覚悟
家に帰ると、玉藻さんが玄関で僕の帰りを待っていてくれた。
父も帰宅したので、僕らは揃って夕飯を食べる。
今日の出来事を話し合う家族の時間。
今日は母と玉藻さんが食事の用意をしてくれたらしかった。
「玉ちゃんね、料理上手いのよ!手際もいいしね。母さん玉ちゃんみたいな娘が出来て嬉しいわ。顔立ちも母さんの若い頃にそっくりで、もうね、うり双子って感じなの!・・・ねぇ、お父さん。」
急に無茶振りされた父さん。
「あぁ、本当だね母さん!!特に性別なんかそっくりすぎて父さんビックリしちゃったよ!あ~それにしても今日の肉じゃが美味しいな~。」
凄い答えを繰り出した父。
チャレンジャーだな。
「お父さん、今月よりお小遣い60%カットします。」
父さんの断末魔が聞こえたが、藪蛇になりそうなので、僕はあえて放置した。
そんな中、少し浮かない顔の玉藻さん。
色々とあり過ぎて悩む事も多いだろう。
僕は食事を終えると、片づけをして玉藻さんに声をかける。
「よかったらこの後少し話をしませんか?」
玉藻さんは小さく頷くと、僕は彼女と連れ立って部屋に戻る。
台所を出る前に淹れた紅茶とコーヒー。
僕は玉藻さんに紅茶を差し出した。
「玉藻さん、村に戻ろうって考えてるでしょ?ここにいると迷惑かかるからって。何となくだけどさ、そんな感じがしたんだ。」
そう言うと、玉藻さんは俯いてしまう。
「あのさ、無茶は承知で言うんだけどね、玉藻さんの村に僕も連れて行ってくれないかな?」
その言葉に玉藻さんは顔を上げる。
「そんな駄目ですよ!私と一緒に行ったら、宗人様まで酷い事されてしまいますよ!」
やっぱりそれなりのお咎めがあるんだな。
ますます一人じゃ行かせられないと思った。
「大丈夫。そんな事より僕は君のご両親にどうしても一言言ってやりたいんだ。そしてこれをきっかけに、玉藻さんの村の古いしきたりが少しでも改善されれば本望だ。望みもしない事を無理やり押し付けるなんて、そんなのおかしいよ!」
そりゃ、生まれも育ちも違えば、それを取り巻く環境も違うだろうさ。
だけど、若い世代の僕たちが夢を見ることが出来なくて、その先にどんな未来があるって言うんだ!?
長い歴史の中で永遠と繰り返されて来た事かもしれないが、今の時代にはそぐわない。
間違いなくこのままでは近い将来玉藻さんの村は亡びの一途を辿るだろう。
そうならない為、新しい風を入れる必要があるんだ。
「玉藻さん、村を逃げ出した時、色々と考えたはずだよね?自分の未来を自分の手で切り開けないこの村に何の希望があるのかと。まだその気持ちは、心の中にあるかい?」
そう尋ねると、力ずよく大きく頷く。
「はい。どんな形にせよ、後の若い世代になんらかの希望を示したかったんです。たとえそれが逃げるという選択肢だったとしても。従うだけが未来じゃない。村の歴史に残る汚名だったとしても、自ら選ぶ権利が私達女性にもあるって事を気付いて欲しかったんです。確かに村にいれば衣食住にはこまらないでしょう。反対に外の世界に逃げれば、生きながらえる事はとても難しいでしょう。でも、例え数日後のたれ死ぬ運命だったとしても、私は自分で選びたいのです。それが生きるって事じゃないんでしょうか?」
彼女の意思は本物で、力強い。
「その覚悟が本物なら何も迷う必要はない。そして僕も玉藻さんと同じ意見で同じ覚悟だ。だから一緒に行こうと思う。」
僕も自分の意思を曲げるつもりはない。
彼女はまだ少難色を示しているが、僕は笑顔で答える。
「大丈夫、どうにもならなかったら二人でまた逃げればいいさ。それに僕には少しばかり考えがあるんだ。明日それを神薙さんに相談するつもりでいるから、もう少しだけ時間が欲しい。ね、だから安心してよ。」
そう言うと、玉藻さんはおれてくれた。
多分、僕の事を立ててくれたんだろうな。出来た人だ。
話を終えると、僕はカップを片づけお風呂に入った。
お風呂から出ると、部屋の窓を開けてベットの上に横になり、電気を落とす。
毎日を何となく当たり前に過ごしていた僕だけど、そうする事も許されなかった玉藻さんを思うと胸が痛くなる。
僕はそんな事を考えながら眠りについた。