ノイズ
帰宅して僕らは家族揃って夕飯を済ますと、玉藻さんが淹れてくれた紅茶を啜りながら、僕らはシューキャラメルを食べる。
僕の隣でさっきから肩を震わせながら涙する父を横目に、だ。
「宗人はあれだね、父さんの事があまり好きじゃないんだね。」
悲しそうな目で僕のシューキャラメルを見ている。
「いや、だって父さん甘いものあまり食べないでしょ?だからね、ついコロっと忘れちゃって。」
そう言うと、更に恨めしそうに僕を見る。
「父さんだってたまには甘いものも食べたくなるさ!毎日煙たい上司に嫌味を言われ、靴底をすり減らして営業先を駆けずり回る。そんな疲れた身体に、たまには甘いものを入れたくなるさ。車で言うならハイオクだよ、ハイオク!レギュラーじゃないんだ!父さん、今じゃ20年落ちの中古車みたいだけどさ、そんな車体にたまにはハイオク入れたくなるさ!」
もう何を言わんとしているかさっぱり理解できないが、シューキャラメルを食べたいって気持ちだけはよく判った。
仕方ないので僕は包丁とお皿を持ってくると、シューキャラメルを半分に切り、父に差し出した。
「わーぃ!シューキャラGET!」
まるで小学生の様にはしゃぐ父。
なんだそのテンション。
初めて目にした父の新しい顔。
それを冷ややかな目で見る母。
「宗人は知らなかったかもしれないけど、父さんね、昔からこうよ。小遣い日と欲しいものを手に入れた時なんか毎回ね。」
知りたくなかった事実。
そんな一家団欒の時間、宴もたけなわとなり父はお風呂へ、母はドラマ。僕は玉藻さんを連れて部屋に移動した。
「玉藻さん、今日神薙さんの神社に顔出してね、神主さんに会ってきた。で昨日話した通り、玉藻さんの村に一緒に行こうと思う。ただし、僕と玉藻さんだけじゃない。神薙さんと晴秋も一緒だ。神主さんがね、神薙さんも連れてけって。」
若干難色を示したが、僕は今日話した事を玉藻さんに話して聞かせる。
それについて玉藻さんも納得してくれた様子で、最後には了承してくれた。
「明日7時半に神社に集合して、村の入口近くまで車で送ってくれるみたい。明日の朝、ここを7時には出るから、今日は早めに休んでおいて。僕も早めに休むようにするから。」
そう言うと、玉藻さんは小さく頷いた。
「宗人様の意思は変わらないのですね。一緒に村へ行って下さるのは大変嬉しいのですが、一つ約束してください。決して無茶はしないと。」
真剣な瞳でそう訴えかける玉藻さんに僕は静かに頷く。
僕は玉藻さんの目の前に小指を指しだす。
それを見て玉藻さんは首を少し傾げる。
「約束するよ。だからさ、げんまん!」
そう笑って見せると、それにつられて笑い出す玉藻さん。
彼女の白くて細いその指に、自分の小指を絡ませると、僕らは約束をする。
” ザーッ! ”
なんだ?今一瞬頭の中にテレビの砂嵐みたいなものが走ったけど。
”ザザッ!”
まただ、でもそのノイズとノイズの間に何か見えたような・・・。小さい頃の僕。それともう一人。誰?
急に目の前が回りだすと、僕はベットに倒れ込む。
「大丈夫ですか!?」
それを見た玉藻さんが僕を心配そうにのぞき込む。
2~3分すると目眩も収まり、僕はベットから身体を起こす。
頭を少し左右に振るって、異常がないか確認する。
「ゴメンね玉藻さん。急に目が回っちゃって。もう大丈夫。心配かけてすみません。特に身体を使うような事してないんだけど、疲れてるのかな?僕は普段から常に考え事ばかりしてるから、脳が休みを欲したのかも。」
玉藻さんはまだ心配そうに僕を見ている。
「すみません。ここ数日私が色々ご迷惑をお掛けしてしまったばかりに・・・。本当に大丈夫ですか?」
出会ってから今日まで、玉藻さんのこんな顔ばかり見ている気がする。
笑顔を2としたら、辛く悲しそうな顔が8。
こんな顔してほしくないし、させちゃいけないんだ。
そう思いつつも、彼女の悲しそうな顔を笑顔に変える魔法を僕は知らない。
僕は彼女の頭に手を置くと、優しく撫でる。
何故かな、どうしてもこうしてあげたくなってしまう。
少し恥ずかしそうに、でも少し嬉しそうで。はにかんだ顔は朱に染まって見えた。
それ位、彼女の肌は白く透き通っていて美しい。
「ゴメンね、なぜかこうしたくなっちゃうんだ。」
以前もそうだったけど、嫌がる素振りはない。
他に色々慰めようがあるんだろうけど、悲しいかな僕には恋愛経験もなければ、女性の扱い方もわからない。唯一出来る事は、幼い頃妹にそうしていた様にしてあげる事位しか思い浮かばない。
お互いにそれ以上言葉を見つける事が出来ないまま、僕らは明日に備える事にする。
僕はお風呂に入り終えると、部屋の電気を消して身体を横たえる。
さっき起こった一瞬のノイズ。
そこに見えた幼い頃の僕と誰か。
その誰かが誰なのかわからない。
それはまるでフラッシュバックのようで、頭の痛みと目眩を覚えた。
一体、何だったんだろうか?
幼い頃の記憶を辿ってみたが、答えは出ないまま。
気が付くと時計は12時を少し回っていた。
僕は手に残った彼女髪の感触を思い出すかのよう、もう片方の手で掌をなぞると、ゆっくりと眠りについていた。




