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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第三章 怪盗と絆 前編
20/66

3.彼らは訓練する。


「"エアロ"!」


「"重変"100!」


声に続いて轟く地響き…




6月13日、水曜日…


時刻は7時50分…場所は、貴ノ葉高校の校門付近。


…震度2~3の揺れを観測。


「ちょっとカズ君!危ないじゃない!」


「やかましい!飯を奢ってもらったぐらいで自白してんじゃねぇよ!」


「…てへ♪」


「"ウィンド・ストライク"×3!!」


3つの魔法陣からそれぞれ、風の弾が放たれた。


「"重変"ランダム!」


恋華がそう言ったと同時に、恋華の周りが歪み出した。


その歪みに当たると同時に、風の弾の1つは空へと方向を変え、2つ目は地面へ落下…3つ目は、一真に向かって帰って来た。


一真は、空へ飛んで行った弾と自分に向かって帰って来る弾を操り、再び恋華に向かって飛ばした。


「"重力のハンマー"!」


恋華の手に、黒い物体が集まり始め、次の瞬間にはハンマーの形になっていた。


「行くよぉ…うりゃあ!」


長さ1.5mはありそうな大きなハンマーを振り回し、恋華は風の弾を1つ、地面に叩きつけた。


震度5弱の揺れ…2人のせいで学校に入れないギャラリー…もとい、貴ノ葉高校の生徒達が、数名倒れた。


「…怖ッ!重野がハンマー振り回してる…」


「ふん!」


最後の風の弾を弾き飛ばした恋華は、ハンマーを地面に立てる。


「…え?ギャフ!」


「暖君!?」


恋華に弾かれた風の弾は、ギャラリーの最前列にいた暖に命中…近くにいた沙織が、暖に駆け寄る。


「…ついにギャラリーに被害が…どうする?正義君」


「…オレにあの2人を止めろと?それは少し無理があるとは思わないか?」


すっかり傍観者の梨紅と正義…2人を止める事を諦め…いや、元より止める気など無く、完全に他人のフリだ。


「ハンマーなんて凶悪な武器使いやがって…"ウィンド・スラッシュ"!」


一真は風の剣を精製し、構える。


「刃物よりは安全だと思わない?」


構えた一真に触発され、恋華もハンマーを持ち上げて構える。


数秒の沈黙の後…2人は同時に、互いに向かって走り出した。




…しかし、




「いい加減にしなさい!」


響くのは金属音と、ハンマーが地に落ちた鈍い音…そして、沙織の怒声だった。


沙織は、伸ばした爪を硬化して一真の風の剣を受け止め、恋華の首筋に大きな鎌をつきつけていた。


「や…山中…」


「沙織ちゃん…」


「みんな、あなた達が暴れてるせいで迷惑してるの!見なさい!」


沙織が指さす方を見ると、風の弾をくらった暖に、梨紅が回復魔法をかけている所だった。


「…暖なら大丈夫じゃ…」


「暖君じゃなかったらどうするつもりだったの!!!」


「…ごめんなさい」


謝る一真を一睨みし、沙織は恋華に視線を向ける。


「恋華ちゃんもだよ!」


「だってカズ君が!」


「だってじゃないの!言い訳しない!」


(母親かあんたは…)


