エピローグ 部活動日誌
…そんな訳で、球技大会は無事に終了…商品が無料チケットじゃなかった事を知って、あいつらが暴動かなんか起こすじゃないか?と、密かに考えていたが予想は外れた。まぁ、当たらなくて良かった。
球技大会のMVPには、最後の最後で逆転ロングシュート(まぁ、重野が入れたようなもんだけど)を決めた暖が選ばれた。もらった物は小さなトロフィーとクラス費に5万円…もちろん、その日の打ち上げでその5万のうち4万を使った。
優勝商品の図書券も、しっかりいただいた。図書券なんかいらねぇと言うクラスメートが何人かいたため、オレがそいつらの分をありがたくいただいた。1万円分ぐらいあるかな?当分は、小説を買う金に困る事はなさそうだ。
そういえば、自分のせいでD組が負けたと、重野がめちゃめちゃ落ち込んでた。
それを慰める正義は、どこか得したような顔をしていた気がする…いや、妹を慰めるお兄さんというか…まぁ、そんな感じ。
豊は無言で自分のクラスに帰って行った。いや、違った…「黄昏魔法戦記」を必ず買うように言われた。当然だ…てか、もう手元にある。今日、朝一で買って、その足で部室に来て、これ書いてるんだ。
だから実際、6月8日の活動記録を書いてる今日は6月9日なんだ。正義の言う所の、休日出勤だ…でもまぁ、そんなに悪いもんでも無いかな…
そう言えばあいつら、本当にここに入る気か?
魔法使いに退魔士、半魔、一般人、風使い、霊能力者…重野も入ったらどうなるんだ?どんな集まりだ…
これからも何か色々と起きそうで、でも何となくそれが楽しい…そんな、今日この頃だ。
6月9日、久城一真
「…ふふ、なんかグダグダな活動記録だなぁ…」
そう言って、活動記録から顔を上げる、20代の女性…
高校1年の時よりも長いツインテールに、薄く化粧をした幼さの残る顔…紛れもなく、恋華である。
「…でも、カズ君らしいな…」
「…何見てるんだ、恋華?」
ソファーに座る恋華の後ろから、眼鏡をかけた男が言った。
「あ!桜田正義大将!」
恋華は急いで立ち上がり、正義に敬礼した。
「…恋華、やめてくれよ…まー君で良いって。」
「いえ!上官にそのような言葉遣いは…」
「なら命令だ、桜田恋華中将…2人きりの時は常に、家にいる時と同じように話せ。」
「了解であります!……なんちゃって♪」
恋華は正義に舌を出して見せる。それを見た正義は溜め息を吐き、恋華の座っていたソファーに座った。
「…なんだ、研究会の時の活動記録じゃないか…」
「うん、なんだか懐かしくて…」
「球技大会…この時はまだ、オレ達入ってなかったっけな…」
「あれからもう10年だよ?まだ正義さんが、まー君って呼ばれるのを嫌がってた時だね。」
「そうだったな…あの頃は恥ずかしかったんだよ本当に…」
「それが今は、まー君って呼ばないと怒るんだもん…変わるもんだね、色々と…」
「そうだな…」
2人が昔を懐かしんでいると、来客を告げるブザーが鳴り、自動ドアが開いて若い女性が入ってきた。
「桜田正義大将、桜田恋華中将、久城一真元帥が御呼びです。」
「は~い…あぁ!?」
「ん?…おぉ!ハウルじゃないか、久しぶりだな。」
ハウルと呼ばれた女性に、恋華が飛び付いた。
「久しぶりだねぇハウルちゃん!」
「はい!お久しぶりです、正義さん、恋華さん!」
再開を喜ぶ2人を見て微笑し、正義はボロボロの活動記録を手にとった。
(…オレ達がハウルに初めて会ったのは、球技大会よりもっと後か…この年の冬だったか?)
そう思いながらも、正義は活動記録を少しだけ捲った。
「ん…そうか、これ…まだ全員揃う前か…」
「どうしたの?まー君。」
「どうしたんですか?」
恋華とハウルが、ソファーの後ろから活動記録を覗き込む。
「…あ、これ…」
「…?」
「これはまだ、ハウルに会う前…いや、この時はまだ、豊も愛も勇気もいなかったか…」
「へぇ…どんな事があったんですか?」
「興味あるか?」
「はい!」
ハウルの返事を聞いて正義は、正面の壁にある壁掛け時計を見ながら言った。
「あれは、球技大会が終わった後すぐ…月曜日の事だ…」
正義の昔話が始まった。
正義の持っている活動記録の、開いているページには、1枚の新聞記事が貼り付けてあった。
そこには、こう書かれていた。
[怪盗シャイン・アーク、怪盗K・K、予告通りにあらわる!]




