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一成の探索。

さて。

遼太郎に死体あさりは任せろと言ったがやはり死体に近づくのは嫌だな。

まず臭いが嫌だ。

これはアンモニア臭なのか、それより違う何かなのか、わからないがとにかく臭い。

臭いが俺の喉と鼻の合流地点をぐいぐい押すような嫌悪感を覚える。

吐きそうだ。

それどころか喉から胃を吐き出すような錯覚にも陥る。

近づく前ですらこれなのだから、近づけばもっと気持ち悪いのであろう。

嫌だ、でも生きるためにも行くしかない。

一歩前に出す、臭い。

それだけではない、遼太郎といるときは気が紛れて忘れていたが素足がまた痛くてたまらなくなった。

また一歩踏み出す。

その時同時に海から風が吹き、死体から拡散していた臭いがこちらに強烈に感覚された。

俺は思わず胃酸をのどまで登らせ寸前で胃に戻した。

せめてマスクでもあればいいのに。

しかしやるしかないのである。

ゆっくり近づくときついなら一気に駆け寄ってはどうだろうそうすれば、臭いをかぐ時間はゆっくり近づいたときに比べ減少するはずだ。

そっちのほうがまだましかもしれない。

そう思って一気にかけて行って、一気に戻ってきた。

キッツイ、きつすぎる。

死体の打ち上げられた海岸と元いた場所の中点に達しただけでギブアップしてしまった。

というかあれだ、海岸付近は死体が密集してにおいが充満しているんだ。

死体を一体ずつ引っ張って隔離すればある程度臭いが減少するはずだ。

臭いのきつくないところで息を吸って、息を吸わずに死体を引っ張り上げればいい。

よし。

どうだ我ながらなかなか良い案だろう。

行くか。

まず大きく息を吸って、駆ける。

よし、死体まで近づいた。

死体にたかっていた鳥どもはわらわらと上空に逃げ出した。


そこで俺は初めて死体の全貌を見た。


視覚的にもきついものであった。

俺は死体を葬式のような死体を想像していた、認識が甘かったんだ。

当たり前だ、水死体なんだ。腐ってて当然。

それだけじゃない。

波に流されてきたのであれば体が損傷して四肢や頭がなくったって不思議じゃない。

そして死体に虫がたかるのも自然の摂理だ。

でも、知らなかった。いや。想定してなかった。

現代文明に生きる俺は想像できなかった。

その死体はまず皮膚がだらんと伸びきっていた。

しわくちゃで、見るに堪えない。

左腕がひじから下がない。

左足も太ももの骨がむき出しで、筋肉などの骨を覆う肉はそぎ落ちたかのようであった。

右足は健在であったのであろうが、鳥たちに食われて骨と申し訳程度の肉がこびりついているに過ぎない。

右腕は切断された跡がある。

腹は食い荒らされ内臓が飛び散っている。

大腸小腸、どちらかわからないが帯状の黒く変色をした個所を持つものは腹に収まらず山のように盛り上がっていた。

おそらく腐敗した空気が逃げ場がなくたまって膨らんでいるのだろうと思った。

そして何よりきついのはその死体を縦横無尽にごそごそとうごめく虫たちである。

この虫が蛆なのか、俺には理解できないが、例えば顔。

顔ももうほとんど肉がなく、眼球周辺には骨が見え、その中を虫がわらわらとうごめき出たり入ったり。

している。

内臓も同様に、膨れ上がった内臓の隙間を縫うように虫が出たり入ったりしている。

ほかに見慣れた虫もいる。

ハエである。

ハエも同様に死体の上にとまったり飛んで行ったりしている。

人間が餌として慣れ果てた様子である。

それでも逃げるわけにはいかない、これを上まで引き上げなくては、でもどこをもって引き上げればいいんだ。

どこも虫だらけで触りたくない。

腐って触れば今にずるっと肉が抜けそうだ。

……。

とりあえず、息が持たないから臭くない場所に戻ろう。


におわない場所でゼーゼーと息を荒げる。

死体の容貌が俺の意思をくじいた。

もうあんなの見たくない。

人間は感情を説明しようとする機能が備わっているだろうか。

分からないが気づけば遼太郎に弁明する理由を探していた。

いや、思いつくには思いつくのだ。

理由は簡単である。

死体を触れば感染症の心配があると説明すれば弁明できるであろう。

しかし、遼太郎はどう思うだろうか。

俺が仕事をさぼったと思うのではないだろうか。

いや、健全な遼太郎はそんな風に思わないだろうと思うが、今後も食料や水が不足した状態が続けば精神も摩耗し、今後の、俺が見捨てられるリスクが高まるのは間違いないだろう。

