ー第2話2
白い闇が点で抜けて行く。
蝶番がしっかりしている、両開きのドアが開け放たれている。
金メッキの文字が日射しを反射して耀いている。
真ん中が膨らんだ対向車線の道を、古いカローラが新車同然で走って行く。その向こうの住宅は無く、桑畑になっていた。
「すいません。閉めて頂けますか?」
振り返ると、さっきの女性が若返っていた。
「すいません!」
と言って、外に出るとドアを閉めた。
FTRがそのまま残っている。
その傍に屈んで見ている学生服の少年に気付いた。
国際交流センターと周囲、そして少年を撮る。
少年が顔を上げた。
「これおじさんのヤツ?」
「卓司?」
FTRを貸してくれた本宮卓司だと直感的に認識した。学生服の詰襟にⅢのバッジが見えた。中学3年って言う事は、20年前の国際交流センター前に跳んだらしい。
「これカッコいい…」
名前を言った事には上の空のようだ。
「跨がってみる?」
卓司のバイクだし良いだろう。
「いいの?」
目が輝いている。卓司にも僕にも、この程度の事でワクワク出来る時代が有ったのだ。
「持ち上げてやるから、カバンを置きな」
卓司を後ろから持ち上げてシートに降ろした。
「スゲー。100キロ出るんだ!」
「大人になったら乗れるさ」
「待ちきれないよ!でも足が届かないや」
「すぐに届くさ」
バイクの卓司を撮る。
「ホント?…ありがとう!もう降ろして」
「満足したかい?」
卓司は頷いて、彼を降ろした。白いカバンを肩に斜め掛けして、しばらく歩いてから振り返った。
「俺。頑張って大人になる。そしたら、それに乗る。おじさんと一緒に走る」
「約束だ!」
卓司はこぼれるような笑顔で頷くと、前に向きなおって走って行った。