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ブラックパラディン  作者: 鰺fly
第一章 孤高の聖騎士編
12/34

甘い香り

「テ、テメェ!何者だ!!!」

 真っ青な顔をしたメープルの死体を見下ろすエリスに、店内の反対側からナゼッタが尋ねてくる。


 その声を聞き、ゆっくりと顔を上げた。

 そのまま、嘲笑を浮かべて答える。


「私か?私の名前はエリス・ナナトス。お前達魔女を裁く者だ」

 その瞬間、客全員の顔がサッと青褪めた。


「エリス・ナナトス……魔女殺し!?︎」

 一番の手前の女性が震える声で呟き、逃げ出そうとする。


 しかし、

「正解」

次の瞬間、その頭が首元から綺麗に切断された。

 ボトリと嫌な音を立てて床に落下する。


「アアアァァァ!!!」

 それを見たナゼッタが大声で悲鳴を上げた。

 直後にその周囲にいた三人と奥のテーブル席に座っていた一人の首が宙を舞う。


 時空魔術、空間切断。


「私の前で魔女が息をすることは許さん」

 連続で魔法を行使したエリスが宙空を凪いだままの姿勢で静止していると、


「ふ、ふざけるなぁ!お前だって魔女だろぉぉぉ!!!」

 絶叫したナゼッタがこちらに向かって突進してきた。

 その背中から真っ黒な翼が生え、指先が鉤爪のように尖るのが見える。


(鳥化の魔術か……)

 冷静に周囲の様子を分析するエリスに、


「死ね!!!」

 ナゼッタが右手の鉤爪を叩きつけてきた。

 しかし、それを僅かに体を捻ることで躱す。


 ブワリ。

 耳元で強く風が唸った。


 直後に勢い余って前のめりになったナゼッタの足元を右足ですくい上げる。


「うわっ」

 一瞬、全身が宙空に浮かぶ形になったナゼッタ。

 その首元に上から肘打ちを叩き込んだ。


 ズゴン。

 身体強化によって強められた一撃を受け、ナゼッタの頭が思い切り地面に打ち付けられる。


「ガァァァ……!!!」

 口元から漏れる断末魔の叫び。

 そのまま、ナゼッタがピクリとも動かなくなった。


「死んだか」

 その首元に手を当て、静かに呟く。


 正に一瞬だ。

 血塗れの店内で生き残っているのはコゼットただ一人。

 戦闘が始まってからまだ10秒も経っていない。


(想像以上に呆気ないな。これだけ魔女がいてこの程度とは。こいつら……雑魚だから群れていたんじゃないか?)

 そう思い、店内を見回したエリスだったが、すぐに思い直した。


(違うか。魔女としての私が強過ぎるのか……)


 綺麗に首元を切断された魔女達。

 彼女達は誰一人として魔術を使っていない。

 その暇すら与えられずに死んだのだ。


「どうやら悪魔惚れで得られる力が強いというのは本当らしいな。実戦で使ってみてよく分かったよ」

 猟奇的な笑みを浮かべたエリスが、ゆっくりと近づいて行くと、


「こっちに来ないで!!!」

顔を真っ青にしたコゼットがカウンターを乗り越えて逃げようとした。


 しかし、出口に辿り着く前に、一瞬で距離を詰める。


「助けてぇぇぇ!!!」

 大声で喚いたコゼットの背後に立つと、袖のうちに仕込んでいたナイフでその心臓を突き刺した。


「うぐっ……」

 苦悶の表情を浮かべたコゼットが、その場でもんどり打って倒れる。


「ノア……ノア……逃げて……」

 その瞳から光が消えていくのがはっきりと分かった。

 繰り返し仲間の名前を呼ぶ声にはこれ以上ない程の悲壮感が宿っている。


(ノアか。そういえば、もう一人いたな)

