エピローグ 未来に繋がる過去の話
ようやく、活動記録を書けるぐらいに落ち着いた。
とりあえず、水曜日から今日までの記録も書こうかな…
水曜日…
ウィスプに取り付かれた凉音に襲撃された。
マジで怖かった…死ぬかと思った…ありえねぇと思った…ふざけんなと思った…
そんなこんなでなんとか凉音をウィスプから解放したけど、ぶっちゃけその後が地獄だった…
凉音によって、部室棟半壊…グラウンド陥没…
その修繕…MBSF研究会が責任を持ってするようにと、生徒会会長が直直に部室に言いに来た。
その場にいた部員は全員『キレ』た…とばっちりの二次災害じゃん?
そんで、逃げようとする凉音ゴブリンを捕まえて、どんな風に罰を与えようか考えてたら、部室に豊が入って来た。
豊は入部届けを持って来ただけなんだけど、たまたま入部届けが2枚重なってたので、凉音の名前を書いた。
で、凉音ゴブリンを持ったオレは、豊と一緒に田丸さんに入部届けを出しに行った。
田丸さん、涙ながらに2枚の入部届けを受け取ってた。泣きたいのはこっちの方だ…
そしてめでたく、凉音愛、寺尾豊の両名は、部員その5とその6になった。
本来なら豊が部員その5なんだけど、凉音がどうしても部員その5が良いって駄々をこねたから、凉音がその5になった。
ん~…まぁ、水曜日はこのぐらいかな…
帰りに、凉音妹の様子を見に行った。まだあの病室に入院してるそうだけど…まぁ、すぐに退院出来ると思う。
来年は貴ノ葉高校に入って、MBSF研究会に入るって言ってた。わざわざ自分から、変態の集まりに足を突っ込まなくても良いだろうに…
…あぁ、暖はやっぱり退院してた。
翌日から学校に来たから、当然のように修繕作業に強制参加させた。
裏庭の土をくすねて、グラウンドの陥没を埋める班と、部室棟の修繕にあたる班に別れての作業…
部員が増えたから、多少は作業が楽になったのは喜ばしい。
木曜日の放課後で穴埋めと修繕を終え、凉音を無理矢理、生徒会長に頭を下げさせ、なんとか停学や退学の類いから逃れた。
今は、部室でテスト勉強の最中だ。
暖、山中、豊…
梨紅、正義、重野、凉音…
オレも入れて8人…よくもまぁ、変なやつばっかり集まったもんだ…
魔法使い…
退魔士…
一般人…
半魔…
風使い兼、警官…
重力使い兼、怪盗…
判子使い…
霊能力者…
羅列してみた。
まともな奴が1人もいねぇ…
まぁ、この部に入った時点でみんな変なんだ…これ以上部員が増えない事を祈ろう…
ただ、1つだけ嬉しい事がある。
どうやら、凉音は『ツッコミ』らしいんだ。
オレの負担が軽減されると良いなぁ…
…6月22日、金曜日。
久城一真
「…って訳で、強制入部させられたわけよ」
愛が説明を終え、ため息を吐いた。
「そうだったんですか…」
ハウルが呆然と頷いた。
「そうだったねぇ…懐かしいなぁ」
恋華が、活動記録を見ながら言った。
「ん?恋華、思い出したのか?」
「少しだけだけどね?でもさ、あれは愛ちゃん自業自得だったと思うよ?」
「…そもそも、入部した翌日に訳もわからないまま、肉体労働させられた僕って…」
「…私、過去は振り返らない主義なの…」
恋華と豊の視線から逃れるべく、愛は活動記録の次のページをめくった。
「…あのぉ…」
「?」
全員が、声の主に視線を向けた。
「…そろそろ、元帥の間に行かれた方が…」
「…忘れてた」
ハウルの言葉に、4人は同時に言った。
説明が遅れたが、ここは
『MBSF-Magic-Beast-Subjugation-Federation-』
…魔法獣討伐連合の本部である。
数年前に発足したこの組織の主な役割は、魔法などで市民の安全を守る事と退魔である。
よって、この組織に属する者の8割が、魔法使いや退魔士…天使や魔族…他、それに酷似した能力を持つ者達である。
「…んにしても、今でも思うわ…」
廊下を歩きながら、愛が言った。
「何を?」
「よくこんな組織作れたなぁ…って。」
