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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第三章 怪盗と絆 前編
19/66

2.彼らは告白する。


6月12日、火曜日…


今日の一真は、寝不足では無かった。例の本を暗記するのなら、当然徹夜になる…一真自身、そう思っていたのだが…


「"時魔法"、"錬金術"、"不老不死"、"即死魔法"…上巻に書かれていたのはこの4つ…ご丁寧に魔法陣付きで載ってたよ。」


一真は、昨日と同じように自席に横向きに座り、同じく、昨日と同じように一真と向かい合って座る梨紅に言った。


「"即死魔法"以外の3つは、大量の魔力が必要だから、不可能な魔法になってた…"即死魔法"は、上巻で唯一の禁じられた魔法だった。」


「"即死魔法"…一真は使わないよね?」


「誰に使うんだよ…」


「おはよーさん!」


暖がやって来た。昨日と同様に、朝からテンションが高い。


「…暖君とか?」


「使うかぁ!お前っ…恐ろしい奴だなぁオイ…」


「冗談よ冗談!」


「何の話だ?」


暖が、不思議そうな顔で2人を見つめる。そこへ…


「おはよう。」


沙織もやって来た。


「おはよう沙織、暖君もね。」


「2人とも、昨日は夜遅くまで悪かったな…探し物、手伝わせちゃって。」


「気にすんなよ、一真は悪くない。」


「そうだよ、私達は『梨紅』に『強制的』に『やらされた』だけだから、久城君は悪くないよ?」


「ちょっと、私が悪いって言われてる気がするわよ?」


「「気がするじゃねぇよ、間違い無くそう言ってんだよ!」」


一真と暖が同時に言った。それに対して梨紅は…


「私のせい!?一真が下巻を見つけられなかったのが悪いんじゃない!」


無自覚の上に逆ギレ…そこへ、彼が今日もやって来た。


「…ちょっと良いか?」


「おぉ、おはよう正義。」


「ちょっと聞いてよ正義君!昨日、みんなの帰りが遅れたの、私のせいだってみんなが…」


「?正論だろ…」


「…」


正義に言われ、梨紅は完全に沈黙した。


「正義、今日は重野と一緒じゃないのか?」


「あぁ…まぁ、今日も恋華は怒ってるんだが…」


正義は一真に、可愛い封筒に入った手紙を差し出した。


「?何だ?」


「恋華曰く、これを一真に届けたら、許してくれるそうだ。」


「?」


一真は封筒を開き、手紙を読み始めた。




カズ君へ


昨日は迷惑かけてごめんなさい。


みんなにも放課後、部室で謝ろうと思っています。


でも、本題は謝罪ではありません。カズ君は昨日、あたしが困ってたら助けてくれると言いましたよね?


今、あたしは…


すっっっっっっっっごく!!!!!!!!!!!


困っています、助けて下さい♪


放課後、2人きりでお話したい事があります。部活が終わったら、屋上に来て下さい。


あ、この事はみんなには内緒にしてもらえると嬉しいです♪


ではまた部室で!