一真達を含め、ギャラリー全員がそう思った。


「とにかくあなた達、みんなに謝って」


「「…すいませんでした」」


一真達の謝罪を合図に、ギャラリーは校門をくぐり始めた。


「まったく…」


「…ところで山中?そのでかい"鎌"…何?」


一真は、沙織の持つ…金色の装飾に漆黒の刃の大鎌を指差して言った。


「これ?"死神の大鎌、ファントム・サイズ"…2人を止めなきゃって思ったら、出てきたの」


「いや、出てきたってあんた…ちなみに、重野のそれは?」


「これ?"重力のハンマー、グラビテス"」


そう言うや否や、グラビテスは一瞬で砂になった。


「あたしの重力で、砂鉄とかを固めて作るんだよ」


「へぇ…器用に使ってんだなぁその力…って!やめろ山中!振り回すな!」


突然大鎌を振り回し始めた沙織に、一真が言った。


「あ、ごめん…あのさ、久城君…これって、どうやってしまうの?」


「知らねぇよ!どうやって出したんだよ!」


「さぁ…気付いたら持ってたのよ」


「一真ぁ、暖君運ぶの手伝ってよ」


「え~、重野にやらせろよ、重野がやったんだし」


「はぅあ!あたし!?カズ君の弾だったじゃんよぉ!」


「暖に向かって打ったのお前だろ!」


「…お前達、そろそろ…」


正義が何か言おうとした時、チャイムが鳴り響いた。


「…!遅刻だ!」


何故か…暖が飛び起き、真っ先に駆け出した。


「お前元気じゃねぇかコラァ!!」


「一真!私達も遅刻しちゃうよ!」


梨紅が言うと同時に、5人も駆け出した。


「…まー君?今、なんて言おうとしたの?」


「いや…そろそろ行かないと遅刻するぞ…って言おうとしたんだ」


「お前達!喋ってねぇで走れ!!」


全力で校庭を走り抜け、6人は同時に校舎に駆け込んだ。





「…久城、久城」


「…?」


朝のホームルーム終了後、一真は担任の田丸教諭に呼ばれ、生徒指導室に連れて来られた。


「…何すか?先生…」


「まぁ、座れ…」


まるで、取り調べでもするかのように、向かい合った机…一真は、言われるままに席に着いた。


「…久城よ…オレのSF研究会は、いったい今…どうなっているんだ?」


「そうですねぇ…正直、オレにもわかりません…まぁ、SFって言えばSFな奴等が集まって来てますよ?もう少ししたら、霊能力者も入る予定です」


「…はぁ…」


深くため息をつく田丸教諭…


「…あのぉ…何か、ありました?」


「…球技大会の謎の行動…学校中を飛び回っての鬼ごっこ…今朝の校門付近での器物損害…」


「ハハハ!呼び出し喰らうネタには困りませんねぇ」


「笑ってる場合か…あのなぁ久城?本来、SF研究会は文化部なんだ…それも、これと言って大変な手続き…大会だのコンクールだのが無い、平和な部活なわけだ…」


「はぁ…」


苦虫を潰したような表情の田丸教諭に、一真は軽く相づちをうつ。


「しかも、いつの間にか名称が、MBSF研究会とかに変わってるし…」


「…え?正式に?」


「あぁ…今日付けで、

魔法使いと退魔士と一般人その他諸々で


勉強したり遊んだりその他諸々をする


SF研究会


略称、MBSF研究会


に、正式に変更になった。」


「嘘ぉ!」


一真は驚くしか無かった。


「なんでですか!?なんでそんな可笑しな名称への変更が許可されたんですか!」


「…活動内容が可笑しいからだろ…」


「…なるほど」


納得しちゃいけない所で納得する一真…


「とりあえず、MBSF研究会は1限目公欠だから」


「…なんでですか?」


「校門付近の修復作業だ」


「え~…めんどくさいっすよぉ」


「本来なら停学ものだが、それで許してくれるそうだ。」


「喜んで、やらせていただきます」


一真は席から立ち上がり、田丸教諭に敬礼し、一目散に指導室から出ていった。








「…ってわけだ、停学になりたくなきゃキリキリ働け!」


校門に集合した、ジャージ姿の部員達に、一真は言った。


「どんなわけだコラ!納得行くかぁ!」


スコップを持った暖が、一真に言った。


「だいたい!オレは被害者だぞ!?負傷者だ!」


「んな事言ったって…やんなきゃ停学だぞ?田丸先生見張ってるし…」


「え?嘘、どこ?」


梨紅が辺りをキョロキョロと見回す。


「オレ達の教室から…ちなみに、一般の生徒にはオレ達は校務の手伝いって事になってるそうだ」


「でもさぁ…どうやって直すの?セメントとかは?」


恋華もスコップを持っていて、アスファルトをガリガリと削っている。


「なんか、穴は土で埋めとけとか言ってたぞ?生徒が通って、転んで怪我したりしなけりゃOKだって…てか、山中?」


「何?」


沙織が手に持っているのは、死神の大鎌だった。


「いつまで持ってんだよ…」


「いや、これで草刈りでも…」


「できるかぁ!明らかに対人用だろそれ!」


一真は部員を一通り見回し、改めて思った。


(…この部はいったい、どうなってんだ…)