「そうだね…よく考えたら、凄いもんね」
10年前の時点では、魔法使いと退魔士の対立や、魔界と天界の敵対関係は、和解の余地など無かった…
しかしそれを、強引に1つに纏めあげたのが…
「カズ君、頑張ってたからねぇ」
そう、久城一真である。
「カズ元帥は、異世界にも交友関係ありますからねぇ」
「そう言えば、ハウルも異世界人だったわよね?ホームシックになったりしないの?」
愛がニヤニヤと笑いながら言った。
「子供じゃないんですから…それに、私以外にも異世界人、結構いますから…」
ハウルがそう言うと…
「あ!ハウルちゃん…と、大将と中将のみなさん!」
5人の進行方向から、元気すぎる声が聞こえてきた。
「噂をすれば、ですね」
「あおいちゃんだ!」
恋華があおいに手を振った。
真神あおい少将…正義達の1歳年下で、異世界ヴェルミンティア出身の魔導師である。
ちなみに、ハウル=プリアデル少将も、ヴェルミンティア出身の魔導師である。
「恋華さん!みなさん!お久しぶりですぅ!」
恋華とあおいは、手を取り合って跳ね回る。
「あおいちゃんも、カズ君に呼ばれたの?」
「はい!あと、麻美姉と、暖さんと、勇気さんと…あと、リエルさんも御呼ばれだそうで…」
「…ヴェルミンティアの魔導師教官長に、総理大臣に神様に…魔王まで呼んでんのか?」
正義は顔をしかめる。
「……同窓会?…」
「いやいや、それは無いでしょ…」
豊の疑問に、愛が的確にツッコミを入れた所で…
「着きました、元帥の間です」
6人の目の前に、巨大な扉がそびえたっていた。
「元帥閣下、桜田正義大将、凉音愛大将以下4名、到着いたしました」
正義が、ドアに向かってそう言うと…
「入れ~ってか、そんな堅っ苦しい挨拶いらねぇっつの」
「…相変わらずだな…」
正義は苦笑し、扉を開いた。
扉の中は、高校の体育館並の広さに、教会のような神々しさを合わせた作りになっていた。
そして…
「おせぇよお前ら!」
そう言ったのは、暖だった。
「…お前、恐ろしいまでにスーツが似合わないな…」
正義が、暖を見て言った。
「ほっとけ!!オレだって好きで着てるわけじゃねぇ!!」
そう叫ぶ暖の背後から…
「…お前ら、10年経っても全然変わらねぇのな…」
机に肘をつき、顔をしかめた一真が言った。
「これはこれは、元帥閣下…」
「ご機嫌麗しゅう…」
「凉音愛大将、桜田正義大将以下4名…」
「ただいま参上いたしました」
「…ぶっとばすぞお前ら…」
一真に向かって敬礼する4人に、一真は眉間にしわを寄せながら言った。
「んっとによぉ…だから上になんか立ちたくないんだ…」
「オレも同じですけど!?」
ため息を吐く一真に、暖が言った。
「はぁ?総理大臣にしろって言ったの、お前じゃん」
「何年前の話だ!しかも冗談に決まってんじゃん!」
「今更遅ぇし…でも良いじゃん、給料良いだろ?」
「やかましいわ!他人の顔色うかがうの嫌なんだよ!!」
「ガタガタ言ってんじゃねぇ!ウザい!」
「酷くね!?」
10年経っても変わらないのは、一真も一緒である。
「…そう言えば、今城はいないのか?」
一真と暖のやり取りを、黙って見ていた正義が、室内を見回して言った。
「今城じゃねぇよ、久城だよ」
一真が訂正する。
「…そうだったな、すまん…なかなか直らなくてな…」
「それでも、3年…いや、4年経つぞ?」
一真が顔をしかめる。
「まぁまぁカズ君、あたしの旦那様をあんまり責めないであげてよ」
恋華が苦笑いする。
「…まぁ、重野に免じて…」
「重野じゃない、桜田だ」
正義が訂正した。その顔には、僅かに勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。
「…失礼、桜田夫人…」
一真は恋華に、ばつが悪そうに軽く会釈した。
「いえいえ♪それで?梨紅ちゃんは…」
「あぁ…梨紅は今、山中を迎えに…」
「山中じゃねぇ、川島だ」
暖が訂正した。
「…踏んだり蹴ったりだな…」
