プロローグ
初夏…今年の夏は、地球温暖化の影響で、猛暑になると、気象予報士がテレビで言っていた。
まだ6月だというのに、8月上旬並の気温というのだから、地球滅亡の日は近いと言っても、疑いようがない気がしてくる…
そんな、6月下旬のとある日曜日…
「…」
ここは、貴ノ葉病院の病室の1部屋…窓際のベッドに1人の少女が横になっていた。
「…はぁ…」
窓の外にある、青々と葉の繁る大木を見ながら、少女はため息を吐いた。
「…ため息なんて吐いてんじゃないわよ」
「…あ、お姉ちゃん」
声に反応して少女が振り向くと、そこには少女の姉が立っていた。
「…で?なんでため息なんて吐いてたのよ」
「うん…ほら、あの木」
布団から右手を出し、少女は窓の外の大木を指差した。
「…?あの木が何?」
「葉っぱがいっぱいでさ、全然枯れる気配が無いでしょ?」
「…だから?」
少女は軽くため息を吐き、言った。
「…もし、今の季節が冬で、あの木の葉っぱがあと数枚しか無かったら…『…あの葉っぱが全て落ちたら…私も…』みたいな、ドラマっぽい会話が出来たのに…って…痛っ!」
「縁起でもない上に、下らないわよ…」
少女の姉は、少女の頭を軽く叩き、言った。
「あんたの病気は治る病気なのよ?そんな事言ったら、今にもくたばりそうな人達に失礼でしょ?」
「…でも、私だって余命1ヶ月だよ?」
「医者がなんて言おうと、友美は死なないよ…1ヶ月もあれば、お姉ちゃんが友美を治せるやつを連れて来れる!」
友美と呼ばれた少女は、そんな姉に微笑んだ。
「…ありがと、お姉ちゃん…期待してるね♪」
「任せなさい!それじゃあ友美、そろそろ受験勉強しようか?」
そう言って、友美の姉はテーブルの上に参考書と問題集を叩きつけた。
「え?いや…ほら、お姉ちゃん…私、受験する前に…」
「死なないって言ってるでしょ?私の言った事、聞いてた?」
「は…はぅ…」
「私は飲み物買いに行くから、帰って来るまでに全部終わらせておきなよ?」
「えぇ!?ちょっ…」
慌てる友美を見て笑いながら、姉は病室から出て行った。
「…ん?」
病室から出た所で、友美の姉は、友美の主治医に出くわした。
「お姉さん…友美ちゃんに、あまり無理をさせないで下さいよ…」
「…」
主治医を無言で睨み付ける姉…
「…このままだと、余命を縮めかねませ…」
「友美は死なない!」
姉は大声で言った。
「私が死なせない!見てなさい…絶対に治してみせるんだから!」
そう言って、姉は走って行った。
「…」
友美の主治医は、無言で姉の背を見送ってため息を吐き、友美の病室に入った。
「凉音 友美さん、回診です」
「あ、はい!あの…すいません、もうちょっと待って下さい!」
凄まじい勢いで問題集を解きながら、友美は言った。
遅いか早いかの違いはあるが、全ての人間はいずれ、死を迎える…
自殺、他殺、事故死、病死、そして寿命…
寿命を除く4つは、決して平等な死とは言えないのではないか?
この4つによって死を迎えた方々の家族は、思うだろう…
『何故、彼なんだ?何故、彼女なんだ?』
と…
『運が無かった…』
その一言で全ては片付くだろうが、それで本当に納得が出来るだろうか?
この世に神がいるならば、何故…神は彼らに苦しみを与えたのだろうか…
前世の行い?
そんなもの、今を生きる自分達には何の関係も有りはしない。
普段の行い?
ならば、生まれつき病気の人はどうなる?
…いくら議論を重ねても、結論は見い出せないだろう…
だからこそ、人間は
『苦悩』
する生き物なのだ。