「…とりあえず、始めるか…」


「そうだね…」


「…あ、待って?」


恋華はジャージのポケットから、携帯を取り出した。


「…メール…愛ちゃんからだ」


携帯から顔を上げ、恋華は校舎の方を見た。そして、F組の窓際からこちらを見ている愛を見つけて手を振った。


「…凉音さん、なんだって?」


「えっと…『恋華、何してんの?』だって…部活だよって送るね?」


恋華がメールを返信すると、すぐにメールが返って来た。


「…はぅあ~、愛ちゃんキツいなぁ…」


「今度は何だって?」


「『大っぴらにサボれて良いね…でも、こっちから見ると変な人達の集まりに見えるよ?』だって」


「…あんたの友達が1番変だから、安心して下さいって、返信してくれ」


「ぷふ!ちょっ一真、それ…」


吹き出す梨紅。だが、恋華は言われた意味がわからなかったらしい。


「?うん、わかった」


何の疑いもせず、恋華は送信した。


「…く…くふっ!…」


「…ぷっく…ふふ…」


「…」


笑いを堪える暖と沙織…正義は恋華に背を向け、吹き出しそうな顔を見せないようにしている。


「?みんな、どうしたの…あ、返って来た………え…」


恋華はメールを見て固まってしまった。おそらく、一真の言った意味を教えてもらったのだろう。


「…カズ君!!」


数秒後、恋華は頬を膨らませ、スコップを振り上げた。


「うわ!ちょっ、待て!」


「アハハハハハハハ!!!!」


逃げる一真、追う恋華…それを見て笑う4人。


もちろんこの後、6人は田丸教諭に怒られるわけだが…それはまた、別の話…


「あぁ~疲れたぁ…」


部室に入って開口一番に、梨紅が言った。


校門付近の修復が完了し、6人は部室へやって来たのだ。


「…こんな事なら、普通に授業受けてる方が楽だったなぁ…」


「ホント…公欠とは言っても、これじゃあねぇ…」


暖と沙織が、同時に長机に突っ伏した。


「あたしも疲れたよぉ…」


恋華も席に座り、背もたれに寄り掛かる。


「…でもこれで、停学は免れたわけだ…そうだな?」


「あぁ、これでもう心配無い」


正義と一真も席に着き、梨紅も一真の隣の席に腰掛けた。


「…ふぅ…」


全員が同時に、一息着いた所で、一真が言った。


「…いや、違うから!」


「何がぁ~?」


すっかりだらけた暖が、一真に聞いた。


「なんで部室に来てんだよ!教室に帰れよ!」


「…あ、そう言えば今、授業中だっけ…」


「でも、今更よねぇ…1限目終わって、田丸先生に報告してからで良いんじゃない?」


「「賛成ぇ~!」」


暖と恋華が拳を突き上げ、ガッツポーズを取りながら言った。


「…ま、いっか…今のうちに日誌書いとこうかな…」


1限目をサボる事に決め、一真は本棚に日誌を取りに行く。


「たまにはさぁ、梨紅とか暖も日誌書けよ?」


「嫌よ、ダルいもん」


「てめぇが言い出した事だろうが!!」


なんだかんだと怒りながらも、席に戻って日誌を書く一真。


「ったく…えっと?6月13日…水曜日。重野が破壊した校門を、みんなで直した…」


「…ちょっと待ってよ!校門は壊してないし、カズ君だって共犯じゃない!」


「しかし、重野に反省の色は無し…オレに罪を擦り付けようとする始末…」


「カズ君!!」


「冗談だって…」


冗談と言いながら、しっかりと日誌に書いている一真。


「それから…あ、そうそうお前達…本日を持って、ここは正式にMBSF研究会になったから…」


「…」


一真の一言に、全員が固まってしまった。


「…はぁ!?」


驚きを声に出したのは、暖だけだった。


「オレも驚いた…今朝、田丸さんに言われたんだけどさ…」


「いや、てか…」


「…いつの間に申請したの?」


「「そこ!」」


沙織の言葉に、一真と暖は同時に反応した。


そして一真は、『当然!』と言わんばかりに胸を張り、隣に座っている梨紅に言った。


「お前、いつの間に申請したんだよ?」


「え?入部と同時に、田丸先生経由で生徒会に…」


「行動速ぇなオイ!」


「申請してから1ヶ月…随分とかかったわよねぇ…ちゃんと働いてんの?生徒会!」


「知るか!こんな申請が通っただけでも奇跡だと思え!」


「…ふふ…」


一真のツッコミに、梨紅は不敵に笑ってみせる。


「久城君…『奇跡』って物はね?自分で起こす物なのだよ!」


その言葉と、不敵な笑みに…梨紅を除く5人の顔が、青ざめた。意を決して、一真が言った。


「お前!生徒会にいったい何をした!」


それに梨紅は…


「アハハ!やだもぉ、冗談に決まってるでしょ?」


笑った。そして、続けてこんな事を言った。


「確かに色々やったけど、それはみんなも一緒にやったじゃない?」


「…え?」


全員が、声を揃えた。


「動物園でボランティアでしょ?球技大会で、一真達が暴れたでしょ?一昨日は空を飛んだりしながら鬼ごっこ…今日は…」


「…待った。確かに色々やってる…思い出すと、本当に色々やってるなぁ…って、しみじみ思う…でも、それが名称変更と何の関係が?」


一真の疑問に、梨紅は笑顔で答えた。


「いやぁ、あまりにも申請通過の報告が無いから、昨日ちょっと生徒会に乗り込んだの」


「…何してんだお前」


「それで、『早くしないと大変な事になっちゃうよ?』って、一言だけ言って、帰った」


「…」


「で、昨日のそれで今日のこれ…ってわけ♪OK?」


「OKなわけあるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


一真が叫んだ。


「脅してんじゃねぇか!恐喝だ恐喝!」


「失敬な!お金なんて取ってないよ!」


「今城…それは『カツアゲ』だぞ」


「とにかく!放課後、生徒会に謝りに行くから…」


「行ってらっしゃ~い」


「お前がメインだろうがこのスカタン!!…はぁ…はぁ…はぁ…」


ツッコミのし過ぎで、流石の一真にも疲れが見えて来た…


そこへ、タイミング良く1限目の終了を告げるチャイムが鳴り響く…6人は、それぞれの教室へ帰って行った。



「この度は…本ッッ当に、申し訳ありませんでした!!!!」


「…ごめんなさい」


