表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックパラディン  作者: 鰺fly
第一章 孤高の聖騎士編
1/34

魔女狩り

「焼き払え!皆殺しだ!」

 私の命令で村全ての家に火がつけられた。

 あっという間に村中が大混乱に陥り、夜空の下を人々が逃げ惑う。

 それを部下の鎧騎士達が片っ端から切り捨てていった。


 私はエリス・ナナトス。

 リーン王国に仕える女騎士である。パラディンの称号を与えられた高位の聖騎士で、一個大隊の指揮を任されていた。


 聖騎士の主な仕事は魔女狩りである。

 ここチーク村にも魔女がいると聞いて駆けつけたのだが、まるで居場所が分からなかった。

 村人達が魔女を匿い、一向に正体を教えようとしなかったのである。


 これは死罪に値する行為だ。

 魔女は存在するだけで周囲を不幸にする。


 彼女達の吐息には魔素と呼ばれる特殊な気体が含まれ、辺りに穢れを撒き散らすのだ。

 穢れは魔物を生み、世界各地に被害をもたらす。


「魔女を匿うなどどうかしている……」

 村が焼け落ちる様子を私が遠目から眺めていると、こちらに向かって一人の女性が駆け寄ってきた。


 二十代ほどの若い女性だ。


「もうやめて!村人達は関係ないわ!私が魔女よ!」

 私の前まで来て大声でそのようなことを喚く。

 その舌に星型の痣があるのが見えた。


 魔女である証だ。


「そうか。ならば死をくれてやる」

 短く呟いた私は、流れるような動作で腰の鞘から剣を抜いた。


 それに合わせて周囲の部下達も抜剣する。

 10人以上の鎧騎士があっという間に魔女を円形に取り囲んだ。


「村人達は何も悪くないの!私が魔女だと知らなかったのよ!……これ以上殺さないで!」

 何度も頭を下げながら懇願する魔女に侮蔑の視線を送り、静かに告げる。


「お前の言葉は信じるに値しない。村人の皆殺しは既に決定事項だ」

 その言葉を聞き、魔女がカッと目を見開いた。


「そう!どうしても殺すと言うのね……それならあなた達も一緒に死んでもらうわ!」

 怒号と共に魔女が魔術を使う。

 彼女が胸の前で両手を合わすと、それと同時に足元の地面が爆発した。


 まるで、火山が噴火したかのような光景だ。

 直径200メートルほどの火柱が立ち上がり、村ごと一気に飲み込む。


 逃げ惑う村人もそれを追う騎士達もあっという間に灰になってしまった。

 敵味方関係なしの大虐殺だ。


「まさか、これ程の魔術の使い手とは……」

 驚く私の体を炎が焼き、細胞を死滅させていく。しかし、それ以上のスピードで細胞が再生し、外傷が癒えていった。


 超回復。


 これは法術の一種だ。

 魔女が魔術を使えるように、聖騎士は法術が使える。


 あらゆる形の奇跡を起こせる魔術と違い、法術には身体強化と超回復の二つしか存在しない。


 しかし、その効力は人によってかなりの差があり、こと超回復において私の右にでるものはいない。


「嘘……何で生きてるの?」

 炎の柱がたち消えると、魔女が驚いたように呟いた。

 そして、化け物でも見るような目で私の方を睨んでくる。


「生憎、体の頑丈さだけが取り柄でね」

 大きく肩を竦めた私は、ゆっくりと魔女との距離を詰めていった。


 先ほどの魔術で力を使い果たしたらしく、魔女はその場から一歩も動かなかった。


 立っていても地面に着くほど長い彼女の赤髪を見て不意にとある事件を思い出す。


 三年ほど前、赤髪の若い魔女が聖騎士の駐屯地を炎魔術一発で吹き飛ばすという事件があったのだ。その時の死者は500人を超え、犯人の魔女は《紅姫》と呼ばれている。王国最強の魔女は誰かというを議論すれば、必ずと言っていいほど名前の上がる一人だ。



「さては、貴様……紅姫か?」

 訝しげな表情を浮かべた私が尋ねるが、肩で荒い息をする魔女は一切答えない。

 ただ、虚ろな目でこちらの様子を伺っているだけだ。


 ……何だ?私を殺すチャンスを伺っているのか?

