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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第四章 怪盗と絆 後編
32/66

エピローグ 未来に繋がる過去の話


ようやく、活動記録を書けるぐらいに落ち着いた。


とりあえず、水曜日から今日までの記録も書こうかな…


水曜日…


ウィスプに取り付かれた凉音に襲撃された。


マジで怖かった…死ぬかと思った…ありえねぇと思った…ふざけんなと思った…


そんなこんなでなんとか凉音をウィスプから解放したけど、ぶっちゃけその後が地獄だった…


凉音によって、部室棟半壊…グラウンド陥没…


その修繕…MBSF研究会が責任を持ってするようにと、生徒会会長が直直に部室に言いに来た。


その場にいた部員は全員『キレ』た…とばっちりの二次災害じゃん?


そんで、逃げようとする凉音ゴブリンを捕まえて、どんな風に罰を与えようか考えてたら、部室に豊が入って来た。


豊は入部届けを持って来ただけなんだけど、たまたま入部届けが2枚重なってたので、凉音の名前を書いた。


で、凉音ゴブリンを持ったオレは、豊と一緒に田丸さんに入部届けを出しに行った。


田丸さん、涙ながらに2枚の入部届けを受け取ってた。泣きたいのはこっちの方だ…


そしてめでたく、凉音愛、寺尾豊の両名は、部員その5とその6になった。


本来なら豊が部員その5なんだけど、凉音がどうしても部員その5が良いって駄々をこねたから、凉音がその5になった。


ん~…まぁ、水曜日はこのぐらいかな…


帰りに、凉音妹の様子を見に行った。まだあの病室に入院してるそうだけど…まぁ、すぐに退院出来ると思う。


来年は貴ノ葉高校に入って、MBSF研究会に入るって言ってた。わざわざ自分から、変態の集まりに足を突っ込まなくても良いだろうに…


…あぁ、暖はやっぱり退院してた。


翌日から学校に来たから、当然のように修繕作業に強制参加させた。


裏庭の土をくすねて、グラウンドの陥没を埋める班と、部室棟の修繕にあたる班に別れての作業…


部員が増えたから、多少は作業が楽になったのは喜ばしい。


木曜日の放課後で穴埋めと修繕を終え、凉音を無理矢理、生徒会長に頭を下げさせ、なんとか停学や退学の類いから逃れた。


今は、部室でテスト勉強の最中だ。


暖、山中、豊…


梨紅、正義、重野、凉音…


オレも入れて8人…よくもまぁ、変なやつばっかり集まったもんだ…


魔法使い…


退魔士…


一般人…


半魔…


風使い兼、警官…


重力使い兼、怪盗…


判子使い…


霊能力者…




羅列してみた。


まともな奴が1人もいねぇ…


まぁ、この部に入った時点でみんな変なんだ…これ以上部員が増えない事を祈ろう…


ただ、1つだけ嬉しい事がある。


どうやら、凉音は『ツッコミ』らしいんだ。


オレの負担が軽減されると良いなぁ…




…6月22日、金曜日。


久城一真



「…って訳で、強制入部させられたわけよ」


愛が説明を終え、ため息を吐いた。


「そうだったんですか…」


ハウルが呆然と頷いた。


「そうだったねぇ…懐かしいなぁ」


恋華が、活動記録を見ながら言った。


「ん?恋華、思い出したのか?」


「少しだけだけどね?でもさ、あれは愛ちゃん自業自得だったと思うよ?」


「…そもそも、入部した翌日に訳もわからないまま、肉体労働させられた僕って…」


「…私、過去は振り返らない主義なの…」


恋華と豊の視線から逃れるべく、愛は活動記録の次のページをめくった。


「…あのぉ…」


「?」


全員が、声の主に視線を向けた。


「…そろそろ、元帥の間に行かれた方が…」


「…忘れてた」


ハウルの言葉に、4人は同時に言った。






説明が遅れたが、ここは

『MBSF-Magic-Beast-Subjugation-Federation-』

…魔法獣討伐連合の本部である。


数年前に発足したこの組織の主な役割は、魔法などで市民の安全を守る事と退魔である。


よって、この組織に属する者の8割が、魔法使いや退魔士…天使や魔族…他、それに酷似した能力を持つ者達である。