放課後の生徒会室には、深々と頭を下げる一真と、一真に無理矢理頭を下げさせられている梨紅の姿があった。


「いえいえ、頭を上げてください久城君」


一真にそう言うのは、現、生徒会会長…水無月 (みなづきめぐみ)である。


一真は言われた通りに顔を上げ、梨紅を解放した。


「確かに昨日、生徒会の1年生が今城さんに脅されたって言ってたけど…今回の名称変更は、それとは何も関係無いのよ?」


「なんだぁ、謝りに来て損したね?一真」


「や~かましいわ!"エアロ"」


「痛っ!」


むくれる梨紅の後頭部に、風の弾を当てる一真。


「ご説明しましょうか?名称変更の理由」


会長が一真に言った。しかし…


「そうですね、是非お願いしたいのですが…その前に、会長さんの隣に座っていらっしゃる眼鏡の御方に一言だけよろしいでしょうか?」


「どうぞ?」


会長から許可をいただき、一真は言った。


「…オイ、正義…お前はそこで、いったい何をしているのかな!」


会長の隣に座っていたのは、紛れも無く正義だった。


「?資料の整理だ」


「…質問が悪かった…なら、『なんでお前がここにいるのか』を教えてくれ」


「オレが生徒会の人間だからだ」


「「はぁ!?」」


一真と梨紅は、同時に叫んだ。






動物園でボランティアをした4人の功績は、園長が自ら学校へ連絡を入れた事で、学校側に伝わっていた。


さらに、球技大会での騒動…あれに関しては、正義の口から直接、会長に真実が伝えられていた。


ここまでで+2だ。更に、あの『鬼ごっこ』の件で-1…今朝の校門付近での騒動が-1…




「±0…でも、仮補修とはいえ自分達で直したから、おまけで+1」


「その+1を使って、名称変更を行ったわけだ」


「…でも、昨日の梨紅の恐喝で-1じゃね?」


「ギクッ…」


梨紅の額に冷や汗が浮かぶが…


「久城君が謝りに来たから+1♪」


随分と寛大である。


「…とにかく、ありがとうございました」


「ありがとうございました!」


再び頭を下げる2人…今回は、梨紅も自分から頭を下げた。


「これからも、世のため人のため…学校のため、頑張って下さいね?」


「…いや、オレ達別に慈善団体とかじゃないんで…」


キッチリ否定する一真。


「でも結果的に、慈善活動もやってるよね?」


「偶然です」


「…私は、必然だと思うよ?」


会長は、意味深にそう言った。


「…それって、オレ達が慈善活動をする事に、何か意味があるって事ですか?」


「そう…良いことをすれば、もっと良いことが起こるかもしれないしね♪」


「…そうかな…」


一真は少し考えて…でも何も浮かばず、考えるのをやめた。


「…ちなみに正義?」


「なんだ?」


「お前、部活に生徒会に、そんなに多忙で大丈夫なわけ?」


一真の問いに、正義は余裕の表情で答えた。


「問題無い。どちらもメリットがあるからな」


「メリット?」


「あぁ…部活の方は、自宅での勉強時間削減と息抜き」


「いや、息抜きになるかは正直微妙だろ…」


一真は苦笑する。


「そして、生徒会…ここは、情報収集の場として非常に役立っている」


「…情報って言っても、学校内のみだろ?」


一真の言葉に、正義は淡々と答えた。


「いや…全世界のあらゆる情報を…だ」


「…は?」


正義の、信じられない説明が始まる。


「…水無月会長は、ハッカーだ」


「待て待て待て待て!」


開始5秒で、一真からストップがかかった。


「…なんだ?」


「なんだじゃねぇよバカ!無理があるにも程があらぁ!!」


「一真…お前の言いたい事はよくわかる。確かに会長は、成績優秀、容姿端麗、人望も厚く、癒し系と名高い…だが、事実だ。彼女はハッカーだ」


この時点で、一真はもう諦め半分だった。


「…会長がどんだけ名高いかは知らないけどさぁ…ハッカーならお前…捕まえろよ…」


「彼女は証拠を残さない。だからこそ、情報に信頼が…」


「もう良い、わかった」


一真は正義の言葉を遮る。あまりの有り得なさに、完全に無気力モードに入ってしまったようだ。


「…会長さん。どんな情報でも手に入るんですか?」


「えぇ、大半は…」


「なら、うちの父さんが今、どこにいるかわかりますか?」


「久城君のお父様…久城真人さんね?」


会長はパソコンを数回クリックする。


「…3日前からバチカン市国にいるわね…」


「はい、結構です。信じます、間違い無くあなたはハッカーです」


一真は両手を上げ、降参のポーズを取る。


「では、オレ達はこれで失礼します」


「え?ちょっと、一真?」


一真は梨紅の手を引き、生徒会室から出ていった。




「…怒らせちゃったかな?」


会長は、隣に座る正義に聞いた。


「いえ、怒ってはいないかと…彼も疲れが蓄積している…そんな所でしょう」


「…精神的な物…か…」


会長は自分の手の平を見つめ、言った。


「…私は、パソコンを通じて行ける所へなら、何処へでも入って行ける…どんな情報でも、手に入る…」


「…」


「でも…どんなに凄腕のハッカーでも…人の心へは侵入できない…人の心を癒す事は…ウィルスをワクチンで消すみたいに、簡単じゃない…」


「…オレはハッカーじゃありませんけど…多分、オレにもできません」


「桜田君…」


「人には"向き不向き"があります。全てを1人でする必要は無いですよ」


正義は、手元の資料を振り分けながら言った。


「…ありがと、桜田君」


「いえ…」


…その後、正義が資料を捲る音と、会長がマウスをクリックする音が、生徒会室を支配した…






「…」


MBSF研究会の部室も、生徒会室と同様に、静かな物だった。


「…一真?」


「…」


「…久城君?」


「…」


「…カズ君?」


「…」


誰が名前を呼んでも、一真は机に突っ伏したまま、動かないのだ。


「…今城、どうなってんだ?」


痺れを切らした暖が、梨紅に言った。


「え?何が?」


「何がって…一真」


「あぁ、これ?これはね、"無気力モード"だよ」


「…は?」


説明しよう。


一真には、いくつかのモードがある。


その1つが、


"無気力モード"