 そう思った私が、互いに手の届く距離まで近づいた瞬間、


「そうよ!私が紅姫よ!!!」

 突然、魔女が動き出した。

 私の胸元に手を添え、再び火の柱を顕現させる。


 先程の大爆発とは違い、灼熱の槍の様な細い円柱だ。

 一瞬でたち消えることなく、私の左胸を数秒間に渡り貫き続けた。


「ぐっ……」

 苦悶の表情を浮かべる私を見て、魔女が満面の笑みを浮かべる。

 しかし、その表情が時間が経過するにつれて驚きに変わっていった。


「何で死なないの︎⁉︎ 」

 恐怖で顔を痙攣らせた魔女が泡を食った様に叫ぶ。

 やがて、魔力が切れたのかその手の平から炎柱が消えた。


「心臓を潰したくらいじゃ人間は死なんよ」

 冷ややかな言葉と共に彼女の喉元を締め上げる。

 熱で変形した剣は既に使い物にならない。


「あり得ないわ……こんなこと……」

 涙を浮かべ、必死に腕を振り解こうとする魔女。

 しかし、身体強化を使用している私の腕は最後まで外せなかった。


 数秒後、鈍い音と共に彼女の首の骨が真っ二つに折れた。


◇◆◇◆


「エリス・ナナトス。今回の君の活躍は王国の民に多大なる安心をもたらした。よって、ここに王国平和勲章を授与する」

「……ありがたき幸せ」


 数日後、エリスは王の間で頭を垂れていた。

 七十過ぎの国王が直々に勲章バッジをつけてくれる。


 エリスの胸元で輝く勲章はこれで五つ目だ。


 大広間に集まった50人を超える人々が一斉に拍手をした。

 和やかな雰囲気の中、勲章授与式はお開きになる。


「やはり堅苦しい場は疲れるな……」

 軍服の第1ボタンを外したエリスは、広間の外の廊下で静かに呟いた。

 そのまま、窓に写った自分の姿を眺める。


 今年で22歳になる金髪碧眼の三つ編み女性。

 長い睫毛と真紅の唇が美しく整った顔立ちに花を添えている。


(我ながら酷い顔だな。少し働き過ぎか……?)


 エリスが目の下のクマを気にしていると、


「おい、エリス!また村を一つ焼き払ったらしいな?」

 背後から一人の男が近づいてきた。


 獣のような鋭い眼光を放つ小柄な坊主男。

 彼はエリスと同期の聖騎士、マイク・ピアスだ。


「マイク、それは誤解だ。焼き払ったのは私ではなく紅姫だ」

 深いため息を吐いたエリスが、ゆっくりと背後を振り返ると、


「だが、その前に君が火を放つように命じただろう?報告書にそう書いてあったぞ」

 マイクが物凄い剣幕で迫ってきた。


「私の報告書を読んだのなら分かるだろう?奴らは魔女を匿ったんだ。殺されても文句は言えまい」

「ふざけるな!村人全員が魔女の正体を知っていたとは限らないだろ︎」

 大きく肩をすくめるエリスに、さらにマイクが詰め寄ってくる。


「それは私の認知するところではない。正義のために多少の犠牲はつきものだ」

「貴様ぁぁぁ!!!」

 激昂したマイクがエリスの首元に掴み掛かってきた。

 窓に思い切り叩きつけられ、舌打ちする。


「マイク……私の仕事にいちいちケチをつけるな!」

 エリスが苛だたし気に腕を振り解いていると、向こうから別の男が近づいてくるのが見えた。


 青髪のハンサムな男、ジャック・ライン。

 彼もエリス達と同期の聖騎士だ。


「おいおい。お前ら、また喧嘩してるのか?少しは仲良くしろよ」

 軽い口調と共にエリスとマイクの間に割って入ってくる。


「喧嘩などしていない。マイクが勝手に怒っているだけだ」

 エリスが眉間にしわを寄せ、低い声で呟くと、


「お前も十分怒ってるじゃねーか」

 ジャックが呆れたような笑みを浮かべた。


「それより、エリス。今夜はお前の為に祝賀パーティが開かれるそうだぞ?絶対に参加しろよな」

 戯けたように話し出すジャックを見て、眉間に皺を寄せる。


「ジャック、悪いが遠慮させてもらう。私がそういう類の集まりを避けているのは知っているだろう?」

「ダメだ。今回の祝賀パーティはエリスの平和勲章受賞を祝うものなんだからな」

 ジャックの言葉に眉をしかめる。


「誰も祝ってくれなど頼んでいない」

 頑なに断り続けるエリスに、


「残念ながら今回の主催者は王様だ。いつもみたいに雲隠れは許されんぞ」

ジャックが言い聞かせるように話してきた。


 エリスはこれまで祝賀パーティというものに一度も参加したことがない。

 それは主催者がパラディンの称号を持つ彼女より位が低かったからだ。


 しかし、王様からの招待となれば断るわけにはいかない。


(全く……最悪な日だな)


 深くため息を吐くエリスに、ジャックが更に追い打ちをかける。


「女性はドレスでの参加が義務だ。間違っても軍服のままで来るなよ?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