「…んにしても、今でも思うわ…」


廊下を歩きながら、愛が言った。


「何を?」


「よくこんな組織作れたなぁ…って。」


「そうだね…よく考えたら、凄いもんね」




10年前の時点では、魔法使いと退魔士の対立や、魔界と天界の敵対関係は、和解の余地など無かった…


しかしそれを、強引に1つに纏めあげたのが…




「カズ君、頑張ってたからねぇ」




そう、久城一真である。




「カズ元帥は、異世界にも交友関係ありますからねぇ」


「そう言えば、ハウルも異世界人だったわよね?ホームシックになったりしないの?」


愛がニヤニヤと笑いながら言った。


「子供じゃないんですから…それに、私以外にも異世界人、結構いますから…」


ハウルがそう言うと…


「あ!ハウルちゃん…と、大将と中将のみなさん!」


5人の進行方向から、元気すぎる声が聞こえてきた。


「噂をすれば、ですね」


「あおいちゃんだ!」


恋華があおいに手を振った。


真神あおい少将…正義達の1歳年下で、異世界ヴェルミンティア出身の魔導師である。


ちなみに、ハウル=プリアデル少将も、ヴェルミンティア出身の魔導師である。


「恋華さん!みなさん!お久しぶりですぅ!」


恋華とあおいは、手を取り合って跳ね回る。


「あおいちゃんも、カズ君に呼ばれたの?」


「はい!あと、麻美姉と、暖さんと、勇気さんと…あと、リエルさんも御呼ばれだそうで…」


「…ヴェルミンティアの魔導師教官長に、総理大臣に神様に…魔王まで呼んでんのか?」


正義は顔をしかめる。


「……同窓会?…」


「いやいや、それは無いでしょ…」


豊の疑問に、愛が的確にツッコミを入れた所で…


「着きました、元帥の間です」


6人の目の前に、巨大な扉がそびえたっていた。


「元帥閣下、桜田正義大将、凉音愛大将以下4名、到着いたしました」


正義が、ドアに向かってそう言うと…


「入れ~ってか、そんな堅っ苦しい挨拶いらねぇっつの」


「…相変わらずだな…」


正義は苦笑し、扉を開いた。






扉の中は、高校の体育館並の広さに、教会のような神々しさを合わせた作りになっていた。


そして…


「おせぇよお前ら!」


そう言ったのは、暖だった。


「…お前、恐ろしいまでにスーツが似合わないな…」


正義が、暖を見て言った。


「ほっとけ!!オレだって好きで着てるわけじゃねぇ!!」


そう叫ぶ暖の背後から…


「…お前ら、10年経っても全然変わらねぇのな…」


机に肘をつき、顔をしかめた一真が言った。


「これはこれは、元帥閣下…」


「ご機嫌麗しゅう…」


「凉音愛大将、桜田正義大将以下4名…」


「ただいま参上いたしました」


「…ぶっとばすぞお前ら…」


一真に向かって敬礼する4人に、一真は眉間にしわを寄せながら言った。


「んっとによぉ…だから上になんか立ちたくないんだ…」


「オレも同じですけど!?」


ため息を吐く一真に、暖が言った。


「はぁ?総理大臣にしろって言ったの、お前じゃん」


「何年前の話だ!しかも冗談に決まってんじゃん!」


「今更遅ぇし…でも良いじゃん、給料良いだろ?」


「やかましいわ!他人の顔色うかがうの嫌なんだよ!!」


「ガタガタ言ってんじゃねぇ!ウザい!」


「酷くね!?」


10年経っても変わらないのは、一真も一緒である。



「…そう言えば、今城はいないのか?」


一真と暖のやり取りを、黙って見ていた正義が、室内を見回して言った。


「今城じゃねぇよ、久城だよ」


一真が訂正する。


「…そうだったな、すまん…なかなか直らなくてな…」


「それでも、3年…いや、4年経つぞ?」


一真が顔をしかめる。


「まぁまぁカズ君、あたしの旦那様をあんまり責めないであげてよ」


恋華が苦笑いする。


「…まぁ、重野に免じて…」


「重野じゃない、桜田だ」


正義が訂正した。その顔には、僅かに勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。


「…失礼、桜田夫人…」


一真は恋華に、ばつが悪そうに軽く会釈した。


「いえいえ♪それで?梨紅ちゃんは…」


「あぁ…梨紅は今、山中を迎えに…」


「山中じゃねぇ、川島だ」