一真がため息を吐く。
「梨紅は、川島夫人を迎えに、貴ノ葉高校まで飛んでるよ」
「…あぁ、沙織は教師やってるんだっけ?」
思い出したように、愛が言った。
「でも、先生やりながらこっちの仕事もやってくれてるよ。凉…あ、寺尾夫人…」
「残念、私は凉音のままだよ」
「…とっとと籍入れろよ…仕事も落ち着いただろ?」
一真が顔をしかめた。
「なんか、30にならなきゃ結婚しちゃいけないんだってさ…」
「…何の話?」
「豊よ豊、20歳で神主になって、10年は独身で過ごして、30歳で結婚、50歳で子供を神主にするのがしきたりだとか…」
愛が、ため息混じりに言った。
「…お前んち、めんどくさいな…」
「………」
豊は、両手を肩の脇に広げて見せた。
「…しかもお前ら、子供いるじゃん。しきたりの年数に合わなくねぇ?」
「大丈夫よ、1人目は娘だし…結婚したら、もう1人作るから」
「…愛ちゃん今、サラッと凄い事言ったよね?」
恋華が苦笑いした。
「…で、今日はオレ達に何の用だ?」
正義が唐突に聞いた。
「ん?まぁ、最初はとりあえず近況報告かな…ハウルとあおいも来てないし…」
「来てるよ!」
「酷いよカズ兄ちゃん!」
「冗談だって…まぁ、麻美とリエルはしばらく来ないし…とりあえず、MBSF研究会のメンバー待ちかな?」
一真はそう言って、机に座った。
「お前らも座れよ、ソファーあるんだし」
一真に促され、7人は手近なソファーに腰を下ろした。
「…勇気はどうした?」
「携帯繋がんねぇんだよ…てか、あいつが神様になってから、繋がった事がねぇ」
「最後に会ったのいつだ?」
「オレは、半年前の三界会議の時かな…お前らは?」
一真が正義達に聞いた。
「オレは、去年の秋かな…」
「あたしも、正義さんと同じだよ」
正義と恋華が答えた。
「私は…2年ぐらい会ってないかな?」
首をかしげながら、愛は言った。そして豊は…
「…僕は月一で会ってるよ?神社の境内でよく昼寝してるし」
「あの野郎、寺尾神社で天界の仕事サボってやがったのか…あとで大天使にチクってやろ」
一真が言った。
「オレも結構会ってるぞ?週一かな…」
「なんでそんな頻繁に!?」
暖の言葉に、一真が驚いた。
「いや、なんか『ナンパ』しに行こうぜ?とか言って…」
「またサボり話か…で、お前もそれに付いて行くわけ?」
「逆だから…オレはほら、演説とかしなきゃいけないからさ?結構あっちこっち回るわけよ…その度にあいつも着いてきて、ナンパしたり…」
「つまり、仕事なきゃやってるわけだ?勇気と一緒になって…」
「…まぁ、やるかも…」
「ふ~ん…暖君がナンパをねぇ…」
「!?」
暖の顔色が、一瞬で青ざめた。
「…一真、謀ったな…?」
「何の話?…お、川島夫人じゃありませんか…お久しぶりです」
一真はニヤニヤと笑いながら、暖の後ろに立っている女性に向かって言った。
「久しぶりね、久城君…」
そこにいたのは山中沙織…いや、今は川島沙織だが…
「…沙織ちゃん?冗談だから、冗談…」
「へぇ…冗談…冗談ねぇ…」
…山中に戻る日も、近いのかもしれない。
「…あれ?梨紅は?」
一真が言った。確かに、沙織はいるのに迎えに行った梨紅の姿が無い。
「梨紅は、ナンパと昼寝が趣味のエロ神様を捕獲しに行ったわ」
「あ、マジで?ならもう少しで揃うかな…」
一真がそう言うと…
「ギャァァァァァァァァァ!!!!!!」
「!?」
悲鳴と共に、天井から何かが落下して来た。
「へぶぅ!…げへ!」
男が顔面から床に落下し、女がその上に着地する。
「ふぅ…ただいま一真、連れて来たよ」
女が男から降りて、一真に言った。
「おかえり梨紅、ご苦労様」
一真は女に言った。
久城梨紅…10年前よりもかなり大人の女性らしくなり(自称)一真と共に元帥として、MBSFで働いている。
「…あの、オレ…神様なんだけど…」
梨紅に踏みつけられていた男が、顔を上げた。
