七夕と願いのもと
七夕と言えば願い事が普通である。
なのでありきたりなことはしたくなかった。
「願いと言ってもなぁ〜。」
織姫、彦星…。七夕。
「あっ、そうだぁ、いいこと思いついた。」僕は1人そう言いながらブツブツと独り言を言い始めた。そして短冊に願い事を書いた。
絶対に不可能な願いである。
そしてその短冊を笹に吊るした。
1枚だけのその短冊を風が揺らす。
その日の夜は雲ひとつない満天の星空だった。僕は夢を見た。その夢には見知らぬ女性が出ていた。
「綺麗ね〜。今日はいい日だわ。」「そうだね。でも君も綺麗だよ。」「もっ、ってそんなとってつけたような褒め言葉…。」「悪い悪い、そんな意味で言ったんじゃないよ。」「クスッ。分かってる。じゃぁまた、ね。」
「ん?」
そう言って女性は消えていった。
僕はそこで一旦目が覚めた。
夢だと気付いたのは起きたから。
その夢を覚えていたのには少し驚いた。
夢は起きると忘れる事が多いから。
そして七夕の日。
不思議な事があった。
夢と同じ女性が現れたのだ。
同じ服装で…。
そして声をかけてきた。
「どうかされましたか?」「あ、いえ、ボーッとしてました。だから気にしないでください。」「そうですか?ならいいのですが。」そう言ってその場を離れていく。
その後ろ姿を黙って見ていた。
その姿は夢と重なって見えた。
だがそれから数時間後、また女性と出会った。場所は事故現場。
彼女はフラリと道路を渡ろうと歩いていた所を車にひかれたのだ。
どくどくと流れていく血は女性が息絶えようとしている感じがした。そう、僕は見ていたのだ。女性がなぜ歩いて行ったのかはわからないが、道の中央へと歩いて行ったのは確かだ。
他にも何人かの人が目撃しており、救急車を呼ぶもの、警察を呼ぶもの、何故か写真を撮るものもいた。
パトカーと救急車がやってきた時、女性はすでに息絶えていた。目を大きく見開いて起こったことが飲み込めていないような…そんな顔だった。
その後の現場検証には野次馬根性丸出しで見ていたが、あの死体の顔が忘れられなかった。気持ちのいいものではない。
その日の夜、僕はまた夢を見た。
またあの女性が出てくるのかもと思ったが、夢は見なかった。が、何故か無性に暑く感じ暑さで目が覚めた。夜中の2時半である。
その日は蒸し暑かったので網戸で寝ていたのを思い出し、慌ててガラスを閉めに窓に向かった。すると人の姿が…。こんな時間に誰か来たのかと不思議に思ったが、何故か嫌な感じがした。そう、何か良くないことの前兆かと。
短冊は風もないのに揺れていた。
僕は汗をかいていた。
誰だ?
知り合いはこんな時間にはやってこない。
みんな寝ているに決まっている。じゃあ、誰が?
恐る恐るガラスに向かう。
写っていたのは女性だ。でもどこかで見たことがある気がしてならなかった。
何処で?
分からない…。
…あっ!
思い出したのだ。
その時突然部屋の電気がチカチカし始めた。
豆電球が点滅している。
目の前には突然女性が現れた…。
その顔は真っ青ででも所々が黒かった。
部屋が暗いのでそう見て取れた。
「ひ、ひー!」
僕はガタガタと震え出し、汗は引っ込んでいた。逆に恐怖が僕を支配した。
「ねぇ〜〜、私が見えるの?」「は?!」僕はそれ以上何も言えなかった。
怖すぎたのだ。
「ねぇってば。」
そう言いながら女性は僕のそばに近寄ってくる。
「く、来るな!」
僕は半分泣きそうになって腰を抜かしていた。それでも女性は顔を近づけようとする。
近づく事で顔がどうなっているのかはっきりと分かった。気持ち悪い。正直そう思った。それはそうだ。顔半分がグチャグチャになっていたのだ。その恐怖は計り知れない。
逃げることもできずかと言って何かをすることもできなかった。
ただただこの女性がいなくなってくることだけを祈った。どれだけ経っただろう…。気がつくと僕は意識をなくしていた。
首元がチクリとした為鏡を見に行き、明かりをつけた。
首元にはくっきりと指の跡が付いていた。
女性は一体何をしたかったのか…。
今でもわからない。ただ分かっているのはその事があって夜になっても豆電球では落ち着いて寝られなくなったことくらい。
短冊にはこう書かれていた。
【恐怖体験がしたい。】と。




