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ブラックパラディン  作者: 鰺fly
第一章 孤高の聖騎士編
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ダイナ到着

「ゾイ聖騎士長!私にダイナへ向かう許可を下さい!」

 部下からジャックの部隊が壊滅したという報告を受けたエリスが、聖騎士長の書斎を訪れると、そこには既にマイクがいた。


「なんだ、エリス……お前もダイナの救援へ行きたいのか?ちょうど今、マイクから全く同じ申し出を受けた所だ」

 エリスの言葉を聞いた聖騎士長が、驚いたように席から立ち上がる。

 そして、何かを決心したように頷いた。そのまま、ゆっくりと口を開く。


「マイク、エリス。異例だが……今回の任務にはパラディン2人体制であたってもらう。お前たち二人で協力し、早急にダイナの魔女集団を壊滅させよ」


「……え?」

 聖騎士長から予想外の命令を受けたエリスは、思わず間の抜けた声を上げてしまった。


 一つの任務にパラディンが二人も駆り出されるなど聞いたことがない。


(それに……ダイナの魔女集団だと?)


「ダイナの魔女は一人だけではないのですか!?︎」

 エリスと同じ部分に引っかかりを覚えたのか、マイクが大声で尋ねた。


「そうだ。ジャック部隊の生き残りによると、敵は五人以上で待ち伏せをしていたらしい」


(集団で待ち伏せか。これは臭うな……)

 聖騎士長の言葉を聞き、顔をしかめる。


ー 魔女平和協会 ダイナ支部 ー


 手紙の最後に書いてあった地名と、ジャック部隊が壊滅した場所が一致している。


(これを偶然として片付けていいものか?)

 考え込むエリスを横目に、聖騎士長が鋭く命じた。


「相手が何人であろうと構わん。騎士団の誇りにかけて魔女供を抹殺しろ!」


◇◆◇◆


「はっ!」

 漆黒の革鎧を纏ったエリスは、騎乗した黒馬に手元の手綱を打ちつけた。

 二十人以上の部下を引き連れ、ダイナへと続く街道を疾走する。


 冬場の低い太陽がもうすぐ西の彼方へ沈んでしまいそうだ。


(流石に寒さが堪えるな……)

 強く吹き付ける風にエリスが目を細めていると、


「見ろ、エリス。ダイナの入口が見えてきたぞ!」

 並走していたマイクが前方を指差して言った。

 その言葉に従い、顔を上げる。


 すると、薄暗い景色の中に巨大な石門が佇んでいるのが見えた。


 ダイナはリーン王国で最も活気のある商業都市の一つだ。

 酒の交易が盛んで、煉瓦造りの建物が立ち並んでいる。

 外周を高さ10メートル程の壁に囲まれており、中に入るには北と南に設置された門をくぐる以外に方法はない。


 エリス達が南門の足元に辿り着くと、そこには街へ入ろうとする人々の長蛇の列ができていた。

 その殆どが酒瓶や毛皮の積まれた荷台を引いている。

 どうやら彼らは行商人のようだ。


(もう日暮れだというのに仕事熱心だな)

 行商人達の働きぶりに感心したエリスが、馬から降りようとすると、


「エリス。手を貸すぞ」

 先に下乗していたマイクがこちらに向かって手を伸ばしてきた。

 反射的にその手を握ろうとして、動きを止める。


 マイクの顔色を伺うと、真っ直ぐな瞳で見返してきた。

 その屈託のない表情にイラっとする。


「……助けなど要らん」

 静かに呟いたエリスが飛ぶようにして馬から降りると、


 ビチャリ。

 足元の土が泥濘んだような音を立てた。

 薄暗い景色の中、地面に目を凝らしてハッとする。


(これは……血溜まり?)


「どうやら、ジャック達が待ち伏せされた現場はここらしいな」

 エリスと同じく足元を凝視したマイクが、眉間に皺を寄せた。


 既に片付けられたのか、辺りに死体や武器は転がっていない。


「聖騎士長の話によると、ジャック達は教会に逃げ込んだようだ」

「一先ず、私達も教会に向かうとするか」

 短く言葉を交わしたエリスとマイクが、部下を引き連れて門を潜ろうとすると、


「せ、聖騎士様!?︎ 何故ここに?」

 行商人の荷物チェックを行っていた衛兵の男が驚いたように近づいてきた。


「先行部隊が壊滅したとの報告を受け、急遽駆け付けた。早急に彼らが逃げ込んだという教会に案内してくれ」

「わ、分かりました。こちらです……」

 マイクと衛兵の男が話し合うのを横目に、周囲の様子を見渡す。

 すると、荷物チェックを行なっている衛兵の中に一人だけ女性が混じっているのが見えた。


 他の衛兵達と同じようにチェインメイルを纏い、首元に派手なマフラーを巻いている。


(女性の衛兵とは珍しいな……)

 そう思ったエリスが、目を凝らした瞬間、彼女の周囲に真っ赤な光のベールが見えた。


 こちらに背を向け、黙々と作業をこなしている。

 どうやら、聖騎士に顔を覚えさせないようにしているようだ。

 そのせいでエリスが魔女だという事に気づけていない。


(正体がバレると厄介だな。早目に口を封じておくか)

 腰の鞘に手を掛けたエリスが、ゆっくりと近づいていくと、足音に気づいて女性が振り返った。


 その瞳がエリスの姿を捉える間も無く、長剣を抜き放つ。

 身体強化を利用した神速の居合斬りだ。


 ストン。

 白銀の刃が音もなく、彼女の胸元に吸い込まれた。

 文字通り、心臓を一突き。


「カッ……」

 僅かに息を漏らした女性が、白目をむいて絶命する。

 ぱっと見18歳ほどに見える若い少女だ。

 周囲の人々は何が起こったか分からないのか、完全に沈黙していた。


「この女の首を門前に晒しておけ」

 エリスがそう言うと同時に、一番近くにいた行商人の男が腰を抜かす。


「ヒィィィッ!」

 次の瞬間、悲鳴と共に地面に倒れ込んだ。

 それを無視して少女のマフラーを剥ぎ取る。

 すると、首元に星型の痣があるのが見えた。


(やはり、魔女で間違いないか)

 口元に獰猛な笑みを浮かべたエリスが、長剣を引き抜くと、辺りに大量の血液が撒き散らされた。


 その様子を遠目に見ていたマイクが信じられないというように首を振る。


「星痣も確認せずに人を刺すなんて……あり得ない……」

 その言葉を聞き流し、衛兵の男に近づいた。


「あの女の名前は?」

「レ、レイナ・スピカです!」

 エリスからの質問に、衛兵の男が震えた声で答える。


(レイナ・スピカ?ジャック達が追っていた魔女とは別人か……)

 聞き慣れない名前に眉を顰めた。


 エリスの記憶が正しければ、ジャック達が追っていた魔女の名前はメープル・サンだった筈だ。

 レイナ・スピカとは似ても似つかない。


(どうやら、ダイナの街に複数の魔女がいるというのは本当らしいな)

 そう思ったエリスが、ゆっくり背後を振り返ると、唇を真っ青にして微動だにしない聖騎士達と目が合った。


 彼らはマイク直属の精鋭部隊だ。

 本来エリスの命令を受ける立場ではないが、今回だけ特別にエリスの下に付いている。


(この程度のことで震えて動けなくなるとは……主人に似て肝っ玉の小さい連中だ)

 深々と溜息を吐いたエリスは、呆れ口調で再度命じた。


「さっさと魔女の首を門前に晒せ。さもないと、貴様らの首を代わりに飾ることになるぞ?」


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