第7話:第2階層
天帝の塔、攻略2日目。
俺は強さを、ミレニスはお家の借金返済のために。
互いに相反し合わない目標を抱く俺たちは、手を取り合った。
2人で協力してさらなる高みへと挑戦していく。
今日は2階層の攻略の予定だ。
昨日よりも移動時間が長くなることが予測されるので、ミレニスとの合流の前に、商店街のパン屋で昼飯を購入しに向かった。
冒険者の都市・アインでは商店街に多くの美味いメシを出す飲食店が建ち並ぶが、これは冒険者によって世界の食糧事情が改善されたことが大きい。
一般的に、文明の発展は食糧生産の技術の向上の歴史だ。
原始時代の狩猟・採取生活から始まり、農耕・牧畜生産を経て、現代の冒険者による素材ドロップ狩りの時代がやってきている。
ダンジョンでは肉類や野菜類だけでなく、香辛料の砂糖や塩、胡椒もドロップするから、牧畜や農耕だけで食糧生産するよりもよほど効率がいい。
だからこの世界は、工業技術の進展の遅さに比べて、メシがかなり美味い。
メシが美味いということは、砂糖や塩、油などの調味料がふんだんに使われているということだ。
そして、昔は塩や砂糖は高価なものだった。
それが現代では天帝の塔でよく落ちるから、比較的安価で手に入る。
そういう理由があって、この街の飲食店は全世界的に人気だ。
商店街には有名なメシ屋が所狭しと建ち並んでいる
俺は前から贔屓にしているパン屋にたどり着くと、バゲットサンドを購入した。
ライ麦パンにレタスとハムとトマトが挟んであって、その上から茹で卵を砕いたソースのかかったバゲットサンドだ。
野菜たっぷりで、栄養的にもいい。
俺の分だけではなく、ミレニスの分も合わせて購入。
どうせあいつは実家への仕送りのために、ギリギリの生活費でやりくりしているだろうから、これぐらいはおごってもいいだろう。
2人分のバゲットを購入した俺は、天帝の塔の前で待ち合わせしているミレニスの元へ赴いた。
時刻は朝10時。
ちょうど他のパーティーも天帝の塔に挑むところで、塔の入り口の前に集まったよそのパーティーが、手をつないで転移結晶で塔の上階へワープして攻略を開始させていた。
俺たちも、いつかは移動手段を転移結晶に変えなければな……。
いつまでも徒歩で攻略するのも、時間とレベル上げの効率の点で無駄になるだろう。
そこから少し離れた塔の外壁に、ミレニスがすでにもたれ掛かっていた。
彼女は俺に気づくと、笑顔で手を振ってきた。
「おはよう、ウェイド」
「はよっす。今日も行くか」
「うんっ」
短い挨拶の後、俺とミレニスはダンジョンへ突入する。
昨日も攻略した1階層を、サクサクと進む中で俺たちは会話した。
「やっぱさー、移動手段としての転移結晶は、早く導入するべきだよね」
ミレニスも他のパーティーが転移結晶で上階に挑む様子を見ていたようだ。
「だろうな。転移結晶は導入しないと、効率が悪くなる。
2階の攻略はともかく、10階、20階は転移結晶無しじゃやっていけない」
「なんであんなに高いのかな?」
「転移結晶の元になる素材と、そこに空間の魔法を込める手間がかかるらしい」
「へー」
前方から出てくるハイゴブリンを【フレア】で焼き殺しながら、俺が言った。
素材ドロップは『高級木材』だったから、拾ってカバンがパンパンになるといけないのでスルーした。
「あぁ……お金が落ちてるのにスルー……」
「ミレニス、実家への仕送りは大丈夫なのか?」
「あ、うん。銀貨数枚だけど、冒険者ギルドを通して送ってるよ。
これから頑張らなきゃ!」
「そうか。少しずつでも返していかないとな」
そんな会話をやり取りしながら、俺とミレニスは上に続く階段にたどり着いた。
――天帝の塔 2階層。
ギルドで買った攻略メモを読む。
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2階攻略メモ
ダンジョン形式 起伏のある岩道
トラップ 大きな岩陰に、魔物が陣取っていることがしばしば
出る魔物 ハイエルフ、ダークエルフ、エルフスナイパー
攻略メモ エルフの階層。岩陰からエルフが弓で狙撃を狙ってくる。
エルフ種族は素材ドロップがいいので、序盤のお金稼ぎエリア。
無理をしなければ、1日で3万~4万ゴールド稼げます。
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「きたああああ! お金稼ぎエリア!
ミレニス、やる気出てきました!」
「現金なヤツだな……」
俺は苦笑しながら、ミレニスに言った。
この階層でエルフがドロップする素材は『岩塩』、『エルフの指輪』、『エルフ/ダークエルフの魔石』だ。
岩塩は人間にとって必須香辛料だし、指輪と魔石はマジックアイテムの良質な素材となるので、高く売れる。
俺たちは岩道の2階層を攻略を開始した。
ミレニスが先頭に立って、進んでいく。
岩がゴロゴロしている道で、起伏やゆるやかなカーブを繰り返す。
ところどころの大岩が点在しているから、視界が遮られていることもしばしばだ。
不用意に進めば、ハイエルフから狙撃を受ける。
だから、古代魔法【バブルオートガード】と古代スキル【広範囲トラップ・魔物探知】をつける。
「俺が【魔物探知】つけるから、逐一情報共有しながら進むぞ」
「私は何をやればいい?」
「有視界内の狙撃警戒と、クリアリング」
「オッケー!」
作戦を立てて、俺たちは先へ進む。
案の上、少し進んだの岩陰に魔物・エルフスナイパーが潜み、こちらへの狙撃を狙っていた。
「ミレニス、エルフスナイパーがいる」
「分かった」
エルフスナイパーが風の魔法を矢にかけて、俺たちめがけて弓矢を発射させる。
だが――。
ヒュッ! と風を切って進むエルフスナイパーの矢。
俺たちの命を狙って放たれたその矢を、ミレニスが見事、レイピアの先端で突き落とすという神業を見せた。
矢と細剣が空中で交わり、パキン! という音を立ててエルフの矢が破壊される。
レイピアで【パリィング】スキルってできたんだ……。
「す、すげーな、お前……」
「魔法で援護おねがい!」
【パリィング】なくても【バブルオートガード】が発動してたが。
ミレニスがそのままエルフスナイパーの元へ前進ダッシュする。
ミレニスの近接を嫌ってエルフスナイパーが矢を乱射するも、すべて【パリィング】か【バブルオートガード】で撃ち落とす。
水泡に守られたミレニスは、余計な心配なしに敵地に突っ込める。
ミレニスはエルフスナイパーの懐に潜り込んで、レイピアの高速突きを繰り返した。
長距離狙撃用の魔物は、近接が弱い。
ギャアアア、という人間に似た可哀想な悲鳴を上げながら、エルフスナイパーは出血多量で倒れ、消滅していった。
「戦闘終了っ」
「ミレニスもたいがい強いよな」
「この階層なら余裕だね」
エルフスナイパーが潜んでいた岩陰を覗くと、『岩塩』と『エルフの魔石』を落としていた。
岩塩は2000ゴールドで、魔石は2500ゴールドで売れる。
これは美味しい。
魔石を12個拾えば、ノルマの3万ゴールド。この階層に来たかいがあった。
素材ドロップを拾って背嚢の中に入れ、俺たちは先へと進む。