それに今あの死体に触れなかったとしよう。

それで、今後どうするのであろうか。

何もわからないこの地で食料を得ることは難しい。

何日も食べられないことが続くことは間違いない。

それだけならまだいい。

鍋類がない今、おそらく川の水を飲むことになる。

下痢、嘔吐、発熱が発生することもあるであろう。

多少の死体の感染症のリスクはあっても有用なものが得られるのであればするべきことなのかもしれない。

死体を触るのは避け、なるべく腐敗していない死体を厳選してはぎ取ることにするなら、多少はましなのかもしれない。

やらなければ緩やかな死が待っているだけだ。

むろん、やれば助かる保証もないが。

どちらにしろ賭けなのだ。

ならば恩を売って切り捨てられる可能性を下げるほうがいいだろう。

歯を食いしばって、死体のほうへ戻った。

しかし、やはり怖いので一応なるべく腐ってない死体を優先的にあさることにした。




海岸を死体をえり好みしてみて海のそばで数十メートル歩いていた時である。

山から海のほうに向かって飛び出た岩場の裏の砂浜に大きな船があるのが見えた。

川かの近くからでは、岩場の陰に隠れて見えなかったのである。

俺は驚いた。

そして喜んだ。

死体をあさらなくても手柄がgetできたからである。

俺は死体を放置して船に向かって走っていった。




船に近づくとその大きさに驚いた。

いや、遠くからでも大きいのはわかっていたのであるが、程度まではしっかりわかっているわけではなかった。

実際に近づいてみると大きさを測れる。

その大きさは、一番長い全長は大体自分が3人横になれるぐらいの大きさで。

幅の一番長いところは1.5人が横になれる大きさである。

自分の身長は170前後であるから、縦に5~6メートル、横に2~3メートルぐらいだろうか。

船は全然朽ちている様子がなく、まだ新しく、帆がある。

また船にはオールを通せるような穴が船の横にあるのも見える。

船の横腹には砂浜に向けてハシゴが下りている。

船の専門家でない俺にわかるのはそれくらいである。

しかし、なんでこんなにきれいな状態で船があるのだろうか。

まあ、考えてもしょうがないか。

俺は梯子から船に乗り込んだ。


船の中には人間の死体があった。

いや、死体と表現するより食料と表現すべきなのかもしれない。

死体は明らかに切断された跡や刺された跡、硬いもので殴られた跡があった。

どう見ても動物の仕業ではない。

牙やつめによる傷跡には見えないのだ。

死体には加工されているような跡があることである。

とらえた動物が腐らないように血を抜くことをする。

その処理がこの人間の死体には施されている。

死体の足をひもで結び頭のない首が下になるよう柱に括り付けられている物もある。

内臓が腐りやすいのでそれくりぬいて腐敗を遅らせる処理をすることがある。

それと同様にすべての死体もおなかが割かれきれいに内臓が抜かれている。

床に落ちている死体の太ももや尻などの大きな部位には鋭利なもので切り取られた跡がある。

肉がきれいにそぎ落とされた骨がある。

おそらくこれはもうすでに食われた人間の骨であろう。

……。


背中から汗が染み出てくるのを感じた。

食人鬼が近くにいるのかもしれない、そう思わざる得ない。

鬼がいる。

今日の夜寝ているときに、食人鬼が襲ってくるのかもしれない。

弱ったところを狙ってくるのかもしれない。

あ、鬼は何人だ。

勝手に一人だと思い込んでいるが、集団なのか。

武器が必要だ。

この船にあるかもしれない。

探してやる。

俺は船の中を見渡した。

穴が見つかった。

穴にはハシゴがかかっていて船の内部へはいれる穴が。

音は聞こえない。

中には何もいないように思える。

もしかしたら、何かが息をひそめているのかもしれない。

いや、もし俺を殺すつもりならいつでもできるはずだった、俺が死体を観察しているときに殺してくるはずだ、大丈夫な可能性が高そうだ。

分からんが。

しかしここで何も武器がなければ食人鬼と武器なしで争うことになる。

行くしかない。

船の中は薄暗かった。

高さは頭がギリギリぶつからないぐらいだ。

木箱がたくさんある。

俺は一つずつの木箱を開けていくことにした。

ほとんどの木箱の中はからであった。

しかし一ぶの木箱の中には武器、防具が入っていた。

皮でできた鎧や、鉄の剣、鉄の西洋兜、弓と弓矢、槍。

などが残っていた。

気になるのは大半が赤黒い何かが付着している点であるが。

ギィ、ギィ。

――っ!。

外のハシゴを上る音がする。

食人鬼が戻ってきたのか。

心臓がバクバクする。

どうする、隠れるか、それとも戦うか。

考えている時間はない。

いや、ハシゴを降りる際絶対に隙になる。

なら個々の武器で奴が下りてきたとき襲うのが得策だ。

剣を木箱からゆっくり抜く。

ハシゴを上る音がやんだ。

どうしてだ?。

ギィ。

!今度は船の上の床で音が鳴った。

そりゃそうだ。

気が動転してまともな考えができてないのか。

そんな状態で俺が人を殺せるのか。

……、いや、殺す。絶対に一撃で仕留める。

武器を振り回すスペースはない。

剣で刺す。

ギィ。

またなった。

まだか。まだ降りてこないのか。

もう下から天井をぶっさすか。

いや、非力な俺がこの天井に穴をあけることは無理だろう。

俺はハシゴの上の穴を凝視していた。

いつでも来てもいいように。

!――来た。

足をハシゴにかけた。

裸足だ。

心臓がバクバクと俺の脳みそをせかす。

そして降りてくる。

腰まで降りてきた。

服装はジーンズとシャツか。

シャツにはエロい萌え絵がプリントされているが、その絵は大きなおなかのため伸びきっている。

ん?エロい萌え絵。

あれ、もしかして。

「龍之――」

「ん、ぎゃぁああああああああ」

俺が声を上げると相手は大声でハシゴを駆け上がろうとして滑って落ちた。

「俺だ――」

「すんません、勘弁してください、朝起きて異世界移転かとか言って笑って調子乗ってましたすんません、謝るので助けて」

男は芋虫のように縮こまり頭を手で隠しながら早口で誤りつづけた。

「落ち着けって、俺だって、一成だって」

「すいません、すいません、すいません――ん、一成?」

男は顔を上げた。

一瞬、安堵したような顔をするがまたこわばる。

「一成、お前……やっちまったのか、人を殺しちまったのか!」

「はぁ、何言って」

あ、俺の持ってる剣って血がついてるんだっけ。

「あああああああああ、だずけでぇええええええ」

龍之介はまた叫び始めた。

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