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俺がそう言うと、男はわかりやすい不満の色をその顔に浮かべたが、そのまま先ほどよりもゆっくりと橋を渡って行った。
俺が視線を川に向けると、また声がした。
「釣れますか?」
同じ男だった。
俺はなにか言おうとしたが、とっさに声が出なかった。
それでも何か言わなければと思い、頭の中に浮かんでぐるぐる回っている様々な言葉の中から一つを取り出して、言った。
「三つ子ですか?」
「うぎあぁ!」
そう叫んだ男の顔が、怖いものになった。
そして一瞬ではあるが、顔がなんだかよくはわからないが、とにかく人間ではないものに変わった。
男はなにかぶつぶつ言いながら、橋を渡った。
男が橋を渡りきると、予想はしていたが、声がした。
「釣れますか?」
夜が明けるまでに、それが結局、百回繰り返された。
終