「内緒って…もろ、音読しちゃいましたけど…」


梨紅に沙織、暖、そして正義にまで、手紙の内容は知れ渡ってしまった。


「…普通、内緒にしてほしいなら…1番最初に書かないか?内緒にしてくれって…」


暖にしてはまともな意見だ。


「…一真、どうする気だ?」


「行くしか無いだろ…行かなかったら昨日の正義の二の舞だろうし…」


「…恋華ちゃん、何の話かな?」


「…愛の告白とか?」


沙織の一言に、4人は一瞬沈黙した…が、


「「「「ないないない…」」」」


同時に否定した。


「それだけは考えられないな…」


「正義一筋って感じだしな…」


「例え捨てられても、想い続けるタイプよね…」


「良く言えば一途よね…」


「…酷い言われような気がするが…」


正義が顔をひきつらせる。


「…とりあえず、オレ以外の4人は、手紙の内容を知らない事にしといてくれ…」


「そうだな…飛び火してほしくないしな。」


「保身第一だもの、もちろん知らない振りするわ。」


「お前ら…まぁ、良いけど…梨紅と正義も、それで良いか?」


「うん、良いよ。(後で、どんな話だったか聞き出さなきゃ…)」


「オレも大丈夫だ。…まぁ、何の話かは予想できるけどな…」


「よし、じゃあ皆よろしく…あ、梨紅?」


「何?(何かな…)」


「通話中」


「え゛…」


「「「?」」」


通話中の意味がわからない3人は、不思議そうな顔で、顔を赤くして苦笑いする梨紅を見つめていた。



--------------------------------------------------------------------------------


日が沈む…には、まだ1時間程ありそうだが、既に太陽はオレンジ色に輝いており、屋上をその色に染めている。


屋上の扉が開き、一真がやって来た。夕陽が眩しいのか、目を細める…やがてその眩しさに慣れ、夕陽を見つめる一真…


「…屋上で、夕陽を見ながらたそがれる高校生…かっこいいじゃん♪」


そんな一真を、恋華は笑顔で見ている。


夕陽に照らされた恋華も、一真から見ればこの上なく幻想的だった。


「…こんな所に呼び出して、愛の告白でもしてくれんの?」


「違うよ!そんなんじゃないの!」


真っ赤になって、全力で完全に否定する恋華に、一真は吹き出した。


「わかってる…それで?困ってるって…」


「…うん。ただ、その前に…カズ君には、言っておかなきゃいけない事があるの…」


そう言う恋華の頬は、夕陽のせいで赤く染まっていた…


「…なんか、告白される気分になってくるな…このシチュエーション…」


「…ある意味、告白だからね…」


「?」


「あたしの…あたしと、まー君の秘密…そして、あたしの…罪の告白。」


「…」


一真は、恋華の表情…笑っているような…でも泣いているようで…まるで、自らを嘲笑っているような表情を見て、これがいかに重要な話であるかを、悟った。






時を同じくして、1年C組の教室…


忘れ物をした梨紅が、1人で教室にいた。


目当ての物を見つけ、教室から出ようとドアへ向かうと…ドアが、独りでに開いた。


「…正義君?」


そこにいたのは、正義だった。


「今城…少し、話がある。」


「正義君が…私に?」


「あぁ…おそらく、恋華が一真にしているのと同じ話だ。」


「…どんな話?」


「…オレと恋華の秘密についてだ。」







恋華「カズ君は…」


正義「今城は…」


「「怪盗シャイン・アーク」」


恋華「って、知ってる?」


正義「を、知ってるか?」


「「…一応。」」




怪盗シャイン・アーク


最近、ちまたで話題になっている怪盗だ。