暖が訂正した。


「…踏んだり蹴ったりだな…」


一真がため息を吐く。


「梨紅は、川島夫人を迎えに、貴ノ葉高校まで飛んでるよ」


「…あぁ、沙織は教師やってるんだっけ?」


思い出したように、愛が言った。


「でも、先生やりながらこっちの仕事もやってくれてるよ。凉…あ、寺尾夫人…」


「残念、私は凉音のままだよ」


「…とっとと籍入れろよ…仕事も落ち着いただろ?」


一真が顔をしかめた。


「なんか、30にならなきゃ結婚しちゃいけないんだってさ…」


「…何の話?」


「豊よ豊、20歳で神主になって、10年は独身で過ごして、30歳で結婚、50歳で子供を神主にするのがしきたりだとか…」


愛が、ため息混じりに言った。


「…お前んち、めんどくさいな…」


「………」


豊は、両手を肩の脇に広げて見せた。


「…しかもお前ら、子供いるじゃん。しきたりの年数に合わなくねぇ?」


「大丈夫よ、1人目は娘だし…結婚したら、もう1人作るから」


「…愛ちゃん今、サラッと凄い事言ったよね?」


恋華が苦笑いした。


「…で、今日はオレ達に何の用だ?」


正義が唐突に聞いた。


「ん?まぁ、最初はとりあえず近況報告かな…ハウルとあおいも来てないし…」


「来てるよ!」


「酷いよカズ兄ちゃん!」


「冗談だって…まぁ、麻美とリエルはしばらく来ないし…とりあえず、MBSF研究会のメンバー待ちかな?」


一真はそう言って、机に座った。


「お前らも座れよ、ソファーあるんだし」


一真に促され、7人は手近なソファーに腰を下ろした。


「…勇気はどうした?」


「携帯繋がんねぇんだよ…てか、あいつが神様になってから、繋がった事がねぇ」


「最後に会ったのいつだ?」


「オレは、半年前の三界会議の時かな…お前らは?」


一真が正義達に聞いた。


「オレは、去年の秋かな…」


「あたしも、正義さんと同じだよ」


正義と恋華が答えた。


「私は…2年ぐらい会ってないかな?」


首をかしげながら、愛は言った。そして豊は…


「…僕は月一で会ってるよ?神社の境内でよく昼寝してるし」


「あの野郎、寺尾神社で天界の仕事サボってやがったのか…あとで大天使にチクってやろ」


一真が言った。


「オレも結構会ってるぞ?週一かな…」


「なんでそんな頻繁に!?」


暖の言葉に、一真が驚いた。


「いや、なんか『ナンパ』しに行こうぜ?とか言って…」


「またサボり話か…で、お前もそれに付いて行くわけ?」


「逆だから…オレはほら、演説とかしなきゃいけないからさ?結構あっちこっち回るわけよ…その度にあいつも着いてきて、ナンパしたり…」


「つまり、仕事なきゃやってるわけだ?勇気と一緒になって…」


「…まぁ、やるかも…」


「ふ~ん…暖君がナンパをねぇ…」


「!?」


暖の顔色が、一瞬で青ざめた。


「…一真、謀ったな…?」


「何の話?…お、川島夫人じゃありませんか…お久しぶりです」


一真はニヤニヤと笑いながら、暖の後ろに立っている女性に向かって言った。


「久しぶりね、久城君…」


そこにいたのは山中沙織…いや、今は川島沙織だが…


「…沙織ちゃん?冗談だから、冗談…」


「へぇ…冗談…冗談ねぇ…」


…山中に戻る日も、近いのかもしれない。


「…あれ?梨紅は?」


一真が言った。確かに、沙織はいるのに迎えに行った梨紅の姿が無い。


「梨紅は、ナンパと昼寝が趣味のエロ神様を捕獲しに行ったわ」


「あ、マジで?ならもう少しで揃うかな…」


一真がそう言うと…




「ギャァァァァァァァァァ!!!!!!」


「!?」


悲鳴と共に、天井から何かが落下して来た。


「へぶぅ!…げへ!」


男が顔面から床に落下し、女がその上に着地する。


「ふぅ…ただいま一真、連れて来たよ」


女が男から降りて、一真に言った。


「おかえり梨紅、ご苦労様」


一真は女に言った。


久城梨紅…10年前よりもかなり大人の女性らしくなり(自称)一真と共に元帥として、MBSFで働いている。


「…あの、オレ…神様なんだけど…」


梨紅に踏みつけられていた男が、顔を上げた。


進藤勇気…一真達の同級生であり、MBSF設立と同時に神の座についた。歴代で最も神らしからぬ神。


