進藤勇気である。
「人間見捨てる神がどこにいるってんだ…やっぱクソだな、今の神は…」
神を[クソ]呼ばわりし、勇気はラムダラの後を追って神殿を出た。
「お~い!ラムダラぁ!」
勇気はラムダラを呼び止めた。
「?…勇気ぼっちゃん…」
「ぼっちゃんは止せ、虫酸が走る…」
「失礼いたしました…勇気様、ラムダラめに何か御用で?」
ラムダラは勇気に、軽く会釈した。
「なんか、日本に魔物の大群がやって来るらしいな…」
「もうご存知でしたか…流石、お耳が速い」
(あんたが言ってたのを聞いたんだけどな…)
心の中で、勇気は呟いた。
「…ちなみに、あとどのくらいで?」
「人間界で言うと…1週間といった所でしょうか…」
「1週間だな?サンキュー、ラムダラ」
勇気はラムダラに礼を言って、駆け出した。
(見てやがれクソ神…てめぇが何企んでやがるか知らねぇが、日本は絶対に救ってみせるぞ…)
「…オレ[達]がな」
勇気はニヤリと不敵に笑い、木々の間を走って行った。