予告状を出し、その通りに現れ、盗む…そして、盗んだ物は1週間以内に警察に送られてくるという、目的がよくわからない泥棒である。




恋華「その怪盗シャイン・アークの正体…それが、あたし。そして…」


正義「怪盗シャイン・アークを追う警察…シャイン・アーク事件総指令官…それが、オレだ。」


一真「重野が…怪盗で…」


梨紅「正義君が…警察官…」


にわかには信じがたい話だ。


恋華「信じられないよね…あたしが泥棒で…」


正義「オレが警官なんて…」


「「…」」


あまりの事に、無言になる一真と梨紅…


恋華「…あたしとまー君の一族には、ある使命があるの…」


正義「それが…」


「「封魔の抹殺」」


「「封魔?」」


一真と梨紅は、その言葉を知らない…


恋華「封魔っていうのは、封印された魔物の事…」


正義「今城みたいな退魔士が倒す魔物…そいつらが絵画や陶器に封印されている事がある。」


恋華「その、封印されてる魔物が目覚める前に抹殺する事…それが」


正義「オレと恋華の一族の使命だ。」


「「…なるほど。」」


一真は腕を組みながら、梨紅は机に腰掛けながら数回頷いた。


恋華「信じてくれる?」


正義「信じてくれるか?」



一真達は即答した。


一真「よし、信じよう。」


梨紅「いや、ちょっとまだ…」


…即答はしたが、答えはそろわなかった。




「本当!?」


恋華は驚愕の表情で一真を見つめていた。


「…なんでそんなに驚くかな…」


「だって…絶対に信じてもらえないと思ってたから…」


もっともな考えだ。普通、こんな話をなんの証拠も無しに信じたりはしないだろう…


「…だって、本当なんだろ?」


「本当だけど…」


「ならいいじゃん。」


「…」


あっさりし過ぎて物足りない…これが恋華の正直な気持ちだった。


「…もっとこう…『証拠を見せてみろ!』とか、『そんなの嘘だ!』みたいなの、無い?」


「無ぇよ、刑事ドラマの見すぎだよお前…」


「つまんないのぉ…やっぱり、まー君じゃなきゃダメだなぁ…カズ君、ノリ悪いよ…」


「…ずっと真面目な話だったじゃん!どこから小芝居始めれば良かったってんだよ!?」


「『よし、信じよう』からだよ。じゃあせっかくだし、そこからもう1回やってみよう!」


「マジで言ってんの!?」


恋華プロデュース…怪盗の正体が友達だったと知った男と怪盗のやり取り…

"ノリ"という流れに身を任せた一真は、恋華に従うしか無かった…




「…まぁ、当然だろう…」


教室の正義には、特に驚きは無かった。


「何か、証拠ってある?」


「これは証拠になるか?」


梨紅に言われ、正義は通学カバンの中から手帳を取り出した。


「警察手帳だ。」


「…ちょっと、中見せて」


梨紅は正義から手帳を受け取り、中身を一通り確認する。


「…うん、本物みたいだね…」


「?今城は、警察手帳を見たことがあるのか?」


「うん、お父さんに退魔の依頼が来る時、直接頼みに来る人がいてね?ちょっと前に、見せてもらった事があるの。」


「なるほど…」


正義は納得して、警察手帳を鞄にしまった。






「じゃ、始めるよ?」


「…あぁ…」


恋華プロデュースの珍劇を、しばしお楽しみ下さい。


「…信じて…くれる?」


真面目な顔で、恋華は一真に言った。


「そんなの…信じられるわけないだろ!」


「信じて!」


昼ドラか!…と、どこかの芸人が、思わずツッコミを入れてしまうような雰囲気の中、一真は言った。


「なら、証拠を見せてみろよ…重野が怪盗だって証拠を!」


「…わかった、見せてあげる…」


恋華がそう言うと同時に、恋華の鞄から、漆黒のマントのような物が飛び出して来た。