進藤勇気…一真達の同級生であり、MBSF設立と同時に神の座についた。歴代で最も神らしからぬ神。
「お前、なんで携帯繋がんねぇんだよ」
開口一番に一真が言った。
「携帯?…そう言えば、大分前から見てないな…」
「無くしてんじゃねぇよ…」
一真がため息を吐いた。
「…まぁ、あれだ…何にしても、これで9人揃ったな」
一真が机から降りると、正義達も立ち上がった。
自分を見つめる8人を見回し、一真は…
「…やっぱ暖、異常にスーツが似合わねぇな…」
「やかましいわ!もっと他に言うことあんだろ!?」
「あ~…まぁ、久しぶり」
満面の笑みで、そう言った。
「変わらないな…」
「ホント、昔から全然だよね?」
「大人びた感じもしないし」
「適当な感じのまま…」
正義達は口々に、一真が昔のままであると言うが…
「そうかな…私は、ちょっと大人っぽくなったように感じるけど…」
「一応、二児の父親だもんね?」
沙織と梨紅は、変わったという。
「どっちだよ…」
顔をしかめる一真。
「…でもまぁ、みんな変わったんじゃねぇの?…こいつに比べたら」
暖が勇気を指差して言った。
「…まぁ、こいつは『全く』変わってないからな…」
「見た目も中身もね」
「…いや、だってオレ神様だし?お前らが死ぬまで見た目このままだぜ?」
正義と恋華の言葉を聞き、勇気は両手を広げて見せた。
「…寿命が人間の千倍って、どんだけだよ…」
「今更だけど、変な感じだよね」
暖と沙織が言った。
「だからまぁ、オレ達が死んだ後のMBSFは、勇気とリエルがしっかり見ててくれるわけで…」
「神様と魔王がバックアップしてくれるんだし、安心だよね?」
一真と梨紅が言うが…
「…いや、でも進藤だよ?」
「……心配…」
「お前らマジ酷くね?」
愛と豊に否定され、勇気が顔をしかめる。
「オレだって、やる時はやるさ」
「まったく説得力ねぇよ…」
8人がため息を吐いた。
「…ねぇ、カズ兄ちゃん?」
ソファーに座っているあおいが、一真を呼んだ。
「ん?」
「私、勇気さんって凄い人だと思ってたんだけど…違うの?」
「「「「「「「「全然違うよ!」」」」」」」」
「おい…」
声を揃えて否定する8人に、勇気は更に顔をしかめた。
「こいつが凄い人なわけ無いだろ?」
と、正義…
「暇があればナンパはするし」
「暇が無くてもナンパしてるし」
と、恋華と沙織…
「怪しげな能力で女の子を自分に惚れさせるし」
「仕事はサボる」
「もしくは他人に押し付ける」
上から、愛、豊、暖…
「基本的に何もしないしね」
「凄い人どころか、駄目人間だぜ?そもそも人じゃねぇ」
梨紅と一真が言った所で…
「あんたらちょっと酷すぎませんか!?」
勇気が叫んだ。
「確かに否定はしないけれども!」
「駄目じゃねぇか」
「黙って聞けやぁ!!」
一真のツッコミに臆すこと無く、勇気は続ける。
「そもそも!オレがいなけりゃMBSFは設立しなかったわけで…」
「…そうだっけ?」
「いや、そんな事も無いような…」
「おぉぉぉぉい!?」
勇気が叫ぶ。
「…うるさいよ勇気…」
「つか、オレがいなけりゃ10年前にお前ら死んでんじゃん!一真がハウルちゃんやあおいちゃんと出会う事も無かったじゃん!」
「…え?そうなんですか?」
ハウルが、勇気の話に食いついた。
「そうなんだよハウルちゃん!オレがいなけりゃ一真がそっちの世界に飛ぶ事も無かった…つまり、君は今!この場にいなかったのだ!」
「そうなんですか!?」
ハウルが驚愕の表情で勇気を見つめる。
「詳しく聞きたいか?」
勇気が、相手をしてもらえて嬉しそうに聞いた。
「是非とも聞きたいです!」
「私も聞きたいです!」
ハウルとあおいが言った。
「OK!聞かせてあげよう…」
勇気は、ハウル達の正面のソファーに座り、言った。
「オレと、一真達との出会いの物語を!」
「…何か始まったぞ?」
「変な脚色が入るかもしれない…仕方ない、オレ達も聞いてやるか…」
そう言って、一真達もソファーに腰かけた。