何かがきっかけになり、一真が全てのやる気を無くしてしまうモードである。


考える事を止め、精神の回復に努めているのだ。


「つまり、疲れた精神を癒してるのよ」


「へぇ…なんかロボットみたいだな。…んにしてもこいつ、なんでそんなに疲れてるんだろうな?」


「さぁ…それは私にも…」


「う~ん…」


「う~ん…」


「…十中八九、私達のせいだと思うけどね?」


「う~ん…」


「う~ん…」


沙織が言うが、聞こえない振りをする2人。


「…"無気力モード"ってのは、どのくらい続く物なんだ?」


「ん~…明日には治ってると思うよ?」


「そっか…ちなみに、他にどんなモードが?」


「えっと…"リーダーモード"とか…」


「すまない、遅れた」


梨紅の説明が始まる前に、正義が入って来た。


「あれ?生徒会の仕事は良いの?」


「仕事と言っても、資料の整理だけだからな…慣れているから問題ない」


「…え?正義って…」


「生徒会の役員なんだ…」


暖も沙織も、そんなに驚いてはいないようだ。これも、この部での日々の生活の賜物だろう。


「全員揃ったけど…今日は何しようか?」


「梨紅ちゃん達、宿題は?」


「今日は無いの。恋華ちゃん達は?」


「こっちも無いよ」


「…どうしよっか?」


「…」


沈黙する部室…


「…SF研らしく、SFでも研究したらどうだ?」


沈黙を破ったのは、正義だった。


「SF…例えば?」


「例えば…魔法の研究とか…」


「一真が無気力モードだから無理ね…」


「じゃあさ、じゃあさ?みんなの能力で、何が出来るかを検証するとかは?」


「あ、良いかも…じゃ、今日はそれにしようか!」


恋華の案に決定したようだ。本日の部活は、部員の能力検証である。


「…じゃ、暖君は日誌書いてね?」


「えぇ!?オレも参加してぇよぉ!」


「?もちろん、参加はしてもらうよ?ただ、一真の代わりに日誌書いてほしいだけ」


「あ、なるほど…なら仕方ないな」


参加できるなら文句は無いらしい。


「ん~…じゃあまずは、恋華ちゃんからね?」


「あたし?あたしの能力は、『重力を自在に操る力』だよ」


「重力かぁ…」


「じゃあ、この教室を無重力にしたりも出来るの?」


「できるよ?"重変"0!」


恋華がそう言うと同時に、部室内の物が全て、宙に浮かび上がった。


「おぉ!すっげぇ…」


ふわふわと漂いながら、歓声を上げる暖。


「凄いねぇ…まさにSFって感じ」


「…」


暖と同様に、無重力を楽しむ沙織。その横を、無気力モードの一真が通り過ぎて行く。


「うわ!スカート捲れちゃう…じゃあ恋華ちゃん、重力の向きを変えたりも出来るの?」


スカートを押さえながら、梨紅が言った。


「重力の向き?…こうかな?"重変"重力作用方向変更、50」


「「うぉわ!」」


恋華がそう言うと同時に、一真、暖、正義の3人が、廊下側の壁に頭から突っ込んだ。


「「「きゃあ!」」」


「「ぐぇ!」」


その3人の上に、女子3人が落下する。


「…方向の確認とか、ちゃんとやれよ…」


「ごめん…まー君大丈夫?」


「鼻がいてぇ…」


「暖君ごめんね?」


「…」


「…一真、生きてる?」


「…」


…返事が無い、ただの屍のようだ。



「…ん…」


目を醒ますと、一真は部室に横たわっていた。


「…?」


ポケットから携帯を取り出し、時間を見れば午後6時…まだ日は高いが、帰宅するには十分な時間である。


「…」


未だ、半分は無気力モードのため、非常にダルそうに、一真は起き上がり…


「…なぁ!?」


部室内の惨状を見て、驚愕の表情を浮かべた。


物は倒れ、雑貨は散らばり、凄まじい散らかりようだ。


「…あ、起きた?」


梨紅が一真に言うと同時に、暖達4人が一真に視線を向けた。


「…起きた?じゃねぇよ…何したんだお前ら…」


「そんな事よりさ!ちょっと相手になってよ♪」


一真の疑問を受け流し、梨紅は笑顔で言った。


「…相手?」


「そう、模擬戦の相手…まずは恋華ちゃんからね?」


状況を理解出来ていない一真に、何の説明もせず、梨紅はどんどん話を進めて行く。


「…は?」


「カズ君、手加減は要らないよ♪」


立ち尽くす一真とは裏腹に、恋華は身構えている。


「…へ?」


「それじゃあ…始め!」


始まってしまった…


梨紅の合図と同時に、一真に向かって駆け出す恋華。


「"グラビテス"!」


恋華の右手に、大きなハンマーが現れた。


「…え゛…」


「"アンチ・グラビティ・インパクト"!」


一真を、ハンマーで横になぎはらおうとする恋華。


「えぇ!ぷ、"プロテクション"!」


守護の魔法で直撃を防いだ一真だが…


「…え?」


気付けば窓ガラスを突き破り、一真は魔法陣ごと吹き飛ばされていた。


「いでぇ…"ソアー・フェザー"」


飛翔魔法で態勢を立て直す一真に、恋華の追撃が迫る。


「"重波"!」


小さな黒い球体が、一真に向かって飛んで行く。


「…なんなんだよ…」


泣きそうな一真は、守護の魔法陣でそれを防いだ。


「…うぉ…」


球体が当たった瞬間、魔法陣が勢いよく地上に落下して行った。


「…」


「"重波"!」


唖然とする一真に、黒い球体が迫る。


「"エアロ"!」


一真は、黒い球体に風の弾をぶつけ、相殺させた。しかし…ハンマーを構えた恋華本人が、一真に突っ込んで来ていた。


「"アンチ・グラビティ・イン…"」


「"ウォーティ"!」


恋華の一撃が一真に届く前に、一真は、魔法陣を使わずに水魔法を放った。


「きゃぁぁぁぁ!!!!!」


激流が直撃し、恋華は部室まで吹き飛んだ。


「あたたたた…カズ君強いや…」


「うわ!大丈夫か重野!?」


窓枠に着地し、一真は言った。


「大丈夫だよぉ、でも降参…」


恋華はヒラヒラと手を振り、笑顔を見せる。


「休んでる暇は無いわよ?次は沙織!」


「久城君、御手柔らかにね?」


梨紅に言われ、沙織が苦笑しながら身構えた。


「…まだ続くの?」


「始め!」


一真を無視し、梨紅は開始を告げた。


「"ファントム・サイズ"!」


沙織は大鎌を出し、一真に斬りかかる。


「うわ!」


一真は空に逃げ、それをかわした。


「"ブラッド・フィン"!」


沙織がそう言うと、窓から跳んだ沙織の背中に、漆黒の羽が生えたではないか。


「はぁぁぁ!?」


驚愕する一真…それもそのはず、沙織の羽は、前に戦った魔族…ピエールの物と酷似していたのだ。