「これが…本当のあたし…」


マントが恋華を包み込んだ直後…恋華が自ら、マントを剥ぎ取った。


「な…」


一真は驚いた。演技では無く、本心から…


マントを取った恋華は、忍者のような格好をしていた。


口元を隠すマスク、青いリボン…漆黒の装束に、青い蝶の刺繍が映える…


「…怪盗シャイン・アーク…」


「…」


無言で見つめ合う2人…


「…はい、カット♪」


「…ふぅ…」


恋華の合図と同時に、一真は深く息を吐き出した。


「…正直に言え、重野…お前、その姿になる所を見せたかっただけだろ?」


「えへへ♪バレちゃった?」


恋華は再びマントを纏う…マントを取ると、制服姿に戻っていた。


「あと、怪盗の姿になっても証拠にはならないぞ?」


「え!?どうして?」


「コスプレって可能性もあるじゃん」


「酷いよ!コスプレじゃないもん!」


恋華は頬を膨らませ、涙目になる。どうやら、本気で怒っているようだ。


「あ~…悪かったよ、ごめん…」


「…今度コスプレって言ったら、昨日のまー君の刑だからね…」


「…気をつけます」


一真は顔をひくつかせながら、そう答えた。


「…じゃあ、そろそろ本題に入るよ?」


恋華が言った。一真はそれに首をかしげる。


「…本題?」


「困ってるって、言ったでしょ?」


一真は思い出して、数回頷いた。


「あぁはいはい、そうだった…んで?何に困ってるって?」


「実はね、今度の金曜日…15日に、N博物館に盗みに行くって予告状を出したの。」


「N博物館…隣町か…それで?」


「盗むのは、1冊の魔導書…でも、その本は魔法で守られてて、あたしにはどうにも出来ないの…」


この時点で、一真には恋華の考えが全てわかっていた。


「…まさか…」


「お願いカズ君…あたしと一緒に、怪盗をやって下さい!」


「…やっぱり…」




「えぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」


一真の代わりに、梨紅が驚いた。


「間違い無く、恋華の話はこれだ。」


「一真を共犯者に…犯罪に加担させようとしてるの?恋華ちゃん…」


「しかも、確実に一真はその話に乗る…」


「そんな事…一真だって、泥棒が悪いことだってわかってるはずだよ?」


「…だが、恋華が予告を出した本はおそらく…一真が今、最も欲しい本だから…」




「…流石にそれは…犯罪だろ?一応…」


「捕まらなきゃ大丈夫だよ♪」


「そういう問題じゃ…」


「あたし、本当に困ってるの…」


恋華が上目使いで一真を見つめる。が、


「…でもやっぱり犯罪はなぁ…」


一真には効果無しだ。


「そっか…残念だなぁ…その魔導書の封魔抹殺が終わったら、カズ君に読ませてあげようと思ってたのに…」


「…」


一真は無言だが、少し興味を持った事に、恋華は気付いた。


「盗むっていうより、借りるだけなんだよ?今までだって、ちゃんと返してるもん」


「…確かに…」


「ちなみに、魔導書の題名、教えてあげようか?」


「?」


恋華は…そして正義も、一真と梨紅もよく知るその本の題名を言った。


『禁じられた魔法、最強の魔法、不可能な魔法、下巻』




一真「乗った!」


梨紅「駄目だわ…確実に乗るよ一真…」




2人とも即答したが、やはり答えはそろわなかった。




学校からの帰り道、一真は少し落ち込んでいた。


(…思わず「乗った!」って、言っちゃったけど…確実に犯罪だよなぁ…)


一真はため息を吐いた。もう、今日何度目のため息かもわからない…


(梨紅には絶対言えねぇ…でも、隠しとおす自信もねぇ…)


