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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第三章 怪盗と絆 前編
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エピローグ 変わらない大切なもの


「はぁ…そんな事があったんですか…」


ソファに腰掛けたハウルが、感嘆の息を吐いた。


「あぁ…あの頃は本当に、オレも恋華も弱くてなぁ…」


「アークデーモン1体すら、2人がかりで倒せなかったんだよ?ダメダメだったよねぇ…」


恋華の言うアークデーモンとは、当時『牛魔王』と呼んでいた魔物の事である。


「アークデーモンって…中級下位の魔物ですよね?」


「そう…中級下位レベルの魔物に、オレ達は苦戦してたんだ…」


「当時は魔物のランク分けなんてなかったからね…もう、『ラスボス倒したぁぁ!!』ぐらいの勢いで喜んでたよ?あたし達…」


恥ずかしそうにうつ向く、正義と恋華。


「…大将や中将も、最初は私達と同じだったんですね…てっきり、最初から強かったのかと…」


「そんなわけ無いだろう!オレ達があの後、どれだけ訓練したと思ってるんだ!?」


「そうだよ!あたしなんてそのせいで、期末が赤点ギリギリだったんだから!」


「え?いや、その…ごめんなさい…」


突然怒り始めた正義と恋華に、ハウルはタジタジである。正義達が更に何か言おうとするが…


「こんちは~、恋華居る?」


ブザーも押さずに部屋に入って来た、1人の女性に妨害された。


「へ?あぁ!愛ちゃんだ!久しぶりぃ!」


「…昨日会ったでしょ?」


「…あり?」


昔と変わらぬ小ささと、相変わらず長すぎる髪…ため息を吐く女性は、間違い無く愛だった。


「なんだ、凉音も一真に呼ばれたのか?」


「あ、マサがいる…大将殿も元帥閣下に謁見でございまするか?」


「…恋華と同じ事してるぞ?お前…それに、凉音だって大将だろうが」


「…恋華と同じってのはショックだよ…」


顔をしかめる愛に、恋華は頬を膨らませる。


「酷いよぉ、愛ちゃん」


「冗談だって…(半分は)それより、何騒いでたの?珍しくマサも怒ってたみたいだけど…夫婦喧嘩?」


「違う…オレ達が一真や凉音相手に、ズタボロにされながら訓練させられた事を思い出してな…少々熱くなった」


そう言って、正義は眼鏡を人差し指で押し上げた。


「訓練って…いつの?」


「高1の1学期、期末テスト前のだよぉ…」


「…あぁ、私が無理矢理入部させられてすぐの?でもあの時は、お前ら自分から…」


「…無理矢理?」


愛の言葉に、ハウルが反応した。


「ん?あぁ!ハウルじゃん!」


「お久しぶりです、愛さん」


「何年ぶりかな…2年ぐらい?」


「そうですねぇ…それより、愛さんって無理矢理入部させられたんですか?」


「そうだよ?あの時はホント…入らなきゃ殺されるぐらいの勢いでね…今でもよく覚えてるよ、恋華達のあの殺気…」


そう言って、愛は身震いした。


「そんな、大袈裟だよぉ、愛ちゃん」


「大袈裟じゃないわよ!本当に怖かったんだから!足が震えて立ってられなかったのよ!?」


「…あの愛さんを、そこまで怖がらせるなんて…」


ハウルは、驚愕の表情で恋華と正義を見つめた。


「…でも、正直言うとね?あたし…あんまり覚えて無い…かも」


「!?」


恋華の一言に、愛は氷ついた。


「…マジ?」


「うん…確か、愛ちゃんと一緒に豊君も入部した…よね?」


「……うん…」


肯定の返事をする豊。


「…その前の事は?」


「…忘れちゃった♪」


「…そう言えば、活動記録に書いてある、手に入れた『大切なもの』ってのは…?」


「…エヘヘ♪」


笑顔で答える恋華に、愛と正義はため息を吐いた。


「まぁ、10年も昔の話だ…仕方ないんじゃないか?」


「…そうね、恋華だしね…」


「……仕方ない…」


「酷いよ!みんなしてバカにしてぇ!」


盛り上がる4人…しかし、ハウルは今一話に入れない。


「…ちょっと良いですか?」


「あぁ、悪いわね、ハウル…それじゃあ、恋華とハウルの為にも、ちょっと昔話でも…」


「ありがとうございます…でも、その前に1つだけよろしいですか?」


4人の目が、ハウルの顔を見つめる。


「…寺尾豊中将、いつの間にいらっしゃったんですか?」


恋華達の目が、豊の顔に向けられた。


「…相変わらずだな、お前は…」


「昔っから、いつの間にか加わってるよね…」


「久しぶり、豊君!」


「……久しぶり…」


高1の時よりも背が高く、高1の時と同様に眠そうな瞳…例によって例の如く、豊が混ざっていた。


「…みなさん、驚かないんですね…」


「まぁ、10年の付き合いだからなぁ…いい加減慣れるさ」


驚くハウルに、正義が言った。


「…それじゃあ改めて、私が入部させられた時の話をしましょうかね?」


そう言って、愛はソファに座り、活動記録のページを捲った。



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