ー第3話桑畑の道
ー第3話桑畑の道
卓司が下校中と言う事は。
渡辺と桑畑の道を下校中のはずだった。
FTRのエンジンを掛けて、かまぼこ状の道に乗った。上土居中の鉄板プールに出る脇道が有ったはずだ。
記憶を頼りに左折すると、記憶通り用水路の所でジャンプ台状になっていた。
抜けると左手にプールが有る。鉄板で出来ているので鉄板プールと呼んでいた。
抜けると裏門の急坂が有り、学校の北に抜けて行く。北の桑畑の中を行った方が近道だった。
その近道の入口に、渡辺が立っていた。
あの頃は、大人っぽいと思っていたが幼い中学生が居た。
FTRで近づくと、心配そうな顔で桑畑の中を眺めている。
「どうした?土岐君が変か?」
上目遣いで渡辺は僕を見た。
「おじさん誰?土岐君に見えるけど…」
「20年後から来た。渡辺なら僕だって判るだろ?」
「判るけど…何できたの?」
「国際交流センターに、タイムトラベルする爆発が有って巻き込まれた」
渡辺は桑畑の中を見た。
「じゃあ。どうしたのか判る?」
「絵の宿題をやってなくて、先生に怒られた。渡辺に泣き顔を見られたくなかったんだ。今日はアスファルトの方を1人で帰ってほしいと言う事だ」
渡辺は口をトンガラセタ。
「なぐさめてあげたい」
「野郎のプライドを壊すな。それが彼女ってもんだ」
「変なの」
渡辺はまじまじと僕を見た。
「私達。結婚した?」
「渡辺は別の人と結婚して、男の子ができた」
えっ?と言う顔で言った。
「なんで。結婚しなかったの」
「なりたかった小説家にも成れず。就職も出来ず。カメラを持って戦場に行ってしまった」
「私は待たなかったの?土岐君を…」
「それは判らない。人は好きな人と結婚できるとは限らない。社会で生きる為には、条件の合う人と結婚する人はたくさんいる」
「私は幸せに見えた?土岐君じゃない人と結婚して」
「離婚して、コンビニで働いてた。どんな暮らしかは判らない」
「そんなの幸せな訳ないよ。絶対気持ちは変わってない。土岐君の事好きに決まってる。土岐君はどうなの?」
「好きだろうな。今までの事を渡辺が許せるなら…」
「許すも許さないも。そんな事どうでも良いって思ってるよ。戻ったら聞いて。許せる?って」
「聞くよ」
「約束だよ!」
「あぁ約束だ」
「じゃあ帰る。バイバイ!」
僕はいったい何をやっているんだろう。小さな背中を見送りながら、自分に問いかけた。