一真は再びため息を吐き、思わず声に出して言った。


「…どうすっかなぁ…」


「…何が?」


「うぉあ!」


だらだらと歩いていた一真のすぐ後ろに…満面の笑みを浮かべた梨紅が、ピッタリくっついていた。


「…脅かすなよ…ビックリしたぁ…」


「…おかしいなぁ…いつもの一真なら、このぐらいじゃ驚かないよ?」


「…え?」


梨紅の笑顔の裏に…威圧感のある何かがいる…一真はそう感じた。


「一真…私に何か隠してる事無い?」


「…そりゃあ、山ほど…」


「山ほど!?」


驚きのあまり、梨紅は大声で叫んでしまった。


「…いや、ごめん…山ほどは言い過ぎた…」


「う…うん、まぁ…2、3個ってとこよね」


「そんなもんだよ、うん…」


「「…ふぅ!」」


2人同時に額の汗を拭き、歩き出した。


「…恋華ちゃん、なんだって?」


「…重野に口止めされてるから、言えない」


「ふ~ん…私が、どうしても教えて!って、言っても?」


「駄目なもんは駄目。」


「…私が、何の話だったか知ってても?」


梨紅はニヤリと笑った。それに、一真はこう答えた。


「?…知ってんなら、聞く必要無いだろ?」


正論である。


「え?いや、まぁ…そうだけど…か、確認よ!確認!」


「確認ねぇ…」


「ズバリ!実は恋華ちゃんの正体が、怪盗シャイン・アークだった!って話でしょ?」


「!!!」


一真は立ち止まり、驚愕の表情で梨紅を見つめる。それを見た梨紅は、満足そうに笑った。…しかし、


「…そうだったの!?」


「…へ?」


その笑みは、一瞬で崩れた。


「マジかよ!うわぁ…ヤベェ、暖に教えてやろ!あ、警察とかに言ったら、金一封もらえるかな?」


「え…ちょっ…あれ?」


完全にテンパる梨紅の隣で、一真は携帯を取り出した。


「…あ、もしもし?暖?お前さぁ、怪盗シャイン・アークって知ってるよな?」


「えぇ!!!ちょっと待って!一真!」


一真から携帯を奪おうと、掴みかかる梨紅。


「あ、知ってる?それがさぁ!そいつの正体が、実は!!」


「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


涙目で、一真にしがみつく梨紅…そして…


「…バ~カ。」


「…ふぇ?」


梨紅が、一真にしがみついたまま顔を上げると、一真は折りたたみ式の携帯を閉じた。


「嘘に決まってんだろ?オレが友達を売ると思ってるわけ?」


「あ…あぁ…」


「え…お、おい?」


梨紅は一真にしがみついたまま、一真とともにその場に座り込んでしまった。


「…梨紅、大丈…」


「バカァァァァ!!!!!!」


梨紅は泣きながら、一真を殴り始めた。


「いてぇ!いて!いてぇって!このバカ!」


「バカはあんたよぉ!何!?今のドッキリ!」


「他人の秘密をペラペラ喋る口の軽い女への、ちょっとしたお仕置きです」


「う…」


梨紅は一真を殴るのを止めた。


「お前は昔っから、思い込みが激しい所あるよな…オレが恋華の正体を知ってると思い込んで、お前はオレにカマかけようとした…そうだろ?」


「…うん」


「もしオレが、本当に暖と警察に言ってたら、どうするつもりだったんだ?」


「…」


「何も考えてなかったか…猪突猛進、お前の悪い癖だぞ?」


梨紅は黙って頷いた。


「それと、もう1つ…」


一真は梨紅の頬を優しくつねる。


「お前がオレにカマかけようなんざ、100年早ぇ」


「…でもひゃ?恋華ひゃんが怪盗らってのは、ひってたんれひょ?」


(訳、でもさ?恋華ちゃんが怪盗だってのは、知ってたんでしょ?)


「あぁ、屋上ではその話だった」


「らぁ、はくふつかんに盗みに入るのをてつらってって頼まれたれひょ?違う?」


(訳、じゃあ、博物館に盗みに入るのを手伝ってって頼まれたでしょ?違う?)


「…さて、梨紅?そろそろ帰ろうか…」


立ち上がる一真…


「質問に答えなさい」


梨紅は一真の両手を頬から剥がし、立ち上がると同時に一真の背後に回り、一真の首にしがみついた。


「ぐぇ!」


「さぁ、白状しなさい?頼まれたんでしょ…OKしたんでしょ!」


「!!!」


「答えなさい!」


「黙秘…てかお前!マジで絞まってるから!首…」


一真の顔色が、徐々に青くなって行く中…


「…何しとん?お前ら…」


「親父さん!」


「お父さん?」


梨紅の親父…今城幸太郎が、現れた。



「お前達はまた、オレが見てないと思ってイチャイチャと…」


「違うよお父さん!イチャイチャなんてしてないよ!?」


梨紅は、一真の首を瞬時に解放した。


「ゴホッゴホッ…助かったぁ…」


一真はむせながら、空気を求めて深呼吸を繰り返す。


「本当に油断も隙もあったもんじゃない…」


「だから違うってば!」


梨紅と幸太郎のやり取りは、まだ続いていた。


「…親父さん」


不意に、一真が幸太郎を呼んだ。幸太郎は怪訝そうな顔で、一真に視線を向ける。


「…なんだ?」


「話がある」


「…お前が、オレに?」


「一真がお父さんに!?」


幸太郎と梨紅は、同時に驚いた。


ちなみに、幸太郎が驚いた理由は、普段は明らかに幸太郎を嫌い、避けている一真が、自ら幸太郎に話がある…なんて、言って来たからだ。


梨紅が驚いた理由…確かに、幸太郎と同じ部分で驚いたのだろうが…彼女はその一歩先を、暴走しながら進んでいるのだ。


(か…一真がお父さんに話…それってやっぱり、私の事?『梨紅を嫁に下さい、お義父さん!』とか?ウソ!ウソォ!?そんないきなり?こんな道の真ん中で!でも私、まだ15だよ?結婚って確か16から…結婚!?)


暴走以前に、彼女はただのバカだ。


「あぁ…この前の話の続きになるかな?」


「…」


(この前!?私の知らない所で、一真とお父さんが2人で?えぇ!それってもぉ結婚の話で決定じゃ…)


(やかましいわボケェ!!!)