「"サイズ・スラッシュ"×13!」


沙織の振り回す大鎌から、複数の真紅の刃が放たれた。


「"プロテクション"!」


一真はそれを、守護の魔法陣で防ぐ…が、数が多く、その場から動けない。


その隙に、沙織が一真の背後に迫る。


「"エアロ"×10!」


牽制のため、一真は沙織に風の弾を放った。しかし…


「…」


沙織は難無くそれを避けて見せる。


「速!?」


そのスピードに、一真は驚きを隠せない。


ようやく真紅の刃から解放された一真は、空高く舞い上がった。


沙織もそれに付いて行く。


屋上付近で上昇を止めた一真は、沙織に振り向いた。


「やぁぁ!」


沙織は、一真に向かって大鎌を振り抜いた。


「"プロテクション"!」


一真はそれを、守護の魔法陣で受けた。


魔法陣に、大鎌の切っ先が突き刺さる。


「げ…」


「はぁ!」


耐える一真、魔法陣を破壊しようとする沙織…


「…"フォーカシング…」


「?」


一真が魔法を唱え始めた。しかし、それらしき魔法陣は見当たらない。


「…シュート"!!」


「?…かはぅ!!」


直後…沙織の背中に、巨大な球体が命中した。


羽が無くなり、落下していく沙織。


「ヤバッ!」


一真は急降下し、落下する沙織の腕を、部室のある階で掴まえた。


「危な!羽出せよ!」


「…久城君?最後のって…」


「ん…あれ?あれは、山中が避けたエアロを集束させた物だよ」


「…慣れてるのね…私も降参するわ」


そう言って、沙織は部室に入って行った。





「むぅ…沙織も敵わないかぁ…なら次は正義君が…」


「待て!」


このまま続けようとする梨紅を、一真は止めた。


「いい加減、説明ぐらいしたらどうだ!」


「…今日の部活、みんなの能力を検証する事になったの」


一真に言われ、梨紅はしぶしぶ説明を始めた。


「最初は、部室を無重力にしてみたり、風の力で物を持ち上げたりして遊んでたのよ?」


「それをどうすりゃ戦闘の訓練になんだよ…」


「だって、私と沙織の力じゃ遊べないんだもん…だから、私が魔物と戦う時に役立てようと思って…」


「…なるほど」


一度は納得する一真だが、直ぐに首を横に振った。


「でも、梨紅以外の…重野と山中が参加するのはおかしいだろ?」


「…あのさ?なんで沙織が『半魔』になっちゃったのか、覚えてる?」


沙織が半魔になった理由…下校途中に、魔族に襲われたのが原因だ。


「覚えてるけど…」


「また、あの時みたいに襲われる事…絶対に無いって言えるの?」


「言えないけど…」


「『けど』何よ?」


「…オレで実戦する理由が無いだろ?」


正論である。だが梨紅は…


「一真がこの中で1番強いからに決まってるじゃない」


そんな事、知ったこっちゃない…と、切り捨てる。


「さ、続けるわよ?次は正義君!」


「…お前もか、正義…」


「…すまん」


「始め!」


梨紅の口から、開始が告げられた。


「"風撃"」


正義の右手から、風の弾が放たれた。


「"エアロ"!」


一真も風の弾を放ち、相殺を狙う。が、正義の弾の方が強力だったようだ。


一真の弾は、軽い破裂音と共に消え去った。


「げ…」


一真は咄嗟に弾をかわし、空へ逃げた。


しかし、正義の弾は一真を追って来る。


「"フレイム・クロス"」


一真は、炎の剣で風の弾を迎え撃つ…しかし、剣が弾に触れた瞬間、弾は勢いよく燃え上がり、消えてしまった。


「…なんだ?今の…」


「"風撃乱舞"」


一真が炎の剣を眺めていると、凄まじい数の風の弾を、正義が放って来た。


風の弾は、一真を取り囲むように拡がり、一真の逃げ場を無くしまった。


「…"無限"!」


正義の言葉と同時に、全ての弾が、いっせいに一真に向かって飛んで行った。


「…"フレイム・クロス・キャンセル"…"レイジング・ファイア"!」


炎の剣が消えて、一真の右手から巨大な火の玉が現れた。


直径20mはあろう火の玉…それに触れた正義の風の弾の一部が、消える。


「はぁぁぁぁ!!!」


さらに一真は、その火の玉に右手で掴み、振り回し始めたのだ。


上へ下へ、右へ左へ…全ての弾を消した後、火の玉も姿を消した。


「…まだやるか?」


「…降参だ」


部室の窓から、一真に向かって両手を上げて見せる正義。


一真は部室へ降りて行った。


「…お前には、敵う気がしないな…」


「いやいや、もっと威力があれば、相手の炎ごと捲き込んで…それより、今回の騒動だけど…」


「わかってるさ。会長には、上手く言っておく」


「助かるよ…マジで」


苦笑する一真と正義…そんな中、梨紅は異様な程ご機嫌だった。


「まったく、みんなだらしないわねぇ♪仕方ない…真打ち登場よ!」


「…暖は?」


「暖君は日誌係…でも、色々と考えてくれたのよ?」


「…書くことが多すぎて、腱鞘炎になりそうだぜ…」


長机に向かって、日誌を書いている暖が、一真に向かって右手をぷらぷらさせて見せる。


「お疲れ…てか梨紅、お前は華颶夜がなきゃ始まらないだろ?」


顔をしかめる一真に、梨紅は何故か満足そうにニンマリ笑う。


「華颶夜ならあるわよ?」


「…どこに?」


「ここよ…"ポケット"」


梨紅がそう言うと、梨紅の指先に帯状の魔法陣が現れ、その中から…退魔刀、華颶夜が出てきた。


「凄いでしょ?これで、いつでも戦えるよ」


「…ちょっとこれは…マジで驚いたかも」


そもそも退魔士である梨紅が、魔法を有効活用している時点で可笑しな話な訳だが…


「お前、"異空間魔法"なんてどうやって知ったわけ?」




異空間魔法…


例えるなら、某国民的青ダヌキ風ネコ型ロボットの持っているポケットのように、色々な物が収納できる空間を作り、自由に出し入れ出来るようにする魔法等が、それに当たる。




「アハハ…実はこの前、一真のお父さんの部屋にあった本を…ちょっとね?」


「なるほど…んにしても、梨紅が魔法を使ってんのを親父さんが知ったら…」


「大丈夫だよ、お父さんには秘密だもん」


「絶対バレるから…」


一真は苦笑する。


「…じゃ、やろうか?」


梨紅は鞘から華颶夜を抜き、構えた。


「…退魔刀なんて使われたら、勝てる気がしねぇよ…魔法効かねぇじゃん」


一真は、顔をひきつらせながら苦笑した。



だが一真は冷静だった…一真は、梨紅の弱点を知っているのだ。


一真に出来て、梨紅に出来ない事がある。


それは…


(長時間の飛行…)


