ー第3話2
渡辺の背中から、桑畑に向きなおった。
木の間に、踏み固められた道が付いている。
そこに降りて行く。
しばらく行くと、学生服を着た僕がうずくまっていた。
「らしくないんじゃないか?」
顔が上がって、潤んだ目が僕を見つめた。
「20年後のお前だ。感想をどうぞ?」
「……なにしに来たんだよ」
「仕事だ。戦場カメラマンをやってて、過去に跳ばされた」
「小説家じゃないんだ?」
非難するように、顔を歪めた。
「小説は書いてるよ。それで生活はできてないがね」
理解できないと言う顔をする。
「夢はかなう?」
「小説を書いて、少ないけど読んでくれて、書いた物を大切にしてくれる人達がいる…」
そこで言葉に詰まった。
自分にウソをつけない。僕は静かに心の奥底のありのままを言葉にした。
絞り出すように…
「…夢は。かなった。でも、次の夢ができた。読んでくれる人が居る限り、書き続けるって夢がね。それは簡単じゃないんだ。あきらめる理由は、いっぱい有る。やらない事情はいっぱい有るからね」
「でも、やるんだろ?」
「やるさ。中学生の土岐敏也に向かって、あきらめたなんて言えるかよ」
彼の顔に笑顔が戻った。
「渡辺にゴメンって言ってくる!」
「それでこそ土岐敏也だ!」
立ち上がると駆け出して、木立に消えた。
フト。気配を感じて振り返った。
木々の間から赤い車が見える。
……赤い車?赤いセリカ?に気を付けて?