「!!!」


テレパシー通話中だった梨紅を、一真が一喝し、暴走を止めた。梨紅は顔を赤くして、恥ずかしそうにうつ向いた。


「…実は親父さん、そろそろ話そうと思ってたんじゃないの?」


「いや…正直、お前達にはまだ早いと思っとる」


「…何の話?」


今一会話に入り込めない梨紅…


「魔族を倒した時の、封印がどうのこうのって話だよ」


「あぁ、一真の髪が伸びた時の…」


「…いや、そこは『魔族を倒した時の』で良いだろ?」


「良いの!『一真の髪が伸びた時の』で!」


「…とにかく、その時の話だよ」


一真は、梨紅との不毛な会話を終わらせ、幸太郎に視線を向ける。


「親父さん…これから先、いつまた魔族が襲ってくるかわからないんだぜ?親父さんが常にいてくれるなら、話は別だけど…」


「…」


幸太郎は、腕を組んだまま歩き出した。


一真と梨紅も、それに付いて行く。


「…どこまで知っている?」


幸太郎が言った。


「…魔法使いは魔族とかの生まれ変わりで、退魔士は神様とかの生まれ変わりだって事…オレが、歴代の魔王の中でも最強の、初代魔王の生まれ変わりらしいって事…梨紅とのキスで、何かの封印が解けたらしい事…以上。」


「…2番目は知らないが、おそらくそれも本当だろう…あの魔力量は、並の魔族の物じゃないからな…」


幸太郎の返答に、一真は疑問を覚えた。


「親父さん…なんであの時のオレの魔力を知ってんの?」


「なんでも何も、あの魔力を"封印"したのは『オレ』だからな…」


「親父さんが?いつ?」


「お前達が産まれてすぐ…そうか…この話もせにゃならんのか…」


幸太郎は頭をボリボリと掻き、昔話を始めた。




…ありゃあ、16年前の七夕の夜だ…お前達が産まれた。


「随分省いたな…産まれるまでに何か無かったのかよ」


特に無ぇから省いたんだ!黙って聞いてろ!


