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魔法使いの苦悩  作者: 黒緋クロア
第三章 怪盗と絆 前編
17/66

プロローグ

怪盗…


正体不明の不思議な盗人の事である。


警察…


国の秩序、治安を守る機関の事である。


この2つが、魔法使いと退魔士よりも明確に、交わる事の無い物である事は、言うまでもない…




時刻は、20時58分…


「…あと2分か…」


貴ノ葉高校の制服の上にコートを着た、眼鏡の青年が、パトカーに寄り掛かって腕時計で時刻を確認していた。


背も高く、ベテラン刑事のようなコート…タバコでも吸わせれば、20代後半の警察官の出来上がりだ。


だが、彼はタバコを吸う訳にはいかない…体に有害だと自負しているし、彼女に「タバコを吸ったら絶交!!」と、言われているのだ。


…それに何より、彼は法律上タバコを吸ってはいけないのだ。未成年…16歳の高校生なのだから。


「桜田警部!」


美術館の入り口から、20代前半と思われる男性警官が走って来る。


「警官の配置、終わりました!」


「ご苦労様です、山口さん。」


「…敬語なんてよして下さいよ、僕は貴方の部下ですよ?」


「いや、どうにも…歳上の人には、敬語になってしまうもので…」


桜田警部こと、桜田正義は、頭をポリポリと掻きながら言った。


「それで、ぐっさん…異常は?」


「ありません、全ての出入口、窓は封鎖…配置警官数は100名、今夜こそ"やつ"を捕まえられますよ!」


「…だと良いけど…」


後数秒で、21時になる…


「5…4…3…2…1…」


瞬間…美術館の電気が消えた。


『警部!桜田警部!』


無線から、正義を呼ぶ声がする。


「はい、こちら桜田。」


『やられました!"やつ"は屋上へ!』


「了解、すぐに屋上へ向かいます。」


無線を置き、正義は山口警部捕に苦笑して見せる。


「やられたそうです…ちょっと行って来ます。」


「はぁ…また始末書ですね…」


「始末書…書くのはオレじゃないですか…」


正義は山口に背を向け、美術館の裏へ走り出した。


脇道に入った正義は立ち止まり、前後に人気が無い事を確認した。


「…"風飛"!」


正義の体が宙に浮いた…そのまま上昇を続け、正義は美術館の屋上に着地した。


風飛…風を操り、空を自由に飛び回る技である。


「…来たか。」


美術館の屋上にあるドアから、枠縁の無い絵画を持った、忍者のような格好をした人間が現れた。


「…!」


「待ってたぞ、怪盗シャイン・アーク…」


怪盗シャイン・アークと呼ばれたそいつは、正義の元へ歩いて来る。


「今日こそ捕まえてやる、怪盗…いや…恋華!」


「…」


怪盗シャイン・アークは、鼻と口を隠していた漆黒のマスクを外した。


「そのセリフ、聞き飽きたよ…まー君♪」


普段はツインテールの黒髪を、ポニーテールに纏めているが、間違い無く恋華だった。


「他に良いセリフが無いもんでな…」


「今度一緒に考えてあげるよ。」


「遠慮しとく…それより、捕まらないにしても、その美術品だけは置いてけよ…こっちにも面子があるんだ。」


「なら、あたしの事捕まえてみなよ…面子があるんでしょ?」


そう言って、恋華は駆け出した。


「"重変"…10!」


恋華は勢いを付けて飛び上がった。


重変…一定空間の重力を、50を基準に±1000まで自由に変動させる事が出来る技である。


「…残念だが恋華、今日は引き分けって所だな。」


正義は、自分を飛び越えようとする恋華に、右手を伸ばした。


「…"風撃"!」


正義の手の平から、圧縮された風の弾が放たれ、恋華の腹部に直撃した。


「ごほっ!!あっ…」


恋華の腕から絵画が落下する。それを正義が、伸ばした右手でキャッチした。


なんとか体制を立て直し、隣のビルに着地し、正義を振り返って睨む恋華。


「…今の、カズ君の…」


「あぁ、一昨日の球技大会の時の、一真の魔法を真似たんだ。」


「ズルい!卑怯だよ!」


正義に怒鳴る恋華を、ヘリコプターのライトが照らす。


「!!!」


「諦めろ恋華、見逃してやるから。」


「…」


恋華は悔しそうな顔で正義を睨み、隣のビルへ飛んだ。そこからまた隣のビルへ…恋華は、ビルからビルへと飛びながら、逃げて行った。


「…一矢報いたかな…」


正義は手に持った絵画を見て、溜め息を吐いた。


「…明日、あいつの機嫌を取るのが大変そうだな…はぁ…」






怪盗と警察の戦い…


そこに、魔法使いと退魔士を強引に引きずり込んで…


再び…


久城一真の、苦悩の日々が始まった。



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