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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第五章 魔族襲来 前編
34/66

プロローグ

…この世には…


天界…魔界…人間界…


俗に、[三界]と呼ばれる3つの世界が存在する。


天界では、天使や神が…


魔界では、魔物や魔族が…


人間界では、人間が…


それぞれの世界で、それぞれの生活を送り、生きていた。









…そこは、とても美しい場所だった。


小鳥はさえずり歌い、木々は青々と茂り、地球温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊など、我関せずといった感じである。


何故ならここは…人間界では無いのだ。




~天界~




天使や神の住まう、この世の楽園と呼ばれる場所である。


この美しい光景を見れば、いかなる者も、ここが楽園であることに微塵の疑いの念を抱く事も無いだろう…




木々の間を抜けて行くと、古代ローマを思わせる白い石柱を用いた建物が現れた。




[アーヴァンクル神殿]


この神殿の中心に位置する…


…シーベルンの間。




「…」


純白の衣に身を包み、頭上に金色の輪を浮かばせ、背中から純白の羽を生やした男が、シーベルンの間に向かって歩いている。


やがて男は、金色の装飾が施された純白の扉…シーベルンの間の扉の前までやって来て、扉に向かって頭を下げ、言った。


「…大天使ベリエル様…ラムダラでございます」


「ん…入りなさい」


自らをラムダラと名乗った男は、シーベルンの間の扉をゆっくりと開いた。






シーベルンの間は、部屋の全てが純白だった。


机に椅子、床に壁に天井…


吐き気がする程真っ白だ。


「諜報天使ラムダラ…何か?」


豪華な装飾の施された椅子に腰かけた、銀髪で足の長い天使が言った。


「…大天使ベリエル様…」


ラムダラは、椅子に腰かけている大天使…ベリエルに頭を下げた。


「…魔界に動きが…」


「…申せ」


「は…近々、大量の魔物が人間界の…一部の地域に送られると…」


「一部とは何処だ?」


「日本…と、呼ばれる国の、貴ノ葉という…」


「日本…何度か聞いた事のある国名だな…」


ベリエルは顔に手を添え、考えるようなポージングを取る。


「…魔物の数は?」


「約1万…誤差、±500体といった所で…」


「ふむ…」


ラムダラからの報告を聞き、ベリエルは椅子から立ち上がった。


「…しばし待て、神に助言を乞う…」


そう言って、ベリエルは目を瞑った。


「…」


ラムダラは頭を下げたまま、ベリエルの言葉を待った。






…10分ほど経過した。


「…待たせたな」


ようやく、ベリエルが目を開けた。


「…神は、なんと…」


ラムダラが問う。ベリエルは再び椅子に腰かけ、足を組みつつ答えた。


「神は『放っておけ』と申された」


「なんと!?」


ラムダラは、驚きのあまり顔を上げた。


「神は…日本を『放っておけ』と…見捨てると申されたと?」


「そうだ…1万もの魔物を相手に兵を出し、数が減れば魔界側の思う壷である…神は、そうお考えになったのだ」


「し…しかし…」


「…ラムダラ…」


ベリエルは、ラムダラを見据え…言った。


「貴様…[神]に逆らう気か?」


「!?め、滅相もございません…」


「ではすぐに、[サーフェリオス]の観測所に戻るのだ…神は、魔界側の情報を御待ちだ」


「…かしこまりました」


ラムダラは再び、ベリエルに頭を下げ…シーベルンの間から出て行った。






「…」


シーベルンの間の扉を閉じ、うつ向きながら去って行くラムダラ…


「…」


ラムダラは気が付かなかったが、すぐ近くの石柱に身を隠しながら…誰かが、ラムダラを見ていた。


「…日本を見捨てるだと?ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ…」


ツンツンと立たせた金髪に、整った顔立ち…


進藤勇気である。


「人間見捨てる神がどこにいるってんだ…やっぱクソだな、今の神は…」


神を[クソ]呼ばわりし、勇気はラムダラの後を追って神殿を出た。


「お~い!ラムダラぁ!」


勇気はラムダラを呼び止めた。


「?…勇気ぼっちゃん…」


「ぼっちゃんは止せ、虫酸が走る…」


「失礼いたしました…勇気様、ラムダラめに何か御用で?」


ラムダラは勇気に、軽く会釈した。


「なんか、日本に魔物の大群がやって来るらしいな…」


「もうご存知でしたか…流石、お耳が速い」


(あんたが言ってたのを聞いたんだけどな…)


心の中で、勇気は呟いた。


「…ちなみに、あとどのくらいで?」


「人間界で言うと…1週間といった所でしょうか…」


「1週間だな?サンキュー、ラムダラ」


勇気はラムダラに礼を言って、駆け出した。


(見てやがれクソ神…てめぇが何企んでやがるか知らねぇが、日本は絶対に救ってみせるぞ…)


「…オレ[達]がな」


勇気はニヤリと不敵に笑い、木々の間を走って行った。




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