魔法使いってのは、魔力が血液のように体内を巡っている…血液を送り出す心臓があるように、魔力を送り出す"核"って物が、体のどこかにあるもんだ。


母親から産まれた瞬間に、その"核"に、魔力が注がれる…そういう仕組みだ。


代わって、退魔士…実は退魔士も、魔法使いと同じく"核"を持っている。産まれた瞬間に、"核"に退魔力が注がれる事以外に違いは無い。


区別するために、退魔士の"核"を"聖核"、魔法使いの"核"を"魔核"と呼ぶ事がある…いや、これはさして重要じゃねぇか…忘れても構わねぇぞ。


知っての通り、お前達は同時に生まれた…同じ分娩室…オレも、一真の父親も立ち会ってた。


「え…父さんも?」


あぁ、お前が産まれるのを今か今かと…あんなにそわそわしたあいつを見たのは初めてだった。


「へぇ…」


そして、お前達が産まれた…産声まで同時だったな…


「…いや、そこまで行くと異常だろ…」


「そうだよ、おかしいって…」


確かにかなり気味が悪い…しかし、


「…そんな事、気にしている余裕なんて、その時は無かった…」


幸太郎の声のトーンが変わった。


「…そして、事件は起きた…」





産声と同時に、凄まじい魔力と退魔力を感じたオレ達…オレと真人は、それがお前達の力だと瞬時に察知した。


オレ達が部屋に駆け込むと、お前達の"核"に入りきらなかった力が暴走し、お前達の体を蝕んでいた…


事態は一刻を争う…だが幸い、真人が瞬時に対処法を考えついた。それが、『"核"を複数に分けて封印する』事だった。


オレは覇流鹿を使い、お前達の"核"を9つに分けた。それを真人が、頭、胸、腹、両肩、両手、両足に移動させた。後は封印するだけだ…


だがここで、再び問題が起こった。


お前達の力を封印する力が、オレ達には残っていなかった。


だから仕方なく、梨紅の退魔力は一真の魔力を…一真の魔力は梨紅の退魔力を使って封印した。




「…つまり、お前達は互いに、互いの封印を解く"鍵"なんだ…ここまでは良いか?」


「一応ね」


「私も、大丈夫」




次に、封印が解けた理由についてだ。


さっきも言った通り、お前達は9つの"核"を持っていて、産まれた時に8つの"核"をオレが封印した…


もし、この8つの"核"の封印を解く鍵が同一の物だった場合…全ての封印が1度に解けてしまう。だから、


"核"の封印を解く鍵は8つある…


そのうちの1つが、キスだったってわけだ。




「…こんな所だろう」


「なるほど…でも、おかしくないか?」


幸太郎の話が終わってすぐ、一真が言った。


「オレの"核"の封印が解けて、あの魔力だった…なら、梨紅は?封印解けてないわけ?」


「いや、梨紅の封印も解けている…ただ、一真…お前の腹の傷痕を見せてみろ」


幸太郎に言われ、一真はYシャツを捲りあげた。ヘソの真下に、白い傷痕がある。


「…そこは、お前の"核"がある所だ…普通なら、そこを刺された時点で魔法が使えなくなる」


「げ…マジで?」


「だがお前には、核が9つある…その"核"の代わりに、梨紅とのキスで目覚めた"核"を使い始めたから魔法が使えたんだろう…」


「…ギリギリだったんだな…」


今更ながら冷や汗をかく一真。


「同じように、梨紅の"核"も目覚めただろう…だが梨紅は、2つの"核"の退魔力を全て使い、一真の"核"と外傷を治癒した…その疲労から気絶…あくまでオレの予想だが、おそらくそれで正しいはずだ」


