2.貸し倉庫の死体
「三島さん、暫くエリちゃんを預かっててもらえます?」
聡美がそう言うと、三島刑事がエリの姿に気付く。
「あら、エリちゃんもいたんだ?」
「刑事のおばちゃん、こんにちは」
「お姉さん、おばちゃんじゃないんだけどなあ」
「三十路なら立派なおばちゃんですよ」
「何ですって!?」
聡美は三島刑事に睨まれた。
「いや、空耳じゃないですか? とにかく、エリちゃんのことお願いします」
聡美はそう言うと、生活安全課を出た。
後ろで三島刑事が何か言っていたようだが気にせず捜査一課に移動する。
「聡美じゃないか。どうした?」
「荻島 みのりっていう、何らかの事件の被害者っている?」
「荻島 みのり?」
ちょっと待ってろ──と、捜査資料を見る木島 義人警部。
「荻島 みのりの事件はこれだよ」
捜査資料を見ると、殺人事件の被害者の名前が荻島 みのりだった。
「これって!」
「どうかした?」
「私のクライアントの依頼が母親を捜してって依頼なの。昨晩、八時頃に買い物に行くと言って出かけたきり戻ってないらしい。そうか、殺されたのか」
現場は貸し倉庫の倉庫内。
その倉庫の利用者が倉庫を開けたら中に遺体が倒れていたそうだ。
倉庫には鍵が付いており、マスターキーで開けるか、利用者の鍵で開く他に方法はない。
マスターキーは貸し倉庫屋のオーナーが管理している。
「オーナーに話を聞いたけど、事件のあった日にマスターキーが紛失するとか、そう言ったことはなかったそうだ」
そういえば──と、続ける木島警部。「クライアントって言ってたけど、被害者の娘?」
「うん。今、生安の三島刑事に子守りを任せてるよ」
「その娘に会って話を聞きたいんだが……」
「そういえば、義人くんは三島刑事が苦手だったね。ちなみに、エリちゃんにお母さんが亡くなったことを話すのは酷だと思うよ。あの娘、亡くなったお父さんがまだ生きてて、仕事が終わったら帰ってくるって思ってるから」
「そうか……」
「それで、遺体発見時、倉庫の鍵は?」
「閉まってた」
「ただ……、異臭がしたらしく、開けてみたら死体を発見したんだ。死因は外傷性ショック死だそうだ」
「鍵はどういうタイプのものなの?」
「錠前式の鍵だね。無論、中からかけることはできない」
「オーナーが犯人?」
「いや、オーナーと第一発見者にはそれぞれアリバイがある。被害者の死亡推定時刻はそれに書いてある通り、昨夜九時頃。その頃、オーナーは繁華街のスナックで酒を飲んでおり、第一発見者は勤務先のホストクラブで働いてた。共に裏が取れてる」
「じゃ、それ以外の人物がいるってことじゃん」
「骨が折れる」
(ん? 待てよ?)
「遺体が発見された倉庫の前の契約者は調べてないの?」
「うん? 関係ないだろ」
「いやいや、前の利用者が合鍵作ってて、たまたま被害者を殺してそこに遺体を閉じ込めたってことだってあるじゃん」
「飛躍しすぎだよ」
「でもでも、調べる価値はあると思うよ」
「じゃよろしく」
「え? 私がやるの?」
「言い出しっぺだろ?」
「そうだけど……ええ?」
「わかったら直ぐ行動」
「はあ……」
聡美は新宿署を出ると、86で現場の貸し倉庫屋のオーナーの下へ向かう。