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狐の嫁入り  作者: 東京 澪音
7/18

屋上にて


12時20分。

僕らは中庭で昼食をとっていた。


幸い、周りに人はいない。僕らだけだ。

話すなら今しかないだろう。


僕は1時限目からずーっと考えていた事を話すことにした。


「あのさ、ちょっと聞いて欲しい事があるんだけどさ、突拍子もない事を言うかもしれないけど、信じてもらえたら嬉しい。これについては僕も色々考えた。けど、二人の事を親友と信じ話す。」


そう切り出すと、二人とも僕の話に耳を貸してくれた。


「なんだよ、改まって。宗人にしては珍しいのな。話してみ。」


晴秋が言う。

神薙さんに視線を向けると、彼女も晴秋と同じ意見らしく、黙って頷く。


「実はさ、昨日のあのおかしな天気の中、ずぶ濡れで帰宅途中女の子と知り合ったんだ。彼女は真っ白な花嫁衣裳を身に纏い、雨の中立ち尽していたんだ。正直さ、何か面倒ごとに巻き込まれたら嫌だな~って思って素通りしようかとも思ったんだけど、さすがにそのままにしておくのは可哀想かなって思って、思い切って声をかけたんだ。」


二人はご飯を食べるのをいったん止めて、僕の話に聞き入っている。


「でさ、取り敢えずそのままじゃ幾ら何でもだから、家に招く事にしたんだ。最初は僕の誘いを申し訳なさそうに断っていたんだけど、やっぱそう言うの放っておけないじゃん。で、彼女の腕を掴みそのまま家に連れて帰って、着替えを貸してあげたんだ。で、彼女が落ち着くのを見計らって色々話を聴いてみたんだけどさ、どうやら家出してきたみたいでね。なんでも親同士の勝手な約束で無理やり結婚させられそうになるところを逃げ出したって言ってた。」


神薙さんはパック紅茶をひと口飲むと、僕に尋ねる。


「まぁ、宗人の斜め上の行動は置いて置くとして、今時にしては随分と錯誤な話だけど、政略結婚かなんかの類かな?まぁ、好きでもない相手との結婚なんて逃げ出したくもなるよね。で、それが今朝の事とどう関係があるの?」


いよいよ本題だ。


「うん。実はね、彼女は人間ではないんだ。姿形は人なんだけど、狐の妖怪らしい。名前は玉藻さんて言うんだけど、どうやら九尾の狐で有名な、玉藻の前から貰った名前らしいんだ。彼女の村では16歳を過ぎた女性は、村の決まりで結婚しなければならないらしいんだ。それも強制的に。村では今だ男尊女卑が残っていて、女性に拒否権はないらしい。そう言った事から逃げ出して現在に至るんだけど、ここからは僕の推測になるんだけどさ、今朝の視線、多分僕らが一緒にいるのを彼女を探しに来た村の追っ手に偶然見られちゃった為じゃないのかな?少なくとも昨日と今朝で、僕らは2回程外出しているから、その時見つかった可能性は否めない。」


神薙さんは黙って僕の話を聴いてくれているが、晴秋は明らかに様子が変だ。

青い顔をして両ひざを抱え、ぶるぶると小刻みに震えている。


「おぃおぃおぃおぃ。宗人~、俺が幽霊とかの類が苦手なの知っているだろ!?するってーと何かい?あの視線は幽霊とかの類なんか!?勘弁してくれ宗人!今夜一人でトイレに行けなくなっちまうよ!また、妹に頼まないとならなくなる。」


幽霊とは違うんだけどな~。

実体もある訳だし、幽霊ではないよな。


っか、一人で夜トイレ行けないの!?


「晴秋、幽霊じゃないから大丈夫だって。ちゃんと実体もあるし触る事も出来る。あ、因みに玉藻さん、かなりの美人さんだよ。」


そう言うと、晴秋の震えは急に止まった。


「なんだよ宗人~そう言うの早く言えよな!実体なら全然問題ないぜ!で、そのなんだ、あ~、玉置さん、だっけか?美人て言ったか!?よ~し宗人、今すぐお前んちへレッツゴーだ!」


さすが晴秋。美人に目がない。

って言うか、まだ午後の授業があるから帰れないよ~。


晴秋も、もう少し落ち着いてればかなりモテるんだろうけど、いかんせんお調子者でお喋りだからな。

実際、晴秋はモテるんだが、周りから少し残念とか、もう少し静かなら・・・と言った意見が後を絶たない。本人はそれに全く気が付いていない。


まぁ、変わってしまったら変わってしまったで周りがまた色々言い出すんだろうけどさ、僕は今の晴秋がいい。二枚目な晴秋なんて晴秋じゃないし。もうしばらく彼にはこの事は黙っていようと思う。


「玉藻さん、な。凄い美人だよ!ハッキリ言って神薙さんと同レベルだね。」


そう言うと晴秋は若干微妙な顔をしたが、それを聞いた神薙さんは飲んでいた紅茶をのどに詰まらせてむせ出した。


「ちょ、ちょっと!宗人、何急に変な事言い出しちゃってるのよ!ビックリするじゃない!私が美人とか!危うく飲みかけていた紅茶鼻から出ちゃうとこだったでしょ!あ、それと晴秋、な~に?その微妙です!って顔!アンタ後で体育館裏集合な?」


一瞬、神薙さんの裏の顔を見た気がする。

晴秋はさっきみたいにぶるぶると小刻みに震え出したけど、大丈夫かな?


まぁ、神薙さんは僕たち以外の人には、絶対こんなこと言わないし、いつも笑顔を絶やさない優しい人だ。


あ、そう言えばいつか愚痴ってたな~。巫女も楽じゃないって。


「まぁまぁ二人とも。そんな訳でさ、玉藻さん、昨日から家に住む事になってね。勿論、父さんも母さんも了承済みで、二人とも大歓迎ムード。息子より娘が欲しかったって位で大喜びさ!今日の放課後二人にも紹介するからさ、よろしくね。」


そう言うと、一瞬キョトンとした二人が大声で叫ぶ。


「素性もよくわからなに女の子と一緒に住んでるんかい!」


二人ともビックリした様子で僕を見る。


「ねぇ宗人。あなたはそんな、いかにも訳アリです!って子を家に住まわせて大丈夫な訳!?しかもあの視線。明らかにヤバいわよ!」


僕を心配してくれる神薙さん。

相変わらず優しいな~。


「宗人の両親て、昔っから優しいのはしってるけどさ、さすがの俺も今回ばかりはかなり驚いてるよ!?」


晴秋のこのリアクションは初めて見たかもしれない。


「まぁ、今日彼女に会ってみれば判ると思うけど、とってもいい子だから安心してよ。二人もきっと仲良くなれると思うよ。」


二人が顔を見合わせため息を吐く中、僕はさっき購買で買ったカレーパンを、イチゴ牛乳で流し込んだ。



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