「…そうなん?」


「え?いや…私はよくわからないけど…そうなんじゃない?」


首をかしげる梨紅。


「…ちなみに親父さん、オレ達の封印はどのくらい残ってるわけ?」


「残りは6つだ。」


「…6つ?つまり、封印は2つ解かれてるって事?」


梨紅が幸太郎に言った。


「あぁ、キスで1つ、血を摂取して1つ…そうじゃないなら、お前達が寺尾神社で、あんなに大量の魔物を倒せるはずが無いだろう…」


「…確かに、あの時は正直驚いたよ…魔物1体倒すのに、2人で必死こいてたのにさ…」


「…あの夜、お前達が倒した魔物の総数は500弱…うち、最後の魔法で100体以上を吹き飛ばした」


「…半々にすると、1人200体…2人で1体だった時に比べると…単純計算で400倍も強くなってるって事になるぞ?」


「400!?」


驚愕の表情で、梨紅は口をパクパクさせる。


「…親父さん、オレ達…封印が全部解けたら、どのくらい強く…」


流石の一真も、聞き方が控え目になる。


「…お前、過去や未来を行き来する魔法に、どれだけ魔力を使うか知ってるか?」


「えっと、確か…往復5億。人数で言うと、1000人分…」


「もしお前の"核"が全て解放されたら…10往復は出来る」


「…はぁ!?1万人分!?」


あくまで、産まれてすぐに感じた魔力の量が基準だ…確かな事はわからん


幸太郎は立ち止まった。


「現段階で、お前達の力は通常の10倍…だが、その力を100%出すには、身体への負担が大きい…よって、身体が無意識のうちに力を抑えている状態にある」


「…その100%の力を出した状態ってのが…」


一真は、自らの髪が伸び、緋色になった状態を思い浮かべた。


「そう…それが"紅蓮化"だ。あの状態なら、1万人分の魔力にも耐える事が出来るらしい」


「らしい?」


「オレも、真人に聞いただけだからな…詳しくは知らん」


「…なんで父さんは知ってたんだろ…」


一真達の謎は解かれたが、一真の父親の謎が、新たに生まれた。


「…ねぇ、もしかして私も?」


梨紅は幸太郎に、恐る恐る聞く。


「…蒼い長髪、純白の翼…"天使化"と、真人は言っていた」


「やっぱり私も…一真、私『天使』だって♪」


まんざらでもなさそうな梨紅に、一真はため息を吐いた。


「…今日はここまでだ。帰るぞ」


幸太郎は一真達に先立ち、歩き始めた。


「…『今日は』?まだ何かあんのかよ…」

一真はため息混じりにそう言って、幸太郎に続いて歩き出した。




その夜…ベッドに横になり、幸太郎に教えられた事実を反芻しつつ、一真はただただ天井を見つめていた。


自分の出生時に起きた出来事…


1万人分の魔力…


その"封印"…


"紅蓮化"…


「…ややこしいな、なんか…」


「ホント、頭の中ぐっちゃぐちゃ…」


「うぉ!」


一真は、声に驚き飛び起きた。


「梨紅お前、いつの間に…」


梨紅が、一真の椅子に座っていた。


「5分ぐらい前かな?」


「そうかい…」


安心した一真は、再びベッドに横たわった。


「どうしたよ?話ならテレパシーで…」


「いや、どうしても直接聞かなきゃいけない事があって…」


そう言って、梨紅はおもむろに立ち上がり、一真へ向かって歩き出した。


「…梨紅?」


不思議そうな顔で梨紅を見つめる一真…梨紅はゆっくりとした動きのまま、一真に馬乗りになり、両手を掴み、ベッドに押さえつけた。


「…さっきの続き…話そうか♪」


「さっき?…あ゛…」


さっきの続き…つまり、恋華との話の件だ。


「ねぇ…恋華ちゃん、なんだって?」


「いや…だから、重野が怪盗シャイン・アークだって話を…」


「それだけじゃないでしょ…ねぇ?」


「それだけだって…」


完全に油断していた一真…まさか、梨紅に寝込みを襲われるとは、夢にも思っていなかっただろう。


「…今夜は寝かせないよ?」


「エロいなぁそのセリフ…」


「本ッッ当に寝かせないからね?白状するまでこのままなんだから!」


「…マジで言ってる?」


一真から、冗談を言う余裕が消えた。


一真が抵抗を始めるが、体勢が悪く、上手くあらがえない。


「…お前、ダイエットとか考え…いででででで!!!!!」


梨紅は両膝で、一真の脇を締め付ける。


「女の子にそんな事言って…ちょっと罰を与えないとねぇ?」


「このやろ…」


一真がさらに抵抗しようとした時…枕元にある、一真の携帯が鳴り出した。


「…誰から?」


「…正義君から…」


「正義ぃ?」


一真は携帯を取ろうとするが…


「…梨紅?携帯…」


「…」


梨紅は無言で、一真の左手を解放した。


「…もしもし?」


『一真か?オレだ』


「こんな時間にどうした?」


『恋華が自白した』


「…は?」


一真は思わず顔をしかめる。


『一真に怪盗の手伝いを依頼し、協力するとの返事をもらった…恋華はそう言った』


「…お前、重野に何した?」


『ん?極楽亭で飯を奢りながら、質問しただけだが?』


「…正義よ、重野に伝言を頼む」


一真の握った携帯が、ミシミシと音を立てて軋む。


『…何だ?』


「…覚えてろ?ってな」


そう言って、一真は携帯を切った。


「…はぁ…ん?」


ため息を吐く一真の左手を、梨紅が再び拘束する。


「…いや、もぉ押さえてる意味無いから…」


「恋華ちゃんに協力しちゃダメだから…」


「注文が多いなお前は!」


そして再び、一真の携帯が鳴った。


「今度は誰!」


「…恋華ちゃん」


「はぁ…離して」


一真が言うと、梨紅は一真の左手を解放した。


「…うら!」


「ぅわ!」


一真は瞬時に、梨紅と自分の位置を入れ換えた。


「形勢逆転!」


「酷いなぁ…電話でないの?」


「でない。あいつには明日、大量のエアロをお見舞いしてやる…」


「…ハハハ…凄い顔してるよ、一真…」


渇いた笑い声とともに、梨紅の顔がひきつる。そこへ、ドアが開く音が…


「…あら?お取り込み中かしら…」


久城美由希…毎回毎回、タイミングの良すぎる一真の母親である。


「…」


「…」


「ごめんなさいねぇ、お邪魔しちゃって…」


そう言って、美由希は階下へ降りて行った。


「…なんか、めちゃめちゃデジャヴが…」


「てやぁ!」


「ごふぉ!」


梨紅が一真の腹部を蹴り飛ばし、一真から逃れた。


「痛ぇって!」


「帰る。また明日ね?」


そう言って、梨紅は窓から出て行った。


「…マイペースにも程があるだろ…」


梨紅を見送った後、一真はため息を吐きつつ、そのままベッドに横になり、就寝した。



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