ー第1話2
山際さんとはイスラエルのガザで出会った。
15年前、戦場カメラマンになって初仕事だった。
イスラエル軍治安部隊に身ぐるみ剥がされそうになった時に助けてもらった。
もう一度シリアに戻るつもりだったが、山際さんに説得されて、日本行きのJAL に乗った。
「土岐。頼みたい事が有る」
セントレアまで1時間のタイミングでずっと黙っていた山際さんが口を開いた。
「荷物もカメラも画像も命も拾ってもらいました。これで2度目です。聞かせて下さい」
「ここに行ってくれ」
山際さんはハイアットエージェンシーホテルの便箋を差し出した。
「岐阜県岐阜市正木って僕の地元じゃないですか?で…国際交流センター…あぁあのビル」
「変な所に有るよな。普通、都会のど真ん中か鉄道のそばに有る。何故か判るか?」
「……目的が違う?」
「やっと戦場カメラマンらしくなってきたな」
山際さんは紙パックのアップルジュースをストローで啜った。
「日本敗戦の年、進駐米軍がこの場所にタイムアフタータイムと言う物質が埋まっている事を突き止めた」
「ヤバい話ですか?」
「最高にヤバい話だ。この機内は偶然盗聴されてない。盗聴器が壊れていて次のセントレアで交換される……で、その物質は高電圧を掛けると人を過去に一定時間送ったのち、元の時間に戻す性質を持っている」
「米軍は何を思い付いたんです?」
「要人暗殺」
思わず寒気がした。
「防ぎようがない。土岐。子供時代には護衛を付けられないだろう?」
「そいつをリークするんですか?」
「米軍内部で、推進派と凍結停止派に割れている。こいつを運用する人間はロシア中国だけでなく、アメリカ大統領すら自由にできる。核兵器の比じゃない」
「凍結停止派からの依頼ですか?」
「そうだ。外部に洩れば推進派も無かった事にしてペンタゴンの地下に埋めるしかない」
「リークした僕と一緒に?」
「凍結停止派が守ってくれる。俺がやる話だが推進派と今揉めると中東で活動できなくなる。取材の協力者の命も危なくなる」
「やります。ほとぼりが冷めるまでシリアには戻れないし、画像も貯まってるんで持ち込みで現金も手に入ります」
「実はホワイトハウスから取材費が出る。その紙の下に有るのが口座番号とキャッシュカードの暗証番号だ。引き出し限度は日本円で10億だ。意味は判るか?」
左手に。岐阜銀行のキャッシュカードをマジシャンのように取り出した。
「成功完了するまでやめられない……ですか?」
山際さんは答える代わりに、僕の肩を右手で叩いた。