一真の血を摂取したとはいえ、大した魔法は使えない…飛行魔法を使ったとしても、自分の体を少し浮かせるので精一杯のはずだ。


「…」


「…」


身構える一真と梨紅…流石の一真も、4回目ともなれば身構えざるを得ない。


「…」


「…」


合図を待つ2人…しかし、一向に合図は無い。


「…誰か、始めって言えよ…」


「「「「あ…」」」」


どうやら、忘れていたようだ。


「それじゃあ…始め!」


沙織の合図で、一真と梨紅の戦いが始まった。


「"白の三日月"!」


開始と同時に、梨紅は白の三日月を放った。


「"プロテクション"!」


守護の魔法陣で、それをギリギリ防いだ一真。…しかし、


「せやぁ!」


守護の魔法陣を、梨紅は直接華颶夜で一刀両断した。


魔法陣の魔力を吸収する華颶夜を見て、一真は顔をしかめ、窓から飛び出した。


「"ソアー・フェザー"」


飛翔魔法で飛ぶ一真…もちろん一真は、梨紅がここまで来れないと思っている。しかし、


「…行くよ、華颶夜…」


そう言って、梨紅は華颶夜に股がった。もちろん華颶夜は刃物なので、腰を浮かしてはいる。


「…魔女の宅○便か…」


思わずそう言った一真だが…その言葉は、当たらずとも遠からずだった。


「…"飛行術"!…ぎゃ!」


…訂正しよう、一真の言葉は何一つ当たってなどいなかった…むしろ、遠すぎるぐらいだ。


華颶夜の刃先から、退魔力が吹き出したのだ。それも、ロケットのブースター並の勢いで…だ。


「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」


悲鳴だか歓声だかわからない叫び声をあげる梨紅…


「…まぁ、悲鳴だろうなぁ…多分…」


そう言って、自分に真っ直ぐ突っ込んで来る梨紅を、一真は難無くかわした。


「…梨紅ぅ!楽しそうだねぇ!」


一真が梨紅をからかう。


「うるさぁぁぁい!!」


律儀に返事をする梨紅は、華颶夜の向きを変え、進む方向を変えようとし始めた。


なんとか成功したらしく、弧を描きながら一真に向かって飛んで行く梨紅。


「頑張ってんなぁ…」


余裕の一真だが、それもつかの間…


「…」


一真に直進する梨紅は、華颶夜からの退魔力の噴出を止めた。


しかし勢いは収まらず、梨紅は一真に向かって飛んで行く。


「はぁぁぁぁ!!」


梨紅は一真を華颶夜で斬りつけた。


そのスピードに反応が遅れ、一真はYシャツを斬られてしまった。


梨紅は再び華颶夜に股がり、空を飛び始めた。


「…怖ッ…」


斬られた胸元のYシャツを見て、顔を青くする一真。


「す…凄いでしょ!これ、暖君が…かん、か…考えてくれたの!」


必死に華颶夜と格闘しながら、梨紅は言った。


「…凄いけど、必死すぎだし…そもそも、暖が考えた技をそのまま使うなんてお前…正気とは思えないぞ?」


「…確かに」


梨紅はゆっくりと地上に降り立った。


「…早く降りて来なさいよ!」


梨紅は一真に怒鳴った。


「嫌だし…降りたら不利じゃん」


「…だったら良いよ、まだ奥の手あるもん」


そう言って、梨紅は華颶夜の刃先を一真に向けた。


すると、華颶夜の刃に白い光が集まり始めたではないか。


「…」


その光景を、一真はただ黙って見つめていた。


「発射準備…完了!」


すっかり日も落ちた校庭が、華颶夜の放つ凄まじい輝きに照らされている。


輝きの正体は、華颶夜に集められた梨紅の退魔力だ。それに勘づいた一真は、梨紅に言った。


「…お前、まさか1人で『あれ』を使うつもり?」


一真の言う『あれ』とは、豊の寺で使用した、本来の名称不明の大技である。


「うん…威力はかなり落ちると思うけどね…行くよ?」


「…下手すりゃ死ぬぞ?オレ…」


冷や汗を流す一真に、しっかりと華颶夜の刃先を向け、狙いを定める梨紅。


「行くよ!退魔流砲術…"破魔の月明かり"!」


華颶夜から、勢い良く純白の光が放たれた。


「"プロテクション"×5!」


一真はそれを、守護の魔法陣5つで防ごうとするが…


「…やっぱ駄目か!」


光は難無く魔法陣を貫通し、一真に向かって来る。


一真は咄嗟に左へ飛び、砲撃から逃れた。


今の一真は非常に無防備であり、梨紅からの追撃があれば、間違いなく直撃だ。


…しかし、梨紅からの追撃は無かった。


「?……!!」


不思議に思った一真が地上の梨紅を見る…


「…あのバカ…」


梨紅は、その場に倒れていた。おそらく、力の使いすぎによる気絶だ。


一真は梨紅に向かって飛び、梨紅の脇に着地した。




「…おい、梨紅、梨紅?」


「…ん…」


一真に呼ばれ、梨紅は目を醒ました。