「お前、なんで携帯繋がんねぇんだよ」


開口一番に一真が言った。


「携帯?…そう言えば、大分前から見てないな…」


「無くしてんじゃねぇよ…」


一真がため息を吐いた。


「…まぁ、あれだ…何にしても、これで9人揃ったな」


一真が机から降りると、正義達も立ち上がった。


自分を見つめる8人を見回し、一真は…


「…やっぱ暖、異常にスーツが似合わねぇな…」


「やかましいわ!もっと他に言うことあんだろ!?」


「あ~…まぁ、久しぶり」


満面の笑みで、そう言った。


「変わらないな…」


「ホント、昔から全然だよね?」


「大人びた感じもしないし」


「適当な感じのまま…」


正義達は口々に、一真が昔のままであると言うが…


「そうかな…私は、ちょっと大人っぽくなったように感じるけど…」


「一応、二児の父親だもんね?」


沙織と梨紅は、変わったという。


「どっちだよ…」


顔をしかめる一真。


「…でもまぁ、みんな変わったんじゃねぇの?…こいつに比べたら」


暖が勇気を指差して言った。


「…まぁ、こいつは『全く』変わってないからな…」


「見た目も中身もね」


「…いや、だってオレ神様だし?お前らが死ぬまで見た目このままだぜ?」


正義と恋華の言葉を聞き、勇気は両手を広げて見せた。


「…寿命が人間の千倍って、どんだけだよ…」


「今更だけど、変な感じだよね」


暖と沙織が言った。


「だからまぁ、オレ達が死んだ後のMBSFは、勇気とリエルがしっかり見ててくれるわけで…」


「神様と魔王がバックアップしてくれるんだし、安心だよね?」


一真と梨紅が言うが…


「…いや、でも進藤だよ?」


「……心配…」


「お前らマジ酷くね?」


愛と豊に否定され、勇気が顔をしかめる。


「オレだって、やる時はやるさ」


「まったく説得力ねぇよ…」


8人がため息を吐いた。


「…ねぇ、カズ兄ちゃん?」


ソファーに座っているあおいが、一真を呼んだ。


「ん?」


「私、勇気さんって凄い人だと思ってたんだけど…違うの?」


「「「「「「「「全然違うよ!」」」」」」」」


「おい…」


声を揃えて否定する8人に、勇気は更に顔をしかめた。


「こいつが凄い人なわけ無いだろ?」


と、正義…


「暇があればナンパはするし」


「暇が無くてもナンパしてるし」


と、恋華と沙織…


「怪しげな能力で女の子を自分に惚れさせるし」


「仕事はサボる」


「もしくは他人に押し付ける」


上から、愛、豊、暖…


「基本的に何もしないしね」


「凄い人どころか、駄目人間だぜ?そもそも人じゃねぇ」


梨紅と一真が言った所で…


「あんたらちょっと酷すぎませんか!?」


勇気が叫んだ。


「確かに否定はしないけれども!」


「駄目じゃねぇか」


「黙って聞けやぁ!!」


一真のツッコミに臆すこと無く、勇気は続ける。


「そもそも!オレがいなけりゃMBSFは設立しなかったわけで…」


「…そうだっけ?」


「いや、そんな事も無いような…」


「おぉぉぉぉい!?」


勇気が叫ぶ。


「…うるさいよ勇気…」


「つか、オレがいなけりゃ10年前にお前ら死んでんじゃん!一真がハウルちゃんやあおいちゃんと出会う事も無かったじゃん!」


「…え?そうなんですか?」


ハウルが、勇気の話に食いついた。


「そうなんだよハウルちゃん!オレがいなけりゃ一真がそっちの世界に飛ぶ事も無かった…つまり、君は今!この場にいなかったのだ!」


「そうなんですか!?」


ハウルが驚愕の表情で勇気を見つめる。


「詳しく聞きたいか?」


勇気が、相手をしてもらえて嬉しそうに聞いた。


「是非とも聞きたいです!」


「私も聞きたいです!」


ハウルとあおいが言った。


「OK!聞かせてあげよう…」


勇気は、ハウル達の正面のソファーに座り、言った。


「オレと、一真達との出会いの物語を!」











「…何か始まったぞ?」


「変な脚色が入るかもしれない…仕方ない、オレ達も聞いてやるか…」


そう言って、一真達もソファーに腰かけた。



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