 エリスがそう思った瞬間、


「ああ、これは用心棒失格だなぁ」

 出入り口の扉が開き、一人の女性が入ってきた。

 銀髪隻眼のアラサー美人。

 エリスと同じく悪魔惚れされたという魔女、ノアだ。


 店内の惨状を見渡し、怒気のこもった視線をこちらに送ってくる。


「これはお前が一人でやったのか?」

「そうだ。私が全員殺した」


 その言葉に素直に頷いた。

 エリスの返答を聞き、ノアが頭髪上指する。

 逆立つ前髪に、音を立てて裂ける額。

 直後に店内の温度が急激に冷え込むのを感じた。


「そうか。それならお前は死罪だ」


◇◆◇◆


「こちらは何とか間に合ったようだな」

 狭い室内を見回したマイクは、ホッと安堵の息を吐き出した。


 ここはレイナ・スピカの家だ。

 部屋の殆どを占める食卓に、巨大なクローゼット。

 脱ぎっぱなしの服まで放置されており、何一つ撤去された跡がない。


「捜査開始だ!早急に魔女に繋がる証拠を探し出せ!」

 マイクの一言で20人以上の部下達が家の中に散らばって行く。

 マイク自身もその後に続いて捜査を始めようとした時、


「あっ、この部屋……あの甘ったるい香りがします!」

不意に背後から明るい女性の声が聞こえてきた。

 慌て背後を振り返る。

 すると、いつの間にか玄関口にジャック、ナタリー、ベネットの3人が立っていた。


「ジャック!?︎ お前、何しに来たんだ?」

 驚いて尋ねるマイクに、


「いやぁ。ナタリーがどうしても捜査に協力したいって聞かなくてよぉ」

ジャックが頭を掻きながら申し訳なさそうに答える。


「はい!私の能力は捜査時にこそ真価を発揮しますから!」

 快活に頷くナタリー。


「私は完全に冷やかしです」

 その隣でベネットが意地悪そうに笑った。


(全く。三人共危険な目にあったばかりだというのに。また狙われたらどうするんだ……?)

 呆れて溜息を吐くマイクの横を通り抜け、ナタリーがどんどん家の奥へ進んで行く。


 鼻をヒクヒクと動かし、やがてクローゼットの前で止まった。

 そのまま、重い扉を開け放つ。


「何だ?そこから例の独特の香りがするのか?」

 捜査への気概を削がれたマイクがその背後に近づいて行くと、


「はい!臭いの元はこのコートですね!」

 ナタリーがクローゼットから一着の外套を取り出した。

 再度鼻を近づけ、確信したように頷く。


 その手元を覗き込んだマイクも匂いを嗅いでみると、確かに甘ったるい香りがした。


 しかし、

「これは何の香りだ?」

臭いの正体が掴めない。


「さぁ。私も匂いを嗅ぎ分けるのが得意というだけで、特別香りに詳しい訳ではありませんからね」

 発臭源を突き止めたナタリーもこの有様である。


 顔を突き合わせたマイクとナタリーがウンウンと唸っていると、


フワリ。

突然、花のような香りが漂ってきた。


 それと同時に色白の柔らかな手がマイクから外套を奪い取る。


「これは……ナツメグの香りですね」

 強引に二人の間に割り込んできたベネットがクンクンと外套の匂いを嗅いで言った。


「ナツメグですか?」

「はい。肉料理の臭い消しなどに用いられる香辛料の一つですよ」

 マイクからの質問にベネットが艶のある声で答える。


「へぇ。ベネット様って意外と物知りなんですね。もしかして、料理とかされます?」

「まさか」

 ジャックの言葉を聞いたベネットが大袈裟に肩をすくめて笑った。


「ナツメグは毒物として医学的視点から認識していただけです。聖女の仕事は人命を救うことですからね。パワー切れに陥った時でも治療が施せるように医術も修めているのです」

「「おお〜」」

 さも当然のように言い切るベネットを見てジャックとナタリーが感嘆の声を上げた。


「ま、まあ。私に限ってパワー切れを起こすことなどあり得ないのですがね!」

 誤魔化すように早口で呟くベネットを見てやれやれと首を振る。


 実際、彼女の医術の腕は相当なものだ。

 聖女でありながら医術を修めているのも国内で彼女一人だけだろう。


(治療面において彼女に並び立つ者はいないか……)


「ベネット様、流石です。後はナツメグの出所を突き止めるだけですね」

 マイクが満足気に頷くと、


「マイク様、もしかしてそれって……ここでしょうか?」

 ベネットが外套のポケットから一枚の厚紙を取り出した。

 それをこちらに手渡してくる。


(どれどれ……)

 その内容に目を通したマイクは、眉をひそめた。


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ー カフェ・real ー

当店の看板メニュー、ナツメグコーヒー1杯無料

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 懐からもう一枚の厚紙を取り出して見比べる。


------------------------------

ー カフェ・real ー

次回、入店時は2割引。

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 こちらは、メープル・サンの家で手に入れたものだ。

 共通点は『カフェ・real』。


(看板メニューはナツメグコーヒーか……これは決定的だな)


 二枚の厚紙を懐にしまい込んだマイクは、家中を見回して鋭く命令した。


「お前ら!今すぐ捜査を終了してカフェ・realの場所を調べろ!分かり次第、全部隊で急行するぞ!!!」


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