ロミオの物語、 いち
窓際の白い小屋、青い小鳥が丸で歌うように囀る。
俺の朝は小鳥に麦の粒を与えることから始まる。
「ジュリが遊びにくるってゆったから急がなきゃ」
部屋のドアを開けると小鳥が俺の肩にそっと座る。
家族がいない俺にこの小鳥は家族のようなものだ。
キッチンのテーブルに作り掛けのアップルパイが置いてあり、床には林檎の皮が散らばっている。
「ジュリが好きなアップルパイをオーブンに入れて、掃除したらちょうどいい時間になりそうだな」
アップルパイを貰って喜ぶジュリを想像すると微笑みが止まらない。
妄想に歯止めをけるようと、ほうきを握っている右手が俺を促す。
どれぐらいの時間が経ったかわからない、でもこの匂いはアップルパイが上手く焼かれた匂いだ。
「いい匂い、これで十分だ」
アップルパイを食べやすい大きさで切って皿に移す。
「掃除、皿洗い、アップルパイ... これいいか! そろそろだな」
棚の透き通ったグラスの水滴に日差しが反射し、この部屋を爽やかぬくもりで埋める。
テーブルの椅子に腰をかけて窓の中の風景を眺めていると、自分も知らずに"綺麗"という言葉を口に出す。
「でもジュリの方がもっと綺麗だよね」
俺の時計はゆっくりと針を回している。
ジュリを待っている時間は時計が止まったのではないかと思ってしまう。