「…ここは…」


「部室だよ…この時間、保健室閉まってっから」


梨紅が上体を起こすと、確かに部室だった。


先程まで、雑貨や棚が転がっていた部室…今は綺麗に片付いている。おそらく、一真が魔法で片付けたのだろう。


その部室の長机の上に、梨紅は横たわっていたのだ。


「…変な事、してないでしょうね?」


「はったおすぞ…」


「冗談だって…」


そう言って、梨紅は長机から降りる…が、


「…あれ?」


そのまま、床に座り込んでしまった。


「…何してんの?」


「力が入らないの…」


「まぁ、あれだけ退魔力放出すりゃあなぁ…」


華颶夜を使った飛行術に、退魔力の砲撃…今の梨紅の退魔力は、0に等しいのだ。


「…一真、おんぶ」


「マジで言ってんの!?」


「…その前に、みんなは?」


梨紅が言った。確かに、部室には一真と梨紅しかいない。


「先に帰らせた。携帯で時間見てみ?」


「…げ…」


20時14分…携帯の時刻表示は、そうなっていた。


「ほら、オレ達も帰るぞ?」


「だから、立てないんだってば…」


「…しょうがねぇなぁ」


そう言って、一真は梨紅を背負った。


「ありがと」


「お?珍しいな、素直にお礼言うなんて」


「ん…流石に今日は、一真を酷使し過ぎたからね…」


「酷使って…物じゃねぇぞ?」




一真は部室の鍵を締め、梨紅を背負ったまま学校を出た。








「…夜だね」


帰り道…梨紅は一真に言った。


「あぁ…模擬戦なんてやってたからな…」


「…私、強かった?」


「…まぁ、オレまでまともに攻撃が届いたのは、梨紅だけだったからな…」


「…これ?」


梨紅は、一真のYシャツの切れ目を指でなぞった。


「うっ!」


「あ、ごめん…痛かった?」


「いや、くすぐったかっただけ…」


「なによ、紛らわしいわねぇ…」


梨紅は手を引っ込めた。


「ハハ…あ、ちなみにこのYシャツお前が縫えよ?」


「えぇ~…新しいの買いなよ」


「いいんだよ、梨紅の成長の記録だから」


「何よそれ!バカにしてるでしょ?」


梨紅は一真の首に腕を巻き付けて締めつけた。


「違うって…苦しい!苦しいから!」


「…まぁ、縫うぐらいならやってあげるけどさ…」


そう言って、梨紅は腕の締め付けを緩めた。


「…でもね?模擬戦で奥の手、全部出せなかったのよ?」


「まだあんのかよ…」


呆れると同時に、驚く一真。


「まぁ、全部魔法だけどね?」


「…ちょっと気になってたんだけどさ?」


梨紅の言葉を聞いて、一真が言った。


「ん?」


「梨紅が最初に使った『異空間魔法』あるじゃん?あれって、結構魔力使う魔法なんだよね…」


「そう?一度『異空間』を作っちゃえば、物の出し入れにはほとんど魔力使わないよ?」


「だからその『作る』段階で使った魔力だよ…オレの血を飲んだだけで、そんなに大量の魔力が?」


「あぁ、違うよ…私の『退魔力』を『魔力』に『変換』して使ったの」


「…ちょっと待て?お前今、サラッと凄い事言ったぞ?」


退魔力を魔力に変換…そんな事が出来るなんて、一真は夢にも思っていなかった。


「んな事出来るわけ?退魔士って…」


「いやぁ…試しにやってみたら出来ただけだから、わかんないよ…一真もやってみたら?」


「やり方知らんから…」


「教えてあげるよ♪」


梨紅の、退魔力変換講座が始まった。


「イメージは、体内の魔力を体内の退魔力で包み込む感じだよ」


「退魔力で魔力を…」




包み込む




「あ!一真、退魔力増えたよ!」


「え、マジで?てか梨紅…そんなの判るの?」


「そりゃあ、これだけくっついてればね」


この瞬間…一真は、魔力を退魔力に変換する能力を習得した。


「…お前って、凄いな…」


「え?何が?」


「いや…魔力を退魔力に変えるのは、退魔士として当然だけどさ…逆転の発想って言うの?よく思いつくなぁ…って」


「ふっふっふ…私もこう見えて、色々考えているのだよ?久城君!」


得意気に言う梨紅に、一真は言った。


「…勉強に関しても、そのぐらい考えたら?」


「…」


途端に無言になる梨紅。


「…一真ってさ…たまに酷いよね…」


「…そうか?」






…漆黒の夜空に浮かぶは、満月に限りなく近い月…




ある者は爪を研ぎ、




ある者は完全に忘れている…




約束の日まで、あと2日だという事を…




そして、世間は知らない。




次の満月の夜…




2人の怪盗が、




夜空を、舞い踊る事を…



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